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495. 神戸・給与差し止め条例施行 [8.トピック]

 神戸市立東須磨小学校の教員4人が若手教員に暴行や暴言、セクハラを繰り返し行っていた問題を受けて、職員を分限休職処分にした上で給与を差し止められる改正条例が成立し、施行されるとの報道があった。

○神戸新聞NEXT
給与差し止め条例改正案が可決、成立 神戸・教員間暴行問題
2019/10/29 12:03

 神戸市立東須磨小学校(同市須磨区)の教員間暴行・暴言問題を受け、職員を「分限休職処分」にした上で給与を差し止められる条例改正案が29日、市会本会議で起立多数で可決、成立した。市は30日にも改正条例を公布、施行する方針。施行を受け、市教育委員会が加害教員4人の分限休職処分の手続きを進める。
 条例改正では、職員が重大な「非違(非法・違法)行為」を犯し、起訴される恐れがあり、職務を続けさせると公務に大きな支障が生じるようなケースを、新たに分限休職処分の対象に加える。
 今回の問題で「自宅謹慎」の代わりに有給休暇を取らせている加害教員4人を念頭に、市が28日、条例改正案を提案。審議付託された同日の総務財政常任委員会では、「恣意的な運用につながる恐れがある」などと懸念する声が議員から相次いだが、4時間余りの議論の結果、賛成多数で原案通り可決された。
 29日の本会議でも、同委員会の報告に対し、一部会派の議員が「恣意的な運用を防ぐ担保の根拠がない。恒久的な条例としては問題が多すぎる」などとして反対意見を表明したが、賛成多数で可決・成立した。
 本会議では、職員の処分の際、弁護士らによる分限懲戒審査会への諮問や、弁明の機会を確保するなどの公務員の身分保障を担保する規則や規定を求める付帯決議案が公明会派から提出され、賛成多数で可決された。(石沢菜々子)
【東須磨小教員間暴行・暴言問題】神戸市立東須磨小の30~40代の教員4人が、20代の若手教員4人に暴行や暴言、セクハラを繰り返していたことが神戸新聞の報道で発覚。被害教員の一人は療養を余儀なくされ、須磨署に被害届を出した。市教育委員会は10月1日から加害教員4人を有給休暇扱いで業務から外し、代わりの教員を配置。弁護士3人による調査委員会の結果が年内にもまとまる見通しだが、市教委は事実認定をした範囲で処分の前倒しも検討している。


 成立した条例改正案の議案を確認しておく。

第95号議案
職員の分限及び懲戒に関する条例等の一部を改正する条例の件
 職員の分限及び懲戒に関する条例等の一部を改正する条例を次のように制定する。
 令和元年10月28日提出  神戸市長 久元喜造
職員の分限及び懲戒に関する条例等の一部を改正する条例
(職員の分限及び懲戒に関する条例の一部改正)
第1条 職員の分限及び懲戒に関する条例(昭和27年2月条例第8号)の一部を次のように改正する。
  第2条に次の1号を加える。
   (3) 重大な非違行為があり,起訴されるおそれがあると認められる職員であつて,当該職員が引き続き職務に従事することにより,公務の円滑な遂行に重大な支障が生じるおそれがある場合
  第4条第2項中「第5項」を「第6項」に改め,同条中第7項を第8項とし,第6項を第7項とし,同条第5項中「第2項」の次に「,第4項」を加え,同項を同条第6項とし,同条第4項の次に次の1項を加える。
 5 第2条第3号の規定に該当する場合における休職の期間は,同号の事由が消滅するまでの間とする。
 附則第5項中「第4条第5項」を「第4条第6項」に,「「第5項」とあるのは「 第5項又は兵庫県分限条例」」を「「第6項」とあるのは「第6項又は兵庫県分限条例」」に改める 。
 (職員の給与に関する条例の一部改正)
第2条 神戸市職員の給与に関する条例(昭和26年3月条例第8号)の一部を次のように改正する。
  第21条第4項中「法第28条第2項第2号」の次に「又は職員の分限及び懲戒に関する条例(昭和27年2月条例第8号)第2条第3号」を加え,「支給することができる。」を「支給し,又は支給しないことができる。」に改め,同条第5項中「(昭和27年2月条例第8号)第2条各号」を「第2条第1号又は第2号」に改める。
 (職員退職手当金条例の一部改正)
第3条 神戸市職員退職手当金条例(昭和24年9月条例第147号)の一部を次のように改正する。
  第7条第4項第1号中「第2条に規定する休職」を「第2条第1号又は第2号の規定に該当する場合における休職」に改め,同項第2号中「その他これに準ずる事由」の次に「又は職員の分限及び懲戒に関する条例第2条第3号の規定に該当する場合における休職」を加える。
  附 則
 (施行期日)
 1 この条例は,公布の日から施行する。
 (略)

    理 由
 重大な非違行為があり,起訴されるおそれがあると認められる職員であって,当該職員が引き続き職務に従事することにより,公務の円滑な遂行に重大な支障が生じるおそれがある場合に分限休職処分する等に当たり,条例を改正する必要があるため。


 地方公務員法の関係規定を確認しておく。

(分限及び懲戒の基準)
第二十七条 すべて職員の分限及び懲戒については、公正でなければならない。
2 職員は、この法律で定める事由による場合でなければ、その意に反して、降任され、若しくは免職されず、この法律又は条例で定める事由による場合でなければ、その意に反して、休職されず、又、条例で定める事由による場合でなければ、その意に反して降給されることがない。
3 職員は、この法律で定める事由による場合でなければ、懲戒処分を受けることがない。
(降任、免職、休職等)
第二十八条 職員が、次の各号に掲げる場合のいずれかに該当するときは、その意に反して、これを降任し、又は免職することができる。
 一 人事評価又は勤務の状況を示す事実に照らして、勤務実績がよくない場合
 二 心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合
 三 前二号に規定する場合のほか、その職に必要な適格性を欠く場合
 四 職制若しくは定数の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合
2 職員が、左の各号の一に該当する場合においては、その意に反してこれを休職することができる。
 一 心身の故障のため、長期の休養を要する場合
 二 刑事事件に関し起訴された場合
3 職員の意に反する降任、免職、休職及び降給の手続及び効果は、法律に特別の定がある場合を除く外、条例で定めなければならない。
4 職員は、第十六条各号(第三号を除く。)の一に該当するに至つたときは、条例に特別の定がある場合を除く外、その職を失う。
(懲戒)
第二十九条 職員が次の各号の一に該当する場合においては、これに対し懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。
 一 この法律若しくは第五十七条に規定する特例を定めた法律又はこれに基く条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合
 二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合
 三 全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合
2~3 (略)
4 職員の懲戒の手続及び効果は、法律に特別の定がある場合を除く外、条例で定めなければならない。


