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286.へき地手当(その11) [35.へき地手当]

 地域主権改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律案(いわゆる地域主権推進一括法案)が、衆議院で一部修正の上、平成23年4月28日に成立、同年5月2日に公布された。この法律は、平成21年10月7日に提出された地方分権改革推進委員会第3次勧告によって示された「義務付け・枠付けの見直し」の第一弾が盛り込まれているのだが、「地域主権」という言葉は野党の主張を受け入れて削除あるいは変更され、法律名は、「地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律(第1次一括法)」となった。

 地方分権改革は、住民に身近な行政に関する企画・決定・実施を、できる限り地方自治体に委ねることを基本として、国と地方の役割分担を徹底して見直す取組であり、「自治立法権の拡大による『地方政府』の実現へ」との副題を付けた地方分権改革推進委員会第3次勧告は、「義務付け・枠付けの見直しと条例制定権の拡大」、「地方自治関係法制の見直し」、「国と地方の協議の場の法制化」を柱としている。
 「義務付け・枠付けの見直しと条例制定権の拡大」は、国が決めていた基準に代えて条例で基準を規定できるよう法律を改正し、地方の独自性の発揮ができるようにすることであるが、へき地教育振興法の一部改正は、そのひとつである。
へき地教育振興法の一部改正の内容は、へき地学校等の指定やへき地手当等の月額に関して、改正前の規定では「文部科学省令で定める基準に従い、条例で指定する(定める)」としていたが、改正後の規定では「文部科学省令で定める基準を参酌して、条例で指定する(定める)」とされ、平成24年4月1日に施行されることとなった。

 ところで、平成21年12月15日閣議決定の地方分権改革推進計画では、「参酌すべき基準」の意義について、「地方自治体が十分参酌した結果としてであれば、地域の実情に応じて、異なる内容を定めることが許容されるもの」と明記している。つまり、地域の実情に応じて、都道府県が独自の基準を設けることが可能なのである。そのため、都道府県が厳しい財政事情を背景に、へき地学校等の規定基準をより厳しく見直すのではないかとの危惧を表明している教職員組合もある。
 しかし、都道府県が独自の基準を設ける場合には、「国の基準を十分に参酌した上で、地方自治体の主体的な判断により、国の基準を補正(上書き)するものであることから、当然、地域の実情に応じて国の基準を補正(上書き)すべき理由が必要となるのであって、理由もなく行うことは許されない」と理解されている。(平成21年6月5日、第86回地方分権改革推進委員会議事録参照。)

 今後、第1次一括法の公布を受けて、文部科学省により、へき地教育振興法施行規則の改正が行われることとなる。その際には、理念的には、基準の大綱化が行われるべきこととなろう。しかし、前回までに考察したとおり、へき地学校等指定基準を20年ぶりに行い、新基準に基づく級地区分の見直しを平成22年4月に行ったばかりである。しかも、へき地手当制度におけるへき地学校等の格付け基準と特地勤務手当制度における特地官署の格付け基準との較差が更に広がった状況にあっては、文部科学省としても、大綱化に向けた指定基準の見直しを短期間に行うことはできないであろう。
 将来見直しが行われるとしても、特地官署の格付け基準と同じとすることは、影響の大きさからしてありえないと思われるが、これまで、教育の機会均等を保障する観点から行ってきた特地官署の格付け基準との差別化について、大綱化後の基準においてどう維持していくのか、難問が控えている。

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285.へき地手当(その10) [35.へき地手当]

 前々回と前回では、旧特地官署指定基準との対比をしながら、新旧のへき地学校等指定基準を概観した。
 今回は、平成22年4月に抜本的に見直された新たな特地官署指定基準について概観しておきたい。

