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525. 教員に部活交通費なし [32.部活動指導]

 1月31日、共同通信が「23府県、教員に部活交通費なし 公立高校の土日引率、法令足かせ」との記事を配信した。

 公立高の部活動に携わる教員の実態について共同通信が全国の都道府県教育委員会を対象に調査したところ、土日の練習試合で生徒を引率した教員に交通費(旅費)を支給していない自治体が23府県に上ることが31日、分かった。部活による時間外勤務を認めていない国の法令を不支給の根拠とする回答が相次いだ。土日返上で指導する教員の実態と、法令との隔たりが浮き彫りとなった。
 教員の長時間勤務が社会問題となる中、識者らは「国は法令を見直し学校の実情を反映した制度に改めるべきだ」と指摘。部活も含め教員の働き方改革を進めている文部科学省は法令見直しを「検討する」としている。

 記事には「土日の部活の練習試合を引率した教員に交通費を支給しているか」を都道府県別に色分けした日本地図が掲載されている。都道府県教育委員会の回答を取りまとめたもので、「支給していない」とするのは、青森、秋田、山形、宮城、山梨、静岡、富山、石川、岐阜、三重、滋賀、大阪、岡山、山口、鳥取、島根、香川、福岡、長崎、大分、熊本、宮崎鹿児島の23府県で、その他の都道府県は「支給する仕組みがある」となっている。
 新聞記事は更に続く。

 部活の練習試合は土日に多く、遠征することもある。法令は部活による土日の認めておらず、部活は教員の自発的な活動と整理されている。23府県に不支給の理由を複数回答で尋ねると、法令を踏まえ13府県が「時間外勤務が認められていないため」、11府県が「自発的な活動のため」として、いずれも「引率を出張と見なしていない」と答えた。
 残る24都道府県は「支給する仕組みがある」と回答。うち20都道県は「生徒の安全を確保する責任がある」「部活は学校教育の一環」などとして「引率を出張とみなおして支給する」としている。
 文科省は学校数など地域ごとに事情が異なり、支給かどうかは「自治体が判断すること」と説明している。

 部活動の引率旅費の支給にかかわって都道府県で対応が分かれているのは知っていたが、概ね半々の状況となっているとは知らなかった。
 改めてこのノートで書くまでもないことだが、教員の時間外勤務は、超勤4項目を除き命じられない制度となっており、部活動の指導業務については、超勤4項目に該当しないことから、教員の職務と勤務態様の特殊性に基づき実際に行われた場合には、自主的・自発的な勤務と理解されている。
 一方、教員が週休日等において部活動指導業務に従事した場合において、その業務が心身に著しい負担を与えると人事委員会が認める程度に及ぶときには、特殊勤務手当が支給されることとなっており、部活動指導業務への従事は給与制度上の「勤務」であると理解されている。また、教員が部活動の引率指導中に負傷した場合には、地方公務員災害補償法に基づき、公務災害と認定されるのが通例である。さらに、教員の部活動指導中の不法行為により生徒が負傷した場合には、国家賠償法が適用されることが判例上確立しており、同法にいう「公権力の行使に当る公務員が、その職務を行う」ものと評価されている。
 こうしたことも踏まえ、文部科学省は、学校の管理下において行われる部活動の指導業務については、校長から顧問を命じられた教員の職務=公務であると理解している。ただし、正規の勤務時間外における部活動指導hの従事時間は、労基法上の労お堂時間ではない、としているが…。

 ところで、旅費については、地方自治法第204条で「普通地方公共団体は、普通地方公共団体の…常勤の職員…に対し、…旅費を支給しなければならない」と規定し、旅費の額及びその支給方法は、条例で定めなければならない」としている。
 国家公務員の旅費に関する法律はその第1条において、「この法律は、公務のため旅行する国家公務員等に対し支給する旅費に関し諸般の基準を定め、公務の円滑な運営に資するとともに国費の適正な支出を図ることを目的とする」としている。各都道府県の職員の旅費に関する条例も、同様の目的規定を設けていると思う。
 そうなると、教員の部活動の引率指導業務についても「公務」である限りは、その円滑な運営に資するために同条例が適用され、「公務」のため旅行した教員に対して実費弁償としての性格を有する旅費が支給されなければならない。
 特殊な勤務に従事したことから特殊勤務手当という給与を支給しておきながら、一方で公務に伴う実費弁償としての旅費を支給しないというは、どう考えても矛盾であるとしか言いようがない。

