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365.総合的見直しと人件費削減(その9) [44.総合的見直しと人件費削減]

前回の考察を通して、国家公務員法に規定する均衡の原則の考慮事項と地方公務員法に規定する均衡の原則の考慮事項は重なってはいるが異なっていることを確認した。

<国家公務員法に規定する均衡の原則>
 ①生計費、②民間における賃金、③その他人事院の決定する適当な事情

<地方公務員法に規定する均衡の原則>
 ①生計費、②国の職員の給与、③他の地方公共団体の職員の給与、④民間事業の従事者の給与、⑤その他の事情

 違うのは、「国の職員の給与」及び「他の地方公共団体の職員の給与」である。同じ均衡の原則と言っても、考慮事項にこれらの事項が加えられていることから、「国公準拠」の考え方が生まれてくるのであり、刷新するとは言っても、この考え方に従えば「362.総合的見直しと人件費削減(その6)」で引用した記述が正当化されることになる。
 しかし、そうは言っても、「この場合、仮に民間給与が著しく高い地域であったとしても、公務としての近似性及び財源負担の面から、それぞれの地域における国家公務員の給与水準をその地域の地方公務員の給与の水準決定の目安と考えるべきである」と考えについては、やはり納得はできない。
 なぜなら、縷々考察してきたように、均衡の原則といっても、出発点は、情勢適応の原則をどのような考え方を基本に実現するのかという問題であり、同時に、労働基本権制約の代償的機能を人事院及び人事委員会が発揮する際の実際的な指針になるものであることを踏まえると、何よりも民間における賃金、民間の事業の従事者の給与との均衡を図ることが基本中の基本となるべきものと思うからである。それを「公務としての近似性の面」はよいとしても、「財源負担の面」という法律上規定されていない(「その他の事情」の説明にも含まれていない)要素を持ち出して「それぞれの地域における国家公務員の給与水準をその地域の地方公務員の給与の水準決定の目安と考えるべき」というのは、筋が違うのではないか。
 職員の人件費財源となる交付税の削減は、地方公共団体によっては脅威となるものであろう。しなしながら、臨時特例法による国家公務員の給与削減のあおりで地方公務員の給与財源が一方的に削減された際には、あれだけの異論の声を地方から上げたではないか。この報告書のこの一文も、その考え方の根っこにある思想は同じなのではないか。「地方は放っておくと人件費負担の増大を招くような給与制度・給与水準としてしまう恐れが多分にあるから、我々国の役人が目を光らせ、しっかりと導いてやらねばならないのだ。」と、正に後見主義的な地方自治観によって指導されているように思える。
 真の地方自治に基づく給与制度のあり方からすれば、いずれここで示された考え方は、変更されなければならない時が来るだろう。

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364.総合的見直しと人件費削減(その8) [44.総合的見直しと人件費削減]

 前回、「均衡の原則」の意味内容について、国家公務員法における規定を確認することから考察を始めた。
今回は、「地方公務員の給与のあり方に関する研究会報告書」から、少し長くなるのだが、関係部分の記述を抜粋しながら、考えていきたい。
 まず、地方公務員における給与決定原則の現状についての記述である。

 次に、職員の給与について「生計費並びに国及び他の地方公共団体の職員並びに民間事業の従事者の給与その他の事情を考慮して定められなければならない」とされている(地方公務員法第24条第3項)。これは「均衡の原則」と呼ばれている。均衡の原則は、具体の給与改定や給与水準の決定にとって重要なものとされているが、この規定の実際の解釈・運用としては、国家公務員の給与に準ずること(=いわゆる「国公準拠」)により実現されると解されている(昭和35年4月1日各都道府県知事あて自治省行政局長通知ほか)。その理由は、毎年官民給与比較及び生計費を考慮して行われる人事院勧告に基づいて決定される国家公務員給与には、生計費及び民間賃金についての考慮が織り込まれていることから、これと同種の職務に従事する地方公務員の給与についてこれに準ずることとすれば、国及び他の地方公共団体とも均衡がとれることとなり、地方公務員法第24条第3項の規定の趣旨に最も適合することになると考えられていることによる(資料4)。(3頁)

 資料4を見ると、もう少し詳しく解説されている。地方公務員法第24条3項を掲載した表の下に矢印を書いて、次のように記述する。

○均衡の原則の実際の運用としては、「国家公務員の給与に準ずる」ことによって実現されると解されている。(=いわゆる「国公準拠」)
  ・昭和35年4月1日各都道府県知事あて自治省行政局長通知ほか
(根拠)
○国家公務員の給与は人事院勧告によって決定されているが、人事院はその整備された体制によって給与制度の研究を行い、毎年官民給与比較及び生計費を考慮して、報告または勧告を行ない、これに基づいて給与が決定されている。
○国家公務員の給与には、生計費及び民間賃金についての考慮が織り込まれているので、これと同種の職務に従事する地方公務員の給与について、これに準じることとすれば、国及び他の地方公共団体とも均衡がとれることとなり、地方公務員法第24条の規定の趣旨に最も適合することとなる。
  ・なお、この場合、「国に準じる」とは、当該団体の組織、規模、地域の社会的条件等に応じ、合理的な範囲内において国の制度を修正し、その団体に適したものとして適用することとされている。
(内容)
○「給与制度」の面と「給与水準」の面の2点から国家公務員と比較
(1)給与制度
  ・給料表の構造、初任給、昇格・昇給の決定方法、各種手当の種類と内容等
(2)給与水準
  ・ラスパイレス方式などの統計的な水準比較

 この資料4の記述、特に「(内容)」の記述は、これまで総務省が地方に対して指導してきた内容をより具体的に示したものであろう。実際、毎年発出される地方公務員の給与改定に関する取扱いについての総務省事務次官通知等を見れば、実に事細かに書かれている。また、平成4年以降は地方公務員給与制度研究会から『地方公務員給与のチェックポイント』が給与実務担当者向けに発行され、給料のラスパイレス指数から始まって、給料表の構造や級別資格基準、初任給基準、更には昇給・昇格の運用、そして、諸手当については一つ一つ国の基準に準じているのかどうかをチェックするようになっており、地方公務員給与の適正化に活用されてきたのであった。

