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4.「職階制」小考察 ブログトップ

45.「職階制」小考察(その4) [4.「職階制」小考察]

 最後に、戦後の行政学会を先導してきた辻清明の研究から職階制にかかわる部分を箇条書きにまとめておきたい。

○辻清明『職階制の具体的科学性』から
             ~『新版日本官僚制の研究』(東大出版会、1969)所収~
1 職階制が発達した理由(科学的人事行政における長所)
 (1) 統治構造における猟官制(スポイルズシステム)の支配
   官職に対する民主的監視(政党支配)と猟官制の欠陥(19世紀初頭~) 
   ①行政能率の低下と人事行政の不公正
    政権交代=官吏の大規模更迭、政党に対する褒賞としての不要官職の新設など
   ②行政費の莫大な流出と人件費査定困難
    無能者の任用・有能者の罷免等、給与費が行政官庁の自由裁量であったなど
 (2) 科学的管理法の発達
   F・W・テイラー(1856-1915)による科学的管理法の創始=職階制の原型
   職能の体系(functional system)の形成=個々の労働の分析とその合理的配置
   組織から不合理な人的支配関係を除去、合理化された個々の労働を要素とする技術の体系
2 職階制の歴史
   1881年 猟官失意者によってガーフィールド大統領が暗殺
   1883年 公務員法の制定
   1923年 職階法(Classification Act)の制定
   1949年 職階法の制定→5の分類職を2に整理
    ※政策決定にあたる官職→依然として猟官制(全連邦公務員の1/3)

○辻清明『アメリカ公務員制』から
              ~『公務員制の研究』(東大出版会、1991)所収~
1 資格制(成績制度、メリットシステム)の発展
   -1883年 公務員法(ペンドルトン法)の制定-
 (1) 分類官職の拡大(全連邦公務員数の8割を占めるまでに)
 (2) 公務員の政党への関与禁止
2 職階制の意義-ルイス・メリアム-
   ①任用試験の公正
   ②給与率の公平な決定
   ③訓練の有効な実施
   ④予算の明確な統制
   ⑤転任・昇任の基準の樹立
   ⑥事務の配分と権限の配置の合理化
   ⑦事務計画及び公務の能率標準の測定
   ⑧予算上の要求査定の簡易化

 これらの論文が掲載されている著作の出版年は1969年と1991年であるが、いずれの論文も初出は1950年~1955年頃に発表されたものである。詳しくは本書を読まれるとよい。正に、アメリカで発達した職階制を日本の官僚制度に移植しようと模索し、職階法を制定し、具体化を目指した頃の職階制への熱い期待と不安が伝わってくるようである。これら以外にも職階制をテーマにした研究がいくつかあり、県立図書館レベルで見つけることができるが、いずれも同時期のものである。
 この辺りで、このテーマの小考察は終え、次回からは行政職俸給表(一)の構造をテーマに考えてみたい。


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44.「職階制」小考察(その3) [4.「職階制」小考察]

 川村祐三『ものがたり公務員法』(日本評論社、1997年)という本がある。これを開いてみると、その第13話「さまよう職階制」に、次のような面白い下りがある。
 元人事院管理局長の橘利弥氏が『官界新報』という庁内紙に寄せた随筆から引用している部分を重引してみる。
 「いかにもありそうだが職階制には職階というものはない」「ついでに言っておくと…職階給だの職務職階給だのという給与制度も、もしあったとしても職階制とは縁がない」「官職は、昔の官吏制度で官吏の身分や組織上の地位を示す言葉として用いられた官や職とは全く無関係」「『官職を類集するための原則と手続』であるものに職階制という名称は全くそぐわないし、『官職を分類整理するための計画』という定義づけに至っては、日本語の用法の許容範囲を遙かに逸脱している」…。
 なんと、元人事院管理局長が現行法の定義規定を全面否定しているのである。こうなるともう職階制という迷路に迷い込み、出口を求めてさまよっているような気がしてくる。

