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480. 令和元年人勧の俸給表改定 [8.トピック]

 8月7日、令和元年の人事院勧告が行われた。今年も勧告による俸給表の改定内容を考察しておく。
 まず、報告から関係部分の記述を抜粋する。

(行政職俸給表(一))
 民間との給与比較を行っている行政職俸給表(一)について、平均0.1%引き上げることとする。
 具体的には、民間の初任給との間に差があること等を踏まえ、総合職試験及び一般職試験(大卒程度)に係る初任給について1,500円、一般職試験(高卒者)に係る初任給について2,000円、それぞれ引き上げることとし、これを踏まえ、30歳台半ばまでの職員が在職する号俸について、所要の改定を行う。
(行政職俸給表(一)以外の俸給表)
 行政職俸給表(一)以外の俸給表についても、行政職俸給表(一)との均衡を基本に所要の改定を行う。なお、専門スタッフ職俸給表及び指定職俸給表については、本年の俸給表改定が若年層を対象としたものであることから改定を行わない。


 初任給については、「民間の初任給との間に差があること等を踏まえ」とあるが、報告では具体的な差についての記述がない。仕方がないので、参考資料の「民間給与実態調査の概要」を見ると、「職種別、学歴別、企業規模別初任給」の「企業規模計」の「新卒事務員・技術者計」の金額は、大学卒が203,167円、高校卒が165,412円となっている。ちなみに昨年の報告の参考資料を見ると、大学卒は202,013円、高校卒は163,551円となっている。それぞれ1年間で、大学卒は1,154円、高校卒は1,861円高くなっている。
 さて、初任給の具体の改定状況を勧告された俸給表で確認する。

 <初任給基準である号俸の改定>
 総合職試験(大卒程度)2級1号俸 194,000円→195,500円(+1,500円)
            ※備考(二) 185,200円→186,700円(+1,500円)
 一般職試験(大卒程度)1級25号俸 180,700円→182,200円(+1,500円)
 一般職試験(高卒者) 1級5号俸 148,600円→150,600円(+2,000円)

 次に、「これを踏まえ、30歳台半ばまでの職員が在職する号俸について、所要の改定を行う」とある。

 まず、高卒初任給の号俸から大卒初任給の号俸までを見ると、1年に100円ずつ低減していく形となっている。
 基幹号俸について、改定額をピックアップする。
  1級5号俸 2,000円(一般職試験高卒者の初任給)
  1級9号俸 1,900円
  1級13号俸 1,800円
  1級17号俸 1,700円
  1級21号俸 1,600円
  1級25号俸 1,500円(一般職試験大卒程度の初任給)

 次に、大卒制度年齢29歳までの号俸については、1,500円の改定としている。
 両端の号俸について、改定額をピックアップする。
  年齢 経験  1級の改定額 2級の改定額 3級の改定額
  22歳 0年 25号俸 1,500円
  29歳 7年 53号俸 1,500円 21号俸 1,500円 5号俸 1,500円

 大卒制度年齢30歳以上は、号俸を上昇するに従って改定額を漸減させ、大卒制度年齢35歳6月の号俸の額定額200円で終了している。改定は、1級から5級までで、6級以上の改定は行われていない。35歳9月以降の号俸及び再任用職員の俸給月額は改定なしである。
 基幹号俸などについて、改定額をピックアップする。
  年齢 経験  1級の改定額 2級の改定額 3級の改定額
  29歳 7年 53号俸 1,500円 21号俸 1,500円 5号俸 1,500円
  30歳 8年 57号俸 1,400円 25号俸 1,400円 9号俸 1,400円
  31歳 9年 61号俸 1,200円 29号俸 1,200円 13号俸 1,300円
  32歳 10年 65号俸 1,100円 33号俸 1,200円 17号俸 1,200円
  33歳 11年 69号俸 1,000円 37号俸 1,100円 21号俸 1,100円
  34歳 12年 73号俸 700円 41号俸 700円 25号俸 800円
  35歳 13年 77号俸 400円 45号俸 400円 29号俸 500円
  35歳6月  79号俸 200円 47号俸 200円 31号俸 200円
  35歳9月  80号俸 - 円 48号俸 - 円 32号俸 - 円