 自宅謹慎を命じただけでは、民間企業の場合と同様、給与を支払わなければ労基法に違反する。懲戒するにも分限するにも、必要な手続きを踏み、事実を認定した上で、処分の量定を判断することとなり、免職ともなれば極めて慎重に行わなければならない。粗っぽくやれば、裁判で負けるかもしれない。そこで、地公法28条2項2号の「刑事事件に関し起訴された場合」に準ずるものとして、「重大な非違行為があり,起訴されるおそれがあると認められる職員であつて,当該職員が引き続き職務に従事することにより,公務の円滑な遂行に重大な支障が生じるおそれがある場合」を休職事由として条例で定めたということか。なある…。


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494. 米国公務員の給与=人事院月報第78号 [49.「人事院月報」拾い読み]

 昭和32年8月号(通巻第78号)の人事院月報は、人事院の給与勧告の記事に続いて「米国公務員の給与」を紹介する記事を掲載している。アメリカだから、という訳ではないけれども、当時の雰囲気がわかる文章なので、ちょっと長けれども掲載しておきたい。

  米国公務員の給与 -最近における動き-

 合衆国公務員の給与制度の支柱ともいうべきものは1949年分類法であつて、一般の行政職員はじめ事務職員、技術職員等いわゆるホワイトカラー職員の大多数が同法によつてその給与を規制されている。そして、これらの職員は、階層組織の中に占める地位のいかんにかかわらず、また、官吏、雇傭人というような身分的差別もなく、同一の原則、同一の方針にのつとつて給与が定められ、その間には、わずかに職務内容に応じた等級区分があるだけという簡潔な給与体系のもとにある。この体系の概略は、5月号紙上の「米国における連邦公務員制度」においてすでに紹介されているので、ここで繰り返すことを避け、給与に関連する問題-現状にいたる最近の経過-の一、二に触れてみたい。

 1.俸給表の種類について  分類法には通常GSという略称でよばれる一般俸給表(General Schedule)1種だけが定められ、同法の適用ある職員はすべてこの単一の俸給表に従つて俸給を支給されるが、このような形態がとられたのは比較的最近のことである。すなわち、従来の数種の俸給表が戦後にいたつてまず2種に、ついで1954年、現在の1本になつたもので、これは職階制上官職を区分する場合の最大の単位たる「職」の統合をも意味する。1949年分類法の母体というべき1923年分類法においては、俸給表は、専門科学職(P)、補助専門職(SP)、書記行政財務職(CAF)、技能防護監視職(CPC)および書記機械職(CM)の5職からなつていた。1949年に旧法律が全面的に改正されて現行法に移行したが、その際P,SP,CAF,CMがGSとして統合され、統合されずに残ったCPCとともに俸給表は2本建となつた。同時にこの改正により、16~18等級が新設され(従来もCAFに16等級はあつたが、俸給額は設けられていず、各官職個々にその額を定める建前がとられていた。)、また行政部を中心とする職員の分類給与制度を統一的に運営するための人事委員会の権限が確立される等、分類給与制度の内容が大きく変化した。これらの改正は、人事委員会がそれまでに行つた勧告に基づいている。勧告は、分類給与制度の簡素化、俸給額の改訂、人事委員会の事後監査およびその定める基準に従うことを条件としての官職の格付権限の各省庁への委譲、いわゆる賃金委員会官職の各省庁を通じての統一的運営のための調整等を企図していたものであるが、俸給表(職)の統合は、分類給与制度簡素化の目的を果したものといえる。統合前の各俸給表は、その上限と下限とはそれぞれ異なつていたが、互いに重複する部分の等級の各号俸の額、間差は全く一致しており、かつ職を異にする職種に含まれる核職級の相対的な高さもすでに確定されている以上、それに応じた俸給額を表示する尺度たる俸給表を別建とする必要はうすく、すべてをカヴァーする幅をもつもの一つで十分事足りるであろう。この統合に際しては、4種の俸給表の各等級がGSのそれぞれ相当する額の等級に切り換えられたが、専門科学職については、その1等級がGS-5、2等級がGS-7、3等級がGS-9、4等級がGS11に、以下5-8等級はGS12-15に切り換えられた。この関係上旧専門科学職に属する職種は現在でも5等級から11等級まで2等級間隔となつている。
 次に、1954年9月の改正により、1949年の改正では残されたCPC俸給表が廃止され、それまで同俸給表の適用を受けていた職員のうち概数69,000の技能、労務職員は1年内に賃金委員会管轄下の一般職種別賃金制度に移行し、他の、守衛、警備員、消防職員、メッセンジャー等を主とする概数47,000の官職はGSに編入された。この措置がとられた理由は、人事委員会が切換の効果として挙げている、(1)賃金委員会管轄下のブルーカラー官職と給与法管下の同様な官職との間に、従来長期にわたつて存在した不均衡が解消したこと、(2)公共建物、施設等の保守管理等に従事する職員の募集、保持において、政府を民間企業に対する有力な競争者の地位に立たしめたこと、および(3)俸給表の一本化により分類法を簡素化したこと、の諸点に求めることができる。これ以前にも70万を超える職員がすでに賃金委員会管轄の下に一般職種別賃金の適用を受けており(その92%、60万余が陸海空軍に属する。)その2割にも満たない数がCPC俸給表の適用下にあつたに過ぎず、また広大な合衆国全域における、例えば産業構造、経済事情等を著しく異にする北部と南部あるいは東部と西部におけるこの種技能職員に劃一的俸給表を適用することが各地方における労働市場の実情を無視したものであるという点からも、CPC俸給表の廃止はうなずけよう。この結果これらの職員の給与は平均してかなり改善された。

