59. 給与構造改革と俸給表の改定(その8) [6.給与構造改革]
「給与構造改革によって号俸が4分割された俸給表の形は、基幹号俸で見れば従来の考え方を色濃く継承したものとなっているのではないか」という仮説を立てて、新しい行(一)の構造を考察してきた。基幹号俸という概念を創設して造られた新しい俸給表は、基本的に従来の考え方を色濃く継承したものと言えそうであった。ただ、最高号俸の俸給制度表上の位置は少し崩れたといってよく、特に6級(旧8級)以上は号俸カット数に対して号俸増設数が少なくなってはいるが、昇給制度を変更したことにより昇給回数としては従来の昇給制度並の回数は用意されたものとなっていたと言えなくもなかった。言い換えれば、行(一)Ⅲ種採用者を念頭に置いた5級(旧7級)までは給与構造改革前の俸給表の構造と形は同じといってよく、行(一)Ⅰ・Ⅱ種採用者が中心となる6級(旧8級)以上については、俸給表の形は崩れてもより勤務実績を問う形にしたと言えるだろう。
また、号俸の増設は、俸給水準の引き上げそのものであり、むやみに増設すればいいといったものではない。枠外号俸の在職実態を踏まえた増設が行われたのであるが、それは、言い換えればこれまでの運用で引き上げられてしまった給与水準を追認したものとも言えるだろう。実際には号俸延長の前に最大7%の水準引き下げが行われたのだから、引き上げは行われてはいないが、号俸の増設を行っているのだから、各職務の級ごとの引き下げ率は7%よりも低くなっているはずである。その辺りを確認して、この項を終えよう。
<給与構造改革による行(一)各職務の級の最高号俸の実質改定率>
旧級・号俸・俸給月額(A) 新級・号俸・俸給月額(B) (B-A)/B
2-19 244,100 1-93 244,100 0.0
3-32 316,200 2-125 309,900 △2.0
5-26 380,400 3-113 357,200 △6.5
6-24 415,300 4-93 391,200 △6.2
7-22 425,700 5-85 403,700 △5.5
8-21 449,600 6-77 425,900 △5.6
9-18 485,300 7-61 460,300 △5.4
10-15 508,600 8-45 482,600 △5.4
11-15 575,700 9-41 542,600 △6,1
11-15 575,700 10-21 575,300 △0.1
給与カーブ自体は、「中高齢層について7%引き下げることにより、給与カーブをフラット化」との説明どおりなのだとは思うが、各職務の級の最高到達号俸の水準に着目すれば、少し違ったイメージになるようである。
次回からは、教職調整額について考えてみたい。
58. 給与構造改革と俸給表の改定(その7) [6.給与構造改革]
次に、6級(旧8級)以上の号俸増設数について考えてみよう。
6級(旧8級)以上は、号俸カット数に対して号俸増設数が、6級(旧8級)は1号俸、7級(旧9級)は2号俸、8級(旧10級)は3号俸、9級(旧11号俸)は4号俸足りなくなっている。号俸延長は3号俸を限度としていることから、当然の話と言えば当然の話だ。これを俸給制度表で最高号俸の位置を確認すると、6級(旧8級)は55歳、7級(旧9級)は54歳、8級(旧10級)は53歳、9級(旧11号俸)は56歳となるのだが、定年制の導入を契機に56歳ラインを俸給制度に織り込んだ経緯から考えると、問題ないのだろうか。1年間良好に勤務すれば1号俸昇給することを基本としていた制度が、勤務成績に応じて0~8号俸の昇給を決定するという査定昇給に昇給制度自体が変わったのであるとしても、やはり、昇格しない限り、53歳や54歳で昇給停止を迎えてしまう構造では支障がでるだろうと思った。