 それから、職階制のこんな定義付けもある。連合公務員制度改革に関する研究会=座長西尾勝国際基督教大学大学院教授「公務員制度改革に関する提言(中間報告)」(2004.6.23)の記述である。
 「職階制-官職を詳細に分類し、分類官職に欠員があった場合に能力の実証に基づいて内外から採用するという開かれた任用制度」
 なんと簡潔で、しかもその政治的意義も含めた分かりやすい定義であることか。職階制は、戦後、日本における公務部門の民主化を実現するために、アメリカで発達した人事行政の基礎である”classification”を取り入れたものであることはよく知られている。アメリカでは、スポイルズシステムによる混乱を克服し、メリットシステムを導入していく中でテーラー主義と結びつき、公務の能率化の基礎として職階制を導入した。アメリカでは官職は内外に開かれたものなのであって、黒人の人種差別撤廃運動にも貢献したとも言われているぐらいである。そのような背景をもった職階制が、戦前の身分制の残滓を引きずったままで、年功的な長期勤続雇用を前提とし、大部屋主義的な執務方法を採用している日本の人事慣行に適合しなかったのも、当然といえば当然と言えるだろう。
 そして、提言は次の点も指摘する。
 「また、法の建前と実態との間に看過し得ない乖離もある。職階制を原則とする人事管理制度という法の建前とは別に、実態は長期継続雇用を前提とした内部昇進による人事管理となっている。能力の実証に基づく任用を担保するメリットシステム(資格任用制)の原則は競争試験による採用・昇進を定めているが、競争試験は入り口の採用段階だけにとどまり、その後の任用は任免権者の裁量による選考となっている。/こうした人事管理の内実は、採用試験区分別にⅠ種採用者とⅡ・Ⅲ種採用者との壁で峻別する牢固とした「隠れた身分制」に貫かれている。」


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43.「職階制」小考察(その2) [4.「職階制」小考察]

 職階制は今も実施されていないのだが、人事院は何もしなかったのではなく、昭和27年末には格付表の作成をおおむね終え、昭和28年には給与準則案の国会及び内閣への提出までの準備は行ったらしい。しかし、結局その実施は見送られたのである。
 その際に作成された「職種の定義および職級明細書」が残っている。例えば、小学校の教員であれば、「教育」という職群の「小学校教育」という職種に属し、「1級 小学校教員」に格付けされている。職級明細書には、職級の名称のほか職級の特質が約1頁にわたって記述されている。詳細な職務分析に基づき…というぐらいだから、膨大な記述があるのかと思っていたが、職級明細書自体は案外簡単なもののように思える。まあそれでも、「児童の教育をつかさどる」との学校教育法の規定よりは、遙かに具体的にその職務と責任の特質を示す記述とはなっているのかなと思う。この「1級 小学校教員」という職級には、小学校の教員(教頭と思われるものも含んでいる。)のほかに、少年院における収容少年の更生教育を職務とする官職や教護院における収容児童の教護を職務とする官職が含まれているところが現在の教育職俸給表(三)と違っておもしろいところである。
 これだけ見ても、やっぱり職階制はよく分からない。ただ、それは決して位階のような身分の分類や能力主義的な等級制などではなく、官職=職務と責任によって分類するんですよという考え方を基本に据えようとしていたことだけは、確かなようである。
(国家公務員の職階制に関する法律)
 第6条 官職の分類の基礎は、官職の職務と責任であつて、職員の有する資格、成績又は能力であつてはならない。
 第8条第3項 格付に当つては、官職の職務と責任に関係のない要素を考慮してはならない。又、いかなる場合においても、格付の際にその職員の受ける給与を考慮してはならない。


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42.「職階制」小考察(その1) [4.「職階制」小考察]

 これまで教育職俸給表(二)(三)の2級と1級を中心に学習をつつけてきたが、ここで、現行給与制度の成立にも影響を与えたと思われる「職階制」について少しだけ考察してみたい。というのも、給与制度の世界では「職務給の原則」という給与決定上の大原則があり、その「職務給の原則」は「職階制」と関連づけて説明される場合が多いにもかかわらず、その法令上の根拠規定はほとんど死文化しているという日本の現実があるということ、更には戦後人事行政の基礎となるべき理想の制度として期待されたにもかかわらず、結局は実施されることなく公務員制度改革によって葬られようとしていることという事情があること、その故に、それでは「職階制」とはいったいどのような制度なのだろうか、という素朴な興味を引き起こすからである。

 我が国の職階制については、戦後、「公務の民主的且つ能率的な運営を促進することを目的」(職階法第1条)として、戦前の身分を中心とした人事管理制度を排除し、官職(仕事)を中心とした科学的な人事管理制度を導入しようとしたものであると言われている。
 国家公務員の職階制に関する法律(昭和25年法律第180号)の規定を見ると、次のように定義されている。
 第2条(職階制の意義) 職階制は、官職を、職務の種類及び複雑と責任の度に応じ、この法律に定める原則及び方法に従つて分類整理する計画である。
 この規定は、国家公務員法(昭和22年法律第120号)第62条(給与の根本基準)の「職員の給与は、その官職の職務と責任に応じてこれをなす」という規定を受けたものであることは、容易に想像がつく。”position classification plan”という英語を忠実に訳したような定義となっているのだが、「分類整理する計画」というのがどうもピンとこない。
 次を読む進むと、第3条で、官職、職務、責任、職級、職級明細書、職種、格付という用語について、それぞれ厳密に定義している。更に、第2章で、職階制実施のための具体的な手順が記述されている。職種及び職級の決定、職級明細書の作成及び使用、官職の格付などである。これが「詳細な職務分析に基づく官職の分類整理」と一般的に言われるものなのであろう。


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