 2.給与額の変遷  合衆国においても第2次大戦中から戦後にかけての物価は、例外なくかなりの上昇傾向を示した。すなわち、消費者価格指数は1939年に比較して1947~49年平均で68%上昇し、その後朝鮮事変を契機にさらに騰り、55年6月現在の上昇率は1947~9年を基準として14.4%、1939年を基準として93%に達している。これに応じて分類法に定める俸給表も1942年、45年、46年、48年、49年、51年、55年および56年と屡々改訂を受けて今日に至つた。これらの改訂の経過、とくに戦時から戦争直後にかけての改訂を通じてみられる大きな特色は、下位の等級における上昇率が上位の等級のそれに比して著しく高いことである。これは、戦時における厖大な軍事予算の影響を受けて公務員の給与予算総額が押さえられ、その枠内で猶予を物価上昇に適応せしめるための必要な措置であつたと思われるが、合衆国のように一般的賃金水準の高い国においてさえ給与がこのように生活給的色彩を感じさせる方向をたどつたことは興味深い。この結果、給与の上下の較差は戦前に比べて次第に減少し、第1図に見られるように最高号俸の最低号俸に対する比率は、1928年における8.82から1948年には5.1に、1949年の改正で多少増加はしたが現在ではさらに4.88と、大幅に縮小した。これを消費者物価との関係において見ると、第2図に示すように、下位等級、特に1等級ないし3等級では俸給額の増加率が消費者価格指数の上昇率を上廻り、給与改善が物価騰貴を十分にカヴァーしているのに対して上位等級における俸給額の増加率は物価の上昇率に遠く及ばない。このため、そうでなくてさえ民間企業より雇用条件が劣るため人材の誘致が困難な公務から、高級官僚を占めるにふさわしい人々をますます遠ざけるに至つた。人事委員会はこの事態を憂慮し、機会あるごとに上級官職に対する給与改善の必要性を力説し、かつそのための立法活動等をも行つてきた。昨1956年7月の各省長官、次官クラスをはじめとする高級職員の給与の増額は、この観点における改善への第一歩ともみられるが、分類法関係では、僅かに18等級の年額1,200ドル(8%)の増額および17等級に一号俸の増設がなされたに過ぎず、15等級と1等級との関係は依然として改善されていない。このような状態が、戦後相当の年月を経た今日なお解決されていない理由は、もとよりこれを正確に知ることはできないが、問題の解決が単に上位等級の俸給を引き上げること等のみによつて得られるものではなく、民間給与との比較の上に立つ給与制度全体としての体系ないしは水準の根本的な再検討を必要とする状態ににあるのではないかと考えられる。1954年の分類法の改正において、募集困難な科学者、工学者を公務に獲得するための措置として、これらの官職について初任給の例外-通常初任給は各等級の初号俸であるが、この場合必要と認められる上位号俸をその官職の初任給としうる措置-を設けたというようなことはこれを裏書きするものであろう。いずれにせよ、合衆国においても、公務員の給与に関して将来解決すべき重要な問題が横たわつていることは事実といわなければならない。(法制課 岡田仁)


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493.教員給与特別措置法改正案が閣議決定 [8.トピック]

 教員給与特別措置法改正案が閣議決定されたようです。

○時事ドットコムニュース
教員の「休日まとめ取り」推進=特措法改正案を閣議決定
2019年10月18日08時55分

 政府は18日の閣議で、勤務時間を年単位で調整する「変形労働時間制」を公立学校で導入可能にすることを柱とした教職員給与特別措置法(給特法)改正案を決定した。夏休み期間中などの「休日まとめ取り」を推進し、教員の働き方改革につなげる。
 学校の通信網整備に375億円=教員の働き方改革にも重点
 文部科学省の2016年度の調査では、残業時間が「過労死ライン」とされる月80時間を超える公立学校の教員は、小学校で約3割、中学校で約6割に上り、長時間労働が問題化している。同省は、学期中の業務縮減を進める一方、変形労働時間制の導入により、夏休みなどの長期休業中に、集中して休日確保を促したい考え。
 具体的には、学校行事などで特に繁忙な4、6、10、11月の計13週について、所定勤務時間を週3時間増やし、代わりに8月に5日間の休日を設定。有給休暇と合わせて「10日間の休日まとめ取り」を推進することなどを想定している。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2019101800332&g=pol

○産経新聞
教員の休日まとめ取り可能に 変形労働時間制導入を閣議決定 学校の働き方改革を促進
2019.10.18 11:49

 政府は18日、教員の労働時間を年単位で調整できるようにする「変形労働時間制」の導入を盛り込んだ教職員給与特別措置法(給特法)改正案を閣議決定した。各自治体の判断で夏休み中の休日のまとめ取りを可能にするとともに、原則月45時間以内とする残業時間の指針を法的に位置づける。これにより、長時間労働が深刻な教員の働き方改革を総合的に進めることにしている。
 萩生田光一文部科学相は同日の会見で「(授業以外の業務を縮小するなどして)教職の魅力を高め、教師でなければできないことに集中できるようにする法案」などと述べ、今国会での成立に意欲を示した。
 教員の変形労働時間制には、多忙な学期中の勤務時間を引き上げる代わりに、夏休み中の長期休暇を取りやすくするなどの狙いがある。
 改正案では、自治体がそれぞれの判断で変形労働時間制の条例を制定できる。今国会で成立すれば、自治体によっては令和3年度から導入される見通しだ。
https://www.sankei.com/life/news/191018/lif1910180020-n1.html


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492. 金森徳次郎=人事院月報第76号(その2) [49.「人事院月報」拾い読み]

 前々回に続き「人事院月報第76号」金森徳次郎の文章(続き)

   公務員に関する種々面

 公務員と言う語が色々に使われているのでまぎらわしいが、少なくとも第一に公職それ自身を遂行している立場と第二にその公職を構成する人間の立場とを区別したい。裁判官が判決を言い渡すときには裁判官の発言はとりもなおさず国家の意思発表である。外務大臣が外国国交機関に対し外交交渉をするときは即ち国家自体の外交的発言をするのである。国家と言う組織体に現実の生理的な口や手があるわけではないから、この公務員の口や手の動きをもつて国家の口や手の作用を満たすのである。公務員の行動が直ちに国家の行動を充実するのである。二者は活動に於いて合一しているのである。公務員の機関活動である。これは公務員が国家を代表すると言えば大体の意味が通ずる。所がこれと違つて国務大臣が国会で答弁するときなどに自分は個人としてはこの案に反対だがなお関係部局と協議して善処すると言うようなことがある。これなどはアイマイだが、内容から見て直接に国家の決定的意見を表現してはいないが、結論に進んでいる中途であることを表明しているのだから一種の機関活動と言える。所で某大臣が食堂において飲酒し、談笑し、冗談的な活動をしたとするとこれはどんな意味においても国家の行動を代表しない。その人の行動は公職ではなくてその基礎にある一個の人間の行動である。公務員の行動ではあるが公職の発露ではない。多分私的行動であろう。これでわかるように公務員と言えば生きた人間を指すのである。その生きた人間は公職を行うこともあり、公職以外の私務を行うこともあり、本来の公職以外の他の公職を行うこともあり、裁判所に証人に呼び出されることもあり、選挙権の行使として投票に行くこともあり、又は自分の宗教心の発露として宗教上の儀式又は行事を行うこともあり、その他一般国民としての諸活動をすることは基本的人権でもある。こんな風に公務員だからとて全部的に公務員の仕事ばかりに没頭しているのではないから実際に公務員と言う身分をもつている人間の行動は複雑な制限に服することになる。勿論公務員も基本的人権を有するのであるが、そこに若干の行動上の制限が起ることは想定出来る。政治活動について其の事例はある。これは何も人権が抑制されるのではなくて事実上両立しないと説明するのが正しいだろう。