 平成22年4月1日を実施時期とする「特地官署等の見直しについて」と題するペーパーがある。指定基準は、別添の「特地官署等の指定基準」のとおりとされ、抜本的な見直しになっている。
 新たな特地官署等指定基準は、本土に所在する官署については、官署と最寄りの人口集中地区又は準人口集中地区との間における所要時間に応じて、離島に所在する官署については、離島と本土の連絡港との間の距離及び月間航行回数に応じて、級別区分が設けられた。改正されるまでの旧指定基準が採用していた合計点数による級地区分や基準点数表などは陰も形もなくなり、きわめてシンプルな基準に見直された。
 抜本見直しの理由は示されていないが、おそらく、平成の市町村合併に伴い、官署を取り巻く状況は合併前後で同程度であっても、旧基準によって点数化した場合には、アンバランスになるケースが続出したのではないかと想像する。つまり、合併した市町村に所在する官署のうち、合併後の市の中心地=最寄りの市役所までの距離が遠かった官署の場合には、基準点数がその分アップするからである。確かに、市町村が合併したところで、当該官署の所在する地域における生活の困難さや勤務の厳しさの変化に直結するものではないと思われる。しかも、合併した地域もあれば、合併しなかった地域もある中で、従前の指定基準の構造を前提にして補正をしようとしても、要素が複雑になりすぎ、かえって不合理な面がでてくることも容易に想像できる。給与構造改革の一環という位置づけではないにしても、我が国の交通事情等の現状を踏まえて、この際、思い切って基準を合理化し、その構造を抜本的に改革するに至ったのではないだろうか。

 ところで、実際の特地官署等の格付けはどのように変化したのだろうか。本土における格付けの変化を官署の数により概観しておく。
 <旧格付け>
 4級地 1官署
 3級地 3官署
 2級地 17官署
 1級地 20官署
 準特地 39官署
  計  80官署
 <新格付け>
  4級地 2官署
  3級地 1官署
  2級地 11官署
  1級地 20官署
  準特地 14官署
   計  48官署

 こうしてみると、4割に当たる32官署が指定外となっている。1級地以上の官署は、マイナス7官署、準特地だけでマイナス25官署となっている。もっとも、指定外となった官署の内、冬期のみの準特地に指定されている官署が7官署あるから、それを加えると新格付けの官署は計55官署となるが、それでも約3割に当たる25官署が指定外になったことになる。個別に官署を見ていけば、級地がダウンしたところ、変更のなかったこところ、級地がアップしたところと様々ではあるが、格付けの見直しを総体として見れば、やはり厳しいものであったと言えるだろう。

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284.へき地手当(その9) [35.へき地手当]

 指定基準の詳細を見ていくことは退屈かもしれないが、今回は、平成21年4月の省令改正後のへき地学校等指摘基準の点数を外観しておく。

<改正後のへき地学校等指定基準の基準点数>
 駅又は停留所までの距離(A) ★40点(40km)
 旧総合病院までの距離(A) 12点(★28km)
 旧総合病院までの距離(B) 12点(60km)
★病院までの距離(A) 12点(20km)
★病院までの距離(B) 12点(40km)
 診療所までの距離(A) 12点(★14km)
 診療所までの距離(B) 12点(★28km)
 高等学校までの距離(A) 24点(★20km)
 高等学校までの距離(B) 24点(40km)
 郵便局までの距離(A) 12点(★20km)
 郵便局までの距離(B) 12点(★40km)
 市町村教育委員会までの距離(A) 24点(★20km)
 市町村教育委員会までの距離(B) 24点(★40km)
★金融機関までの距離(A) 12点(20km)
★金融機関までの距離(B) 12点(40km)
★スーパーマーケットまでの距離(A) 12点(20km)
★スーパーマーケットまでの距離(B) 12点(40km)
 市の中心地までの距離(A) 12点(★28km)
 市の中心地までの距離(B) 12点(60km)
 県庁所在地又はこれに準ずる都市の中心地までの距離(A) 12点(★60km)
 県庁所在地又はこれに準ずる都市の中心地までの距離(B) 12点(120km)

<改正後のへき地学校等指定基準の調整点数>
 飲料水 10点
 不健康地 20点
 児童生徒の通学距離 10点
 (★学用品購入地までの距離 10点 廃止)
 図書館・博物館までの距離 10点
 (★食料品・日用品購入地までの距離 10点 廃止)
★ブロードバンドサービス 5点
★携帯電話 5点
 教員の数 20点
 分校である場合の本校との距離 10点
★都市近郊調整 △30点(※ダブルカウントしない)