 洋裁に見ていくと、33歳までの4年間で改定額を500円減額、改定率は0.7又は0.6から0.4に引き下げられている。さらに35歳9月までの2年9月で一気に改定額を1,000円又は1,100円減額している。
 なんとなく、これまでになく急激な改定額の逓減となっているように感じる。大卒制度年齢35歳前後で、給料表カーブが歪になってはいないのだろうか。点検してみる。
 分かりやすくするため、基幹号俸について、ピックアップする。
  年齢 経験  1級の号俸の間差額
  31歳 9年 61号俸 3,400円→3,300円
  32歳 10年 65号俸 3,400円→3,300円
  33歳 11年 69号俸 2,900円→2,600円
  34歳 12年 73号俸 2,700円→2,400円
  35歳 13年 77号俸 2,800円→2,400円
  36歳 14年 81号俸 2,700円→2,700円
  37歳 15年 85号俸 2,600円→2,600円
  38歳 16年 89号俸 1,500円→1,500円

 1級の73号俸及び77号俸の間差額がへこみすぎ、あるいは、81号俸及び85号俸の間差額が上がりすぎの感じで、号俸が上昇するに従って間差額が漸減していく美しさは少し失われてしまった。
 2級以上の間差額については、1級のような歪さにはなっていない。間差額のピークの位置が概ね上昇したような結果となっている。

 さて、全人連モデル給与表はどんな形になるのだろうか。

(追記)
 今回の俸給表改定は、高卒初任給を2,000円引き上げるとともに、20歳台を1,500円引き上げるという大胆な内容であった。これは、今年の月例給の官民較差が昨年に比べて小さく387円に止まったこと(昨年は655円)から、若年層、とりわけ30歳未満に重点的に配分したということだと思うが、2つの理由が考えられるのではないか。
 1つは、1級初号付近の号俸については、最低賃金の引上げの動向も意識して対応したのだと思う。平成30年度地域別最低賃金の全国加重平均は874円となっている。平成29年度の848円に対して26円上昇している。今年度はさらに27円引き上げ901円になりそうな勢いだ。ちなみに現行の行(一)1級1号俸の俸給月額144,100円の時給を単純計算すると858.16円となる。勧告後で計算すると870.07円(+11.91円)となっている。
 2つ目は、定年延長を見据えた給与カーブ見直しへの備えとして、40歳付近以上の号俸を据え置いたのではないかと考えられる。人事院は、「5 給与制度における今後の課題」で、「本院は、昨年行った国家公務員の定年を段階的に65歳に引き上げるための国家公務員法等の改正についての意見の申出において、60歳を超える職員の給与水準の引下げは当分の間の措置と位置付け、60歳前の給与カーブも含めて引き続き検討していくこと等に言及した。」と述べた後、「今後とも、(略)民間企業における定年制や高齢層従業員の給与の状況、公務における人員構成の変化及び各府省における人事管理の状況等を踏まえながら、60歳前の給与カーブも含めた給与カーブの在り方について検討を行っていくこととしたい。」と来年の勧告を予告するかのように含みを持たせた報告を行っている。
 

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479. 自己研鑽の時間(その3) [8.トピック]

 2回にわたって「自己研鑽の時間」を取り上げたが、正確に理解するために、改めて整理してみたい。

 教職調整額が4%とされた根拠については、「文部省が昭和41年度に行った教員の勤務状況調査の結果による超過勤務手当相当分の俸給に対する比率約4%という数字を尊重した」とされている。
 この調査では、服務時間外の勤務状況を調査したものだが、その際、自主研修や付随関連活動(関係団体活動等)は調査対象とされなかった。その上で、服務時間外に報酬を受けて補習を行っていた時間は差引かれ、服務時間内の社会教育関係活動等の時間は服務時間外の勤務時間から相殺減されたのであった。その結果得られら超過勤務時間をベースに4%がはじき出されたというのである。
 つまり、教職調整額4%の基礎には、自主研修の時間や学校関係団体活動の時間は含まれていない。しかも、服務時間中における学校関係団体活動の時間は相殺減されている。