 そして、「検討すべき課題」のうち、「給与決定の考え方」については、「職務給の原則」に関して言及した後、次のように記述する。

 地方公務員の給与は「生計費並びに国及び他の地方公共団体の職員並びに民間事業の従事者の給与その他の事情を考慮して定められなければならない」(地方公務員法第24条第3項)とされている(均衡の原則)。これについては、国家公務員の給与に準ずることによって実現されると解されてきた(いわゆる「国公準拠」の考え方)。
 このような考え方が確立・定着してきた背景には、人事院等の調査体制や専門知識により決定した国家公務員給与を基礎にしていることに一定の合理性があり、対内的・対外的な説得力があったこと、したがって、給与の適正化を推進する上で有効であったこと、地方公共団体にとっても、独自の給与制度を企画・管理することよりも負担が少なく、また住民等への説明にも効果的であったことなどが考えられる。
 しかしながら、改めて地方公務員給与を見た場合、給与水準について、ラスパイレス指数の全国平均が国を下回るとともに、9割以上の団体が国以下となる一方で、地方公共団体によっては、国公準拠の考え方が、地域民間給与と比較して地方公務員給与が画一的に高止まる傾向の背景となっているとの指摘がある。また地方分権の流れの中で、給与決定についても、より地方公共団体の自主性・主体性を拡大したものへ変革していく必要性も指摘されている。さらに、国家公務員の給与自体が、地域民間給与の反映などの改革により大きく変容してきている。以上のことから、これまでの給与決定の考え方を再検討する必要がある。
 ただ、その結果、仮にも不適正な給与制度・運用等を招来することになれば、当該地方公共団体の公務能率の阻害や給与費の増大につながるのみならず、地方公共団体全体に対する不信を招きかねない。したがって、それぞれの地方公共団体が自主的・主体的に給与決定を行うことを前提としつつも、情勢適応の原則や職務給の原則に沿った適正な給与制度や運用等が確保される方策についても十分に検討する必要がある。

 地方公務員給与を取り巻く環境の変化を踏まえて、従来の画一的な国公準拠の考え方を再検討すべき考えを表明しているのだが、一方、根深い地方不信に基づく釘刺しも忘れていない。
その上で、「改革の方向」を次のように述べている。

 (略)、均衡の原則については、その意味内容について、吟味する必要がある。特に、制度及び水準の両面について国家公務員の給与に準じることで、あるべき地方公務員の給与が実現されるという従来の「国公準拠」の考え方については、再考すべき時期に来ている。
 そこで、地方公務員法が規定する5つの考慮事項について分析すると次のとおり整理できる。
ア 生計費
 地方公共団体の職員も労働者である以上、職員及びその扶養家族の生活維持がなされるべきであり、これを考慮する必要がある。
イ 国の職員の給与
 国家公務員は地方公務員と同様に憲法第15条第2項に言う「全体の奉仕者」として法令等に基づき公務に従事する者であり、かつその給与は国民、住民の負担を財源にしている点で両者は近似していることから、これを考慮する必要がある。
ウ 他の地方公共団体の職員の給与
 職務の近似性、類似性、一般的な地方公務員の給与の相場観という観点から、これを考慮する必要がある。
エ 民間事業の従事者の給与
 地方公務員の採用も労働市場の中で行われており、適材を確保するために民間に匹敵する給与を支給する必要があるという観点と、給与の財源を負担する国民、住民の納得を得られる水準にするという2つの観点から、これを考慮する必要がある(注)。
(注)国家公務員の給与においても、労働基本権が制約されていることを踏まえ、①民間企業と異なり、市場原理による給与水準の決定が困難であること、②公務員も勤労者として社会一般の情勢に適応した適正な給与の確保が必要であること、③民間給与は雇用情勢や生計費・物価などを反映して決定されるものであることから、労使交渉に代わる方策として、民間賃金に準拠してこれを決定することは、労使双方及び納税者である国民の理解を広く得られる方法となっているとされている。また、能率的な公務運営の確保という観点から見ても、民間と採用面において競争関係に立つ有為な人材を公務に確保することが、国民によりよい行政サービスを提供する前提となるものであり、民間賃金に準拠した処遇は、公務の能率性・効率性の発揮にとって重要な要素となっていると考えられている。(参照:人事院「地域に勤務する公務員の給与に関する研究会基本報告」)
オ その他の事情
 一般的にはアからエに類似する事情として、地域の経済事情(地場産業の景況、中小企業等の状況)や当該地域における職員採用の難易などが考慮の対象となると考えられる。
 以上5つの要素を考慮して給与決定を行うことが「均衡の原則」の意義であり、本研究会としてこれは妥当なものであると考える。その上で、具体的に給与制度の立案や運用、給与改定等を行う際にどのような対応をとることがこの原則に適うことになるのか検討する必要がある。

 そして、これに続けて「本研究会では、給与制度面での適用の場面と給与水準面での適用の場面を分け以下のように対応することとし、従来の国公準拠の考え方を刷新することを提言する。」として、「362.総合的見直しと人件費削減(その6)」で引用した記述につながっていくのである。

 ここまで、いささか引用した文章が多くて何が言いたいのかよく分からないものとなっているのだが、注目したいのは、当たり前と言われるのかもしれないが、国家公務員法が求める均衡の原則の考慮事項と地方公務員法が求める均衡の原則の考慮事項は重なっているが異なっているということである。

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363.総合的見直しと人件費削減(その7) [44.総合的見直しと人件費削減]

 今回は、いまさらになるが、改めて「均衡の原則」について、確認しておきたい。
 まず、国家公務員法における均衡の原則は、国家公務員法第64条第2項に規定されている。

(俸給表)
第六十四条
2 俸給表は、生計費、民間における賃金その他人事院の決定する適当な事情を考慮して定められ、かつ、等級ごとに明確な俸給額の幅を定めていなければならない。

