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472. 読書=『カトク 過重労働撲滅特別対策班』 [29.読書]

 新庄耕『カトク 過重労働撲滅特別対策班』(文春文庫、2018年7月)
 過重労働による健康被害の防止などを強化するため、違法な長時間労働を行う事業所に対して監督指導を行う過重労働撲滅特別対策班、通称「かとく」。2015年4月に東京労働局と大阪労働局に設置。
 死ぬほど働かなくてもいいんです-。ブラック企業が社会問題となる中、蔓延する長時間労働やパワハラ体質の企業や経営者を取り締まる労働基準監督官の特別捜査チーム。
 
「……ありがと……ざいました……て」
 係争中の過労死した東西ハウジングの社員だと伝えると、菅野の表情に狼狽の色がうかんだ。音声は、生前に社員の病室のベッドで録音されたものだった。入社当初から菅野に心酔していたというその若い社員は最後まで東西ハウジングや菅野に対して恨み節めいたことを口にしなかったらしい。
「遺族の方はこの音声を公にしなかった、いや、したくなかったようです。でも、私はこれを菅野さんが聞くべきだと思いました。菅野さんが兵隊といって切り捨てた社員のいつわりのない声です。恨んでたんじゃないんです。彼は最後まで菅野さんを信じてました」

「我々がやろうとしていることは、誰もが、少なくとも日本の国で働くあらゆる人々が安心安全快適に暮らせる社会にしたい、ただそれだけのことです。…」

 -この先も自分をだましつづけるつもりですか。

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468. 文部科学省若手職員が疑問に答える [29.読書]

 高橋洋平/栗山和大『改訂版-文部科学省若手職員が学校管理職の疑問に答える-現代的学校マネジメントの法的論点 厳選10講』(第一法規、2018年4月15日改訂版発行)

 「はじめに」から抜粋
本書は、そのような学校マネジメントにおける課題の中で、
○ 学校現場の管理職を中心とした学校関係者が、主に法令の観点からの判断が求められる課題に関し、肩に力を入れることなく、気軽に読んででいただける入門書とすることを特に意識して、第1講から第10講までの問題の解説はもちろん、昨今議論となっているテーマや、発展的内容のテーマについても、会話形式やコラム形式を用いて、わかりやすい解説に努めたもの
○ 頻出かつ現代的な課題を精選して取り上げるとともに、法令の観点からの解説を中心として、課題の背景や関連する教育政策とのリンクについても解説したもの
となっています。

 第1講から第10講のテーマは、次のとおり。
第1講 教育関係法令の基礎知識(入門編)
第2講 教育委員会や地域との関係・連携
第3講 PTAが主催して学校や教員とともに行う補習授業
第4講 部活動における学校事故に対する危機管理
第5講 土日や祝日における授業や運動会の実施
第6講 教員以外の多様な専門スタッフのマネジメント
第7講 教員の「心の病」への対応
第8講 子供への指導が不適切などの問題のある教員への対応
第9講 制限される政治的行為の判断
第10講 学校現場における職員団体への対応

 入門書ということだが、しっかりと法的論点が押さえられているので、学校管理職だけでなく、教育委員会事務局職員にも読んでほしいと思う。

 教員給与に関わっては、第5講のCOFFEE BREAKで「教職調整額と超勤4項目」が取り上げられている。中教審の教職員給与の在り方に関するワーキンググループ第10、11回(平成18年12月)資料等を出典に挙げて、歴史的経緯も含めた制度の平易な解説から初めて、中教審の「学校における働き方改革特別部会」で検討が行われているところまで著者二人の会話が続く。

 COFFEE BREAKでは二人の掛け合いの形で議論が深められていくのだが、著者たちの誠実な人柄や教育行政に対する熱い思いがにじみ出ていて好感が持てる。高橋氏は昭和57年生まれ、栗山氏は昭和60年生まれの30歳台。文部科学省を支える将来の幹部職員となられることだろう。


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467. 公務員法と労働法の交錯 [29.読書]