 一方、文部科学省制定の「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」では、ガイドラインにおける「勤務時間」について、「在校等時間」をガイドラインの対象となる「勤務時間」であるとする。
 そして、在校時間のうち、「所定の勤務時間外に校内において自らの判断に基づいて自らの力量を高めるために行う自己研鑽の時間その他業務外の時間については、自己申告に基づき除く」とするのである。
 諄いけれども、敢えて強調して述べると、「所定の勤務時間外にいわゆる「超勤4項目」に該当するもの以外の業務を教師の自発的な判断により行った時間は、使用者の指揮命令下に置かれている時間ではないから、労働基準法上の「労働時間」には含まれない」けれども、「「超勤4項目」以外であっても、校務として行うものについては、超過勤務命令に基づくものではないものの、学校教育に必要な業務として勤務していることに変わりない」ことから、「「超勤4項目」以外の業務が長時間化している実態も踏まえ」、「在校等時間」としてガイドラインの対象となる「勤務時間」とする、というのだ。

 以上を併せて整理すると、「自己研鑽の時間」は、「労働時間」でないことはもちろん、「在校等時間」に含まれる「労働時間には含まれない勤務の時間」にも含まれない時間なのだという二重の徹底ぶりとなっている。

 教職調整額制度の創設時、超勤裁判で労働者が勝ち取った業務は職員会議の時間や修学旅行などの時間でせいぜい0.4%、教職調整額は4%だからこちらの方お得ですよ、という趣旨の国会答弁を当時の人事院総裁がしている。
つまり、教職調整額4%の基礎には、自主研修や学校関係団体活動の時間は含まれていない(部活動指導の時間も含まれていない可能性が高いことは、以前このノートで取り上げた)が、労働時間に含まれない「超勤4項目」以外の業務に従事している時間が含まれており、これらの業務に従事する時間も給与措置の対象にしたということである。
 このことを意識しながら考えると、「在校等時間」は教職調整額の基礎とすべき時間の考え方と同じであると考えることもできるのではないか。そうすると、4%の水準は低いではないか、という議論にも繋がる。

 いずれにしても、自己研鑽の時間は、労働時間ではなく、校務に従事している時間と理解することもできない、純然たる自主的な活動の時間と理解されている。そして、繰り返しになるが、文科省は、この労働時間には含まれない「自己研鑽の時間」には、「校長会・教頭会・教科連絡協議会等のメンバーとしての活動」や「教科指導や生徒指導に係る自主的な研究会に参加」する時間も含まれると説明するのである。

 教育基本法で「法律に定める学校の教員は、自己の崇高な使命を深く自覚し、絶えず研究と修養に励み、その職責の遂行に努めなければならない」(第9条第1項)と言われ、教育公務員特例法で追い打ちをかけるように「教育公務員は、その職責を遂行するために、絶えず研究と修養に努めなければならない」(第21条第1項)と言われる。
 そのような責務が求められる下で、各種の研究会が組織され、当然のように教員は加入し、仕事の一環として研究会の研究指定の業務を担当し、研究発表会には研修の一環として参加している。勤務時間内であれは、校長が命じた仕事として扱われるのだろう(もしかすると、第22条第2項の承認研修にすべきとの頑な意見があるかもしれないが…)。これが勤務時間外に行われたならば、「自己研鑽の時間」として労働時間にも在校等時間にも含まれないことになるのか…。法令上の解釈として仕方がないのかもしれないが、やるせない気持ちにはなる…。



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478. 自己研鑽の時間(その2) [8.トピック]

 前々回「自己研鑽の時間」を取り上げ、教職調整額4%の基礎には、自主研修の時間や自主的な研究会等の活動の時間は含まれていない、つまり、それらは職務ではないと整理されてきたことを紹介した。
 この点に関して、厚生労働省がどのように考えているのか、確認しておきたい。