 この点に関して、共同通信が報道した23府県のうち、13府県が「時間外勤務が認められていないため」、11府県が「自発的な活動のため」として、いずれも「引率を出張と見なしていない」と答えたとのことだが、どうだろう。
 仕事に伴って発生した費用を会社が負担するのは当たり前のことではないのか。職務の遂行に必要な経費を労働者が立て替えた場合、使用者にその弁償を請求できるのは当然ではないのか。もちろん、労働条件の明示や就業規則で労働者に一定の自己負担を義務づけることは法律違反ではないのかもしれない。しかしながら、「公務」の遂行のために必要となる費用を職員本人に負担させる法令を観たことがない。

 なお、いささか形式的解釈にすぎるが、旅費法(条例)では、「旅行命令」を行うのであって「公務」それ自体を命じたかどうかは問題にしていない。旅費法では、「出張」について「職員が公務のため一時その在勤官署(略)を離れて旅行(略)することをいう」と定義している。(第2条第1項第6号に規定する「出張」の定義では、公務と旅行とを分けている。)つまり、勤務時間外における生徒の引率指導という公務は、給特法の規定に従い命じてはいないが、公務のため一時在勤する学校を離れて旅行することは、旅費条例に基づき命じる手続きを取っているたけであるので、旅行命令を行ったからといって、それが給特法違反とまで評価することはできないのではないか。いずれにしても、これは屁理屈に思える。

 縷々述べたが、これらの論点にかかわっては、元文部官僚の糟谷正彦氏も、超勤4項目以外の業務であっても、教員特殊業務手当の支給対象となるものについては、教員の職務として旅行命令を出せると解釈するのが妥当であるとの見解を示している。(「校長・教頭のための学校の人事管理」)



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524. 部活動の地域移行 [32.部活動指導]

 令和3年1月22日発行の『内外教育』の「教育法規あらかると」に加茂川幸夫氏の「部活動の地域移行」と題したコラムが掲載されている。小見出しには「部活指導を希望する教員への手当」とあり、がぜん興味が湧く。
 前半は、2021年度予算案に盛り込まれた事業の紹介や、これまでの経緯が簡潔に述べられている。中段の最後の行以降の文章を読んで、「おや?」と思ってしまった。

 ただ、関係予算の確保はもとより、検討すべき課題は少なくない。特に、教員の服務関係では、兼職・兼業の在り方や処遇も課題となる。部活動指導には、特殊業務手当として部活動指導手当が支給されているが、きわめて不十分で、その性格も不明確。このような状況を見直せるのが、教育公務員特例法17条で認められる給与を受けての兼職・兼業。教育委員会が許可すれば、給与を受けながら、当該業務に従事できる。これまでも、教職調整額の対象とならない補習授業の謝礼金支払いも、教委が認めることにより可能とされている。(12年5月9日初等中等教育局長通知。)
 休日指導を教員が希望する場合、トータルの多忙さは変わらないかもしれないが、少なくとも、これまでサービス残業だった部活動指導を有給の兼職・兼業に改めることができる。この場合、本務に支障がないよう、許可の要件や処遇面でのガイドラインを示すことが望ましい。

 コラムの性格の故か、紙幅の制限によるものかはわからないが、きわめて荒っぽい説明だなと感じる。いくつも疑問が湧いてくる。例えば、部活動指導手当について「きわめて不十分で、その性格も不明確」としているが、不十分とは業務の負担や働きに見合った額ではないことを指摘しているのだろうが、昭和30年代の教員の超勤訴訟問題の解決策として教職調整額と特殊勤務手当の二本建てにより処遇するという整理になったのではなかったのか。「教育委員会が許可すれば、給与を受けながら、当該業務に従事できる」と書かれているが、正規の勤務時間内の部活動指導も対象に考えているのだろうか。休日の部活動指導について「これまでサービス残業だった」と述べるが、部活動指導手当の支給を評価していないし、どう理解すればよいのか…。一読した限りでは、法制度を踏まえた記述とは思えないし、元文部科学省の官僚だった方が「サービス残業」と言い切っていることに違和感を持つ。

 「サービス残業」が気になったので、もう一度『教育職員の給与特別措置法解説』(宮地茂監修、文部省初等中等教育局内教員給与研究科編著。第一法規。昭和46年)を読んでみる。