 この均衡の原則について、例えば、『公務員給与法精義』(尾崎朝夷ほか共著、学陽書房)から抜粋してみよう。

 次に、公務員給与のあり方の基本についていえば、前述のように公務員の給与が税金によって負担されるのが通例である以上、国民ないし住民の納得の得られるような社会的妥当性をもった給与であることが、当然に要求される。しかし、これは一面では職員の利益、不利益にも連なることであり、公務員側の納得もまた得られるものであることが必要とされるであろう。そしてこのことは具体的にはその決定の基礎となる前述の人事院または人事委員会の報告、勧告のあり方ともそのまま関係することとなるが、国家公務員法は公務員給与を決定する要素として、生計費、民間賃金および人事院の決定する適当な事情の三つを掲げており(同法第六十四条第二項)、実際にもこれを基本としての運用が図られている。なかでもこのうちの民間賃金との関係である官民給与の均衡という考え方は、現在、公務員の給与を決定するうえでの基本理念であり、地方公務員法の場合はもとより、例外的に団体交渉による給与の決定が認められている現業職員の場合にも、重要な要素の一つとされている。(6頁)

 人事院の給与勧告の歴史は、すでに相当に長い。したがって、その間の社会情勢の変化なり技術面での進歩等と関係して、細部の面ではいろいろの経過も経ているが、常に基礎となり根幹となっているのは、一貫して官民給与の均衡を図るという考え方である。国家公務員法が公務員給与決定の要素として掲げるものとして、生計費、民間賃金および人事院の定める適当な事情の三つがあることは、別に第一章でも述べたが、このうちの民間賃金を基礎として官民給与の均衡を図るということは、労働市場の面で公務に必要な人材を確保するうえでの必要条件であり、他方、世間一般の賃金相場に従うという意味では、もっとも客観的、納得的であり、これに勝る指標はない。さらにまた、それは社会の発展ないしは国の経済の成長等による成果を、間接的に公務員にも均てんさせるということでもあって、この面からも十分の意義を有しているといえるであろう。(25頁)

 国家公務員法が定める3つの給与決定要素のうち、民間賃金との関係である官民給与の均衡という考え方が現在の公務員給与を決定するうえでの基本理念となっている。そして、人事院の給与勧告は、公務員給与の公正の確保と労働基本権制約の代償的措置として情勢適応の原則に従って行われるものであるが、その基礎となり根幹となっている考え方が、「官民給与の均衡を図るという考え方」なのだと説明している。
 次に、地方公務員法における均衡の原則を確認してみる。

(給与、勤務時間その他の勤務条件の根本基準)
第二十四条
3 職員の給与は、生計費並びに国及び他の地方公共団体の職員並びに民間事業の従事者の給与その他の事情を考慮して定められなければならない。

 これについて、ちなみに『地方公務員給与制度詳解』(地方公務員給与制度研究会編著、学陽書房)から抜粋する。

4 均衡の原則
 地方公務員の給与以外の勤務条件については、地方公務員法第二四条第五項の規定により、「国及び他の地方公共団体の職員との間に権衡を失しないように適当な考慮が払われなければならない。」こととされているが、勤務条件のうち給与については、同条第三項において、「生計費並びに国及び他の地方公共団体の職員並びに民間事業の従事者の給与その他の事情を考慮して定められなければならない。」ものとされている。これがいわゆる「均衡の原則」と呼ばれているものである。
 (略)
 この均衡の原則に基づき、地方公務員の給与は「国に準ずる」ことが基本とされている。これは、国家公務員の給与についてはその決定に当たり、「民間事業の従事者の給与」や「生計費」が十分に考慮されているので、国家公務員の給与に準じて定給与決定をすることが法に定める均衡の原則の趣旨に最も合致すると考えられるためである。また、国家公務員も地方公務員もいずれも公務に従事するものであって、その職務が類似しており、さらに給与の財源が租税で賄われていることなどから考えれば、法に定める原則をまつまでもなく、同様の考え方で給与決定をすることがむしろ当然であろう。地方公務員法第二四条第三項には、「他の地方公共団体の職員」の給与も掲げられているが、すべての地方公共団体において国に準じた適正な給与決定がなされていれば、他の地方公共団体の職員の給与との均衡はおのずと維持することができよう。(27・28頁)

 上記は、1988年11月発行の<全訂新版>からの抜粋であり、「地方公務員の給与のあり方に関する研究会」が言うところの「従来の画一的な国公準拠の考え方」ということになる。
 次に、同研究会の報告書からその辺りの記述を追いながら、次回、考えてみたい。

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362.総合的見直しと人件費削減(その6) [44.総合的見直しと人件費削減]

 前回、総務省副大臣通知(「地方公務員の給与改定等に関する取扱いについて」(平成26年10月7日付け総行給第70号)の中で、「仮に民間給与が著しく高い地域であったとしても、公務としての近似性及び財源負担の面から、それぞれの地域における国家公務員の給与水準との均衡に十分留意すること」としている箇所が気になっていることを書いた。

 引用した文言は、平成25年の総務省副大臣通知にも出てくるのだが、遡っていくと、平成18年3月に取りまとめられた「地方公務員の給与のあり方に関する研究会報告書」にたどり着く。
 この研究会は、国民・住民等からの指摘や批判を踏まえて、平成16年10月18日に第1回目の会合を開催し、分権時代に対応するとともに地域の民間給与の状況をより的確に反映するための人事委員会機能の強化等について検討を重ね、その後の全国の人事委員会勧告の変化を方向付ける画期となる考え方を示している。
 検討項目は、地方公共団体における給与決定の考え方の再検討、地方公務員の給与構造の見直しの方向性、人事委員会の機能強化、参考指標(地域手当補正後ラスパイレス指数)の考案など、幅広いものとなっている。
 今回、このノートの問題意識から注目するのは、従来の画一的な国公準拠の考え方を刷新することを提言した箇所である。正しく理解するためには、報告書全文を読むべきなのだが、直接の該当部分である「均衡の原則」かかわっての文章のみ引用する。