 小嶌典明・豊本治『公務員法と労働法の交錯』(ジアース教育新社、2018年3月)
 小嶌氏は、大阪大学名誉教授で、労働法、公務員法等が専攻分野。規制改革委員会の参与等として雇用・労働法制の改革に従事されたと紹介されている。

 まえがきに、「公務員法がわかれば、労働法の理解も深まる。本書は、こうした編者が共有する考え方から誕生した。」とある。目次をみると、「民間とは異なる退職手当の仕組み」、「労働関係法令は適用除外が原則」、「無理のある行政機関への派遣法の適用」…。地方公務員への労働基準法の適用の章では、「労働基準法の原則適用と国家公務員準拠」、「労働基準法適用の限界」…。臨時・非常勤職員にかかわる章でも面白そうな項目がずらりと並ぶ。

 初出はいずれも『阪大法学』であり、学術誌だけにマニアックである。知らなかったことも多々あり、「そうだったのか!」と思わせる記述が盛りだくさんである。「臨時・非常勤職員制度がわかれば、公務員制度の理解が深まる。」と思っていたものだが、違いに着目しながら細部に分け入っていくことで、格段に理解が進むのである。勉強になります。
 小嶌氏の著書で『法人職員・公務員のための労働法72話』(ジアース教育新社、2016年1月)・『法人職員・公務員のための労働法判例編』(ジアース教育新社、2016年2月)も面白い。併せて、お薦めです。

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431.読書=『政治主導で挑む労働の構造改革』 [29.読書]

 川崎二郎/穴見陽一『政治主導で挑む労働の構造改革』(日経BP社、2016年)
 川崎二郎氏は、自民党参議院議員(元厚生労働大臣)。穴見陽一氏は、自民党衆議院議員・多様な働き方を支援する勉強会事務局長。
 この本は、「このままでは日本が持たない。」との強い危機感から、自民党有志が私的勉強会である「多様な働き方を支援する勉強会」を立ち上げ、2年間にわたって労働問題についての勉強と議論を重ね、平成27年11月4日に政府に提出した「これまでの労働に関する構造の変革への提言」という提言書が基になっている。

 帯のコピーは、「本気で変える!」。タイトルは「政治主導で挑む…」である。意気込みを次のように述べる。

 構造問題に挑むことが政治の役割
 …このように、労働や雇用の諸問題には、長年の労働・商慣行、税・社会保障や労働監督の諸制度と体制、企業支援と監督、さらには人口や産業の変化に至る、様々な事項が絡んでいる。構造改革が不可欠な所以である。
 言い換えると、労働という社会システムの問題である。高度経済成長期に確立した現行の社会システムは制度疲労を起こしており、今後の日本を支える新たな社会システムをとして構築し直さなければならない。
 労働の構造改革を進め、新たな社会システムを構築する。それを主導するのが政治の役目である。なぜなら、産業界や企業各社、自治体、各制度を所管する官庁が個別に取り組むだけでは構造問題を解決できないし、システム全体を再構築できないからである。…(012頁)

 章立てを見ておく。

 第1章 問題の全体構造を捉え、手を打つ ~人材・産業・雇用の一体改革
 第2章 働く人を増やす ~全員参加型社会の展望
 第3章 働く場を整える ~地方産業と中小企業が改革の担い手
 第4章 働き方を変える ~日本型雇用慣行がもたらす諸問題を解く

 労働問題だけを対象として検討・提言するのではなく、システム全体を見渡して問題点を把握し、様々な分野にわたっての改革を提言しており、けっこうすごい。
このノートの問題意識からすれば、とりわけ日本型雇用慣行のメリット・デメリットを踏まえた上で、日本型雇用慣行を全否定するのではなく、メリットを生かしつつ、今後の在り方を提案しているところは大いに勉強になる。
 また、次の3人の方が寄稿している。

 清家篤 慶應義塾長『労働供給の時代~問題と対策』
 小室淑恵 ワーク・ライフバランス代表取締役社長『残された時間は3年、それでも企業は変えられる』
 海老原嗣生 雇用ジャーナリスト『変わるために今考えねばならないこと~社会の要請、政策の後押し、そして日本人の「心」』

 お金を出して一読する価値あり。

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418. 読書=『公務員の賃金-現状と問題点』 [29.読書]