   全体の奉仕者

 公務員奉仕の根本は何と言つても人々の奉仕念願である。人々は自由に生まれて来たのに公共奉仕のために何故に精魂をつくさねばならぬか。ここを自分でよく割り切ることが最大眼目である。国家公務員法第96条に服務の根本基準を示して「国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し且つ職務の遂行に当たつては全力を挙げてこれに専念しなければならない」とある。これは正しい規定であり公務員たるものは何よりも先にこれを銘記しなければならぬ。だが何故にこの服務規準が成立するのか。法律に書いてあるから当然遵法の義務のあることは勿論だが、それは小乗的な見解であつて、もつと根本に遡るとそれは根本的に我々の国家共同生活意識に遡らねばならぬ。人間は個人が本体か集団が本体かは色々に議論があろうが集団的に生きた者でなければ幸福に存立し得なかつたことは事実である。また我々は同類を愛する。この愛情に根元して集団生活をなし各人が相依り相たすけ一つの秩序ある集団を作つて生きることを理念とすることは大体において争いのない所であるとすると、各個人は自分の分を守つて活動すべきは当然だが、その公共利益のために奉仕するもののなくてはならぬことも常識だ。即ち公務員の必要なことは当然だ、そして公務員となることは各人の義務でありまた同時に権利である。これが憲法第15条の精神である。だから本来から言えば公務員は雇われ人ではない。俸給や利益のために身を公務員とするのではない。国民的な責務として担任するのである。自由意思で任用するような形にしているのは制度上それが適切であるからである。それでは誰に対して奉仕するのか、旧くは天皇に隷属する旨が文字に書かれていた。官吏は天皇の使用人だとも言われた。これは旧時代の一つの解釈には相違ないが事実は必ずしもそうではない。国のために奉仕したと思つたのが大部分だろう。天皇はその象徴と言う意味において解釈していたのだろう。斯く考えて行けば色々の要項が平易に推論されてくる。

   公務員は国民に奉仕するものである

 公務員が銭湯へ行つた。上司もそこに来ておつた。上司が「自分の背中を流せ」と言つた。その公務員は如何にすべきか。勿論流す義務もなく流させる権利もない。公務の関係はない。個人的親愛の念で好意をつくすのは勝手である。この簡単なことが明治以来災の種であつた、軍隊には従卒制があつて、時には上官の家庭で赤ん坊の世話までもしたのがあると伝えられる。兵役義務で徴集され、赤ん坊の世話をすると言うのは奇観である。卑屈と権力乱用の結晶そのものである。
 上司は職務遂行の範囲で下司に命令を発することは出来るがそれ以上は権限外である。この考を純粋に持ち支え得ぬことから公務員の汚職が起つたり、公務員の選挙犯罪が起つたりする。多くは不当の圧迫を恐れたり、こちらより迎合して将来の利益を獲得せんとするのである。骨あるものは断乎抵抗すべきである。

   公務員の自己向上責任

 現在の公務員制から言えば各員は現職を果す能力があればよろしい。割りあて普請のように配置されるからである。理論は筋が通つているが、公職全体から言うと歳月と共に個人の能力が向上しまた年齢と共に地位が向上することを軽視している。各人に能力向上の機会を与えしたがつてまたよき公務員となれるように道を開くべきだろう。これは制度の問題としてよき公務員を官界から外部に駆逐し、能力水準を低下させる傾をもつている。

   権力乱用

 公務員が権力を乱用する弊は過去に於いて目立つた。ところが公務員に対して権力が乱用され、その為公務員の行動が屈折される弊もあろう。汚職事件調査の途中に於いて関係者が自殺することを見、心弱き人々が力と正義の間にはさみ打ちになるのではないかと疑うのであるが、このような公務員に対する圧迫も時代の病患であろう。

 筆者(写真)・国立国会図書館長



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491. 教員も休暇のまとめ取り可能に [8.トピック]

 10月9日、一年単位の変形労働時間制を公立学校の教員に適用可能とする給特法改正案が自民党文教科学部会で了承されたとの報道があった。

○読売新聞
教員も休暇のまとめ取り可能に…自民党が改正案了承
2019/10/09 20:56
 労働時間を年単位で調整する「変形労働時間制」を公立学校の教員にも適用可能にする「教員給与特別措置法(給特法)」改正案が9日、自民党文部科学部会で了承された。政府は10月下旬にも閣議決定し、今国会での成立を目指す。夏休み期間中などに休暇のまとめ取りをできるようにすることで、教員の働き方改革を進める狙いがある。
 労働基準法が定める年単位の変形労働時間制は、繁忙期に労働時間を延ばす代わりに、閑散期に休暇を増やすなどして調整する仕組みだ。現在は地方公務員は適用対象外だが、給特法改正案が成立すれば、2021年度から自治体が条例に基づいて教員にも適用可能となる。
 文科省の休暇まとめ取りのイメージは、行事などで多忙な4、6、10、11月の計13週に勤務時間を週3時間延長し、その分を夏休み期間中の8月に振り替えるというものだ。振り替え分は約5日となり、有給休暇と組み合わせると、10日程度の連続休暇も可能となるという。育児や介護などで勤務時間を延ばせない教員は適用対象外にもできる。
 文科省の16年度教員勤務実態調査では、小学校教諭の約3割、中学校教諭の約6割で残業時間が「過労死ライン」とされる月80時間を超えていた。ただ、休暇のまとめ取りは繁忙期の長時間労働の追認につながるとの指摘もあり、改正案では文科相が教育委員会が取るべき勤務管理の指針を策定、公表するとの規定を定めた。
 文科省は今年1月、教員の「自発的行為」とされてきた放課後の部活動指導や授業準備なども「勤務時間」とし、残業の上限は原則「月45時間、年360時間」とするガイドラインを定めた。改正案ではこれを法的な指針に格上げし、自治体に順守を求める。
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20191009-OYT1T50268/