 平成21年4月の省令改正前から変更になった部分に「★」を付けてみた。詳細に見るためには、陸地用基準点数表について各要素の距離別点数を比較しないといけない。結論を先に言えば、へき地学校等指定基準の点数を旧特地官署等指定基準の点数に合わせた形で改正されている。要素としては、へき地学校の指定基準としての特徴を残しつつ、距離別点数については、同じ要素は全く同じ点数にし、特徴ある要素はそれらを総合してほぼ同じ点数になるよう定めている。したがって、基準点数に関しては、指定すべき対象が異なることによる要素の違いはあるが、へき地学校と特地官署で均衡が図られたと考えてよいと思われる。(その後、特地官署等については、平成22年4月に抜本的な指定見直しが行われ、全く異なる基準になったのだが…)
 へき地学校等指定基準の付加点数は、旧特地官署等指定基準に準じて減点調整が導入されたため、調整点数に変わっている。改正の詳細説明は省くが、トータルでみると、旧特地官署等指定基準における加点及び減点の方が、よりメリハリが付くのではないかと思われる。一つは、「集落状況」であり、周囲4km以内に1戸もない場合は30点、周囲4km以内に10戸以内の場合には20点が加点される。もう一つは、「都市近郊調整」で、官署近郊に3万人以上の市町村がある場合、官署からの距離及び規模に応じて、最高30点の範囲内で減点できるとすることは、旧特地官署等指定基準も改正後のへき地学校等指定基準も同じなのだが、減点対象都市が複数ある場合の取扱いが異なるようである。具体的に言えば、特地官署の方は、そのような場合には、その合計点数を上限、単一都市の最大点を下限として調整を行うものとなっているのに対して、へき地学校の方は、省令の規定でもって、30点の範囲内での調整となっているのである。

 かなり細かな内容に及んだが、改正後のへき地学校等指定基準における点数表については、公立の小・中学校等を指定対象とするためのものであることから、点数の設定においては、旧特地官署等指定基準との均衡を確保するためにこれをベースとしながらも、一定の合理化を図りつつ、指定にメリハリを付けることよりも、より広範に指定しうるように配慮したものとなっていると理解してよいと思われる。
 一方、合計点数によるへき地学校等の級別の格付け基準については、敢えて、旧特地官署等の格付け基準よりも15点乃至25点有利にしたままとしているのである。ここに文部科学省の強い意図を感じる。

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283.へき地手当(その8) [35.へき地手当]

 特地勤務手当については、その後、平成10年4月に特地官署指定基準の改正が行われたようである。一方、へき地手当については、平成11年に文部省が各都道府県に依頼して調査を実施したが、結局、特地官署指定基準の改正に見合ったへき地学校指定基準の見直しは行われなかった。以来、平成21年省令改正まで、へき地学校指定基準と特地官署指定基準とは大きく異なる状況となったのである。

 特地勤務手当は、平成22年4月に特地官署等の見直しが実施された。その際、従来の指定基準が抜本的に改正され、従来の点数に基づく級地指定から、本土に所在する官署で言えば、官署と最寄りの人口集中地区等との間における所要時間に基づく級地指定に変わった。一足飛びにこの基準とは比較できないので、平成22年改正前の旧指定基準、すなわち平成10年4月の旧基準を取り上げる。

<旧特地官署等指定基準>
 220点以上         6級地(25%)
 180点以上220点未満 5級地(20%)
 140点以上180点未満 4級地(16%)
 100点以上140点未満 3級地(12%)
 70点以上100点未満  2級地(8%)
 50点以上70点未満   1級地(4%)

次に、へき地学校の指定基準を確認する。

<へき地学校等指定基準>
 200点以上         5級(25%)
 160点以上199点以下 4級(20%)
 120点以上159点以下 3級(16%)
 80点以上119点以下  2級(12%)
 45点以上79点以下   1級(8%)
 35点以上44点以下   へき地学校に準ずる学校(4%)

 ( )内は、平成14年の地方分権改革推進会議の意見等を踏まえて措置された「支給割合の弾力化」以前の級別支給割合である。

 両者の基準を比べると、へき地学校等指定基準は、旧特地官署等指定基準よりも15点乃至25点有利になっていたことが分かる。少なくとも、平成10年4月から10年間は、各要素の点数を取り上げるまでもなく、合計点数による級地区分の基準それ自体、へき地学校の指定の方が有利になっていたのである。
 昭和35年当時を振り返ると、「三十五年四月、給実甲による人事院基準は文部省令の影響を受けて手直しされた」のであるが、その後は、人事院が主導的に指定基準の見直しを行い、文部省は、人事院の昭和54年改正を踏まえつつ平成元年に指定基準を改正したのであった。ところが、文部省は、人事院の平成10年改正に対しては、一応予備的調査は行ったものの、おそらくは影響の大きさに鑑みて、へき地学校指定基準の改正を見送ったのではないかと思われる。その結果、級地区分の指定基準は同一で、各点数表の構成もほぼ同じであるが、「教育公務員の特殊性を強調した「付加点」による両者の差は依然として残されている」という昭和35年当時の様相とは、著しく異なる状況になっていたのである。