(2)教職調整額を四%とした根拠
①教職調整額が四%とされたのは、人事院の意見申出にあるとおりの率とされたからであるが、人事院の意見において四%とされたのは、文部省が昭和四一年度に行った教員の勤務状況調査の結果による超過勤務手当相当分の俸給に対する比率約四%という数字を尊重したからであるということである。
②文部省調査結果の四%の率は、次のような計算によって算定されたものである。
ア 八月を除く一一カ月の平均超過勤務時間は次のとおりである。
  小学校 二時間三六分
  中学校 四時間三分
イ 右の時間から、次のような時間を差引きまたは相殺減する。
(ア) 服務時間外に報酬を受けて補習を行っていた時間を差引く。
(イ) 服務時間外まで勤務する業務がある一方において、服務時間内において社会教育関係団体等の学校関係団体の仕事に従事した時間等があるが、今後においては、個々の教員についての校務分掌および勤務時間の適正な割り振りを行なう等の措置により、各教員の勤務の均衡を図る必要がある。右の調査結果は、教員自身の申告に基づくものであるが、これを、職務の緊急性を考慮し、超過勤務命令をかけるという観点から見直しをしてみ、これら社会教育関係活動等の服務時間内の勤務時間は、服務時間外の勤務時間から相殺減することとした。
ウ 右の結果、次の時間が今後における一週間の服務時間外勤務時間数と想定することができる。
  小学校 一時間二〇分
  中学校 二時間三〇分
  平 均 一時間四八分
エ 以上の結果に基づく一週平均の超過勤務時間が年間四四週(年間五二週から、夏休み四週、年末年始二週、学年末始二週の計八週を除外)にわたって行なわれた場合の超過勤務手当に要する金額が、超過勤務手当算定の基礎となる給与に対し、約四%にそうお党したものである。
 なお、高等学校についても同様の算定を行うと、差引控除後の超過勤務時間数は、全日制三八分、定時制〇分となり、小中学校に比して少なくなっている。
オ 以上のようにして算定された教職調整額は、諸手当へはねかえることにされているため、実質的には、約六%の手当措置に相当するものであり、その額が決して低いものではないことは、次の答弁からもうかがえるように人事院も自信を持っているところである。(110~112頁)

 昭和42年の教員の勤務状況ちょうさについては、別の個所でも説明がある。

 二 昭和四一年の教職員勤務状況調査
 一で述べた経緯により、昭和四一年四月三日から昭和四二年四月一日までの一年間にわたり、教職員の勤務状況の調査が行われた。この調査は、教職員の勤務状況を、条例・規則等の規定に基づいて割り振られた毎日の勤務開始時刻から勤務終了時刻までのいわゆる服務時間内に仕事をした状況と、校長の超過勤務命令のいかんにかかわらず、服務時間外に仕事をした状況とを調査したものである。このうち、本調査の主目的である服務時間外の勤務状況は次に述べる方法によって調査している。
(1) 服務時間外の勤務でも学校敷地内における勤務は、原則として調査対象としたが、自主研修、付随関連活動(関係団体活動等)および宿日直勤務については調査対象としなかった。
(2) 服務時間外の学校敷地外における勤務のうち、修学旅行、遠足、林間・臨海学校、対外試合引率、命令研修、事務出張にかかるものについては調査対象とし、次の方法で時間計算した。
(ア) これらの勤務が宿泊を伴わない場合
当該勤務の開始時刻から終了までの時間から、服務時間を差し引いて計算した。
(イ) これらの勤務が宿泊を伴う場合
「平日の勤務」…服務時間外の勤務はないものとして計算した。(出張の場合には通常の場合、超過勤務はないものとする考え方と同じ。)
     「日曜日の勤務」…平日の服務時間に相当する時間の勤務に限り調査したが、当該勤務時間は、服務時間外の勤務として計算した。
     「土曜日の所定の勤務終了時刻以降の勤務」…平日の服務時間から土曜日の所定の服務時間を差し引いた時間内の勤務に限り、当該勤務時間を服務時間外の勤務として計算した。
この調査の調査対象数と、調査の結果は、二四、二五頁の表のとおりであった。(表、省略)(23~26頁)

 これらの記述を読んでいくと、服務時間外の部活動指導は、超過勤務時間数として計算されているように読めるのだが、積極的な記述がないので、よくわからない。そこで、巻末に調査結果の概要が収録されているので、確認してみる。

 まず、「8月を除く11か月の平均超過勤務時間」どうかというと、年間平均では小学校は2時間30分、中学校は3時間56分となっている。これを12倍した時間から8月の超過勤務時間として小学校1時間16分、中学校2時間29分を差し引いた後11か月の平均を計算すると、本文の記述どおり、小学校は2時間36分、中学校は4時間3分となった。