 早川征一郎+盛永政則+松尾孝一編著『公務員の賃金-現状と問題点』(旬報社、2015年)
 早川氏は法政大学名誉教授、盛永氏は日本国家公務員労働組合連合会常任顧問、松尾氏は青山学院大学経済学部教授。本書は、研究者と国公労連のメンバーによる研究活動の成果であり、問題点の指摘は組合運動の立場からのものとなっている。
 内容は、組合活動の立場からではあるが、公務員賃金の現状と課題が概観できるものとなっている。個別の問題点について更に考察したい場合には、本書を手がかりにすればよい。

 序章 公務員賃金とは何か
 第1章 公務員賃金決定と人事院勧告制度
 第2章 人事院勧告制度下の公務員賃金決定
 第3章 国家公務員賃金の現状と課題
 第4章 地方公務員の賃金
 第5章 公務員賃金決定の社会・経済的影響
 終章 公務員賃金決定と労働基本権

 しかし、公務員賃金の現状と課題を示してくれるまとまった著作であろうと思われたことから期待して読んだのだが、概略の説明と組合の主張がほとんどであった。正直な感想を述べると、「突っ込み方が鈍い」というのが第一印象であり、紙幅の関係でそうなったのかもしれないが、物足りなく、残点であった。

 例えば、2001年に閣議決定された公務員制度改革大綱によって意図された「能力等級制度の導入」がいかにして挫折するに至ったのかについては、経緯に触れるのみで、賃金論の立場からの深い考察がない。給与構造改革や給与制度の総合的見直しについても、説明が表面的なものに止まっている。
 地方公務員の立場からすると、国家公務員給与改定・臨時特例法に基づく平均7.8%の給与削減を巡る各自治体の反応を取り上げてほしかったし、総合的見直しを事実上地方に強制する際の根拠の一つとして示した総務省の「均衡の原則」の問題点ももっと突っ込んでほしかった。もちろん、この省を担当した松尾教授は注釈で問題意識を表明してはいるのだが…(p136)。
 という点などである。
 問題意識が違うのだから、仕方がない。


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417.読書=『キャリア官僚の採用・人事のからくり』 [29.読書]

 岸宣仁『キャリア官僚の採用・人事のからくり』(中公新書ラクレ、2015年)
 副題は「激変する「出世レース」」。著者は、霞ヶ関のキャリア官僚を30数年間にわたって取材対象としてきたジャーナリスト。
 内閣人事局の設置によって、従来の東大法学部出身者を優遇する人事慣行に大きな変化が起きたのではないか-。激変するに至った次官レースの歴史を山形有朋以来の制度と運用に立ち返って説明する。その変化をレポートするとともに、著者なりの分析―官民格差、官官格差、文理格差の検証―を加えた上で、「私なりの霞ヶ関の人材育成に対する改革案を示す」ものとなっている。
 キャリア官僚の人事慣行の実態を示すレポートはそれはそれで大変おもしろいのだが、学習ノート的には、明治大学公共政策大学院の田中秀明教授の解説を引きながらオーストラリアの上級管理職制度を紹介する箇所が大変興味深かった。