<地方公務員の給与のあり方に関する研究会報告書(抜粋)>
 本研究会では、給与制度面での適用の場面と給与水準面での適用の場面を分け以下のように対応することとし、従来の国公準拠の考え方を刷新することを提言する。
A 給与制度(給料表の構造や手当の種類・内容等)については、公務としての近似性・類似性を重視して均衡の原則が適用されるべきである。この場合、公務にふさわしい給与制度としては、現状での取組みとしては、地方公務員と同様に情勢適応の原則や職務給の原則の下にあり、人事院等の専門的な体制によって制度設計されている国家公務員の給与制度を基本とすべきである。
 但し、これは、国と地方公共団体の違いに基づく差異とともに、情勢適応の原則や職務給の原則にのっとった合理的な範囲内で、個々の地方公共団体の規模、組織等も考慮されるべきものであり、画一的に国家公務員の給与制度と合致することを求めるものではない。
B 給与水準については、地方分権の進展を踏まえ、地域の労働市場における人材確保の観点や、住民等の納得を得られる給与水準にするという要請がより重視されると考えられることから、地域の民間給与をより重視して均衡の原則を適用すべきである。具体的には、Aの下で、各地方公共団体がそれぞれの地域民間給与の水準をより反映した給料表を定めるべきである。すなわち、給料表の構造については、国の俸給表の構造を基本にした上で、地域民間給与の水準を反映するため、給料表の各号給の額について、一定の調整を行った給料表とする等の措置をとるべきである。
 この場合、仮に民間給与が著しく高い地域であったとしても、公務としての近似性及び財源負担の面から、それぞれの地域における国家公務員の給与水準をその地域の地方公務員の給与の水準決定の目安と考えるべきである。
 生計費及び他の地方公共団体の職員の給与は、以上の考え方の下で、考慮要素のひとつとして勘案されるべきものである。

 Aの給与制度について国家公務員の給与制度を基本としつつ、個々の地方公共団体の規模、組織等も考慮されるべきとする考え方については、それでよいのではないかと思う。問題はBの給与水準についての考え方である。

まず、「地域の民間給与をより重視して均衡の原則を適用すべき」とする認識を示した上で、具体的には、Aの考え方の下で、「各地方公共団体がそれぞれの地域民間給与の水準をより反映した給料表を定めるべきである」と言う。
 普通、民間給与との均衡といえば諸手当を含む給与総体のラスパイレス比較の話になるはずなのだが、この報告書では、さらっと給料表の話にすり替わっている。この点に関わっては、前々回引用した高知県人事委員会の本年の報告でも説明しているとおりであるが、つまり、「給与構造改革以降、国家公務員においては給与水準を維持しながら、俸給から手当への配分変更が実施されている」ため、給料表の水準を国家公務員に合わせた場合には、諸手当を含めた給与総体の水準は相対的に低くならざるを得ないことになる。

 次に、問題意識からすれば脇道にそれるのだが、続けて「すなわち、給料表の構造については、国の俸給表の構造を基本にした上で、地域民間給与の水準を反映するため、給料表の各号給の額について、一定の調整を行った給料表とする等の措置をとるべきである」とする箇所も気になる。
 この報告書の公表以降、国の俸給表の各号俸の額に一定率を乗じる給料表や一定額を加算する給料表などを勧告する人事委員会が増加しているのだが、言い方は悪くて申し訳ないのだが、「人事委員会は給料表作成のノウハウを持っていないのだから、地域民間給与の水準を反映した給料表を作るといっても、国の俸給表をベースにしないと作れないでしょ」と言外に言っているように思えてならない。

 そして、問題の箇所である。
「この場合、仮に民間給与が著しく高い地域であったとしても、公務としての近似性及び財源負担の面から、それぞれの地域における国家公務員の給与水準をその地域の地方公務員の給与の水準決定の目安と考えるべきである」と念押しするのだが、それまでの説明の流れからすると、唐突な印象を受ける。しかも、「財源負担の面から」と言うのだから、給与構造改革時に地域手当を国の財源枠内で実施しなかった団体に対して特別交付税を減額した総務省の考えが強く反映されているとしか思えない。
「仮に民間給与が著しく高い地域であったとしても」というのは例示だから、なんの意味も無い。要するに「公務としての近似性及び財源負担の面から、それぞれの地域における国家公務員の給与水準をその地域の地方公務員の給与の水準決定の目安と考えるべきである」という訳である。
 そのためもあったのだろう、研究会では、新たに地域手当を含めた地域における国家公務員と地方公務員の給与水準を比較する指標「地域手当補正後ラスパイレス指数」を考案したのである。そもそも、地域手当の指定基準の妥当性についても課題を指摘する人事委員会もあるのだが、その他の諸手当については含まれない給与水準での比較になる。
 いずれにしても、これに従えば、民間給与との均衡は確保できない。

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361.総合的見直しと人件費削減(その5) [44.総合的見直しと人件費削減]

 前回、給与制度の総合的見直しにかかわって、「地域の民間均衡が確保できなくなるのではないか」と指摘し、踏み込んだ主張をしてみたのだが、改めて、国が地方を指導している内容をもう少し正確に確認しておきたい。

 まず、公務員の給与改定に関する取扱いについては、人事院勧告を受けて、政府の方針を閣議で決定しているのだが、この中で、地方公務員の給与改定にかかわる政府の地方に対する関与の方針が示されている。

○公務員の給与改定に関する取扱いについて(平成26年10月7日、閣議決定)抜粋
1 一般職の職員の給与に関する法律の適用を受ける国家公務員の給与については、去る8月7日の人事院勧告どおり、平成26年度の給与改定を行うとともに、地域間・世代間の適正な給与配分等の実現を図る観点からの給与制度の総合的見直しを実施するものとする。
4 地方公務員の給与改定については、各地方公共団体において、地方公務員法の趣旨に沿って適切に対応するとともに、厳しい財政状況及び各地方公共団体の給与事情等を十分検討の上、既に国家公務員又は民間の給与水準を上回っている地方公共団体にあっては、その適正化を図るため必要な措置を講ずるよう要請するものとする。
 また、国家公務員における給与制度の総合的見直しを踏まえ、地方公務員給与についても、人事委員会機能を発揮することなどにより地域民間給与のより的確な反映など適切に見直しを行うよう要請するものとする。

 次に、この閣議決定の方針に従い、法令に基づく地方への関与として総務省が都道府県知事等に対して通知文書を発出しているので、給与制度の総合的見直しにかかわる部分を抜粋してみる。これは、地方公務員法第59条及び地方自治法第245条の4に基づく助言として行われているものである。