だが、よく考えてみると、7級(旧9級)以上は、管理職員としての昇給の取り扱いが行われるため、より厳しく勤務実績が問われることとなったのであった。つまり、勤務成績が良好の場合には、一般職員が4号俸昇給するのに対して、管理職員は3号俸の昇給に止まることになったのである。従って、毎年勤務成績が良好である場合には、従来の昇給可能年数の1.5倍の年数が制度上用意されているとも言えないこともないから、早く頭打ちになることは気にしなくてもよいのであろう。優秀な人は更に昇格を繰り返し、昇給停止を経験することなく、上位の職務の級、さらには局長級や事務次官となって指定職へ突き抜けていくのであろう。
57. 給与構造改革と俸給表の改定(その6) [6.給与構造改革]
前回、行(一)の号俸増設状況を確認してのだが、号俸カット数との対応関係を見ると、多かったり少なかったりして一致していない。3級(旧4・5級)は号俸カット数に対して号俸増設数が1多く、4級(旧6級)と5級(旧7級)は一致している。6級(旧8級)以上については、号俸カット数に対して号俸増設数が足りなくなっている。これは制度上どうなのだろうか、不利になったり、問題が生じたりしていないのだろうか。
まず、3級(旧4・5級)は号俸カット数に対して号俸増設数が1多くなっている点を考えよう。初号付近以外は旧5級ベースを新3級に改定していることから、旧5級の1号上位昇格制度によるメリットは累積2号俸であったが、級の統合によりマイナス1号俸となり、号俸カット数は旧4級1号俸に当たる部分の1号俸となった。しかし、旧5級の枠外号俸の在職実態の点からすれば、制度上も2号俸必要であることは理解できる。その結果、基幹号俸ベースで18年4月改定の行(一)俸給制度表を作成すると、Ⅱ種(大学卒)で見て旧3級(新2級)から旧7級(新5級)まで55歳でそろっていたラインが、新3級のところで1歳経過した56歳に飛び出す形となる。
まあ、査定昇給となったのだから、新3級在級中に旧4級から旧5級に昇格したのに匹敵する昇給区分Aが与えられうることが織り込まれているのだと無理矢理考えれば、飛び出した1歳分の号俸は、55歳のラインでそろうと考えてもかまわないのではないか。
56. 給与構造改革と俸給表の改定(その5) [6.給与構造改革]
初号等の号俸カットが各職務の級のスタート地点の問題であるとすれば、各職務の級のゴールは号俸の増設である。
繰り返しになるが、この点について、人事院は次のように説明する。
「現時点における最高号俸を超える者の在職実態を踏まえ、枠外在職者が極めて少ない職務の級を除き、当該職務の級における枠外在職者の少なくとも過半数が最高号俸までの対象となるよう、現行の3号俸に相当する範囲内で号俸の増設を行う。」
実は、この増設手法は、昭和60年の8等級制から11級制への級構成の再編で採用された手法と同じであるが、その時は、定年制の実施に対応したものであった。
今回はどう考えるべきかだが、いわゆる1号上位昇格制度の実施に伴って、旧4級以上の各職務の級の昇格対応号俸の位置が1年づつ前倒しになったのだが、それは同時に俸給制度表上の最高号俸の位置も1年づつ前倒しにしたのであった。つまり、それだけ早く最高号俸に到達することとなった訳であり、従前の枠外号俸の在職実態が増えたはずであった。もちろん、枠外昇給といってもどこまでも昇給する訳ではなく、一方で55歳昇給停止制度があったのだから、結局は1号上位昇格制度による前倒し効果の範囲内での在職実態に止まっていただろうと制度的には想像する。
行(一)の号俸増設状況を具体的に確認しておこう。
<行(一)の号俸増設状況>
職務の級 号俸増設数 号俸カット数
1級(旧1・2級) - -
2級(旧3級) - -
3級(旧4・5級) 2号俸 1号俸
4級(旧6級) 2号俸 2号俸
5級(旧7級) 3号俸 3号俸
6級(旧8級) 3号俸 4号俸
7級(旧9級) 3号俸 5号俸
8級(旧10級) 3号俸 6号俸
