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184.定時制通信教育手当(その4) [23.定時制通信教育手当]

 定時制通信教育手当は、産業教育手当を追いかけるようにして創設され、支給額の改定が行われている。昭和32年の産業教育手当が支給率7%で創設され、昭和35年に定時制通信教育手当が同じ支給率の7%で創設された。その後、産業教育手当が昭和45年に10%の支給率に引き上げられたのを受けて、定時制通信教育手当も昭和46年に支給率を7%から10%に引き上げている。
手当の水準をどれぐらいにするのかという問題は、おそらく公務部内の他の職種に支給される手当との均衡が求められてきたのではないかと思う。これについては、産業教育手当の項で考察したので、そちらに譲りたい。ただ、定時制通信教育手当の現行支給率は、産業教育手当の改定を受けたものであったことは確かなようである。

<昭和46年3月10日衆議院文教委員会>
○宮地政府委員 お答えいたします。
 今回提案いたしました七%を一〇%に手当を上げるという理由でございますが、実は定時制、通信制の高等学校につきましては、すでに現在七%の、一般高校にはない手当がついております。したがいまして、なぜ手当をつけるかということと、あわせましてなぜ増額するかという二点になろうかと思います。
 今日、定時制、通信制の先生方に手当がついておりますことは、一般の高等学校と定時制、通信制の高等学校を比べまして、そこに入ってきております子供もいろいろ多様な子供でございますし、さらに、定時制、通信制の教育は、形といたしましても定通を併修したりあるいは二部制、三部制の授業とか、さらに技能連携といったような形態をとっておるものが相当ございます。それは一般の高等学校と違いまして、先生方としていろいろ御苦労なところでございます。さらに、入ってきております子供たちが年齢も、ある程度まとまってはおりますものの一般の高等学校の生徒よりも相当開きがございますし、さらに能力、適性、進路、こういったようなものも相当の違いを持っておりますし、さらに職業を持つと申しますか勤労に従事しておる生徒でもございます。こういったようなことから教育の形態も違いますし、内容、方法も普通の高等学校に比べまして相当複雑であり、これを十分こなしてそのような生徒に適切な教育を行なうためには、先生方の御苦心は相当なものでございます。こういうような観点から従来定通手当がついておりますが、さらに今回三%引き上げましたのは、そのような困難度が従前以上に増してきておるといったようなこともございますし、さらに昨年産業教育手当、これは産業教育手当と定通手当が全く同じ内容だというものではございませんが、趣旨といたしましては産業教育手当も、一般の普通教育に対して産業教育に従事される先生方の御苦労が多いというようなことで、昨年一〇%になっております。そういうようなものとの関連、均衡、こういうようなものを考慮いたしまして定通手当を一〇%に増額したいということでございます。

 一応は、定時制・通信制高校の教員の職務の「困難度が従前以上に増してきておる」と縷々述べているが、結局、産業教育手当と「均衡」を考慮して10%に増額したいと言っているのである。

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183.定時制通信教育手当(その3) [23.定時制通信教育手当]

 定時制通信教育手当が夜間手当でないことについは、「事務職員にも支給すべき」とする質問に対して、当時も文部省初等中等教育局長である内藤譽三郎が次のように答弁している。

<昭和35年3月16日衆議院文教委員会>
○内藤(譽)政府委員 このたびの法律によりまして定時制通信教育手当を受けない者は事務職員のみでございます。事務職員につきましては、夜間に勤務しておるという点においては確かに同じでございますけれども、本来この定時制通信教育という教育の形態は、全日制の学校と違いまして非常に複雑である。単に夜間ということだけでなくて、昼間の場合もそうですが、少人数で、通常の教育課程ではございませんので、生徒の生活指導からあるいは校外指導その他家庭訪問、あるいは家庭及び職場における教育との関連性の問題、その他幾多の複雑な問題があり、教育上困難である、こういう理由に基づきましたので、事務職員は、これは一般の夜間に勤務しておる職員と同じでございまして、事務職員まで含めますと、この問題は相当広範囲に及びますので、各種の公務員にも関連のあることでございますので、今回は定時制通信教育という特別の教育形態に沿いまして、これに対する手当を支給することにいたしたわけでございます。