 ここから本文に記載に従って対象外の時間を差し引きあるいは相殺減してみたい。
まず、「服務時間外に報酬を受けて補習を行っていた時間」を差引こととしたいが、一覧表では「補習・クラブ等指導」とまとめられていて、切り分けができない。記述を読んでいくと、小学校ではゼロ、中学校でのわずかな時間であることがわかったので、とりあえず、影響がごく小さい者としてここでは計算しない。
 次に、「社会教育関係活動等の服務時間内の勤務時間」を服務時間外の勤務時間から相殺減する計算をしたいのだが、Ⅳ付随関連活動のB社会教育関係活動の服務時間内の勤務時間を見ると、小学校は4分、中学校は5分であり、これだけでは本文に記載の「今後における1週間の服務時間外勤務時間数」には遠く及ばない。そこで、本文の記述では「等」の文字が使用されており、文章全体から考えるとA関係団体活動も含むと思われる。このA関係団体活動とは、「PTA活動(事務を含む)。校長会・教頭会・教科連絡協議会等のメンバーとしての活動」と説明されている。ちなみに、「校長の承認による研修会・研究会」は「承認研修」の中に含まれており、カウントされていない。そこで、Ⅳ付随関連活動の全体を相殺減の対象とすると、小学校は8月を除くと30分(年平均31分)、中学校は27分(年平均28分)となる。この時間数を控除すると、小学校は2時間6分、中学校は3時間36分となるが、本文記載の小学校1時間20分、中学校2時間30分にはそれぞれ46分、1時間6分届かない。
 どうかんがえても、これら以外の勤務時間が控除されていると考えるほかない。

 そこで、教員の勤務種類別の時間数を示した調査結果の表を眺めていくと、Ⅰ指導活動の中の項目に気になるものが2つある。
 一つは、C研修のうち「3自主研修」の服務時間内の時間で、小学校30分、中学校34分が含む時間外の時間から相殺減されてはいないか。
 二つは、A直接指導活動・2課外指導のうち「補習・クラブ等指導」の含む時間外の時間で、小学校9分、中学校56分が差し引かれてはいないか。補習はほぼゼロで、ここでいうクラブ活動は「正課のクラブ活動の時間を超えて行うものの指導等」と説明されている。「等」とあるが、これは、授業に組み込まれない臨界・臨海学校等である。
 ここで計算をしたいのだが、残念ながら月別の時間数が示されていないので、正確な計算ができない。8月を除いた11か月の平均を計算すると年間平均の数値から少し動くと思われるが、計算のしようがない。
 しかたがないので、年間平均の数字をそのまま控除してみる。まず、自主研修の時間を相殺減すると、小学校は1時間36分、中学校は3時間2分となる。小学校はあと16分だが、中学校はあと32分差し引かないと合わない。更にクラブ活動等を差し引くと、小学校は1時間27分でほぼ一致する。中学校は2時間6分となって24分引きすぎとなる。しかし、クラブ活動等を差し引かないと、ほかに引く時間がない。夏休みは中間に練習を終えると考えれば時間外は少なくてすむとも考えられるので、やはりクラブ活動の超勤時間を差し引いていると考えてよいのではないだろうか。

 ここでようやく1月22日発行の『内外教育』のコラムに戻る。
 「これまでサービス残業だった部活動指導」と述べているのは、昭和41年の教員の勤務状況調査の結果、服務時間外勤務時間からクラブ活動の指導時間が差し引かれたことを、つまり、教職調整額4%の基礎とされた超過勤務時間に算入されていないということを承知の上でのことなのだろうか。もしそうだとするならば、このノートで考察した結果を裏付けることになるのだが。
 ということは、つまり、部活動指導に関しては、教職調整額と特殊勤務手当の二本建てで処遇されはいないということ、言い換えると、本給が支給されていないにもかかわらず、特殊勤務手当だけが支給されているのだ。ということは、最低賃金にも満たない額で「きわめて不十分」であり、「その性格も不明確」とのコラムの主張は、首肯できることになる。
 一読した段階ではなんとなく違和感を覚えたのだが、改めて教員の給与制度の経緯を確認していくと、部活動指導の処遇に関する中途半端な構造が鮮明になり、「荒っぽい」と感じたコラムの筆者の主張も理解できるのである。



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255. 部活動指導と給与(その6) [32.部活動指導]