 オーストラリアでも、従来は日本と同様に、政府の運営は官僚主導だったと言われている。これを政治主導に変えたのが上級管理職制度である。幹部の登用に競争原理を導入したことにより、専門性がより重視される一方で、政策の決定において政治家が主役となったのである。…その結果、内閣府や財務省などの主要官庁で業績を残した者が事務次官に問うようされるなど、内閣の政策目的に貢献した者が出世するようになる。そこには省庁の縦割りや政治による情実人事が入り込む余地がなくなり、能力主義に基づく人事が実現する基盤が築かれたといわれる。(p55)
 上級管理職制度の利点について、田中は『日本経済新聞』の「経済教室」(2013年10月29日付)で、次のように結論づけている。/「この改革により省庁の縦割り主義、縄張り意識は是正された。幹部になるには公募の競争に勝つ必要があり、教育省出身だからといって教育省の幹部になれないからだ。省益ではなく、内閣の政策目的に貢献する者が出世するようになった。これは省庁の予算獲得競争をやめさせる意味でも重要な改革だった。また首相や大臣の政治顧問が強化された。中立的な政策助言をする公務員の役割を維持する一方で、大臣の政治的指導力を強化したのである。」(p56)
 「日本の公務員は制度の建前は中立だが、実際には政治化している。政治化とは、与野党の国会議員との濃密な接触から政治的に強い影響を受けること、公務員や省庁が自らの利害を追求することである。一旦省庁に配属されれば、その省庁の入省年次別の背番号が一生ついて回る。入省当初は天下国家を論じていても、次第に省庁の利害を守るようになり、政策の立案実施もゆがめられていく。公務員の政治化は裏返せば専門性の劣化である」(p58)
 「新しい幹部公務員制度は、最終的には首相・官房長官・大臣で協議して幹部人事を決めるものですが、タテマエは資格任用でありながら、身分保障を維持して事実上の政治任用に一歩踏み出そうとするものです。首相などにごまをすり気に入られた者が出世することになるでしょう。実際、なぜあの人が次官や局長になったのかという話を霞ヶ関で聞きます。これは、すでに政治化している公務員を、さらに政治化させるものです。政策を決めるのは政治ですが、公務員が政治化すると、政策立案が政治的なバイアスで歪められる。英国は政治主導の国と言われていますが、政治家に公務員の人事権はありません。政治任用を強化するよりも、日本の公務員制度改革が本来めざしている資格任用を徹底させることが、真の制度改革につながると私は考えています。」(p59.60)

 そのほか、キャリアとノンキャリアの関係を紹介する章で、次のような記述あったので記録の意味で掲載しておく。ただし、現行人事評価制度が導入される前の話である。

 …90年代初め、主税局幹部と人事談義をしている時、ふと彼が漏らした人事考課をめぐる格差の実態である。/「大蔵省(当時)の人事考課はA、B、C、Dの四段階だが、Dは長期の病欠など特殊な場合だけで、実質的に三段階で評価している。ひとつの課の中では、まず係長がやって、次に課長がやるが、ただしそれをやるのはノンキャリアだけ。キャリアは局長が評価するものの、全員にすべて『C』をつける。それはノンキャリアのために、AとBを残しておいてあげる工夫で、とにかくキャリアは全員がC。それでは、人事考課にならないだろうとお叱りを受けそうだが、キャリアはキャリアの世界で以心伝心の評価があり、『あいつは引き上げよう』『あいつは飛ばせ』という何人かの上司の声の集積が、次のポストを決めていく仕組みになっている」(p133)


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416.読書=『働く女子の運命』 [29.読書]

 濱口桂一郎『働く女子の運命』(文春新書、2015年)
 濱口氏の新書はこのコーナーでも、『新しい労働社会』(岩波新書、2009年)と『日本の雇用と労働法』(日経文庫、2011年)を取り上げた。さらに、『若者と労働』(中公新書ラクレ、2013年)、『日本の雇用と中高年』(ちくま新書、2014年)と読み進めてきた者にとって、本書は待望の新書であった。
 日本型雇用システムから女性労働の現状を説明する著者の主張は、これらの新書を読んできた者にはなじみ深く、その意味ではびっくりすることはない。しかし、「どうして女性の働き方はこうなってしまうのか」とボヤッとでも考えてきた者にとっては、改めて、現状理解の肝を示してくれている。
 「給与」とテーマとするこの学習ノートにとっては、「第2章 女房子供を養う賃金」は必読の章なのであるが、「終章」が本書全体のまとめとなっているので、少し長いが、全文掲載しておきたい。