9級(旧11級) 2号俸 6号俸
10級(新設)
55. 給与構造改革と俸給表の改定(その4) [6.給与構造改革]
次に、初号等の号俸カットを見てみよう。
これについては、人事院が「いわゆる1号上位昇格制度を適用した結果、現在在職者がいないか、在職実態が極めて少ない初号等の号俸をカットする」と端的に説明しているとおりであり、このことは、既に級別資格基準との関係で言及したとおりである。
人事院は、職務の級間の水準の重複を減少させるために号俸をカットすると言っているが、そのような見方は否定するものではないが、本音は俸給表構造の形にこだわったのではないかと思っている。級別資格基準と初号との関係は、平成2年の改定で級別資格基準のラインより初号が1号俸分早くなるように落ち着いたのだが、平成4年度に導入された1号上位昇格制度により崩れてしまった俸給表の構造を、ここで元の形に戻すべく整理し直したのではないかと思う。カットされた号俸は、既に制度的に使うことがなくなってしまっていたのだ。とすれば、職務の級間の水準の重複を減少などという理由は表面的なものにすぎず、実質的には平成4年度に実施されていたことなのである。
当然、教(二)(三)の全人連モデルでも在職実態がない号俸という理由から、教(二)の3級は3号俸、4級は5号俸、教(三)の3級は2号俸、4級は5号俸がカットされた。これを行政の場合と同じように俸給制度表を作成し、昇格改善効果と号俸間引き(大卒制度年数の7年、11年、15年)を加味した上で教(二)(三)の3級及び4級に係る級別資格基準のラインを重ねて確認しておこう。
<教(二) (三)の級別資格基準のラインと初号の位置関係>
級別資格基準 昇格改善前 昇格改善後 間引き後 18.4カット
教(二)2級 0年 0号俸 0号俸 0号俸 -
3級 16年 3 4(3+1) 6(4+2) 3号俸
4級 25年 3 5(3+2) 8(5+3) 5
教(三)2級 0年 0号俸 0号俸 0号俸 -
3級 11年 2 3(2+1) 4(3+1) 2号俸
4級 24年 2 4(2+2) 7(4+3) 5
こちらも1号上位昇格制度と号俸間引きにより制度的に前倒しとなった号俸とちょうど同じ号俸を18年4月改正でカットしている。つまり、昇格改善や号俸間引きにより俸給表として制度的に不要となってしまった部分をこの際修正し、行(一)と同様に平成2年に確立した級別資格基準のラインと初号の位置関係に戻したと言えるのではないだろうか。
54. 給与構造改革と俸給表の改定(その3) [6.給与構造改革]
前回、行(一)の18年4月改定率を概観したが、各号俸への改定額の配分がどのように行われたかを見るためには、その前に、号俸構成等の変更内容を確認しておく必要があろう。(級構成の再編は重大な変更要素であろうが、ここでは省略する。)
人事院は次のように説明する。
「(ウ) 号俸構成等
① 現行の1号俸当たりの昇給額では額が大きく、きめ細かい勤務実績の反映を行うことが困難であることから、現行の号俸を4分割する。
② 現行の俸給表では、昇格しないとしても一定の水準に達することができるよう号俸設定が行われているため、上下の職務の級間で水準の重なりが大きくなっている。職務の級間の水準の重複を減少させるため、初任の職務の級を除く現行4級以上の各職務の級について、いわゆる1号上位昇格制度を適用した結果、現在在職者がいないか、在職実態が極めて少ない初号等の号俸をカットする。
③ 現時点における最高号俸を超える者の在職実態を踏まえ、枠外在職者が極めて少ない職務の級を除き、当該職務の級における枠外在職者の少なくとも過半数が最高号俸までの対象となるよう、現行の3号俸に相当する範囲内で号俸の増設を行う。」