 部活動指導の位置づけについては、従来、様々に議論のあったものであろう。深入りするつもりは毛頭ないが、「社会体育や社会教育に位置づけるべき」、「社会的な受け皿がない段階では、学校教育の一環として実施せざるを得ない」、「生徒指導にとって、部活動は不可欠の教育活動である」などの主張がなされてきたのではないかと思う。位置づけ論を議論しても、現実を考えた場合には、教員が部活動指導を担わなければならない現状が一気に代わる訳ではないので、現状のままにこのややこしい問題を検討するしかないだろう。
 また、現実の部活動指導を前提にした場合には、正規の勤務時間内に収まる業務ではないことは関係者の共通理解するところである。例えば、中教審初等中等教育分科会「学校・教職員の在り方及び教職調整額の見直し等に関する作業部会」においても、「部活動指導に予め教員の勤務時間を割り振ることは、現状の体制では、これを原則とすることは難しい」(第10回資料1 教職調整額を時間外勤務手当化した場合における各論点に関する主なご意見)と指摘されている。資料1には、様々な意見が掲載されているが、そう簡単に解決できるものではない。
 仮に、「生徒指導の一環として実施する部活動は勤務時間内に終了するように活動時間を設定し、競技スポーツは学校体育と切り離し、教員の職務ではないとして別の処置をする」と整理したとしても、結局は、実態を明確に切り分けることは困難であろう。

 以前このノートで、昭和41年度の教員勤務状況調査の結果に基づき4%を算出する過程で対象外あるいは相殺減した時間を見ていくと、クラブ活動の時間も減じられているように思うとの仮説を示した。勤務時間外の部活動指導を教員に命じて行わせることはできないと整理されたことも、この考え方を補強しているように思える。そして、人事院は、教員の職務と勤務態様の特殊性に基づき勤務時間の内外を包括的に評価する本俸的給与として教職調整額を支給するという制度を創設した上で、心身に著しい負担が生じたときに限って特殊勤務手当を支給するという現行制度を編み出したのである。改めて、「うまく考えたものだな」と感心するばかりだが、ここで確認しておきたいのは、「勤務時間外の部活動指導については、厳密な意味での勤務時間管理を諦めている」ことだ。元々、教員の勤務態様の特殊性から超過勤務手当制度がなじまないとの考え方が根本にあるのだが、いわゆる限定4項目以外の業務については、教員の自発性・創造性に期待することとし、厳密な意味での勤務時間管理を放棄しているように思えるのである。労働者の総実労働時間の短縮や適正な勤務時間の把握が求められる今日、勤務時間管理を放棄するような取扱いは問題ではあろう。しかし、そのように指摘したとしても、「部活動指導の時間を予め教員の勤務時間として割り振ることは不可能」という現状を改善することに直結する訳でもない。

 そのように考えてくると、現状を曖昧なままにしておくのではなく、「勤務時間外の部活動指導については、勤務時間管理の対象外」とすることにして、それを法令上明確に規定したらどうなのかと思ってしまう。法定労働時間又は所定労働時間以外の時間において従事する部活動指導業務については、教員も事務職員も民間労働者も原則として勤務時間にカウントしなくてもよいことにするのである。現行の給与制度の中でも、例えば、宿日直勤務は勤務時間規制の対象外とする制度があるし、一定の裁量労働についても勤務時間管理の縛りが緩いのだから、考え方次第で制度化できないのだろうか。そして、業務従事の実態に労働者性がない場合には、労働契約に基づかないものとして謝金を支払うことでよいと思われるし、業務従事の実態に労働者性が認められる場合には、労働契約に基づきそれにふさわしい賃金を支給すればよいのである。イメージで述べれば、外部指導者の場合、年間を通じて継続的に委嘱するなら非常勤職員として報酬を支払うのであろうし、週1回程度の範囲内のものであれば、謝金で対応することも考えられる。また、仮に部活動指導のための専任の教員を雇えば、日曜日などの平日以外に正規の勤務時間を割り振って給料を払うのであろうし、平日の授業を担当している教員に対して付加的な業務として顧問を命じ、部活動指導にあたらせるのであれば、教職調整額制度の下での特殊勤務手当が実態に合うのか、超過勤務手当がふさわしいのか、あるいは別の手法が考えられるのかという議論になるのだろう。
 もちろん、この案を実現したからといって、それだけで教員の実働時間が減るわけではない。けれども、勤務時間外の部活動指導を勤務時間管理の対象外とすることで教員の超勤問題を整理し、とりあえず部活動指導問題とは切り離して、これ以外の様々な教員の超勤実態の改善策を検討することができるし、部活動指導への外部指導者の招聘や中体連等の申し合わせ事項の徹底、顧問委嘱の在り方の見直しなどの施策と相まって、教員の勤務時間を巡る混乱を解決することに繋がっていくのではないかと思うのだが、どうだろうか…。
 それとも、「問題を先送りにした開き直りだ。」あるいは、「現状の教員の長時間労働を正当化するだけだ。」と批判を受けることになるだけなのだろうか…。

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254. 部活動指導と給与(その5) [32.部活動指導]

 前回まで、教員の職務と部活動指導との関係を巡る問題や社会教育業務について考察してきた。その結果、教員が部活動の指導業務に従事した場合と社会教育の事業に従事した場合との違いは、結局、「労働者性の判断基準」の問題に帰着すると思われる。

