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508. 教員給与は適正に優遇されているのか [8.トピック]

 自治総研2020年3月号(通巻497号)に上林陽治氏の「教員給与は適正に優遇されているのか-教員の働き方改革の論じ方-」が掲載されている。

 上林氏の問題意識は、次の記述に集約されている。
 「そうすると今次改正給特法、とりわけ教職調整額を批評する観点としては、時間外労働・休日労働の不払いや労働時間規制の在り方の問題もあるが(9)、教職調整額をはじめとする給与水準調整の仕組みが、教員の働き方から見て、一般行政職員の給与との水準調整・優遇措置という機能を本当に果たしているのかということもあわせて検証しなければならない。/本稿の問題意識はここにある。」

 氏は、まず「1.教職調整額をはじめとする給与上の今日委員優遇措置の経緯」を論じていく。戦後の教員給与と超勤問題からスタートし、給特法の成立過程や人材確保法の成立過程を説明する。

 続いて「2.目減りする一般行政職との給与水準差の経過」を論じる。教職調整額の制度化と人確法制定によって教員の給与水準は一気に優遇されるものとなったのだが、その水準調整・優遇措置が維持されているかというと結論は「ノン」だと指摘する。氏は、「水準調整・優遇措置が解消してしまったなかで、時間外労働・休日労働が不払いになっていることが、問題なのである。」と主張し、「以下、この経過を、地方公務員給与実態調査から作成した表1の「都道府県の一般行政職・小中学校教員における月例給・年収額の推移(学歴計・男女計)」に沿って、検証していく。」と述べて論を進める。

 まず、月例給与水準と年収水準を検証する。ざっくり引用する。
 「この水準差(都道府県負担の小中学校教育職の給与の都道府県の一般行政職の給与に対する水準差=編注)は、3次にわたる計画的改善(1973~1978年度)が終了する1978年段階では、月例給、年収とも115に落ち着く。(略)、2018年には、平均年齢がほぼ一致しているにもかかわらず、月例給の水準差(C)が101、年収の水準差(F)が103と、教職調整額による4%優遇さえも下回ってしまった。」

 なぜ、このように水準差は縮小してきたのか。氏は、2000年代に入ってから、教員給与の引き下げ圧力が強まったことを指摘する。2006年5月成立のいわゆる行革推進法による教員給与の一律優遇の見直しの動きの中で、人確法優遇分430億円の減額が目指されることとなり、「教員給与の優遇性は解職していく。」と述べる。

 続いて、主要な給与項目ごとに推移を確認していく。まず、給料月額についてラスパイレス比較を行って検証する。
 氏は、「上記(ラスパイレス比較=編注)の手法により求められる小中学校教員と一般行政職員の給料月額の水準差は、計画的改善が終了する1978年時点において、都道府県一般行政職員の給料月額(学歴計・男女計)を100とすると、都道府県小中学校教員の給料月額(学歴計・男女計)は120.1で、給料月額だけで、この時点で約20ポイントの水準差が設けられたことがわかる。/ところが2018年になると、指数は、113.5となり、1948年当時の水準差に縮小してしまう。」と指摘する。
 そして、「水準差が縮小した背景には、1990年以降の給与制度改革の影響が作用している。/たとえば、1991年には、昇格制度の改善がなされ、昇格時の給料の引き上げ額が高まった結果、昇格機会の多い行政職給料表適用者には有利に、少ない級しか持たない教育職給料表適用者には不利なものと作用することとなった。」と説明する。

 次に、教職調整額の推移を確認する。氏は、「当時の教職調整額は2,974円と推定(給料月額×0.04%で計算)される。これに対し、一般行政職の時間外手当額は5,079円で、教職調整額は一般行政職の時間外手当の58.5%の水準にしか過ぎず、この時点ですでに見劣りしている(表3参照)。/1976年には85.5%水準まで接近するものの、その後一貫して今日まで、教職調整額と一般行政職の時間外手当額との差は拡大し、直近の調査(2018年)では、43.9%の水準まで落ち込んでいる。」と指摘する。ただ、分析で推定した計算方式は4%を前提としており、跳ね返りを考慮していない。実力6%といわれる水準で比較した方がよいのかもしれないが、いずれにせよ目減りしているのは事実であろう。
 次に、義教手当が「3分の1まで縮小している」ことを確認している。

 最後に「おわりに」で、氏は、「教員の働き方改革で問題にすべきは、長時間労働の規制だけでなく、ましてや時間外手当等を不払いにしている給特法の見直しばかりでなく、より全般的な教員の働き方に応じた処遇の在り方そのものである。」と主張する。
 その前提として、氏は次のように教員給与の優遇性の解消経過をまとめ、指摘する。
 「義務教育教員の給与水準は、1970年代中葉までは、人確法が制定されるなどにより、それなりに処遇は改善されていたが、1990年代の昇格制度改善のメリットは給料表の構造からうけられず、また2008年以降の教員給与の見直し策により、一般行政職員の給与との比較において、月例給・年収とも、その優遇性は解消している。/したがって、「教員給与は一般行政職員よりも優遇されている」との主張に根拠はない。」と。


 以上のとおり、上林氏は、教員給与の優遇性の解消の理由について、①昇格改善メリットを受けられない給料表構造、②教員給与の見直し策の2つを挙げている。しかし、このノートで学習してきた観点からすると、①を理由に挙げることには少し疑問が残る。

 平成4年から4年かけて実施された昇格改善は、いわゆる1号上位昇格制度の導入であり、俸給表の構造上、職務の級の数が多い方がメリットが累積することになる。しかし、職務の級の少ない旧教育職俸給表(二)(三)は、3号俸のカットが実施されるとともに、行政職(一)の在職者調整見合いの厚めの俸給表改定が実施されたのであった。人確法に基づく優遇措置のベースとなる旧教育職(三)については、旧行政職(一)の2級から7級までブリッジしているのだが、そうすると、1号上位昇格制度の導入された旧行政職(一)4級(係長)以上では、7級までの昇格4回分のメリットが付与されるのだが、一方、旧教育職(三)については昇格3回分に相当する3号俸のカットに加え、4年間の厚めの改定による概ね1号俸分により、制度上は均衡が分かられている。ただ、旧行政職(一)の改善効果が比較的早いのに対して、旧教育職(三)では未だに3号俸カットすべてのメリットを享受できていない層が50歳台に存在している。また、旧行政職(一)の8級以上のメリットが4回分もあり、旧教育職(三)は3級・4級への昇格2回分を踏まえても構造上見劣りすることは否定はできない。しかし、それほど大きな要素だったのであろうか。

 ここで上林氏作成の表1「都道府県の一般行政職・小中学校教員における月例給・年収額の推移(学歴計・男女計)」をもう一度よく見てみる。1990年の数値を見ると、給与月額の水準差102、年収の水準差103に対して、1995年の数値はそれぞれ101、102に1ポイント下がるに留まっており、2000年の数値はそれぞれ103、104と逆に1ポイント上がる結果となっている。
 一方、この表1でポイントが一番大きく下がっているのは、給与月額の水準差で見ると1980年の112から1985年の105の▲7ポイント、年収の水準差も1980年の114から1985年の106の▲8ポイントである。1985年(昭和60年)、8等級制が11級制に改められたのだが、実施は7月1日であった。すると調査時点は4月1日だからその効果が表れるのは昭和61年となると考えられる。何があったのか…。

 表2「都道府県一般行政職と小中学校教員の給料月額比較(1978年・2018年)」が1978年と2018年だけで、表1と同じ年刻みないし5年刻みでないのが大変残念である。


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