 まず、次のような行政実例がある。

「就業時間外に実施する自由参加の技術教育の時間は時間外労働か(労働基準法第32条、36条関係)」(昭和26年1月20日基収2875号、平成11年3月31日基発168号)
(問)
 使用者が自由意思によって行う労働者の技術水準向上のための技術教育を、所定就業時間外に実施する場合の、労働基準法第36条第1項の適用に関して左記の通り疑義があるが如何。
                 記
 右のような「教育」を実施した時間は労働基準法上「労働時間」とみなされ法第36条第1項の規定による時間外労働の協定を必要とするか。
イ、業務命令として職制を通じ所属長から通常の作業に準じて参加命令を発し拘束の態様が通常業務に対すると全く同一の場合
ロ、職制上直列系統に非ざる教育担当者から単なる「通知書」を以て参加を要請し建前としては自由参加の形式を採っている場合
(答)
 労働者が使用者の実施する教育に参加することについて、就業規則上の制裁等の不利益取扱による出席の強制がなく自由参加のものであれば、時間外労働にはならない。

 ちょっと分かりにくいが、次のガイドラインでも、自活的な能力開発の時間は労働時間ではないとの主旨を述べている。

「労働時間等見直しガイドライン(労働時間等設定改善指針)」(平成20年厚生労働省告示第108号)
(2) 特に配慮を必要とする労働者について事業主が講ずべき措置
へ 自発的な職業能力開発を図る労働者
 企業による労働者の職業能力開発は今後とも重要であるが、サービス経済化、知識社会化が進むとともに、労働者の職業生活が長期化する中で、大学、大学院等への通学等労働者が主体的に行う職業能力開発を支援することの重要性も増してきている。このため、事業主は、有給教育訓練休暇、長期教育訓練休暇その他の特別な休暇の付与、始業・終業時刻の変更、勤務時間の短縮、時間外労働の制限等労働者が自発的な職業能力開発を図ることができるような労働時間等の設定を行うこと。

 更に、厚生労働省の例のガイドラインでも次のように述べている。


「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)
3 労働時間の考え方
 労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる。そのため、次のアからウのような時間は、労働時間として扱わなければならないこと。
 ただし、これら以外の時間についても、使用者の指揮命令下に置かれていると評価される時間については労働時間として取り扱うこと。
 なお、労働時間に該当するか否かは、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんによらず、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであること。また、客観的に見て使用者の指揮命令下に置かれていると評価されるかどうかは、労働者の行為が使用者から義務づけられ、又はこれを余儀なくされていた等の状況の有無等から、個別具体的に判断されるものであること。
ウ 参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間
4 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置
(3)自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合の措置
 上記(2)の方法によることなく、自己申告制によりこれを行わざるを得ない場合、使用者は次の措置を講ずること。
エ 自己申告した労働時間を超えて事業場内にいる時間について、その理由等を労働者に報告させる場合には、当該報告が適正に行われているかについて確認すること。
 その際、休憩や自主的な研修、教育訓練、学習等であるため労働時間ではないと報告されていても、実際には、使用者の指示により業務に従事しているなど使用者の指揮命令下に置かれていたと認められる時間については、労働時間として扱わなければならないこと。

 逆読みをすれば、「事業場内で実施されている研修、教育訓練、学習等の時間については、使用者の指示により業務に従事しているなど使用者の指揮命令下に置かれていたとまでは認められない自主的な形態・参加の下において実施されている時間であれば、労働時間には該当しない。」ということになる。

