405. 「コマ給」をどう捉えるか [47.「コマ給」をどう捉えるか]
新世代のための雇用問題総合誌『POSSE(ポッセ)』vol.27(2015年7月号)の特集は、「塾とブラックバイト」。目次を見ると、「「コマ給」をどう捉えるか-法的視点から考える個別指導塾の労働問題 嶋﨑量」とある。嶋﨑氏は、1975年生まれの弁護士で、日本労働弁護団常任幹事、ブラック企業被害対策弁護団副事務局長などを務めているらしい。
まず、「「コマ給」とは」という節で、インタビュアーが次のようにその実態を説明している。
--まず、一つ目の事例は、個別指導塾A社のフランチャイズで、関東地方を中心に展開している学生アルバイトからの相談です。その会社の契約書の中では、賃金はいわゆる「コマ給」であり、「1コマあたり1600円」という規定になっています。ところが、ここでは、何時間分の労働に対する賃金であるのかが明確にされていません。
そもそも、この契約書には具体的な授業時間についても記載がないのですが、実際の1コマの授業時間は90分です。ところが、相談者の学生は、授業の1時間前には職場に来ていて、その日に担当する制度の学習の進捗状況の確認やプリントの準備をしています。1コマのなかで同時に2、3人の生徒を教えますが、生徒によって学年や学習の進度が違うため、準備には相当な時間を必要とします。一方で、授業後にも、進行状況や理解の度合いについて報告書を作成することが求められており、それにも多くの時間がかかります。これらの授業前後の仕事の時間に対する賃金については、契約書には何も定められていません。
しかしながら、契約書のなかには「講師として気をつけること」という項目があり、そのなかには、「必ず授業開始の20分前に来てください」という規定があります。(53~54頁)
こうして塾講師の勤務実態を聞くと、公立学校の非常勤講師では、ここまで厳しい勤務実態ではないと思うけれども、労働契約の本質は基本的に同じではないかと思われる。つまり、特徴をまとめると、①賃金は1コマ当たりで定められている、②授業以外の職務内容が不明確である、③1コマの時間は決まっているが勤務時間は不明確である、④授業前後の業務に対する賃金が定められていない、ということになろうか。
私立学校の非常勤講師では、直接雇用ではなく、人材派遣会社からの派遣される場合もあるようで、その場合でも、授業時間のみの契約料なのに、授業だけでなく、テスト問題の作成や採点、成績評価、補習などもしているらしい。
ところで、POSSEで取り上げられた個別指導塾講師の「コマ給」の賃金水準をみておこう。3つのパターンが取り上げられているが、最初のパターンのみ確認する。
◆個別指導塾A社 1コマ=1,600円/90分
1コマ当たり賃金を1時間(60分)当たりに換算すると、1,066円66銭となる。
POSSEでは、「授業前後の仕事の時間についての賃金の支払いを求めることができるのか。」との問題意識をもって具体的な算出方法について、嶋﨑弁護士に聞いていく。
結論のみ取り出すと、「20分前入室厳守」については、労働時間と認められ、追加賃金を求めることができる。しかし、授業開始前に出勤して仕事をしていた場合の判断は難しく、準備に費やす時間の長さの判断が講師本人にある程度委ねられており、予習に必要な時間は人によっても異なるし、20分前出勤のような明確な指示がなく、「必ずしも義務的ではない仕事にかかる時間のすべてが労働時間といえるかどうかは法律的には難しい」が、「他方、授業後に報告書を書く時間は、実際に実務をする時間をとられているため、労働時間として主張しやすい」と解説している。
その後も解説は続くのだが、とりあえず、契約書に明記されている「授業前20分入室」を労働時間と理解し、その労働時間20分がA社のコマ給単価に含まれていると考えて、つまり、勤務110分で1,600円と仮定して1コマ当たり賃金を勤務1時間当たりに再度計算すると…、872円72銭になる。