○内藤(譽)政府委員 (略)
 ただいまの定時制、通信教育手当につきましては、実は夜間手当のような形でしたら、私は小牧委員の御質問はまことにごもっともだと思うのです。しかし今回の定時制、通信教育手当というのは夜間手当ではございませんで、定時制、通信教育の特殊性に基づいて支給するものでございます。現実に定時制の先生のうちの六割が夜間の先生でございまして、四割は昼間の先生でございます。この場合に、夜間、昼間を問わず、また通信教育の先生方はほとんど昼間でございますが、こういう場合になぜこの手当を支給するかと申しますと、定時制教育というのは全日制の教育と異なりまして、どうしても職場と学校との一体性が考えられなければならぬと思うのです。ですから、学校の方で基礎的なものをやり、うちへ帰って、あるいは職場において、そこでいろいろと実習計画が進められるわけです。先生方が、学校の授業だけでなく、職場の教育計画との関連を考えていろいろと指導される、また子供たちの複雑な生活環境の中で生活指導をするという点にも、非常に困難と複雑さが伴うという趣旨でこの手当を創設いたしたい、こういう趣旨でございます。
 この場合、事務職員はそれではどうかと申しますと、先ほど申しましたように、これが夜間手当で夜間勤務する者にということなら一つの理論が成り立ち得ると思いますけれども、今申しましたように、定時制、通信教育手当という特殊な性格を持ち、その教育の困難性に基づいてやるのだ、こういう趣旨でございます。事務職員は今申しましたような趣旨の教育をしているわけじゃない。ただ夜間勤務しておるというだけです。この夜間勤務するということは、定時制、通信教育のみならず、一般の事務職員も同じように感ずるいやな勤務だと思います。ですからその面にも波及してくる問題でもあろうと思うのであります。それから現実に申しまして、事務職員でも、学校数で申しますと、通信教育と四割の昼間の定時制がございますが、この昼間の定時制の職員に手当を出すことは、今度は全日制の事務職員にも波及するという問題になってくると思います。私どもはその線をどこに引くかと申しますと、これはあくまでも定時制、通信教育の特殊性、あるいは困難性、複雑性に基づいて支給するのだ、こういう明確な線を引いておりますので、事務職員に波及することは私どもは差し控えたわけでございます。

 文部省は、「定時制通信教育手当は、夜間勤務手当ではない」という立場で一貫しており、引用した以外の機会にも同様の答弁をしているようである。

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182.定時制通信教育手当(その2) [23.定時制通信教育手当]

 今回は、国会に「高等学校の定時制教育及び通信教育振興法の一部を改正する法律案」が提案された際の提案理由を確認したい。少し長いが、会議録を引用する。

<昭和35年3月15日参議院文教委員会>
○国務大臣(松田竹千代君) 
 (略)
 高等学校の定時制教育及び通信教育は、働きながら学ぶ青年に対し、教育の機会均等を保障する目的をもって戦後制度化されたものでありまして、勤労青年の基礎学力や職業技術その他の資質の向上に重大な役割を果たすものとして、都市、農村を問わず各方面から広く支持されてきたものであります。その後、各般の困難にもかかわらず、関係者の非常な努力によりまして、発足十余年を経過しました今日、ようやくその基礎が固まってきたものであります。政府といたしましても、これら教育の振興につきましては特に意を用い、施設、設備の整備等についてできる限りの努力をいたしてきたのでありますが、この際、一そうの充実強化をはかるためには、施設、設備の整備を一段と強化するとともにその教育に直接従事する校長及び教員の待遇につき特別の措置を講じて、優秀な人材を確保することが特に必要であると信ずるのであります。
 御承知のように、定時制教育には、夜間に授業を行なうものと昼間に授業を行なうものがありますが、夜間に授業を行なうものにおきましては、夜間勤務に伴う過労や病気など健康上の障害、のほか家庭生活上の不便も多いのであります。また、昼間に授業を行なうものにおきましても、学校は辺地などにおける地域の中心的教育施設としての特色と使命を有し、単に校内指導にとどまることなく、家庭実習、現場実習などの校外指導にも重点を置かなければならず、勤務量の負担がきわめて大きい実情であります。
 また、通信教育は、通信手段という新しい方法を用いて教育する特色のある制度でありますが、その教育には、添削指導、日曜日などの休業日における面接指導、辺地などの遠隔地における巡回指導もあわせ行なう必要があり、その勤務は容易ならぬものがあるのであります。さらに、定時制教育、通信教育を通じて、勤労と学習とを同時に遂行する生徒を対象とするため、生徒の学習や生活の指導には種々の困難を伴う現状であります。
 以上申し述べました実情にかんがみ、これらの教育に携わる校長及び教員に対し、その労に報いて専心その職務に精励できるようにするとともに、優秀な人材をこの方面に誘致し、確保し、もって定時制教育及び通信教育を振興するため、このたび定時制通信教育手当を支給する措置を講じようとするものであります。