まず、号俸の4分割についてだが、4分割後の各号俸に改定額を割り振るに当たって、人事院は「基幹号俸」という概念を設けた。例えば、行(一)の旧3級は、1号俸から32号俸までであった各号俸の金額を、新2級の1号俸から125号俸((32―1)×4+1=125)までに割り振ったのだが、その際、旧号俸に対応する4号俸ごとの号俸を基幹号俸とするのである。つまり、1号俸、5号俸、9号俸、13号俸…125号俸が基幹号俸となる。そして、基幹号俸対応で改定額を割り振った後、次の基幹号俸との間差を4等分して基幹号俸以外の号俸に配分するのである。100円単位で配分するため、ちょうど4等分できない場合には、基幹号俸から3つ目の号俸で微調整をしている。
従来の号俸を4分割したのだから、いったいどうするのかと思っていたが、全く違った考え方になったのではなく、基幹号俸という概念を創設し、従来の改定手法を踏襲して改定額を配分しているのである。
53. 給与構造改革と俸給表の改定(その2) [6.給与構造改革]
給与構造改革による俸給表の改定について考察しようとすれば、前回掲載した行(一)の見直し項目ごとに一つ一つ確認していくべきであろうが、ここでは、考え方の大転換をもたらした大きな観点からではなく、むしろ、より具体的な改定手法という小さな観点から考えてみたい。
まず、「若手の係員層については引下げを行わず、中高齢層について7%引き下げることにより、給与カーブをフラット化」したという改定率を見ておこう。
<行(一)の18年4月改定率>
職務の級 改定率の幅
1級(旧1・2級) 0.0~0.0
2級(旧3級) 0.0~△2.0
3級(旧4・5級) △2.0~△7.0
4級(旧6級) △4.0~△7.0
5級(旧7級) △4.4~△7.0
6級(旧8級) △4.6~△7.0
7級(旧9級) △5.3~△7.0
8級(旧10級) △5.5~△7.0
9級(旧11級) △6.0~△7.0
10級(新設)
これは、各号俸に改定額を配分した結果であるのだが、なるほど、係員層の1級(旧1・2級)は引き下げず、定年制を前提として制度的に56歳のラインまで昇給を保障している職務の級の係長級以上となる3級(旧4・5級)以上は、最高号俸が7%の引き下げとなっている。フラット化の具体的な形の分析は一つの課題になるだろうが、それはそうすべく与えられたものとし、ここでは、どのような手法で、どのような手順で改定額を配分したのかを見ていきたい。
52. 給与構造改革と俸給表の改定(その1) [6.給与構造改革]
さて、前回までは行政職俸給表(一)の構造を概観してきたのであるが、「給与構造改革によって号俸が4分割された俸給表の形は、基幹号俸で見れば従来の考え方を色濃く継承したものとなっているのではないか」という仮説を立てることができた。これから、その辺りを確認していきたいと思う。
まず、給与構造改革における俸給表改定の骨子は押さえておかねばなるまい。
ポイントとなるのは、地域ごとの民間賃金水準の格差を踏まえた俸給水準の引き下げと、年功的な給与上昇の抑制、職務・職責に応じた俸給構造への転換である。基本となる行(一)の見直しについては次のように行われた。(平成17年「給与勧告の骨子」人事院から)
<ア 行政職俸給表(一)の見直し>
・地域別の官民較差の3年平均値を参考として、俸給表の水準を全体として平均4.8%引下げ
・若手の係員層については引下げを行わず、中高齢層について7%引き下げることにより、給与カーブをフラット化
・現行1級・2級(係員級)及び4級・5級(係長級)の統合。従来の本府省課長の職責を上回る職務に対応した級の新設(11級制→10級制)
・きめ細かい勤務実績の反映を行うため現行の号俸を4分割
・現在在職者がいないか、在職実態が極めて少ない初号等の号俸をカット
・現時点の最高号俸を超える者の在職実態を踏まえ、号俸を増設
・最高号俸を超える俸給月額に決定し得る枠外昇給制度を廃止
・中途採用者の初任給決定の制限、昇格時の号俸決定方法について見直し