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282.へき地手当(その7) [35.へき地手当]

 前回、昭和35年当時のへき地学校等指定基準と隔遠地手当支給官署指定基準との比較を行った。
その後、昭和45年には、給与法が改正されて、隔遠地手当は特地勤務手当に名称が変えられ、級地区分も1~5級地が1~6級地に拡大された。これに伴い、へき地手当も改正され、へき地学校に準ずる学校に対しても手当を支給することとなったのである。
 なお、隔遠地手当の特地勤務手当への改正後は、特地官署指定基準が公表されなくなったことから、その後の指定基準の変遷が分かりにくく、両基準の比較考察を行おうとする「学習ノート」にとっては、面白くない状況である。

 昭和63年4月19日付けの「内外教育」誌に「へき地指定の見直し」と題した記事が掲載されている。以下、記事の前半部分を抜粋する。

○…へき地指定基準の見直しがいよいよ今年度から本格化する。文部省は近く都道府県教委にへき地校の実態調査を依頼、七月中旬までにデータを集めて分析し、十二月を目途に指定基準(へき地教育振興法施行規則)を改正するというスケジュールである。
○…同問題の発端は、六十一年十二月に会計検査院がへき地校のサンプリング調査に基づいて文部省に処置要求を行ったことである。要求は大きく分けて二点。一つは、四十七年の改正以来、へき地の条件が変わっているのに指定基準に見直しの規定がなく、文部省も各都道府県に適切な指導をしていないこと。もう一つは、へき地手当にかかわる級別指定(一~五級)を適正にすること。文部省は、この処置要求に対応するため昨年、へき地教育振興法施行規則を改正し、適正なへき地指定をするとともに、六年ごとに指定を見直すよう、各都道府県に通知を出した。しかし、これは暫定措置で、指定基準の本格的な見直しは、今年度ということになる。

 続く同年4月26日付けの「内外教育」誌では、「へき地指定基準、今年中にも改正へ」との見だしを付けて、文部省が各都道府県に実態調査を依頼したことを報道している。

 文部省はこのほど、離島や山間地などの学校の教職員に支給するへき地手当(最高で二五%)の算定基礎となるへき地指定基準(へき地教育振興法施行規則)を今年中に改正、来年四月から適用する方針を固めた。このため各都道府県にへき地学校実態調査を七月中旬までに実施するよう依頼した(四月十九日付「ラウンジ」欄参照)。交通機関の整備などでへき地学校の周辺が変化しているのを踏まえ、実態に合わせた新しい指定基準を定めようとの狙いで、指定基準の改正は四十七年以来のこととなる。
 (中略)
 これを受けて文部省は、六十二年度に全国で約六千三百校に上るへき地学校の実態と級別指定状況を予備的に調査したところ、会計検査院の調査と同様、ほぼ半数が実際より高い級別指定となっていた。(略)ただ実態に合わせて指定を見直すと、現行の級別より二段階以上変動する場合もあるため、規則改正では六十三年度は激変緩和の特例措置を講じることとしている。具体的には指定見直しで現行の指定級別より二段階以上変動する場合は一段階のみの変動に、一段階の変動は現行指定級別の据え置きとすることになっている。

 同記事によれば、「指定基準の改定に当たっては、…人事院が五十四年度に見直ししていることも勘案するとしている」とある。
 少なくとも、文部省は15年以上にわたってへき地学校の指定基準を見直すことなく、放置していたということであったらしい。

 平成元年のへき地学校指定基準の主な改正点を挙げておく。
1 基準点数の改正
  陸地用基準点数表(別表一)では、特地官署指定基準に合わせた要素の追加や市町村教育委員会までの距離の点数を約2倍引き上げている。
2 付加点数の改正
  文化的諸条件の変化に対応して、該当校が著しく減少し、へき地度を測る要素としては不適当な「電気の供給状況」、「電話の設置状況」などといった要素を廃止している。
  新たな要素として、「文化施設までの距離」及び「食料品・日用品等の購入地までの距離」を加えている。
3 級地点数の改正
  1級地の最低点数を特地官署指定基準に準じて、5点引き上げ45点以上としている。


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281.へき地手当(その6) [35.へき地手当]

 「へき地手当(その5)」では、全国へき地教育連盟発行『へき地教育の振興』に収録されている「三十五年四月、給実甲による人事院基準は文部省令の影響を受けて手直しされたが、教育公務員の特殊性を強調した「付加点」による両者の差は依然として残されている」という記述を紹介した。
 今回は、その「両者の差」について、当時の基準を概観し、比較しておく。 隔遠地手当については、「隔遠地手当支給官署の指定基準について」(昭35給実甲第171号)による。