○日本経済新聞
教員の労働時間を柔軟に 文科省、法改正案を提出へ
2019/10/9 11:57
 教員の働き方改革を進めるため、勤務時間を年単位で管理する「変形労働時間制」の導入を柱とする教職員給与特別措置法(給特法)の改正案が9日、自民党の文部科学部会で了承された。文部科学省は4日に召集された臨時国会に提出する。成立すれば、繁忙期の勤務時間の上限を引き上げる代わりに、夏休み期間中などに休日をまとめ取りできるようになる。
 年単位の変形労働時間制は労働基準法が定めている。原則として1日8時間以内と決まっている労働時間を、平均で週40時間を超えない範囲で繁忙期には延長できる。ただし1日10時間が上限。残業は通常は月45時間、年360時間以内にする必要があるが、月42時間、年320時間以内となる。
 同制度は繁閑期が分かれる工場の従業員らに適用されてきたが、教員は対象外となっていた。
 同省は導入した場合、学校行事などが多い4、6、10、11月の間の計13週は所定の勤務時間を週3時間増やし、夏休みがある8月に5日程度の休みを取るといったイメージを描く。有給休暇を合わせてより長く休むことも狙う。
 導入の背景には教員の長時間労働問題がある。文科省の2016年度の調査では、中学校教員の約6割、小学校教員の約3割の残業時間が、おおむね月80時間超が目安の「過労死ライン」を超えていた。
 給特法改正案が成立すれば、自治体の判断で21年4月から変形労働時間制の導入が可能になる。ただ、現場の教員からは「夏に休める保証はない」「夏休み前に過労で倒れてしまう」といった声も上がる。
 導入反対の署名活動などに取り組む公立高校教員、西村祐二さんは、給特法の抜本改正を主張する。同法は残業代を払わない代わりに、基本給の4%を「教職調整額」として支給すると規定。これが長時間残業を招いているとし、時間に見合った残業代を払う内容に変えるべきだとしている。
 部活動や校務を含む業務量の削減、教員の増員を優先すべきだとの声もある。野党側からも同様の意見が出ており、国会で議論される見通しだ。
 教員の働き方改革では、中央教育審議会が1月、残業時間の上限を「月45時間、年360時間」とするガイドラインの順守を柱とした答申を提出。教員の自発的な行為とされてきた部活指導や授業準備なども含めて勤務時間とし、タイムカードなどによる管理を求めた。
 改正案はガイドラインを文科相が定める「指針」に格上げすることも盛り込んだ。同省は各自治体に指針の順守を求め、勤務時間を把握していない自治体名や、自治体ごとの教員の勤務時間も今後公表する方針。部活動指導員など外部人材の活用も進める考えだ。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO50780080Z01C19A0CR0000/


 この問題については色々論点があるのだが、報道で聞く限りということにはなるが、ここでは2つの点を指摘しておきたい。

 まず、「多忙な4、6、10、11月の計13週に勤務時間を週3時間延長する」というのだが、そもそも教師の勤務時間の上限に関するガイドラインで示されたように、公立学校の教員はいわゆる超勤4項目以外の業務で残業しているのが大半なのであって、しかもその業務に従事している時間は労基法上の労働時間ではないと述べている。であるのに、「勤務時間を週3時間延長する」という。この勤務時間は労働基準法上の労働時間の扱いとなるはずである。何を言いたいかというと、変形労働時間制を活用すると、労基法上の労働時間ではない時間が労基法上の労働時間に化けるという訳である。不思議に思うのは、このノートだけか…?

 もう一つは、「給特法改正案が成立すれば…自治体が条例に基づいて教員にも適用可能となる」とする点だ。一年単位の変形労働時間制は、労基法上は労使協定によってしか適用されないこととなっている。それをどのような理由で条例で適用可能とするのか。おそらく、「勤務条件条例主義」を持ち出すのだろうと思う。確かに、労基法上は労使協定で実施できる一斉休暇の除外や代償休日、時間年休については、地方公務員は条例で特別の定めをすれば実施できるよう地公法に読み替え規定が設けられている。しかし、いわゆる時間外労働や休日労働に関する三六協定については、官公署に勤務する公務員には空振りだが、現業の公務員には適用されている。そうした中で、どうして公立学校の教員のみ条例で特別の定めをすれば適用可能になるのか。公立学校の教員のみ適用される給特法の存在が許されるという合理的な理由が理解できない限り、やはり理解できない点である。

 さて、いつ閣議決定され、国会でどのような論戦が行われるのだろうか。



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490. 金森徳次郎=人事院月報第76号 [49.「人事院月報」拾い読み]

 昭和32年6月1日発行の「人事院月報第76号」には、金森徳次郎の「公務員のあり方あらせ方」と題した文章が掲載されている。彼は、第一次吉田内閣の憲法担当国務大臣である。

 公務員のあり方あらせ方

   公務員に対する基本的な考え方

 世間の一人として、つまり一般人として公務員を考えると、日々の新聞紙などを見て公務員に対する風当りがひどいことに目が付く。公務員の汚職の記事が目に付く、公務員の官僚風に対する悪口が目に付く、そして公務員の不親切、公務員の事務怠慢、公民の無能等のことが目につく、低い立場の公務員については、殊に現業第一線に立つ警察官や税務職員や、交通職員に対しては具体的な不平が露骨にあらわれることがある。そして比較的高い職責持つ人々に対しては、識見の低さや計画の不完全や事務遂行の勇気欠乏等について幾多の不満がなげつけられ、たとえば内閣諸大臣などは、文字通りに世評を読むと随分微小価値をのみあてられていることがある。これらの批判にも勿論意味があろうが、しかしそんなにつまらぬ公務員ならどうしてもつと何とかならぬものだろうか、苦情や非難の外にあつて、神の如く清く神の如く賢くまた神の如く公正なる公務員が生まれないものか。こんな空想も起こる。だが、人間を神さまにすることは不可能である。ひとり公務員ばかりに不平を持ちかけるのは無理であつて、不平は人間のあらゆる面に向けらるべきであり、この不平を健康な方法によつていやして行くところに人類の進歩があり、公務員に対する不平もその一端であるに過ぎない。我々は人間そのものに対して不平不満をもつているが、これこそ人間発達を希う心のあらわれであり、公務員に対する不平不満もそのあらわれの一つであり、そそてこれは多角的に考えて善処するの外はない。本来公務員は人間の社会生活の上に大変に重要な責任を有するものであるが、これとともに風当たりも強く、内部からも沢山の弱点があらわれ、そして人人はその美点を見ても当然のこととして看過ごし、その不完全な面には過酷な批判をし易いのであつて、その結果公務員に人材が集まらず、段々その品質に影響し好鉄は釘に作らずと言うような傾向を増加するのではないかと心配する。公務員の制度について考うべき問題は実に広汎多岐であり、そのありかたについて妥当の答えをすることは容易でない。断片的に巨魚の細鱗を評価する程度であるに過ぎぬのは恥ずかしいが今私としては止むを得ない。

