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417.読書=『キャリア官僚の採用・人事のからくり』 [29.読書]

 岸宣仁『キャリア官僚の採用・人事のからくり』(中公新書ラクレ、2015年)
 副題は「激変する「出世レース」」。著者は、霞ヶ関のキャリア官僚を30数年間にわたって取材対象としてきたジャーナリスト。
 内閣人事局の設置によって、従来の東大法学部出身者を優遇する人事慣行に大きな変化が起きたのではないか-。激変するに至った次官レースの歴史を山形有朋以来の制度と運用に立ち返って説明する。その変化をレポートするとともに、著者なりの分析―官民格差、官官格差、文理格差の検証―を加えた上で、「私なりの霞ヶ関の人材育成に対する改革案を示す」ものとなっている。
 キャリア官僚の人事慣行の実態を示すレポートはそれはそれで大変おもしろいのだが、学習ノート的には、明治大学公共政策大学院の田中秀明教授の解説を引きながらオーストラリアの上級管理職制度を紹介する箇所が大変興味深かった。

 オーストラリアでも、従来は日本と同様に、政府の運営は官僚主導だったと言われている。これを政治主導に変えたのが上級管理職制度である。幹部の登用に競争原理を導入したことにより、専門性がより重視される一方で、政策の決定において政治家が主役となったのである。…その結果、内閣府や財務省などの主要官庁で業績を残した者が事務次官に問うようされるなど、内閣の政策目的に貢献した者が出世するようになる。そこには省庁の縦割りや政治による情実人事が入り込む余地がなくなり、能力主義に基づく人事が実現する基盤が築かれたといわれる。(p55)
 上級管理職制度の利点について、田中は『日本経済新聞』の「経済教室」(2013年10月29日付)で、次のように結論づけている。/「この改革により省庁の縦割り主義、縄張り意識は是正された。幹部になるには公募の競争に勝つ必要があり、教育省出身だからといって教育省の幹部になれないからだ。省益ではなく、内閣の政策目的に貢献する者が出世するようになった。これは省庁の予算獲得競争をやめさせる意味でも重要な改革だった。また首相や大臣の政治顧問が強化された。中立的な政策助言をする公務員の役割を維持する一方で、大臣の政治的指導力を強化したのである。」(p56)
 「日本の公務員は制度の建前は中立だが、実際には政治化している。政治化とは、与野党の国会議員との濃密な接触から政治的に強い影響を受けること、公務員や省庁が自らの利害を追求することである。一旦省庁に配属されれば、その省庁の入省年次別の背番号が一生ついて回る。入省当初は天下国家を論じていても、次第に省庁の利害を守るようになり、政策の立案実施もゆがめられていく。公務員の政治化は裏返せば専門性の劣化である」(p58)
 「新しい幹部公務員制度は、最終的には首相・官房長官・大臣で協議して幹部人事を決めるものですが、タテマエは資格任用でありながら、身分保障を維持して事実上の政治任用に一歩踏み出そうとするものです。首相などにごまをすり気に入られた者が出世することになるでしょう。実際、なぜあの人が次官や局長になったのかという話を霞ヶ関で聞きます。これは、すでに政治化している公務員を、さらに政治化させるものです。政策を決めるのは政治ですが、公務員が政治化すると、政策立案が政治的なバイアスで歪められる。英国は政治主導の国と言われていますが、政治家に公務員の人事権はありません。政治任用を強化するよりも、日本の公務員制度改革が本来めざしている資格任用を徹底させることが、真の制度改革につながると私は考えています。」(p59.60)

 そのほか、キャリアとノンキャリアの関係を紹介する章で、次のような記述あったので記録の意味で掲載しておく。ただし、現行人事評価制度が導入される前の話である。

 …90年代初め、主税局幹部と人事談義をしている時、ふと彼が漏らした人事考課をめぐる格差の実態である。/「大蔵省(当時)の人事考課はA、B、C、Dの四段階だが、Dは長期の病欠など特殊な場合だけで、実質的に三段階で評価している。ひとつの課の中では、まず係長がやって、次に課長がやるが、ただしそれをやるのはノンキャリアだけ。キャリアは局長が評価するものの、全員にすべて『C』をつける。それはノンキャリアのために、AとBを残しておいてあげる工夫で、とにかくキャリアは全員がC。それでは、人事考課にならないだろうとお叱りを受けそうだが、キャリアはキャリアの世界で以心伝心の評価があり、『あいつは引き上げよう』『あいつは飛ばせ』という何人かの上司の声の集積が、次のポストを決めていく仕組みになっている」(p133)


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