 まず、指定基準を比較する。

<隔遠地官署の指定基準>
 40点以上80点未満    1級地
 80点以上120点未満   2級地
 120点以上160点未満  3級地
 160点以上200点未満  4級地
 200点以上          5級地

<へき地学校の指定基準>
 40点から79点までの学校   1級
 80点から119点までの学校  2級
 120点から159点までの学校 3級
 160点から119点までの学校 4級
 200点以上の学校        5級

 隔遠地官署は、評価点数表による取得点数により、へき地学校は、基準点数と付加点数との合計点数に応じて区分を決定するが、表現は異なるものの点数による指定区分は同じである。
 次に、陸地用基準点数表を比較する。便宜上、各要素の最高点数と最高点数を取得できる距離を抜き出すこととする。Aは交通機関のない部分、Bは交通機関のある部分を示す。(島用基準点数表の比較は省略する。)

<隔遠地官署の陸地用基準点数>
 駅又は停留所までの距離(A) 120点(40km)
 医療機関までの距離(A) 24点(16km)
 医療機関までの距離(B) 21点(48km)
 高等学校までの距離(A) 12点(12km)
 高等学校までの距離(B) 12点(44km)
 小・中学校までの距離(A) 6点(12km)
 小・中学校までの距離(B) 6点(44km)
 郵便局までの距離(A) 12点(20km)
 郵便局までの距離(B) 12点(36km)
 役場までの距離(A) 6点(20km)
 役場までの距離(B) 6点(24km)

<へき地学校の陸地用基準点数>
 駅又は停留所までの距離(A) 120点(40km)
 医療機関までの距離(A) 24点(16km)
 医療機関までの距離(B) 21点(48km)
 高等学校までの距離(A) ★18点(12km)
 高等学校までの距離(B) ★18点(44km)
 小・中学校までの距離(A) ★要素なし
 小・中学校までの距離(B) ★要素なし
郵便局までの距離(A) 12点(20km)
 郵便局までの距離(B) 12点(36km)
 役場までの距離(A) 6点(20km)
 役場までの距離(B) 6点(24km)

 へき地学校の基準点数には、当然ながら「小・中学校までの距離」の要素はない。その分、「高等学校までの距離」の要素が加算されている。その他は、全く同じである。
 次に、付加点数を比較する。隔遠地官署指定基準は、加点表を定めている。ただし、隔遠地官署の方は、へき地学校指定基準における基準点数の補正に当たるものがあるので、該当する要素は除くこととする。

<隔遠地官署の加点表>
  無電灯 20点
  準無電灯 10点
  集落状況(4km以内に1戸もない) 20点
  集落状況(4km以内に10戸以内) 10点
  単独勤務(集落点数のつく場合) 5点
  飲料水(50%以上天水・川水) 10点
  電話が利用できない場合 10点

 <へき地学校の付加点数>
  電気が供給されていない場合 20点
  電気の供給が時間的に制限されている場合 10点
  ラジオ等の視聴覚教材の使用が困難である場合 10点
  電話が設置されていない場合 10点
  飲料水を主として天水又は川水頭から求めなければならない場合 10点
  不健康地(有毒ガス発生、風土病、湿潤、極寒、多雪等) 10点
  児童生徒総数の3割以上が通学距離6km以上 10点
  児童生徒総数の3割以上が通学距離4km以上 5点
  教科用図書、学用品等の購入地までの距離が6km以上 10点
  教科用図書、学用品等の購入地までの距離が4km以上 5点
  生活保護における教育扶助の割合が児童生徒総数の3%以上 10点
  教員の数(1人) 10点
  教員の数(2人) 5点
  教職員住宅の不足(半数以上が借家等) 10点
  分校である場合、本校との距離が12km以上 10点
  分校である場合、本校との距離が8km以上 5点

 隔遠地官署及びへき地学校それぞれについて、全要素において最大点が加点された場合の合計点数を計算すると、隔遠地官署は65点となるが、へき地学校は100点となる。
 『へき地教育の振興』には「教育公務員の特殊性については、他の公務員との均衡もあるので、それを付加点数によって強調しようという考え方が採用された」との記述があったが、記述どおり、付加点数に教育の観点を盛り込みつつ、他の公務員よりも優遇する指定基準となっていたことが確認できた。