さらに、授業後の報告書作成に要する時間を30分と仮定し、授業前20分と合わせて50分の労働時間がA社のコマ給単価に含まれていると考えて、つまり、勤務140分で1,600円と仮定して1コマ当たり賃金を勤務1時間当たりに再度計算すると…、実質の賃金は685円71銭にまで目減りする。
ちなみに、東京都の最低賃金は、888円である(平成26年10月1日発効)。
ところで、公立学校における非常勤講師の時給についての地方交付税積算単価が2,780円であることは、前回のこのノートで取り上げた。これも「コマ給」であると考えられるのだが、先ほどの個別指導塾の例にならって水準を見ておこう。
◆公立学校非常勤講師 1コマ=2,780円/45分~50分
小学校の1単位時間は45分、中学校の1単位時間は50分である。
1コマ当たり報酬額を1時間(60分)当たりに換算すると、換算率が悪い中学校でみても3,336円となる。個別指導塾A社の1,066円66銭と比べて、約3倍の水準になっている。
授業準備や授業後の業務に合わせて50分が必要になると仮定(比較のためA社の賃金について計算した時間に合わせた。)した場合には、勤務100分で2,780円となり、勤務1時間当たり1,668円となる。それでも最低賃金の2倍程度の水準が確保されている。
非常勤講師の職務は、大学を卒業し、教員免許状を取得した者が就く仕事であることを踏まえるなら、塾のバイト代より高い水準であるのは、当然といえば当然ではあろう。とはいえ、比較してみた結果、個別指導塾A社の賃金水準の低さが際だってくる。
なお、4つ目のパターンとして、「個別指導は登録制の委託業務」として労働者性を否定する事例も取り上げている。具体的な実態をこのノートでは取り上げないが、嶋﨑弁護士は、「出るところに出れば、労働者性を免れようとする違法行為であるという結論は明確です。」と述べている。
最後に、「改善に向けて」と題した節で、インタビュアーが「今後は「コマ給撲滅キャンペーン」のような運動が求められると思います。」と嶋﨑弁護士に振り、同弁護士は「裁判など、何かはっきりしたとしたかたちで白黒つけられるといいですね。」と受け、「ブラック企業被害対策弁護団でも、ぜひ取り組みたいケースです。」と結んでいる。
まず、「「コマ給」とは」という節で、インタビュアーが次のようにその実態を説明している。
--まず、一つ目の事例は、個別指導塾A社のフランチャイズで、関東地方を中心に展開している学生アルバイトからの相談です。その会社の契約書の中では、賃金はいわゆる「コマ給」であり、「1コマあたり1600円」という規定になっています。ところが、ここでは、何時間分の労働に対する賃金であるのかが明確にされていません。
そもそも、この契約書には具体的な授業時間についても記載がないのですが、実際の1コマの授業時間は90分です。ところが、相談者の学生は、授業の1時間前には職場に来ていて、その日に担当する制度の学習の進捗状況の確認やプリントの準備をしています。1コマのなかで同時に2、3人の生徒を教えますが、生徒によって学年や学習の進度が違うため、準備には相当な時間を必要とします。一方で、授業後にも、進行状況や理解の度合いについて報告書を作成することが求められており、それにも多くの時間がかかります。これらの授業前後の仕事の時間に対する賃金については、契約書には何も定められていません。
しかしながら、契約書のなかには「講師として気をつけること」という項目があり、そのなかには、「必ず授業開始の20分前に来てください」という規定があります。(53~54頁)
こうして塾講師の勤務実態を聞くと、公立学校の非常勤講師では、ここまで厳しい勤務実態ではないと思うけれども、労働契約の本質は基本的に同じではないかと思われる。つまり、特徴をまとめると、①賃金は1コマ当たりで定められている、②授業以外の職務内容が不明確である、③1コマの時間は決まっているが勤務時間は不明確である、④授業前後の業務に対する賃金が定められていない、ということになろうか。
私立学校の非常勤講師では、直接雇用ではなく、人材派遣会社からの派遣される場合もあるようで、その場合でも、授業時間のみの契約料なのに、授業だけでなく、テスト問題の作成や採点、成績評価、補習などもしているらしい。