○地方公務員の給与改定等に関する取扱いについて(平成26年10月7日付け総行給第70号都道府県知事等あて総務副大臣通知)抜粋
第2 給与制度の総合的見直しについて
 国家公務員の給与においては、地域ごとの民間賃金の水準のより的確な公務員給与への反映や官民の給与差を踏まえた50歳台後半層の水準などの給与制度の総合的見直しを平成27年4月より実施することとされたところである。これを踏まえ、地方公共団体においても、国における見直しの実施時期を念頭に、各地方公共団体の給与実態を踏まえつつ、下記事項に留意の上、適切に見直しを行うこと。
 なお、現在当該団体独自の時限的な給与削減措置により給与水準が低くなっている団体にあっては、本来の給与制度や運用・水準を国の給与制度の総合的見直しを踏まえた適正なものとすることが必要であることに留意すること。また、平成18年以降の給与構造見直しの取組が不十分な団体や、給与適正化の点から課題のある団体にあっては、これを機に必要な見直しに取り組むこと。
1 給料表
(1) 国家公務員給与においては、地域ごとの民間賃金の水準をより的確に公務員給与に反映するため、俸給表の水準を平均2%引き下げるとともに、50歳台後半層の官民の給与差を考慮し、高位の号俸の俸給月額について、最大で4%程度引き下げる等の見直しを行うこととされており、各地方公共団体においては、国の俸給表の見直しを踏まえた必要な措置を講ずること。
2 地域手当
国家公務員給与においては、地域ごとの民間賃金の水準をより的確に公務員給与に反映させるため、俸給水準の引下げと併せ、地域手当において、級地区分の増設や支給割合の見直し、賃金構造基本統計調査のデータ更新に基づく支給地域の見直し等を行うこととされたところである。地方公共団体においても、これを踏まえ、地域手当について所要の見直しを行うこと。その際、次の事項に留意すること。
(1) 当該団体における第2の1の給料水準の見直しと併せ、国における地域手当の指定基準に基づき、支給地域及び支給割合を定めることが原則であること。
(2) 給料水準の引下げと併せても国の指定基準に基づく支給割合によれば著しく給与水準が上昇する場合については、地域手当の支給割合について住民の理解と納得が得られるものとなることを基本として適切に対応すること。
(3) 都道府県にあっては、人事管理上一定の考慮が必要となる場合、国の基準にのっとった場合の支給総額を超えない範囲で、支給割合の差の幅の調整を行うことは差し支えないが、この場合であっても地域手当の趣旨が没却されるような措置は厳に行わないこと。

 要するに、総務省は、「各地方公共団体においては、国の俸給表の見直しを踏まえた必要な措置(水準の平均2%引き下げなど)を講ずるとともに、これに併せ、地域手当について、国における地域手当の指定基準に基づき、指定地域及び指定割合を定める見直しを実施することが原則」だと述べているのである。
 そして、同通知では、本年の給与改定及び給与の適正化にかかわって、より直接的な表現で次のように述べている。

○地方公務員の給与改定等に関する取扱いについて(平成26年10月7日付け総行給第70号都道府県知事等あて総務副大臣通知)抜粋(その2)
第1 本年の給与改定及び給与の適正化について
 地方公共団体における職員の給与改定を行うに当たっては、地方公務員法の趣旨に沿って適切に対応すること。その際、厳しい財政状況及び各地方公共団体の給与事情等を十分検討の上、既に国家公務員又は民間の給与水準を上回っている地方公共団体にあっては、その適正化を図るため必要な措置を講じること。
1 国家公務員の月例給については、官民給与の較差を踏まえ、行政職俸給表(一)において、平均0.3%の引上げ改定を行うとともに、若年層に重点を置いて改定を行うこととされたところである。地方公共団体においては、人事委員会の給与に関する勧告及び報告を踏まえつつ、地域における民間給与等の状況を勘案して適切に対処すること。
その際、現に国家公務員又は民間の給与水準を上回っている地方公共団体にあっては、不適正な給与制度及びその運用の見直しを含め、必要な是正措置を速やかに講じること。特に、仮に民間給与が著しく高い地域であったとしても、公務としての近似性及び財源負担の面から、それぞれの地域における国家公務員の給与水準との均衡に十分留意すること。
8 人事委員会においては、その機能を発揮し、地域の民間給与をより的確に反映させる観点から、公民較差のより一層精確な算定、公民比較の勧告への適切な反映、勧告内容等に対する説明責任の徹底などの取組を引き続き行うこと。ただし、公務としての近似性及び財源負担の面から、それぞれの地域における国家公務員の給与水準との均衡に十分留意すること。
 また、人事委員会を置いていない市及び町村については、都道府県人事委員会における公民給与の調査結果等も参考に、地域の民間給与を反映させた適切な対応を行うこと。

 気になるのは、「仮に民間給与が著しく高い地域であったとしても、公務としての近似性及び財源負担の面から、それぞれの地域における国家公務員の給与水準との均衡に十分留意すること」としている箇所である。

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360.総合的見直しと人件費削減(その4) [44.総合的見直しと人件費削減]

 前回、給与制度の総合的見直しの実施に伴う地方公務員の人件費削減効果を考えてみるにあたって、熊本県人事委員会と京都教育委員会の各報告を確認した。そこで示された認識に基づき、国と地方との手当受給状況の違について総務省公表の資料を見ると、給与全体に占める手当の割合は、国平均の約18%に対して、地方平均では約11.5%、6.5ポイント少ない状況になっていることが示されていた。
 この辺りの事情について、今回は10月14日の高知県人事委員会報告を見ておきたい。
 高知県人事委員会は、「人事院が勧告した給与制度の総合的見直しと同様の措置を本県でも実施すべきかどうか、次のとおり検討を行った。」とし、国家公務員との給与水準の比較にかかわっての記述に次のような説明がある。

 なお、ラスパイレス指数は、厳密には「給与水準」を比較したものではなく、給与から諸手当を除いた「給料水準」を比較したものである。一方で、公民較差の算定に当たっては、国家公務員も地方公務員も諸手当を含む給与水準で比較しているが、別表第11に示すとおり、給与構造改革以降、国家公務員においては給与水準を維持しながら、俸給から手当への配分変更が実施されている。その結果、別表第12に示すとおり、平均給与月額で比較した場合、職員と国家公務員との較差はより大きくなっている。
https://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/230101/files/2013101500155/26kankokuhonbun.pdf