 終章 日本型雇用と女子の運命
 今日の日本における日本型雇用システムと女性労働をめぐる状況は何重にも複雑に錯綜しています。一九九○年代に日本型雇用に起こった変化は、中核に位置する正社員に対する雇用保障と引き替えの無限定の労働義務には手をつけず、もっぱら周辺部の非正規労働者を拡大する形で進みました。それまでデフォルトで差別されていた女性は、男性並に働くことを条件に総合職、基幹職として活躍していきますが、それができない多くの女性は、一般職という安住の地から非正規労働という下界に追いやられていきます。一方、はじめから正社員コースがデフォルトであった男性は、とりわけ就職氷河期の若者(今や中年層ですが)を中心に非正規労働化していき、これが(女性非正規では意識されなかった)「格差社会」問題を意識させるようになります。
 一九八○年代には日本型雇用を勝ち誇る日本経済の原動力として賞賛していたネオリベ派は、一九九○年代にはそれを経済沈滞の原因として糾弾するに至りますが、その際、世界に例を見ない雇用契約の無限定性にはほとんど目を向けず、もっぱら生活給の必要ゆえの年功的昇給を目の仇にし、成果主義を唱道しました。欧米の成果給は契約に定める職務の成果を測ります。しかし日本では、仕事に値段がつくのかそれとも人に値段がつくのかという賃金論の「いろはのい」が全く無視され、職務無限定というデフォルトルールになんの変更もなく、「成果を挙げていないから賃金を上げる」理屈づけの材料として強行されたのです。職務の定めなき成果主義の強行は、評価に納得できない労働者の不平不満の元となり、二○○○年代には批判がわき起こりました。ただその批判は、旧来の「ポストで処遇する」日本型雇用を懐かしむばかりで、将来への展望を開くようなものではありませんでした。
 もちろん、職務の定めなき日本的成果主義という矛盾に満ちた存在も、「”妻子を養う”男の生活費にみあう賃金に、女をあずからせるということ自体が論外」というイデオロギーに悩まされてきた女性たちにとっては、ある意味で福音だった面も否定できません。しかしこの「福音」は、何をどこまでやれば成果を出したことになるのかが不明確なまま、無制限な長時間労働による成果競争の渦の中に女性を巻き込むものでもありました。そのような無理な競争に食らいついていけない女性たちは、差別ゆえではなく自らの主体的意思によってそこから降りることを余儀なくされます。そして、そういう日本的成果主義とはあたかも切り離された別世界のお話であるかのように、二○○○年代にはワークライフバランスの大合唱がわき起こり、ノーマルトラックとは区別されたマミートラックが作り出され、その両側に分断された女性たちがどちらにも不満を募らせるという状況が進んでいるのが現在の姿と言えましょう。
 この多重に錯綜する日本型雇用の縮小と濃縮と変形のはざまで振り回される現代の女子の運命は、なお濃い霧の中にあるようです。


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392.読書=『メシが食える教育』 [29.読書]

 高濱正伸『メシが食える教育 「官民一体校」の挑戦』(角川新書、2015)
 著者は、花まる学習会代表。2015年4月から、佐賀県武雄市の竹内小学校をモデル校とした官民一体型の小学校が開校する。
 そのこと自体は既に大きく報道されているのだが、単なる公立学校の民間委託の発想でも、既に存在する公私協力方式による公立学校でもない。その中身は、この新書を読んでいただくこととして、まあ、著者の元気あふれる姿が目に浮かぶ本である。

 目次の章立てを見ておく。

 はじめに
 第1章 学校と先生が危機に瀕している
 第2章 親を味方にする
 第3章 哲学することの大切さ
 第4章 メシが食える大人とは
 第5章 学校と塾の未来像
 第6章 三人の出会いの物語
 おわりに

 手にとってまず意外に思ったのは、第1章を「学校と先生が危機に瀕している」と題し、多忙な教師たちの厳しい現状の認識を示していることだった。
 「その人たちに実際会って話を聞いてみて、まず感じたのは「疲れ果てている」ということ。/まず、やるべきことが膨大にある。…/先生たちは、「やるべきこと」をこなすのに精一杯なのです。私から見たら、これだけのことをよくこなしていると感心するばかりです。今の小学校は、先生たちがやるべきことがあまりに多すぎるのです。当然、残業も多くなります。心身ともに休める時間が削られてしまうのもやむをえません。」
 「「やりたくてもできない」。それが現場の先生たちの本音なのです。先生が先生でいられない仕組み。先生が先生として機能できない仕組み。それが今の一番の問題なのだと気付きました。」