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278.へき地手当(その5) [35.へき地手当]

 全国へき地教育連盟著『へき地教育の振興』(講座・へき地の教育1、昭和40年)という本がある。この本は、へき地教育振興法制定10周年記念として、天城勲文部省調査局長及び木下一雄前東京都教育委員長の監修の下に刊行された全5巻のうちの一つである。
 目次を見ると、第一章「へき地学校の現状」、第二章「へき地教育振興の構造」、第三章「国のへき地教育振興方策」、第四章「都道府県及び市町村のへき地教育振興対策」、第五章「へき地教育関係団体」となっている。
 執筆者は、第一章は文部省調査局調査課長奥田真丈、第二章は調査局長天城勲、第三章は初中局財務課長今村武俊ほか財務課係員、第四章は地方課長補佐山川武正ほか都道府県教育長、指導主事諸氏、第五章は東京都立教育研究所所員渡辺ユキとなっている。
 実は、文部省自身の手により、昭和36年に『わが国のへき地教育』(帝国地方行政学会)が刊行されている。この本は、振興法制定後7年を経過し、へき地教育の現状と課題を明らかにしたものである。しかし、このノートの観点からは記述が簡潔にすぎて、物足りない。その点、『へき地教育の振興』の方は、へき地教育振興法の制定に至る経緯や関係団体の運動、へき地教育振興法の構造や改正趣旨などが、生き生きと綴られている。
 詳細を紹介するスペースはないが、へき地学校等の指定基準に関して引用しておく。

 「ところで、文部省令で定めようとしている基準を仮に前述の給実甲による人事院基準(編注=隔遠地官署指定基準(給実甲117号))と同一とすれば約半数の学校がへき地指定から外れる。これはへき地教育の振興上からも問題が大きすぎる。しからば人事院基準と全く別個のものを作ればよいということにもなろうが、「公務員」と「教育公務員」の相違だけで別個の扱いとするのは少しく飛躍しすぎるといった意見もあった。
この間、文部省では、各都道府県教育委員会の関係者、へき地教育振興期成会、へき地教育研究連盟などの意見もじゅうぶん聴取して、基準案の作成にとりかかった。
 その基本的構想は次のようなものであった。
 イ 現に国家公務員・地方公務員の官公署指定の基準となっている人事院基準の骨子は踏襲するが、一部その合理化を図る。
 ロ 教育公務員の特殊性を何らかの形でとり入れる。
 ハ 基準設定に伴う不利益擁護のため、必要な経過的措置を講ずる。
 この構想に基づき、基本的にへき地性を評価する基準点数は大体において人事院基準の考え方をとり入れる。しかしながら、小・中学校を指定するための要素に「小・中学校までの距離」というのは無意味なのでこれを削り、経済・文化の中心地としての「高等学校までの距離」を要素としてあらたにとり入れる。また、各要素までの距離の区分を二粁単位とする。さらに、補正の面において、各要素に至る間に運行回数の少ない「バス」を利用する場合は点数の補正増を行う。そのほか、島の場合で定期航行回数が一日二回以内のところにも点数を与える、といいた合理化を図る。
 一方、教育公務員の特殊性については、他の公務員との均衡もあるので、それを付加点数によって強調しようという考え方が採用された。それには、(イ) ラジオ等の視聴覚教材の使用が困難であること、(ロ) 家庭訪問等の場合を想定した遠距離通学者が多いこと、(ハ) 学用品などの購入地が遠いこと、(ニ) 貧困児童生徒が多いこと、(ホ) 教員が単独又は二人だけの学校、(ヘ) 教員の住宅事情が悪いこと、(ト) 分校であって本校と相当離れていることなどについてとくに付加点をつける。
 このような案で、最終案がまとまったので、この基準を実際に十数府県のへき地学校に実際にあてはめてみると大体において満足できる結果が得られた。
 文部省は、この案を「へき地教育振興法施行規則」として成文化するとともに、この指定基準の施行にともなって、前述のごとく従来のへき地指定より不利益となるものについては必要な救済措置を講ずることとして、昭和三十四年七月三十一日、「へき地教育振興法施行規則」を文部省令第二十一号として制定したのである。」
 「三十五年四月、給実甲による人事院基準は文部省令の影響を受けて手直しされたが、教育公務員の特殊性を強調した「付加点」による両者の差は依然として残されている。」
 (第三章「国のへき地教育振興方策」から)

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277.へき地手当(その4) [35.へき地手当]