 その点を徹底したものとして、厚生労働省から、医師の研鑽に係る考え方が示された。教員の自己研鑽の時間を考える上でも参考になるので、長いが全文掲載しておく。

「医師の研鑽に係る労働時間に関する考え方について」(令和元年7月1日基発0701第9号都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知)
 医療機関等に勤務する医師(以下「医師」という。)が、診療等その本来業務の傍ら、医師の自らの知識の習得や技能の向上を図るために行う学習、研究等(以下「研鑽」という。)については、労働時間に該当しない場合と労働時間に該当する場合があり得るため、医師の的確な労働時間管理の確保等の観点から、今般、医師の研鑽に係る労働時間該当性に係る判断の基本的な考え方並びに医師の研鑽に係る労働時間該当性の明確化のための手続及び環境整備について、下記のとおり示すので、その運用に遺憾なきを期されたい。
                記
1 所定労働時間内の研鑽の取扱い
 所定労働時間内において、医師が、使用者に指示された勤務場所(院内等)において研鑽を行う場合については、当該研鑽に係る時間は、当然に労働時間となる。
2 所定労働時間外の研鑽の取扱い
 所定労働時間外に行う医師の研鑽は、診療等の本来業務と直接の関連性なく、かつ、業務の遂行を指揮命令する職務上の地位にある者(以下「上司」という。)の明示・黙示の指示によらずに行われる限り、在院して行う場合であっても、一般的に労働時間に該当しない。
 他方、当該研鑽が、上司の明示・黙示の指示により行われるものである場合には、これが所定労働時間外に行われるものであっても、又は診療等の本来業務との直接の関連性なく行われるものであっても、一般的に労働時間に該当するものである 。
 所定労働時間外において医師が行う研鑽については、在院して行われるものであっても、上司の明示・黙示の指示によらずに自発的に行われるものも少なくないと考えられる。このため、その労働時間該当性の判断が、当該研鑽の実態に応じて適切に行われるよう、また、医療機関等における医師の労働時間管理の実務に資する観点から、以下のとおり、研鑽の類型ごとに、その判断の基本的考え方を示すこととする。
(1) 一般診療における新たな知識、技能の習得のための学習
ア 研鑽の具体的内容
 例えば、診療ガイドラインについての勉強、新しい治療法や新薬についての勉強、自らが術者等である手術や処置等についての予習や振り返り、シミュレーターを用いた手技の練習等が考えられる。
イ 研鑽の労働時間該当性
 業務上必須ではない行為を、自由な意思に基づき、所定労働時間外に、自ら申し出て、上司の明示・黙示による指示なく行う時間については、在院して行う場合であっても、一般的に労働時間に該当しないと考えられる。
ただし、診療の準備又は診療に伴う後処理として不可欠なものは、労働時間に該当する。
(2) 博士の学位を取得するための研究及び論文作成や、専門医を取得するための症例研究や論文作成
ア 研鑽の具体的内容
 例えば、学会や外部の勉強会への参加・発表準備、院内勉強会への参加・発表準備、本来業務とは区別された臨床研究に係る診療データの整理・症例報告の作成・論文執筆、大学院の受験勉強、専門医の取得や更新に係る症例報告作成・講習会受講等が考えられる。
イ 研鑽の労働時間該当性
 上司や先輩である医師から論文作成等を奨励されている等の事情があっても、業務上必須ではない行為を、自由な意思に基づき、所定労働時間外に、自ら申し出て、上司の明示・黙示による指示なく行う時間については、在院して行う場合であっても、一般的に労働時間に該当しないと考えられる。
 ただし、研鑽の不実施について就業規則上の制裁等の不利益が課されているため、その実施を余儀なくされている場合や、研鑽が業務上必須である場合、業務上必須でなくとも上司が明示・黙示の指示をして行わせる場合は、当該研鑽が行われる時間については労働時間に該当する。
 上司や先輩である医師から奨励されている等の事情があっても、自由な意思に基づき研鑽が行われていると考えられる例としては、次のようなものが考えられる。
・ 勤務先の医療機関が主催する勉強会であるが、自由参加である
・ 学会等への参加・発表や論文投稿が勤務先の医療機関に割り当てられているが、医師個人への割当はない