 長く塾経営を行い、学習指導を行ってきたからこそこのように感じられたのだろう。
 もう一カ所、引用。

 「さて、本書中、先生の「結果責任」について言及しましたが、ここは誤解を招くところなので、一言添えておきます。間違っても「今の先生たちはダメだからクビにしろ」という意味ではありません。予習に追われ、雑務に追われ、モンスターペアレンツの攻撃におびえ、疲れ果てている先生方を、安らかで充実した教師生活に再生させる肝心要のポイントが、結果責任だと信じているのです。」

 この辺りは花まるメソッド実践者の面目躍如といった主張だろう。元気いっぱいの塾長なのだが、本書のなかでは、それとなく心配ごとも述べている。さて、どんな小学校が生まれることになるのか、これからも注目したい。

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388.読書=『これだけは知っておきたい 働き方の教科書』 [29.読書]

 安藤至大『これだけは知っておきたい 働き方の教科書』(ちくま新書、2015年)
 著者は、1976年生まれ。現在は日本大学准教授で、専門は契約理論、労働経済学、法と経済学と紹介されている。
 「はじめに」に次のように書かれている。

 この本では、「働く」ということについて考えます。その際に、わが国の法律や慣習がどうなっているのか、また経済学ではどのように考えるのかという二つの視点から見ていきます。ただし法律や経済学といっても難しいことは扱いません。多くの人が、暗黙のうちに「だいたいこんな感じかな?」と思っていることを、少しだけ丁寧に説明していきます。
①私たちの社会において、働き方の仕組みはどうなっているのか
②現在の仕組みにはどのような問題があるのか
③働き方はこれからどのように変化するのか
④私たちは今後の変化にどのように備えればよいのか
 という四つの疑問に答えます。つまり働き方について、背後にある構造、現状、未来、そして個人にできる対策を順番に考えていきます。
 「そんなことよりも、どうすれば給料が増えるのかを教えてほしい!」などという読者もいることでしょう。しかし本書では給料の話は少ししか扱いません。なぜなら働き方の現在と未来について、また現行の法制度について知っておくことのほうが、長い目で見るとより役に立つからです。
 (略)
 これからしばらくの間、働き方の現在と未来について、一緒に考えて行きましょう。…

 第1章 働き方の仕組みを知る
 第2章 働き方の現在を知る
 第3章 働き方の未来祖知る
 第4章 いま私たちにできることを知る

 第1章の中に「給料はどう決まるのか?」という節があります。
 読み進めていくと労働経済学の先生だけあって、実務ではなく、経済学の理論から給料の話も進んでいく。おそらくは大学生や社会に出たての若者をターゲットにしているのかもしれないのだが、平易な解説が続いていく。「平易な解説」だからといって、内容の程度が低いのではない。よく考えられた説明になっており、勉強になる本である。
 経済学による理論的な理解をベースにした上で、現実の日本の労働法制や労働慣行の理解を重ね、さらに今後の未来予測を踏まえて、自分にできることは何かを考えて行く。
 若者はもちろん、若者以外にも読んでほしい一冊である。

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384.読書=『地方を食いつぶす「税金フリーライダー」の正体』 [29.読書]

 村山祥栄『地方を食いつぶす「税金フリーライダー」の正体』(講談社+α新書、2015年)
 「藻谷浩介氏激賞!!」とする帯に引かれて手に取ってみた。著者は、現役の京都市会議員で、帯には「ベストセラー『京都・同和「裏」行政』でセンセーションを巻き起こした現役市会議員が再びタブーに切り込む問題作!!」とある。
 第1章は、「人件費」が財政を食いつぶす、である。「ちゃんちゃらおかしい特殊勤務手当」という項目もあって「またか」という感じなのだが、一応読んでいくと…、行政職給料表の給料水準の重なりを取り上げている箇所があった。項目のタイトルは、蔓延る「出世したくない症候群」となっている。