 今回は、昭和33年のへき地教育振興法の一部を改正する法律案の提案理由について、同年4月17日の参議院文教委員会の会議録から引用しておきたい。

 「○秋山長造君 ただいま議題となりましたへき地教育振興法の一部を改正する法律案につきまして、提案者を代表いたしまして、提案の理由と内容の概略を御説明申し上げます。
  へき地教育振興法は、憲法に規定まれております教育の機会均等の趣旨にのっとり、僻地における教育を振興する目的をもって、積極的な対策を講ずるため、去る第十九回国会において制定されたのであります。
  しかるに、本法施行以来、すでに四カ年になんなんといたしておりますにもかかわらず、僻地におきましては、小規模学校が多数を占めております関係上、依然としてその施設設備の整備は不十分であり、しかも、教職員を確保することも容易でないという現状であります。
  さきに、本法成立の際、本院文部委員会は、僻地教育に対する総合的、恒久的振興策を樹立することの付帯決議をいたしておりますが、この決議の趣旨にかんがみ、今回、国の地方公共団体に対する補助の対象を拡大するとともに、へき地学校に勤務する教員及び職員の特殊勤務手当の増額その他の措置を講じて、僻地における教育の振興をはかることが必要であると考えまして、ここにこの改正案を提出いたした次第であります。
  改正案の内容のおもな点について申し上げますと、まず第一点は、へき地学校の定義であります。すなわち、現行法におきましては、「交通困難で自然的、経済的、文化的条件に恵まれない山間地、離島その他の地域に所在する公立の小学校及び中学校をいう。」とあり、交通困難という大前提のもとに、自然的、経済的、文化的僻地性を形成している各要素が、その条件となっておりますので、へき地学校がまず交通の困難性によって決定されている現況でありますが、このことは、必ずしも実態に沿わない点もありますので、僻地性を形成している諸条件と交通条件とを並列させるよう改めたことでございます。
  第二点は、市町村の任務としてへき地学校の健康管理及び通学改善につき義務規定を設けるとともに、へき地教育の振興をはかるための事務について都道府県の任務を明確にしたことでございます。
  第三点は、へき地学校指定基準を文部省令で定めることとし、新たに、僻地手当支給に関する規定を設けるとともに、その僻地手当手給についての都道府県がよるべき基準を定めたことでございます。
  第四点は、市町村が行う事務に要する経費及び都道府県が行う事務のうち、へき地学校に勤務する教員の養成施設に要する経費について、国の補助率を、それぞれ二分の一と明確に規定したことでございます。
  なお、附則におきまして、施行期日を昭和三十四年四月一日とし、本法改正後、都道府県が僻地手当に関する条例を制定するに当っては、従前の特殊勤務手当の月額より低額であるものを生じたときには、受給者に不利益な結果とならぬよう当該条例を定めるように規定いたしました。
  以上が、この法案の提案理由とその内容の概要でございます。何とぞすみやかに御審議の上、御賛同賜わりますようお願い申し上げます。」

 衆議院文教委員会では、同年4月23日に提案理由の説明が行われた。

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276.へき地手当(その3) [35.へき地手当]

 昭和30年前後の国会会議録を見ていくと、へき地教育を巡っての審議に多くの時間が割かれていることが確認できる。へき地における生活の実情や、多学年授業の困難さなども紹介され、審議に多くの時間が割かれたようである。
 戦後まもなくの山深い山間地や離島などのへき地では、分校や季節分校といった小規模校が多かった。そして、教員の確保の面では助教諭が多いなどの状況があり、施設・設備の面でも都市部や本校に比べて不十分であったようである。教育基本法が、憲法の精神を具現化する教育の機会均等を高らかに謳ったにもかかわらず、へき地における児童生徒の教育条件は、平地と比較して著しく不利な状況に置かれていたのである。
 そのような中、教育関係者や教育行政関係者を中心にへき地教育の振興施策を求める声が高まりを見せ、昭和28年には、衆参両院において、へき地教育振興に関する決議が行われるに至った。これを受けて、文部科学省も、全国のへき地教育の状況やへき地手当の支給状況を調査したようである。(昭和28年4月、文部省調査局『小・中学校教員に対する「へき地手当」支給規定の概要と実情』。薄っぺらい報告書だが、当時の支給規定も盛り込まれていて、このノートのためには参考になる。)
 そして、昭和29年、へき地教育振興法が制定されたのである。
 これによって、へき地教育の振興のための都道府県及び市町村の任務が明確にされるとともに、教職員のための住宅の建設や教員を養成する施設の運営等に必要な経費に対し国が補助を行うこととされた。ただ、この法律の制定時には、へき地手当は明確化されておらず、都道府県に対して、へき地学校に勤務する教職員に対する特殊勤務手当の支給にすいて、特別の考慮を払わなければならないことが義務付けられたのみであった。
 当時、各都道府県では、国の特地官署に準じてへき地学校の指定を行っていたようであるが、相当バラツキがあったようである。更に昭和31年に人事院が特地官署指定基準を明らかにしたのだが、この基準を厳格に適用するとへき地学校の約半数が指定外になるような状況があったらしい。
 そこで、当時の国会でもへき地手当を巡って、へき地学校指定基準の合理化を求める意見が出されるなど、色々と議論が行われたようである。そうした状況に対応して、昭和33年に、へき地教育振興法が一部改正され、へき地学校に勤務する教職員に対してへき地手当を支給すべきことが明確に規定されるとともに、その支給の基準が定められ、更にはへき地学校指定基準を文部省令で定めることとされたのである。