・ 研究を本来業務とはしない医師が、院内の臨床データ等を利用し、院内で研究活動を行っているが、当該研究活動は、上司に命じられておらず、自主的に行っている
(3) 手技を向上させるための手術の見学
ア 研鑽の具体的内容
 例えば、手術・処置等の見学の機会の確保や症例経験を蓄積するために、所定労働時間外に、見学(見学の延長上で診療(診療の補助を含む。下記イにおいて同じ。)を行う場合を含む。)を行うこと等が考えられる。
イ 研鑽の労働時間該当性
 上司や先輩である医師から奨励されている等の事情があったとしても、業務上必須ではない見学を、自由な意思に基づき、所定労働時間外に、自ら申し出て、上司の明示・黙示による指示なく行う場合、当該見学やそのための待機時間については、在院して行う場合であっても、一般的に労働時間に該当しないと考えられる。
 ただし、見学中に診療を行った場合については、当該診療を行った時間は、労働時間に該当すると考えられ、また、見学中に診療を行うことが慣習化、常態化している場合については、見学の時間全てが労働時間に該当する。
3 事業場における研鑽の労働時間該当性を明確化するための手続及び環境
の整備
 研鑽の労働時間該当性についての基本的な考え方は、上記1及び2のとおりであるが、各事業場における研鑽の労働時間該当性を明確化するために求められる手続及びその適切な運用を確保するための環境の整備として、次に掲げる事項が有効であると考えられることから、研鑽を行う医師が属する医療機関等に対し、次に掲げる事項に取り組むよう周知すること。
(1) 医師の研鑽の労働時間該当性を明確化するための手続
 医師の研鑽については、業務との関連性、制裁等の不利益の有無、上司の指示の範囲を明確化する手続を講ずること。例えば、医師が労働に該当しない研鑽を行う場合には、医師自らがその旨を上司に申し出ることとし、当該申出を受けた上司は、当該申出をした医師との間において、当該申出のあった研鑽に関し、
・ 本来業務及び本来業務に不可欠な準備・後処理のいずれにも該当しないこと
・ 当該研鑽を行わないことについて制裁等の不利益はないこと
・ 上司として当該研鑽を行うよう指示しておらず、かつ、当該研鑽を開始する時点において本来業務及び本来業務に不可欠な準備・後処理は終了しており、本人はそれらの業務から離れてよいことについて確認を行うことが考えられる。
(2) 医師の研鑽の労働時間該当性を明確化するための環境の整備
 上記(1)の手続について、その適切な運用を確保するため、次の措置を講ずることが望ましいものであること。
ア 労働に該当しない研鑽を行うために在院する医師については、権利として労働から離れることを保障されている必要があるところ、診療体制には含めず、突発的な必要性が生じた場合を除き、診療等の通常業務への従事を指示しないことが求められる。また、労働に該当しない研鑽を行う場合の取扱いとしては、院内に勤務場所とは別に、労働に該当しない研鑽を行う場所を設けること、労働に該当しない研鑽を行う場合には、白衣を着用せずに行うこととすること等により、通常勤務ではないことが外形的に明確に見分けられる措置を講ずることが考えられること。手術・処置の見学等であって、研鑚の性質上、場所や服装が限定されるためにこのような対応が困難な場合は、当該研鑚を行う医師が診療体制に含まれていないことについて明確化しておくこと。
イ 医療機関ごとに、研鑽に対する考え方、労働に該当しない研鑽を行うために所定労働時間外に在院する場合の手続、労働に該当しない研鑽を行う場合には診療体制に含めない等の取扱いを明確化し、書面等に示すこと。
ウ 上記イで書面等に示したことを院内職員に周知すること。周知に際しては、研鑽を行う医師の上司のみではなく、所定労働時間外に研鑽を行うことが考えられる医師本人に対してもその内容を周知し、必要な手続の履行を確保すること。
 また、診療体制に含めない取扱いを担保するため、医師のみではなく、当該医療機関における他の職種も含めて、当該取扱い等を周知すること。
エ 上記(1)手続をとった場合には、医師本人からの申出への確認や当該医師への指示の記録を保存すること。なお、記録の保存期間については、労働基準法(昭和22年法律第49号)第109条において労働関係に関する重要書類を3年間保存することとされていることも参考として定めること。



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