 高知県人事委員会の報告の別表には、給与制度の総合的見直しにかかわる報告で示された認識のベースとなっているグラフ等が掲載されており、大変興味深い。
 別表11では、国家公務員の場合、平成17年度における給与に占める給料の割合は86.3%であったが、平成26年度では82%に減少していることが示されている。一方、高知県職員については、平成17年度に94.3%であった給与に占める給料の割合は、平成26年度でも94.2%とほぼ変わっていない状況が示されている。
 別表12を見ると、国家公務員の場合は、平成17年度以降、平均年齢の上昇に従って、平均給与月額も上昇してきている様が分かる。そして、高知県職員の場合は、平均年齢は一旦上昇した後平成22年度から下がり始め、その傾向か続いている状況にあるが、平均給与月額は一貫して下がり続けている。

 ところで、上記の高知県人事委員会報告の記述でもう一つ注目したい箇所がある。それは、「ラスパイレス指数(国家公務員と地方公務員の給与水準を比較するために総務省等が用いているもの=編注)は、厳密には「給与水準」を比較したものではなく、給与から諸手当を除いた「給料水準」を比較したものである。一方で、公民較差の算定に当たっては、国家公務員も地方公務員も諸手当を含む給与水準で比較している」と述べる部分である。
 そのことをビジュアルに説明する図表として、別表第7「民間給与及び国家公務員給与との比較」を掲載している。国は、行一が適用される国家公務員給与を全国の民間企業従事者の給与と比較し、高知県は、行政職給料表が適用される職員の給与と高知県内の民間企業従事者の給与と比較しており、高知県の給与水準が全国のそれより59,383円低くなっていることが示されているが、そのことはここでは問題ではない。この図表が面白いのは、これと同時に国の行一適用職員と高知県の行政職職員の給与水準を並べて、ラス指数比較するのは給料で比較するのだということを示している部分である。
 ここで、別表7から金額を確認してみる。

 国(行一) 給与408,472円-給料335,000円=手当73,472円
高知県(行政) 給与349,886円-給料329,762円=手当20,124円

 民間給与については、全国409,562円に対して、高知県350,179円で59,383円の較差がある。高知県の給料は、国より5,238円低いのだが、較差の大半は手当を国より53,348円目減りさせることで地域の民間給与との均衡を図っているのである。

 「当然ではないか。何がおかしいの?」と言われそうなのだが、都道府県によっては、総務省の指導にしたがえば、地域の民間均衡が確保できないのではないか、と思うのだ。
 例えば、給料水準は国家公務員との均衡を図りなさい、と言われる。地域手当は当該団体内の国家公務員との均衡を図りなさい、と言われる。その他の手当についても、すべて国準拠で是正しなさい、と言われる。そして、地方公務員には支給されない広域異動手当や本府省業務調整手当は改善すると言う。
 そうすると、特に地域手当総額がそれほど増加しない団体を想像してみた場合、昨年まで地域の公民均衡が適正に図られていたことを前提とすると、給料表の水準は平均2%引き下げる、地域手当は引き上げられない、その他の扶養手当や住居手当なども国準拠、ということになると、いったいどうせよ、と言うのか、と言いたくなるのも当然だろう。給与構造改革後の総務省の地方に対する指導は、「給与制度や構造は国準拠とするが、給与水準については地域の民間給与との均衡を図るべし」というものであったが、給料を2%引下げた後、それを配分する先が見いだせないのである。地域手当を国と異なる水準に設定した団体には付税でペナルティーが与えられたが、そうなると、引き下げた分を改めて給料に載せるのか、ということになるのだろうか。給料本体のラス比較では国より高くなっても、地域手当補正後のラス比較で国と同水準であればOKということになるのかもしれないが、単純に水準をもどすような対応では、何のために給料を引き下げるのかがさっぱり分からなくなる。

 先日引用した10月10日の時事ドットコムの記事には、次のような記述がある。

 総務省の試算は、都道府県や市町村の一般職員や教職員、警察・消防職員ら約230万人を対象に実施した。基本給引き下げで3700億円程度が削減される一方、民間賃金が高い自治体では地域手当が手厚くなるため、同手当分で1500億円程度増加。差し引きで2100億円程度の削減になると見込んだ。

 都道府県や市町村の場合、それぞれの自治体で民間均衡を図るのだから、まず、基本給で3700億円程度引き下げたとするとその時点でそれだけ民間より給与水準が低くなるはずだ。そして、地域手当を1500億円程度引き上げるのだから、その分は公民の均衡に近づくことになる。仮に、各自治体の地方公務員がすべて行政職で、なおかつ各自治体の範囲を超えて全国で調整するのがルールならば、残り2100億円程度の原資を他の手当に振り分けなければ民間均衡が図れないことになる。
 しかし、地方公務員には行政職のほかに教育職や公安職、医療職といった職種が存在するが、国家公務員のように全国で均衡を図る訳ではない。それぞれの地域の各自治体の範囲での均衡を図るのだから、トータルで差し引きして削減できると単純に考えるのはおかしいことになる。
 例えば、地域手当が支給されていない団体ならばどうか。基本給を引き下げれば、その分民間との均衡が崩れるだけで、他の手当で埋めなければならなくなるはずだ。地域手当が支給されている団地については、地域手当が引き上げられる地域の団体ならば、もしかすると民間均衡が維持できるかもしれないが、地域手当が据え置きの団体や引き上げ幅が基本給の引き下げに見合っていない団体では、やはり、他の手当で穴埋めしなければ民間均衡が図れない、ということになる。総務省は、いったいどういった計算をして2100億円程度削減できると考えたのだろうか…。

 こうして考えてくると、「制度・構造は国準拠、水準は地域均衡」と言いつつ、給料や各手当を個別に見て指導する現在の総務省の指導の在り方に限界を感じるのである。この際、総務省はもっと地方の自由に任せてもよいのではないか。
 高知県、熊本県、京都府をはじめ各県の人事委員会は、この給与制度の総合的見直しを巡って相当に悩まれたことだと思う。そして、これまで以上に踏み込んだ見識を示される時代となった。
 そのような時代を迎えていることを踏まえて、全国の都道府県人事委員会をもっと信頼し、国は「給与水準は地域均衡」を指導の基本原理とするに止め、こと細かな指導は止めたらどうだろう。一挙にすべてをフリーにすることは無理だとしても、例えば、条例によって団体独自の手当の創設を認めるよう地方自治法を改正するといった環境整備を行うべきではないだろうか。