   悪代官と托鉢僧

 水戸黄門の遍歴の物語などには、諸地方に悪代官があつて人民がいじめられるところがある。代官の官職を得るとその権力を活用して自分の利益を計る。その内容としては税金を重くして私腹を肥やす、権威をほしいままにして自分の勢力を高める。ひどい場合には町人の娘を妾にとりあげる、好む人々に私恩を売つて他日のために勢力を養う工夫をする。かくして公私は混同され、人民は虐待される。昔の封建領主の典型たるローマのネロ王の雛形の様だ。この悪代官型は近世の日本の官僚や軍閥に沢山存在したかも知れぬ。くわしいことは知らぬが汚職的な事件が色々の形をとつてあらわれていることは誰も目にしていることであり、小人権柄をつかむと何を仕出かすかも知れぬことを思い知らせられる。小人権柄をつかめば、その周辺は悉く暗雲にとざされることは近頃の汚職事件などが大きな「いもづる式」集団によつて行われることによつて察せられるのである。日本敗戦の後のアメリカが日本管理政策を書いている書物を読むと、日本の官僚閥の恐るべき勢力によつて日本の行政が偏向されたことを論じ、日本の軍閥、財閥、官閥の三者を打破することの急務を主張し、現実にその手を打つて若干の官制に大変革を行つた。日本として不名誉極まることであつたが、理の当然の道筋は承認せざるを得ぬ。そして病患の若干が取り除かれたことは、残念ながら慶賀せざるを得ぬ。しかしこれは何と言つても官僚層全体の中の一小部分のことであり、殊に有力者有権力者の面のことであつて、一般吏僚の病気ではなかつた。一般吏僚はこのような悪気流の外にあつた。大部分は清潔な忠実な有能な勤勉な人人であつたろう、私は斯く信ずる。勿論どんな名玉にもレンズを通じて精査すれば多少のきずはあろうが大体において世界の水準を超えて立派な人達であつた。敗戦後の混乱期を早く乗り切り得たのもこの珠玉のような吏僚の功績による所が多い。しかし不幸にして一部人の悪疾のために善良吏人が誤解されたことが無いとも言われない。気の毒である。ただ悪代官型を警戒することは何よりも重要である。比喩的な言葉を用いて来たことの不明確さをさけるために言つて置くが、この悪代官型と言つたのは、職務権限を乱用して自分一身の私利私欲を遂げる人の意味である。
 今はあまり世上に見当たらぬが、それでも、局地的ではあるが托鉢僧と言うのがある。仏教修業者の簡素な服装をして、手に托鉢をもち、街路や村里を歩いて、お経を唱えつつ、人々から僅かずつの米銭の喜捨を受けて歩く人々である。この意味を私はこんな風に解する。僧たちは仏道を広め衆生の宗教的幸福を念願しこれに精進しているが、僧たちは野山の鳥や獣と違つて自ら生活資源をもたねばならぬ。それはこの喜捨を与えよと特に求むるのではないが、結果として衆生すなわち一般社会人がその生活をささえるのであると解する。宗教的な奉仕は直接な反対給付を求める訳ではない。公務員は私益を求めるものではないから悪代官型になるべきではない。私の気持ちから言えば托鉢僧型であるのが本旨である。ただ実際的には蒔かず刈らずして生きて行くわけにも行かぬのだからその生活費を公費で支えることが必要であり、この場合も工人や商人のごとく正確な交換経済の原理によるのではない。常識的な複雑な考がこれを整理してくれるのであろう。
 以上において私は公務員に関連して悪代官型、托鉢僧型および交換経済型を摘示した。私自身は理想的には托鉢僧型を念願するものであり、「白魚に価あるこそ恨みなれ」を嘆ずるものである。兎もかくも悪代官型は許すまじと思う。力や勢力のある所に利益が帰属することは力主義の世界には実存するが、美しい共同生活を願望し社会が連帯的に生存することを期待する正義主義の下においては適当な範囲で交換主義を是認するけれども本質的には托鉢僧型に重きを置きたい。くだいて言えば上層公務員に対しては少なくとも名誉職風の気もちを尊敬したい。憲法第15条で公務員は全体の奉仕者であることを明記しているのは正しい。そして国家公務員法が公務員の給与準則を定むるについても草取人夫や道路工事員の如き私経済関係の給付関係とあまりに同一視することには注意の余地があると思う。
(つづく)


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489. 高学歴教育職員の俸給の調整=人事院月報第75号 [49.「人事院月報」拾い読み]

 今回も「人事院月報第75号」(昭和32年5月1日発行)から取り上げたい。

 高学歴教育職員の俸給の調整
 -指令9-7とその運用方針-

 人事院は、昨年末施行された「一般職の職員の給与に関する法律の一部を改正する法律の一部を改正する法律」(昭和31年法律第176号)の実施について、3月28日指令指令9-7を発し、4月5日その運用方針を通知した。
 その内容は、高等学校、中学校、小学校、幼稚園、盲学校またはろう学校の教育職員のうち、旧高等教員免許状を有する者、旧制大学を卒業した者または大学院を修了した者の俸給月額を2号俸の範囲内で調整することとし、旧中等教員もしくは実業教員免許状を有する者、これらの免許状を無試験検定により授与し得る学校もしくはこれに相当する学校を卒業した者または新制大学を卒業した者の俸給月額を1号俸の範囲内で調整することとしたものである。
 この指令の調整は、短大卒の初任給(現行19号俸)を基礎として一般的に修学年数1年を給与上1.5年差と評価するよう新大卒および旧大卒の初任給を改訂することとし、現に在職する職員についてもこの改訂された初任給格差に相当する給与格差が維持されうるよう考えられたもので具体的には次のように措置することとした。
1.旧大卒者(旧高免所有者を含む。)のうち36号俸以下(6月昇給期間)の者は2号俸、37号俸以上61号俸以下(9月昇給期間)の者は1号俸と3月の昇給期間の短縮、62号俸以上(12月昇給期間)の者は1号俸の調整を行うこととした。
2.新大卒者(旧中免所有者を含む。)のうち37号俸以下(6月昇給期間)の者は1号俸の調整を、38号俸以上(9月または12月昇給期間)の者は6月の昇給期間の短縮を行うこととした。
3.初任給を新大卒については1号俸、旧大卒については2号俸引き上げ、職員の経験年数に応じて昇給昇格を行つた場合に求められる俸給月額を、施行日の前日に於けるその職員の俸給月額が、すでにこえているときは調整の際に考えられた所要の格差があるので調整はできないものとした。
(以下に掲載の人事院指令9-7及び運用方針の全文は省略)