 「夜間勤務に伴う過労や病気など健康上の障害、のほか家庭生活上の不便も多い」ということも理由の一つに挙げているようであるが、全体としてみれば夜間手当というものではなく、前回取り上げた『地方公務員給与制度詳解』(学陽書房)がまとめているように、この定時制通信教育手当は、定時制教育・通信教育に携わる者の職務の複雑性・困難性に着目するとともに、この分野への優秀な人材の誘致を目的として支給しているものと理解してよいであろう。

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181.定時制通信教育手当(その1) [23.定時制通信教育手当]

 今回から定時制通信教育手当を取り上げてみたい。
 以前、産業教育手当について考察した際にも触れたが、近年、定時制通信教育手当については全国の多数の県で手当水準の引き下げや昼間定時制教員に対する手当の廃止などの見直しが進み、その広がりは既に相当な数の県に及んでいる。
 この動きは、産業教育手当と同様、平成16年4月に国立大学が法人化されたことに伴う法改正で、高等学校の定時制教育及び通信教育振興法第5条において「俸給月額に百分の十(俸給の特別調整額を受ける者にあつては、その職務の複雑、困難及び責任の度合による区分に応じ、百分の八を超えない範囲内において文部大臣がそれぞれ定める割合)を乗じて得た額の定時制通信教育手当を支給する」と規定されていたものが、「定時制通信教育手当の内容は、条例で定める」とされたのを契機としている。
 さて、この定時制通信教育手当であるが、昼間定時制教員を支給対象から外している県が多いことから、逆に夜間勤務に対する手当であるかのように受け止められているのではないかと考えてしまうのだが、その趣旨は本来どの様なものであるのだろうか。

 まず、地方公務員給与制度研究会編著『地方公務員給与制度詳解』(学陽書房)から引用してみたい。
「第十九節 定時制通信教育手当
  一 性 格
 定時制通信教育手当は、高等学校の校長及び教員のうち、定時制教育に携わる者の職務の複雑性・困難性にかんがみ支給される手当てであり、定時制教育又は通信制教育に従事する校長及び教員の労苦に報いて、これらの者が専心その職務に精励することができるようにするとともに、この分野に優秀な人材を誘致し確保することにより、高等学校の定時制教育及び通信教育の振興を図ることを目的としている。」
 職務の複雑性・困難性という観点と人材誘致・確保という観点から給与水準を引き上げる「俸給の調整額」に近い特別の職務給的手当と理解すればよいだろうか。少なくとも、「夜間勤務」という言葉は出てこない。

 次に、産業教育手当を考察した際と同じように、第一法規『公立学校教職員人事執務提要』から引用する。
「16 定時制通信教育手当
 説 明
1 定時制通信教育手当とは、高等学校の校長及び教員のうち定時制教育又は通信教育に従事する職員の職務の複雑性・困難性にかんがみ、これらの教職員に支給される手当である。」
 これでは、人材誘致・確保の観点が脱落している。

 次に、『教職員の給与』(佐藤三樹太郎著、学陽書房)における定時制通信教育手当に係る解説を確認しておきたい。
 「この手当支給の趣旨は、国立又は公立の高等学校の校長および教員のうち定時制教育または通信教育に従事する職員の職務の複雑困難性にかんがみ、その労苦に報いるとともに、この分野に人材を誘致・確保することにあるとされている。/したがって、手当の性格は前述の産業教育手当と似ており、俸給の調整額と同じ支給方法による職務給であるが、特殊勤務手当的な性格を持つものとみることができる。」

 また、文部科学省が中教審の教員給与ワーキンググループに提出した資料には、次のような記述がある。
 「※ 定時制通信教育手当の検討の際は、高等学校の定時制教育及び通信教育における勤労青年教育の重要性や優秀な人材の確保の必要性を考慮する必要がある。」
 ここには、産業教育手当と同じように「優秀な人材の確保」という観点が示されている。

 ここまで見てきたが、定時制通信教育手当の趣旨を端的に言えば、「優秀な人材の確保」であり、その手当の性格は、産業教育手当と同様に「特殊勤務手当的」な性格と「俸給の調整額的」な性格を併せ有する特別の職務給的な手当と捉えてよいだろう。
 もう少し詳細に確認するため、いわゆる定通振興法が国会で審議されたときの議論を次回から見ていきたい。

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