 今年の5月、日本創生会議が「東京一極集中が続けば、地方が消滅する」との衝撃的な発表を行った。国・地方挙げての取組が開始されようとしているが、各団体がそれぞれの団体が抱える課題に応じて機動的な対応を行おうとすれば、対策の必要な地方であるからこそ優秀な職員の確保が重要になるし、広域地方公共団体である都道府県にあっては、国家公務員ほどではないにせよ、ある程度広域的かつ戦略的な異動も必要になってくるはずである。そうすれば、仮に給料水準を2%引き下げたとしても、手当に配分できる道が開けてくるのではないか。
 こういった視点は分権時代の給与制度の在り方としても許されるのではないか、と思うのだが、全国知事会をはじめ地方六団体はどう考えるだろうか…。

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359.総合的見直しと人件費削減(その3) [44.総合的見直しと人件費削減]

 前回、給与制度の総合的見直しの実施に伴う国家公務員の人件費削減効果について考察してみた。今回は、地方公務員の場合を考えてみたい。

給与制度の総合的見直しの第一の眼目は「地域間の給与配分の見直し」であるが、これに対して、例えば、熊本県人事委員会は10月9日の報告で次のような見解を明らかにしている。

ア 地域間の給与配分の見直し(給料表水準の見直し)
 人事院は、「民間賃金の低い地域における官民給与の実情をより適切に反映するための見直し」を課題の一つとして、民間賃金水準の低い12県における官民の較差と全国の較差との率の差を踏まえ、国家公務員の地域間の給与配分を適正化するために、全国共通に適用する俸給表の水準を平均2%引き下げることを勧告しました。
 本県においては、上記6の(2)のアで述べたとおり地域の民間給与との均衡を図ることを念頭に置いて職員給与の改定を行うこととしており、本年の給与の改定の実施後には、職員給与が地域の民間給与と均衡する状況にあります。
 また、本県は、民間賃金水準の低い12県に含まれず、今回、地域間の給与配分の見直しの一環として行われる地域手当の支給地域の見直しにおいても、本県内に支給地域が設けられていません。
 このような状況のもとで、人事院勧告に準じて本県の給料表水準を引き下げれば、現給保障の経過措置を講じたとしても、来年度以降、地域の民間給与との均衡が図れなくなることが予見されます。
 地域の民間給与を公務により反映するという今回の見直しの趣旨に鑑みれば、地域間の給与配分の見直しにおいては、単に国に準じて見直しを行うのではなく、地域の民間給与との均衡を図ることに重きを置いて対処する必要があると考えます。
http://www.pref.kumamoto.jp/uploaded/attachment/95584.pdf

 つまり、熊本県人事委員会は、「国に準じて給料表を引き下げた場合、民間均衡を図るためには地域手当を引き上げる必要がある。しかし、地域手当を引き上げようにも県内に支給地域が設けられていないため、民間均衡が図れない。」と言っているのである。
 もう一つの例として、京都府人事委員会の報告(11月5日)を取り上げてみよう。
 
(ア) 地域間の給与配分の見直し(給料表水準及び地域手当の見直し)
 人事院は、この総合的見直しは俸給表水準の引下げ分を原資として地域手当の支給割合の引上げ等により給与配分の見直しを行うものであるとしており、国においては、見直しの実施後も全体の給与水準は維持されるものと考えられる。
 一方、本府が国に準じて見直しを実施した場合には、地域手当や単身赴任手当は引き上げられることとなるが、その引上げ幅は給料表水準の引下げ幅には及ばないため、職員の給与水準は本年の公民較差に基づく改定後の給与水準よりも低下し、民間給与水準との均衡が維持できないこととなる。
 なお、国と本府でこのような相違が生じる大きな要因は、国と地方では手当制度や手当の受給状況が異なるために、給料表の引下げ分の原資を国と同じように手当に配分できないことにある。
 具体的には、国が今回の見直しで俸給表水準の引下げに合わせて見直しを行う手当の中には、国にしかない手当が含まれていることや、地域手当、単身赴任手当等の受給者の状況が異なることが挙げられる。
 また、これに加えて、国の地域手当に係る指定基準は全国に勤務する国家公務員を対象としたものであるため、地方公共団体の実情までは考慮されておらず、地域における民間賃金水準をきめ細かく反映できるようなものになっていないことや、一定の規模以下の市町村の状況が十分に考慮されていないことも影響しているものと考えられる。
 このような制度上の問題により民間との均衡が維持できなくなることは、これまでの本府における給与改定の基本的考え方には合致しないものであり、本委員会としては、本府が給与制度の総合的見直しを実施する場合においても、給与水準については府内の民間給与との均衡を重視していくことが適当であると考える。
http://www.pref.kyoto.jp/jinjii/documents/02houkoku.pdf

 京都府人事委員会は、民間均衡が図れなくなる大きな要因として、地域手当の支給状況の相違に止まらず、国と地方では手当制度や手当の受給状況が異なることを指摘している。
 国と地方との手当受給状況の違いは、総務省が公表している資料によれは、次のとおりとなっている。

<平均給料月額+諸手当月額=平均給与月額>
  平成25年度 地方 41,980円(11.3%) 328,842円(88.7%) 370,822円(100%)
        国  69,037円(18.3%) 307,220円(81.7%) 376,257円(100%)
  ※25年度は給与削減があったため、23年度も確認しておく。
  平成23年度 地方 43,246円(11.5%) 334,379円(88.5%) 377,625円(100%)
        国  70,518円(17.7%) 327,205円(82.3%) 397,723円(100%)
「平成25年度地方公務員給与実態調査結等果の概要」から

 給与全体に占める手当の割合を見ると、国平均は約18%だが、地方平均では約11.5%であり、6.5ポイントも少ない状況になっている。

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358.総合的見直しと人件費削減(その2) [44.総合的見直しと人件費削減]

前回、総合的見直しと人件費削減にかかわって、国会での審議状況を引用してみたが、影響額をどうやって試算したのかは明らかにされてはいない。もちろんこのノートで試算することなどはとても無理なのだが、総合的見直しの実施がどうして人件費削減につながるのか、少し考えてみたい。

 給与制度の総合的見直しの内容を再確認しておくと、第一に地域間の給与配分の見直しであり、全国共通に適用される俸給表の水準の平均2%引下げを行うとともに、地域手当の見直しを行うなどの措置を講ずるものであった。
 第二は世代間の給与配分の見直しであり、50歳台後半層の給与水準の最大4%引下げ等を行うものであった。
 第三は職務や勤務実績に応じた給与配分であり、広域異動手当、単身赴任手当及び本府省業務調整手当の引上げ並びに管理職員特別勤務手当の見直しを行うものであった。