 「労働者」とは、「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」(労基法第9条)とされているが、その労基法上の「労働者」の判断基準は、次のとおりとされている。(労働基準法研究会第1部会報告『労働基準法の「労働者」の判断基準について』(昭和60年12月19日)から)

1.「使用従属性」に関する判断基準
 (1) 「指揮監督下の労働」に関する判断基準
  イ.仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
  ロ.業務遂行上の指揮監督の有無
  ハ.拘束性の有無
  ニ.代替性の有無
 (2) 報酬の労務対償性
2.「労働者性」の判断を補強する要素
 (1) 事業者性の有無
  イ.機械、器具の負担関係
  ロ.報酬の額
 (2) 専属性の程度
  イ.他社業務への従事の制度上の制約又は事実上の困難
  ロ.固定給部分があり、額が生計を維持しうる程度で報酬に生活保障的要素が強い

 労働法制については全くの素人であり、各判断基準をどのように理解するのかよく分からないのであるが、この「使用従属性」に関する判断基準に照らした場合にどうなるか、荒っぽいけれども、私見によって試みに当てはめてみたい。
                 部活動指導(時間内) 部活動指導(時間外) 社会教育業務
(1) 「指揮監督下の労働」
 イ.諾否の自由の有無    ×(命じ得る)      △(命じられない)     ○
 ロ.指揮監督の有無      ○(命じ得る)      △(命じられない)     ×
 ハ.拘束性の有無       ○             ×              ×
 ニ.代替性の有無       ×             △              ○
(2) 報酬の労務対償性      ○(本給)        △(特勤手当)      ×(謝金)

 部活動指導については、勤務時間内は職務として命じることができるが、勤務時間外は命じて行わせることはできない。糟谷正彦『校長・教頭のための学校の人事管理』における人事院の見解を説明する下りに、「勤務時間外のものであっても学校が計画し実施するものと認められるもので、その業務の執行方法、成果の報告などについての校長の指示に従い、校長が費任をとりうる態勢の下に実施されるものも含まれると解しているようである」とあるので、勤務時間外の場合には、(1)のイ・ロを判断するにあたっては、「△」とし、(1)のハは「×」とした。(ただし、公務災害制度の理解では、勤務時間外であっても任命権者の支配従属下にあるものと理解されているようであるが…。)また、外部指導者を招聘することが許されるので、(1)の二は「△」とし、(2)の労務対償性については、時間外勤務手当制度が適用されていないため、とりあえず「△」とした。
 こうして並べて比較して見ると、勤務時間外における部活動指導については、労働者性が必ずしも高いとはいえず、労働と社会教育業務との中間に位置するグレーな位置づけと理解せざるを得ない制度となっている。
 ところで、事務職員に部活動の指導を命じた場合には、このような整理にはならず、勤務時間外であっても命じ得る業務であり、従事した場合には時間外勤務手当が支給されることになるものであろう。そうでなければ、教員と同じように職務に従事したとの整理にならないし、時間外勤務手当ではなく謝金を支払うこととすれば、社会教育業務と同じ整理になるからである。

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253. 部活動指導と給与(その4) [32.部活動指導]

 この問題の考察を進めるために、少し遠回りにはなるが、教員の職務と社会教育との関係について、給特法制定時の文部省がどう考えていたのか確認しておこうと思う。
 昭和46年に社会教育局長名で各都道府県教育委員会教育長あてに通知が発出されている。以下に抜粋してみる。

 「家庭教育学級の開設および運営について」(昭和46年11月15日付け文社婦第172号社会教育局長通知)抜粋
 また、従来、家庭教育学級の運営にあたつて、その講師・助言者等の役割を果たす教員の勤務時間について論議がありましたが、このたび、「国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」(昭和四六年法律第七七号)および関連規程の制定公布に伴い、事態を明らかにする必要が生じました。
 よつて、この際、家庭教育学級の開設および運営等に関し、小職の見解を左記のとおり述べますので、管下市町村に対する指導にあたつて参考にしてください。
                   記
3 教員の勤務時間と家庭教育学級との関係について
 従来、家庭教育学級の運営に際して、それが小学校および中学校の校舎内で行われることが多かつたことから、家庭教育学級の業務に従事する教員の勤務関係に明確を欠く点があつたが、「国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」(昭和四六年法律第七七号)および「教育職員に対して時間外勤務を命ずる場合に関する規程」(昭和四六年文部省訓令第二八号)の制定公布にともない、当該勤務関係を明らかにする必要が生じたので、こんご、家庭教育学級の事業に従事する教員の業務は、その校務遂行に属するものではなく、一個人としての学識経験者が社会教育の事業に従事しているものであることを理解し、教員を家庭教育学級の講師・助言者等として委嘱する場合は、原則として、勤務時間外に、かつ相当の謝金を用意して行うようにすること。