 もう一点は、年功序列・終身雇用の究極形と言える人事制度だ。「頑張っても頑張らなくても給与は同じ」「出世しても、出世しなくても給与は同じ」、ただ「年功序列、歳を取った分だけ給与は上がる」というのが公務員人事だ。だから頑張らない職員が後を絶たず、これでは頑張る者も頑張らなくなっていくばかりだ。
 その極端な例が係長昇進だ。(略)多くの自治体では、係長になるには試験を受けねばならない。しかし、係長認定試験の受験率は低迷を続け、その受験率はたった23%。つまり、8割近い職員が係長試験を受けたがらないのだ。京都市に限らず、全国の自治体で同じように「出世したくない症候群」が万円しているとも聞く。
 しかし、なぜ職員は出世したがらないのであろうか。それは、左上図の京都市の行政職の給料表を見れば納得する。
 民間企業では役職に応じて給与水準が異なり、一般的には役職ごとの金額の重なりはほとんどない場合が多い。ところが京都市の給料表を見ると、役職間の給与月額が、かなりの部分で重なっていることがわかる。つまり、わざわざ勉強をして係長試験を受けて、将来苦労の多い管理職にならなくても、ヒラ(係員)のままで残業手当を加算すれば、部長級に近い給与を受け取ることができてしまうわけだ。事実、京都市の場合、職員の役半数が「ヒラ」で退職する。彼らからは、「出世するなど馬鹿らしい」という声まで飛び出しているのが実態だ。(66~67頁)

 掲載されている京都市の行政職給料表の図を見ると、級間の給与水準の重なりが大きい姿が示されている。ただし、正確な金額は明示されていないので、京都市の例規集によって京都市職員給与条例で定められている行政職給料表を確認してみる。

<京都市の行政職給料表>
 1級(係員) 1~97号給 130,200~268,400円
 2級(係員) 1~137号給 178,300~339,400円
 3級(主任) 1~149号給 214,000~394,800円
 4級(係長) 1~117号給 262,300~420,300円
 5級(補佐) 1~105号給 283,700~436,700円
 6級(課長) 1~97号給 315,200~474,900円
 7級(部長) 1~89号給 348,600~519,500円
 8級(局長) 1~81号給 392,500~579,100円

 京都市の行政職給料表は国の行(一)とは異なる8級の級構成であり、それぞれの職の職責の度合いの評価は難しいところがあるが、ざっとみると、総務省が示している都道府県の等級別基準職務表ではなく、国の行(一)の本府省に適用される標準職務のより高い職位を意識したつくりとなっている。例えば、京都市の5級・課長補佐の水準は、国の6級、すなわち都道府県の課長・本府省の課長補佐の水準を上回る水準であり、京都市の6級・課長の水準は、国の7級、すなわち都道府県の総括課長・本府省の室長の水準を上回る水準となっている。
 それはさておき、各級の巾や水準の重なり具合を見ておこう。上下の巾の金額、初号に対する最高号給の率、1級上位の級との重なっている金額、1上位の級と重なっている割合の順番に示す。国の行(一)についても掲載しておく。

<京都市の行政職給料表 上下の巾と水準の重なり>
 1級(係員) 138,200円 2.06 90,100円 65.2%
 2級(係員) 161,100円 1.90 125,400円 77.8%
 3級(主任) 180,800円 1.84 132,500円 73.3%
 4級(係長) 158,000円 1.60 136,600円 86.5%
 5級(補佐) 153,000円 1.54 121,500円 79.4%
 6級(課長) 159,700円 1.51 126,300円 79.1%
 7級(部長) 170,900円 1.49 127,000円 74.3%
 8級(局長) 186,600円 1.48

<行(一) 上下の巾と水準の重なり>
 1級 107,300円 1.78 57,200円 53.3%
 2級 120,300円 1.64 83,400円 69.3%
 3級 130,100円 1.58 91,200円 70.1%
 4級 124,800円 1.47 97,600円 78.2%
 5級 109,900円 1.38 78,500円 71.4%
 6級 100,500円 1.31 55,100円 54.8%
 7級 88,700円 1.24 42,100円 47.5%
 8級 64,100円 1.15 12,600円 19.7% 
 9級 72,100円 1.15 7,800円 10.8%
 10級 40,200円 1.08

 これをどのように考えるか。京都市の行政職給料表の各級の水準の重なり状況はまるで給与構造改革前のようであり、より年功的要素を色濃く残していることは間違いないだろう。

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