ところで、POSSEで取り上げられた個別指導塾講師の「コマ給」の賃金水準をみておこう。3つのパターンが取り上げられているが、最初のパターンのみ確認する。
◆個別指導塾A社 1コマ=1,600円/90分
1コマ当たり賃金を1時間(60分)当たりに換算すると、1,066円66銭となる。
POSSEでは、「授業前後の仕事の時間についての賃金の支払いを求めることができるのか。」との問題意識をもって具体的な算出方法について、嶋﨑弁護士に聞いていく。
結論のみ取り出すと、「20分前入室厳守」については、労働時間と認められ、追加賃金を求めることができる。しかし、授業開始前に出勤して仕事をしていた場合の判断は難しく、準備に費やす時間の長さの判断が講師本人にある程度委ねられており、予習に必要な時間は人によっても異なるし、20分前出勤のような明確な指示がなく、「必ずしも義務的ではない仕事にかかる時間のすべてが労働時間といえるかどうかは法律的には難しい」が、「他方、授業後に報告書を書く時間は、実際に実務をする時間をとられているため、労働時間として主張しやすい」と解説している。
その後も解説は続くのだが、とりあえず、契約書に明記されている「授業前20分入室」を労働時間と理解し、その労働時間20分がA社のコマ給単価に含まれていると考えて、つまり、勤務110分で1,600円と仮定して1コマ当たり賃金を勤務1時間当たりに再度計算すると…、872円72銭になる。
さらに、授業後の報告書作成に要する時間を30分と仮定し、授業前20分と合わせて50分の労働時間がA社のコマ給単価に含まれていると考えて、つまり、勤務140分で1,600円と仮定して1コマ当たり賃金を勤務1時間当たりに再度計算すると…、実質の賃金は685円71銭にまで目減りする。
ちなみに、東京都の最低賃金は、888円である(平成26年10月1日発効)。
ところで、公立学校における非常勤講師の時給についての地方交付税積算単価が2,780円であることは、前回のこのノートで取り上げた。これも「コマ給」であると考えられるのだが、先ほどの個別指導塾の例にならって水準を見ておこう。
◆公立学校非常勤講師 1コマ=2,780円/45分~50分
小学校の1単位時間は45分、中学校の1単位時間は50分である。
1コマ当たり報酬額を1時間(60分)当たりに換算すると、換算率が悪い中学校でみても3,336円となる。個別指導塾A社の1,066円66銭と比べて、約3倍の水準になっている。
授業準備や授業後の業務に合わせて50分が必要になると仮定(比較のためA社の賃金について計算した時間に合わせた。)した場合には、勤務100分で2,780円となり、勤務1時間当たり1,668円となる。それでも最低賃金の2倍程度の水準が確保されている。
非常勤講師の職務は、大学を卒業し、教員免許状を取得した者が就く仕事であることを踏まえるなら、塾のバイト代より高い水準であるのは、当然といえば当然ではあろう。とはいえ、比較してみた結果、個別指導塾A社の賃金水準の低さが際だってくる。
なお、4つ目のパターンとして、「個別指導は登録制の委託業務」として労働者性を否定する事例も取り上げている。具体的な実態をこのノートでは取り上げないが、嶋﨑弁護士は、「出るところに出れば、労働者性を免れようとする違法行為であるという結論は明確です。」と述べている。
最後に、「改善に向けて」と題した節で、インタビュアーが「今後は「コマ給撲滅キャンペーン」のような運動が求められると思います。」と嶋﨑弁護士に振り、同弁護士は「裁判など、何かはっきりしたとしたかたちで白黒つけられるといいですね。」と受け、「ブラック企業被害対策弁護団でも、ぜひ取り組みたいケースです。」と結んでいる。
2780円? これを見てからもう一度考えてみてはくれまいか。
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/kohyojoho/reiki_int/reiki_honbun/g1011937001.html#b4
by うさぎさん (2015-08-02 02:45)