 抜粋であるために敢えて補足をすれば、ここで取り上げられている家庭教育学級の運営主体が教育委員会であることに注意が必要である。この社会教育局長通知を消極的に捉えれば、「小中学校の教員の任命権者は県教委であって、家庭教育学級の運営主体である市町村教委ではないから、そこには雇用関係はない」と主張しているようにも理解できる。そのように理解した場合には、県立学校の教員を県教委主催の学校開放講座の講師・助言者等として委嘱した場合にはどうなるのかとの疑問が生じる。しかし、おそらくはそのように消極的に捉える必要はなく、むしろ、家庭教育学級に限定せず、広く社会教育の事業全般にわたって同じ考え方を採用すべきであろう。
 その上で、教員が部活動の指導業務に従事した場合と社会教育の事業に従事した場合とでは、いったい何がどの様に違うのかを考察してみることも有意義であろうと思うのである。それは、見方を変えれば、雇用関係にあるのかないのか、当該業務への従事は労働としての労働に当たるのかどうかという問題に帰着しそうである。


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252. 部活動指導と給与(その3) [32.部活動指導]

 前回、糟谷正彦『校長・教頭のための学校の人事管理』(学陽書房)を引用した。著者は、対外運動競技等引率指導業務について、「本来の職務でないものが合意することで職務となり、それに教員特殊業務手当という給与を支給」すべきという日教組の論法を退けた上で、人事院の見解も無理があるとしつつ、「端的に、…超勤の歯止め項目以外の業務であつても、教員特殊業務手当の支給対象となるものについては、教員の職務として旅行命令を出せる」と主張するのである。
 この主張には、いくつか疑問がある。例えば、「時間外勤務を命じられない業務について、教員の職務として旅行命令を出せる」と言う場合の、時間外勤務命令と旅行命令との関係などである。おそらく、それが教員の職務と勤務態様の特殊性なのだろうが、この時点でこの学習ノートが注目しておきたいのは、著者が「本来教員の職務ではない」とする日教組の見解を否定し、「対外運動競技等引率指導業務に従事することは、教員の職務である」との立場を明確にしていることである。「付加的」な職務であるかどうかはここでは問題ではない。「教員の職務である」ことにこだわっているように思うのである。なんとしても「教員の職務である」と位置付けなれば、学校教育活動の現実を否定し、熱意ある教員の取組に水を差すのみならず、ひいては「教育の自由」論や「教諭の職務の独立」論を是認することに繋がると危惧しているのではないかとさえ感じる…。

 さて、この問題を考えるために、対外運動競技等引率指導手当が支給される要件を確認しておきたい。注目するのは、次の部分である。(平13.2.26給実乙第316号)
<人事院が定める対外運動競技等>
(1) その競技会等が国若しくは地方公共団体の開催するもの又は市、郡若しくはこれと同等以上の区域を単位とする学校教育団体若しくは教育研究団体の開催するものであること。
(2) その競技会等への参加が学校により直接計画・実施されたものであること。(すなわち学校教育活動として行われるものであること。)

 『校長・教頭のための学校の人事管理』が紹介する人事院の見解は、これを著者なりに言い換えたものと言えるだろう。確認のためにもう一度引用しておく。
  「また、人事院も、この点について、教員特殊業務手当の支給の対象となる業務には、正規の勤務時間内の勤務および時間外勤務命令にもとづく勤務のほか、勤務時間外のものであっても学校が計画し実施するものと認められるもので、その業務の執行方法、成果の報告などについての校長の指示に従い、校長が費任をとりうる態勢の下に実施されるものも含まれると解しているようである。」

 つまり、学校においては、校長が年度当初に対外競技等への引率指導を含む部活動の指導業務を包括的に命じておくのが通例なのであり、その対外運動競技等への参加が学校教育活動として直接計画・実施されたものである限り、勤務時間外に及ぶ指導業務についても、その都度個別に時間外勤務として命じることなく教員の職務になるというのである。これは、教員の職務は、教員の自発性や創造性に期待するものであるからこそ到達できる論理であろうが、そこには、二つの意味がある。一つは、教員が校長の一般的指示に従わずに実施したものを排除することであり、二つには、社会教育関係の行事に引率し指導する場合を除外することである。

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250. 部活動指導と給与(その2) [32.部活動指導]