 この高学歴教育職員の俸給の調整に関して、佐藤三樹太郎『教職員の給与』(学陽書房、昭和52年9月1日新版第2刷発行)は次のように記述している。

 六 高学歴者の給与是正
 昭和三一年末に給与法が改正され、同三二年三月三一日付をもって施行された。これがいわゆる高学歴者の給与是正法と呼ばれる法改正であり、教職員だけを対象として実施されたものである。
 この高学歴是正というのは、学歴における修学年数一年の差を教員経歴一年半の差とみて、これまでの一対一を一対一・五に改めることにより、短大卒を基準とした場合、新大卒については一号俸、旧大卒については二号俸高くするというものであった。
 このため、新卒者の給与についても、新たに初任給を引き上げることとされたが、これは次に述べる新給与制度において考慮されることとなった。
 これによって当時、高等学校職員、中・小学校職員を通じて、旧制専門学校、旧制大学、新制大学の卒業者のほぼ全員にわたって一号俸ないし二号俸の昇給が行われることとなった。
 この措置は単に高等学校以下の教職員にとどまらず、大学の教職員をはじめ全公務員についても及ぼされるべきはずのものであったが、財政上の都合その他の理由により、結局高等学校以下の教職員だけについて行われたものであり、このことにより高等学校以下の教職員の給与がさらに有利になったことは事実である。(29頁)

 具体的にいかなる範囲の職員に対して、どのような方法によって実施されたのかについては、「給与の高学歴是正はどのように行われたか」との項を設定し、38頁から42頁にわたって詳しく解説している。

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488. 連邦公務員制度=人事院月報第75号 [49.「人事院月報」拾い読み]

 佐藤達夫の「憲法回想」を掲載する「人事院月報第75号」は、次に「米国における連邦公務員制度」の報告を掲載している。筆者は、宮崎隆夫・管理局法制課。

  まえがき
連邦公務員制度は、当初、スポイルズシステム-公務への情実任用に対するアンチテーゼとして発足した。
 官職を猟官者の独占から防衛し、公正な手続きにより選択される適格者を以て公務を遂行せしめんとの意図により連邦公務にいわゆる成績制度が採用されたのは1883年である。この年、現行の公務員法が制定され、その結果、政府全官職の約1割、すなわち約14,000の官職については試験によつて在職者を決定するという措置がとられたのである。同法は同時に人事委員会を設置し、この試験任用に関する業務を担当せしめたのである。
 この試験任用を行う官職の範囲は当初は単純な書記的事務に従事するものだけに限られていたのであるが、公務の複雑化技術化という事態に応え、或いは公務の政治的中立性を確保するために相次いで拡大され、今日では、全連邦政府官職の約85%、すなわち約200万の官職が競争試験合格すること等の就任についての一定の資格を要する官職とされるにいたつている。他の残余の官職は政治的に自由任用を行う次官補程度以上の高級の官職、或いは法令により任用、給与等について人事委員会の所管外に置かれているものである。前者を競争官職といい、後者を除外官職といつている。
 扨て、競争官職に属する連邦公務員のうち、約半数約100万のいわゆるwhiteカラー職員のための任用制度は、今日においては、官職分類制度(職階制)を基礎として運用されているということができる。この分類制度は、当初、任用制度とは別個の、「同等の職務には同等の給与を」という理念よりして官職を分類することに発したものであり、いわば、給与政策上の措置として生じたものである。而して、この職務の同等性ということは、職務内容、責任の度合、必要な最低資格等がその主たる要素になるのであり、これらの要素はとりもなおさず個々の官職の就任希望者に対する的確性を判定するに際しての主要な要素にもなる訳であるからしてこれはやがて職員の採用、昇任、降任、転任、配置換等、個々の官職のために職員を任用するに際しての重要な基礎を提供するものであると考えられるにいたつたのである。
 すなわち、連邦公務員制度は、官職分類制度を基礎とする任用制度を軸として、展開していると見るのが便利であろう。なぜならば給与制度、能率制度或いは退職年金制度等はいずれも畢竟するに個々の官職にすぐれた職員を発見し、これにキャリーヤの権利を保障することを目的としているのもであつて、任用制度の十全の運用を助ける重要な支柱となつているからである。
 本稿は、主として、これら諸制度の統一的運用を行うに当つて責を負う合衆国人事委員会の組織、権限、分類、任用、給与、等の人事行政上の基本的な諸制度につきその実際の概要を紹介するものである。

 (中略)

  給与制度
 連邦政府職員のための給与制度はその対象となる職員が1949年分類法(職階制)の適用を受けるホワイトカラー職員であるか、その給与額を各省庁に設置されている賃金委員会が市場賃率に従つて決定するいわゆるブルーカラー職員、(1955年現在約73万人)であるか、その給与額が郵政職員給与法によつて定められている郵政現業職員(1955年現在約43万人)であるか、そのいずれであるかによつてその形式、内容を異にするが、職階制の適用を受ける一般事務職員ための給与制度についてのみここでは触れることにする。
1.基本俸給額
 一般職の基本俸給額は附表2に示す通りである。
(イ) 初任給-中学卒業程度の者の初任給は1級1号、高校1年修了程度の者の初任給は2級1号、2年修了程度の者は3級1号、高校卒業程度の者は4級1号、大学卒程度の者の初任給は5級1号と定められている。但し近時技術官職等充足の困難な官職にあつては、初任給についての特例を設けている。
(ロ) 昇給-昇給は、10級までの官職にある者にあつては勤務期間52週を経れば1号俸直近上位の号俸に、11級以上の官職に在る者にあつては、勤務期間78週を経れば1号俸直近上位の号俸に昇給することができるのであるが、その都度勤務評定の結果が良好でなければならぬこと勿論である。
(ハ) 枠外昇給-この国においても枠外昇給の制度が設けられている。枠外昇給を行いうる条件は、当該職員の在職期間が10年以上であること、勤務期間3年につき当該等級における1号俸相当額を昇給すること、当該等級における通算4回以上の枠外昇給は認めないこと、勤務成績が良好であること等が定められている。但し16級以上の官職に在職する者については枠外昇給は認められていない。
2.手当 
 手当には夜間勤務手当、休日勤務手当、准州勤務手当、生計費手当(我国のへき地手当に類する)等の諸制度が存在するが我国の扶養手当制度に類する制度は存在しない。
 なお、勤務時間は1週40時間、1週5日間が勤務を要する日と定められ一般には土曜日は休日となっている。

 (後略)

 給与制度についての記述のある頁の前の頁に附表2が掲載されている。タイトルは「一般職員基本俸給額(1956年7月の改正を含む)」である。
 縦軸は俸給年額で、2,000ドルから1,000ドル刻みで16,000ドルまで示されている。横軸は号俸で、ⅠからⅦまでと、括弧付きでⅧからⅩまで書かれている。このグラフに、GS-1からGS-18までの俸給額が示され、GS-17までは実線の直線で描かれ、枠外昇給は点線で描かれている。
 GS-1は、中学卒業程度の初任給であるⅠ号俸2,690ドル~Ⅶ号俸3,200ドル。GS-5から傾斜が少しきつくなり、大学卒程度の初任給であるⅠ号俸3,670ドル~Ⅶ号俸4,480ドル。GS-11からさらに傾斜がつき、Ⅰ号俸6,390ドル~Ⅵ号俸7,465ドル。GS-18は、シングルレートの16,000円。
 分類制度についての説明を読むと、例えば人事管理職種では、人事補佐官は7~10級、人事専門官は11~12級、管理官は13から15級、心理学研究官は11から15級となっている。また、専門職能を助ける書記職員は1~4級、初給管理補佐官などは5~6級で大学職員程度の職員が就く。人事委員会事務局長は、18級とのこと。