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275.へき地手当(その2) [35.へき地手当]

 へき地教育振興法は、昭和29年に制定された法律であり、その目的は第1条に次のとり謳われている。
「この法律は、教育の機会均等の趣旨に基き、かつ、へき地における教育の特殊事情にかんがみ、国及び地方公共団体がへき地における教育を振興するために実施しなければならない諸施策を明らかにし、もつてへき地における教育の水準の向上を図ることを目的とする。」

 この法律が国会に提出されたときの提案理由を確認しておく。
少し長いが、昭和29年4月14日衆議院文部委員会で大達茂雄文部大臣行った提案理由の説明を国会会議録から引用する。

 「今回政府から提出いたしましたへき地教育振興法案につきまして、提案の理由及びその概要を御説明申し上げます。
  現下わが国の教育におきまして全国的に見て、一般の場合と異なつた特殊な事情によつてその発展を阻害されておりますのが僻地における教育であります。
  ここに僻地と申しますのは、山間地、離島その他これと似た条件を備えた地域であつて、交通至難で自然的、経済的、文化的諸条件に恵まれない地方であります。しかも僻地の持つこれらの諸条件はきわめて顕著にその教育に影響いたしておりまして、これが僻地教育の特殊事情ないし特殊条件となつて現われているのであります。
  すなわち僻地におきましては、一般に小規模の学校が多く、教育の施設、設備は不十分であり、しかも教職員を確保することも容易でなく、その上これらの条件に応ずるためには、学習指導方法についてもさらにくふうと改善を加えなければならないものが少くない等の事情があるのであります。
  このような僻地における教育の実情は、教育の機会均等の趣旨から考えまして、はなはだ憂うべき状態であります。そこで何らか積極的な対策を講ずる必要を痛感いたしまして、この法律案を提出した次第であります。
  次にこの法律案の骨子を御説明申し上げます。ただいま申し上げました通り、僻地における教育は各種の面について特殊な困難な条件を背負つているので、断片的な施策では十分にその充実発展を期待することができないのであります。そこで、その特殊事情に応ずる教育内容の充実、教職員の確保、施設及び設備の整備等あらゆる面における総合的施策を、市町村、都道府県及び国がそれぞれの段階において実施することが必要であります。
  このような考え方から、国及び地方公共団体がそれぞれ実施すべき具体的施策を明記したのであります。
  まず市町村につきましては、市町村は教育内容の充実、教員住宅の建設、学校教育及び社会教育の用に供するための教育施設の設置、健康管理の適正な実施、通学の便の提供等のため必要な措置を講ずることといたしております。
  次に都道府県は、教育内容の充実のため必要な調査、研究等を行い、必要に応じて教員養成施設を設け、教職員の特殊勤務手当について特別の考慮を払い、その他市町村の任務の遂行に関して必要な指導、助言を行うこととしております。
  最後に国の任務といたしましては、僻地における教育について必要な調査、研究を行い、地方公共団体の任務の遂行を援助するとともに、地方公共団体が教員住宅を建築したとき、学校教育及び社会教育の用に供する教育施設を設けたとき、教員養成施設を設置したとき、それらの経費の一部を補助することとしたのであります。
  以上がこの法律案を提案いたしました理由とその趣旨の大要でございます。何とぞ慎重に御審議の上、すみやかに御賛同賜わらんことをお願い申し上げます。」

 参議院では、同年5月18日の文部委員会で同様の説明が行われている。

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