 部活動の位置付けについては、東京都教育委員会の「部活動基本問題検討委員会報告書」(平成17年10月)によくまとめられている。この学習ノートの関心は、部活動指導の位置付けと給与上の評価との関係にあるので、この時点では、「部活動指導は教員でなくても可能」であることさえ確認できていればよい。
 さて、少し古くなるが、糟谷正彦『校長・教頭のための学校の人事管理』(第四次改定新版、学陽書房、昭和61年)が示唆を与えてくれる。長くなるが、引用しておく。(300~301頁)鈴木勲『新訂学校経営のための法律常識』(第一法規、昭和61年)(236~237頁)にもほぼ同様の記述があるが、糟谷の方がより明確に問題点を指摘している。

「施行上の基本的な問題点
 ここで基本的に問題となるのは、いわゆる超勤の歯止めの項目との関連である。右の①と②については、訓令第四条第五号および第二号に該当するので超勤を命じうることが明らかであり問題はないが、③と④については問題が残る。たとえば、日曜日に高等学校野球連盟主催の大会などへの引率を命じることができるのかについては、必ずしも明らかではない。
 日教組の見解
 この点についての日教組の見解は、「教特法条例制定において確定した超勤限定項目以外となっている〝対外運動競技等″については、超勤命令は出すことはできない。分会および本人の同意があった場合にのみ命令し得る契約業務であることを明確にすること」とし、「これらの業務を自由意思で契約する場合に、手当支給と代休日を認めることを前提として、合意契約する必要がある」とし、さらに、これらの業務は「職務ではないのであるから〝振り替え″や〝割り振り変更″の対象にならないという見解に立つ」としているのである。しかし、本来の職務でないものが合意することで職務となり、それに教員特殊業務手当という給与を支給するという論法にはやや無理があろう。現行制度では、職務でないものに給与は支給できないので、このような場合には非常勤の委員を兼務させて報酬を出すという形式をとることになっているのである(地自法二〇三①)。
 人事院の見解
 また、人事院も、この点について、教員特殊業務手当の支給の対象となる業務には、正規の勤務時間内の勤務および時間外勤務命令にもとづく勤務のほか、勤務時間外のものであっても学校が計画し実施するものと認められるもので、その業務の執行方法、成果の報告などについての校長の指示に従い、校長が費任をとりうる態勢の下に実施されるものも含まれると解しているようである。しかし、勤務を要しない日にこのような態様の業務に従事することが、まさしく時間外勤務そのものであると思われるので、その説明にもやはり無理があるといえるのではなかろうか。
 そこで、端的に、前に例示したような超勤の歯止め項目以外の業務であつても、教員特殊業務手当の支給対象となるものについては、教員の職務として旅行命令を出せるし、また事故があったような・場合には、公務上の災害として扱うことができると解釈するのが妥当であろう。」

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249. 部活動指導と給与(その1) [32.部活動指導]

 今回は、「部活動指導と部活動手当」をテーマに小考察を試みたい。
 まず、文部科学省が部活動指導についてどのように考えているか、平成19年3月29日に提出された中教審答申「今後の教員給与の在り方について」から抜粋しておく。

3.部活動に係る勤務体系等の在り方
*  現在、部活動は、教育課程外に実施される学校において計画する教育活動の一つとされている。部活動指導は、主任等の命課と同様に年度はじめに校長から出された「部活動の監督・顧問」という職務命令によって命じられた付加的な職務であり、週休日等に4時間以上従事した場合には部活動指導業務に係る教員特殊業務手当(部活動手当)が支給されている。
*  教員勤務実態調査暫定集計の結果に見られるように、中学校の教諭にとって部活動指導に従事する時間がかなり多くなっており、今後、中央教育審議会初等中等教育分科会の教育課程部会等における検討も踏まえつつ、部活動の位置付けを整理していくことが必要である。
*  部活動は、正規の勤務時間を超えて実施されている実態があるが、本来は、教員の他の職務と同様に、正規の勤務時間内で実施すべきものである。このため、外部指導者の活用を促進するとともに、部活動による時間外勤務が可能な限り生じることがないように、校長が適切に管理・監督するよう指導を行うことが必要である。

 ここで注目しておきたいのは、「部活動指導は、付加的な職務」であるにも関わらず、中学校の教諭にとって「従事する時間がかなり多く」なっていることから、「部活動の位置づけを整理していくことが必要」であるとしている点である。また、「外部指導者の活用を促進」すべきとしていることから、「部活動指導は教員でなくても可能」であることも表明している。この文章を読めば、誰もが「文部科学省は、部活動指導の位置付けに苦しんでいるなあ」と感じるのではないだろうか。

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