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487. 佐藤達夫=人事院月報第75号(その2) [49.「人事院月報」拾い読み]

佐藤達夫「憲法回想」(つづき)

    ※      ※
 公務員法といえば、この昭和23年の大改正前の、つまり、昭和22年の最初の公務員法のできるときも大変だつた。
 このときも、フーバー氏作製にかかるモデル案が片山首相にとどけられ、それを手本にして立案せよとのお達しだつたのだが、そのモデル案に特別職の列挙があつてそのトップに「天皇」が出ていた。おそらく向うの人の気持ちは、天皇も公務員だという考えから、それが一般職に入つて採用試験を必要とするようになつては困るだろうということで、特別職にしてくれたのだと思つたのだが、とにかくわれわれとしてはその異国的な感覚を興味ふかく思つたのであつた。
 それで思い出すのは、憲法草案審議の議会でも、一脈それに通ずるようなエピソードがあつたことだ。
 衆議院の本会議で共産党の野坂参三氏が、憲法草案の政府原案と英文との差異を突いた。その一つに日本文の第99条(現在の)では、「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し養護する義務を負ふ。」となつていて「天皇又は摂政」の語が国務大臣以下の列挙と「及び」の語で切りはなされ、天皇と摂政は公務員ではない扱いになつているにもかかわらず、英訳の方では、 The Emperor or the Regent,the Minister of State,the members of the Diet,judges,and all other public officials. となつていて、天皇も公務員の一種として例示されている、といかにも日本文がごまかしをしているといわんばかりの非難をした。
 このときは、議場もわき立つて、当時の速記録をみると「[取消セ]ト呼ビ其ノ他発言スル者多シ」、「議長(樋貝詮三君)静粛ニ願ヒマス-野坂君ニ申シ上ゲマス、英文ニ付キマシテハ御注意ヲ願ヒマス」というようなことがでている。われわれも、議場でこの野坂発言をききながら、別に他意があつてやつたわけではなし、嫌なことをいい出したものだと眉をひそめたのであつたが、憲法がいよいよ成立して公布をする際、英訳の方を日本文に合わせて The Emperor or the Regent as well as Minister of State,……というように訂正したのであつた。もちろん、この訂正も司令部と連絡の上でなされたのであるが、別に司令部は何ともいわなかつた。
    ※      ※
公務員に関する基本的な規定としては、憲法第15条がある。
 この条文は、マ草案の第14条に相当するわけだが、その外務省訳は遅疑のようになつていた。
 第14条 人民ハ其ノ成否及皇位ノ終局的決定者ナリ
 彼等ハ其ノ公務員ヲ選定及罷免スル不可譲ノ権利ヲ有ス一切ノ公務員ハ全社会ノ奴僕ニシテ如何ナル団体の奴僕ニモアラズ
 有ラユル選挙ニ於テ投票ノ秘密ハ不可侵ニ保タルヘシ選挙人ハ其ノ選択ニ関シ公的ニモ私的ニモ責ヲ問ハルルコト無カルベシ
 われわれの初稿では、これを次の2条文にわけた。
 第15条 官吏其ノ他ノ公務員ハ国家社会の公僕ニシテ、其ノ選任及解任ノ権能ノ根源ハ全国民ニ存ス
 第16条 凡テノ選挙ニ於テ投票ノ秘密ハ不可侵ニシテ、選挙人ハ其ノ為シタル被選挙人ノ選択ニ関シ責ヲ問ハルコトナシ
 ここで苦労したのは、外務省訳で「不可譲の権利」となつているマ草案の inalienable right ということばである。「不可譲」はまさに適訳だが少しぎこちないというわけで、それを「権利ノ根源」としてみた。なお、外務省訳で servants を「奴僕」としているが、これはあまりひどいということで「公僕」としたのであつた。
 それが司令部での審査の結果、大体、マ草案の形にもどされて、3月6日発表の要綱では次のようになつた。
 第14条 国民ハ其ノ公務員ヲ選定及罷免スルノ権利ヲ専有スルコト公務員ハ凡テ全体ノ奉仕者ニシテ其ノ一部ノ奉仕者ニ非ザルコト
 凡ソ選挙ニ於ケル投票ノ秘密ハ之ヲ侵スベカラズ選挙人ハ其ノ選択ニ関シ公的ニモ私的ニモ責ヲ問ハルルコトナカルベキコト
 ここでは「公僕」が「奉仕者」となり、inalienable が「権利ヲ専有スルコト」に改められている。なお、マ草案にある「皇位の終局的決定者」ということばは、第1条でその趣旨は明らかだから削りたいと主張し、先方の同意を得たのであつた。
 その後、やはりこの inalienable ということばが気になつて、最後に口語体の草案に仕上げる段階で、現行の第15条に見られるような「国民固有の権利」ということに落ちついたのである。
 この第15条については、衆議院の審議中その小委員会で、自由党から「全体の奉仕者」、「一部の奉仕者」はことばとして正確でない。「全体への奉仕者」というようにすべきではないかという論が出たが、結局、原案通りとなつた。また、社会党からは、ここに「すべての国民は法律の定めるところによりその才能に応じて均しく公務員に就くことができる。」、「すべての国民は公務(名誉職を含む)に就く義務を負ふ。」の二項を追加する提案があつて、公務に就く権利は明治憲法にも保障されていたところだし、新憲法にも加える方がいい、また、近年一般の風潮として公務の担任、ことに名誉職に就くことを回避する傾向があるから、その義務を規定する必要がある、という説明がなされた。しかし、これについては、権利の面は第13条、第14条などの趣旨から見て当然だといえようし、義務の面については、これを全面的に義務づけることは行きすぎになる。選挙する側に棄権を認めて、選挙される方には就任義務を負わすというのも均合とれないではないか、というような議論もあつて、これもそのままになつた。
 結局、第15条については、貴族院で第3項の「公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。」という規定が加わつただけで、原案どおり成立したのであつた。
 なお、この第3項は、貴族院の審議に入つてから例の第66条の、国務大臣は文民でなければならない、という規定とともに、司令部の申し入れによつて修正されたものである。

 筆者(写真)
 国立国会図書館調査及び立法考査局専門調査員
 元法制局長官



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