 次に、26年人事院勧告の参考資料「1 国家公務員給与関係」から考えてみるのに参考になりそうな数値を思いつくままにピックアップしてみよう。
 行(一)の適用人数は約14万1千人で、全俸給表適用人数25万5千人の約55%となっている。
 平均給与月額をみると、行(一)の平均給与月額は408,472円で、うち俸給は335,000円、手当は73,472円で約18%を占めている一方、全職員では415,426円、うち俸給は344,668円、手当は70,758円で約17%を占めている。
 組織区分別では、本府省の平均給与月額は443,084円、平均年齢は40.6歳、以下、管区機関413,734円、44.6歳、府県単位機関391,673円、44.8歳、その他の地方支分部局392,624円、44.7歳、施設等機関等360,880円、40.1歳となっている。
 俸給の特別調整額の受給者は合計で42,083人、単身赴任手当の受給者は合計で20,575人、本府省業務調整手当の受給者は合計で35,206人
 地域手当の支給状況をみると、東京都の特別区が指定されている1級地(18%→20%)の人員は62,489人(24.5%)、一方、新潟市と徳島市が3%に引き上げられる非支給地の人員は73,448人(28.8%)となっている。
 なお、国家公務員は一般職及び特別職を合わせて約64.1万人となっている。このうち、一般職は34.3万人、特別職は29.8万人となっている。(特別職の大半を占める自衛官は約24万人ということらしい。)

 これらを見ると、朧気ながら見えてくる姿がある。
 給与法適用職員は本府省職員より地方勤務の職員の方が高齢化が進んでおり、俸給表引下げによる影響度合いは大きいと思われること。
 地域手当の引上げは特別区と大都市が中心になっており、地域手当支給割合が据置きになる地域の人員はおそらく3~4割あるだろうと思われること。
職務や勤務実績に応じた給与配分については、本府省職員や広域異動等を行う職員が中心の改善と考えられることから、地方勤務の職員への恩恵は少ないと思われること。
 自衛官は全国各地で勤務していると思われ、そうすると、自衛官については、俸給表引下げが直撃し、地域手当引上げや他の手当引上げでカバーされない人員が多いのではないか、と思われること。
 こうやって見ていくと、おそらく、行(一)適用職員とその他の国家公務員とでは、勤務地域の人数比がかなり違っているのではないかと思われ、それが人件費削減に一番大きく影響しているように想像するのである。

 昨日引用した10月31日の衆議院内閣委員会の会議録に次のような箇所がある。同じく佐々木氏が「総合的見直しによって、給与が上がる職員、変わらない職員、下がる職員、それぞれ何人か、全体に占める割合は何%か」と質問したことに対する古屋人事院事務総局給与局長の回答である。

○古屋政府参考人 お答えいたします。
 お尋ねの、俸給水準がどうなるかということでございます。
 一般職の給与法が適用される職員につきまして、俸給水準が一律二%引き下がるものとして試算いたしまして、俸給月額と地域手当で見た場合に、給与水準が引き上げとなる職員につきましては四万五千八十九人で一七・七%、おおむね維持となる職員につきましては六万七千百三十九人、二六・三%、それから引き下げとなる職員は十四万三千四十九人で五六%となっておるところでございます。

 俸給引下げと地域手当引上げに着目して、給与水準が上がるものが17.7%であるのに対して、下がるものは56%に及ぶ、というのである。差し引き、4割近い数字になる。
 荒っぽい計算をしてみる。平均給与月額41.5万円×▲2%×(12月+4.1月)×給与法適用職員27.5万人×40%=約▲147億円…。この式に、給与法適用職員と一般職の国家公務員34.3万人とを入れ替えると、約▲183億円…。これに共済負担金なども算定に含めないといけない。
 そうすると、昨日引用した衆議院内閣委員会での西田財務省主計局次長の回答、「一般職の国家公務員については、▲200億円程度の人件費削減効果」とだいたい合ってくる。

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357.総合的見直しと人件費削減(その1) [44.総合的見直しと人件費削減]

 給与制度の総合的見直しの実施が、地方の人件費削減にどの程度の影響を及ぼすことになるのか。10月10日の時事ドットコムに次のような記事が掲載された。

自治体人件費、2100億円減=給与の総合的見直しで-総務省
 総務省は、政府が2015年度から実施する方針の国家公務員の「給与制度の総合的見直し」に準じ、全国の地方公務員給与が改定された場合の人件費削減効果を試算した。基本給の平均2%引き下げなどにより、見直し完了後は年間約2100億円が減ると見込んでいる。
 給与制度の総合的見直しは、民間賃金が低い地域の水準に合わせて国家公務員の基本給を引き下げる一方、民間の方が高い地域では公務員への「地域手当」支給を手厚くし、民間の実態に近づける内容。
 総務省の試算は、都道府県や市町村の一般職員や教職員、警察・消防職員ら約230万人を対象に実施した。基本給引き下げで3700億円程度が削減される一方、民間賃金が高い自治体では地域手当が手厚くなるため、同手当分で1500億円程度増加。差し引きで2100億円程度の削減になると見込んだ。
 国家公務員の給与制度の総合的見直しは、15年度から3年かけて段階的に実施する。人事院が今年8月に行った給与改定勧告に盛り込み、政府は今月7日の閣議で勧告通りの実施を決めた。(2014/10/10-14:50)

 国家公務員の人件費に関わっては、この報道に先立つ10月7日の給与関係閣僚会議で麻生財務大臣が次のように発言している。(議事録から抜粋)

○麻生財務大臣:今般の人事院勧告のうち,「給与制度の総合的見直し」を実施した場合の財政への影響を試算いたしましたところ,完全実施された平成30年度の段階で約600億円の人件費削減効果が見込まれるとの結果となりました。次に,今年度の給与改定の実施につきましては,約820億円を要しますが,人事院勧告制度の趣旨,現在の経済政策の方向性,また,先ほど申し上げた「給与制度の総合的見直し」が盛り込まれていること等を勘案すれば,引き続き行財政改革を推進するとの方針の下,勧告どおり実施することに異存はございません。また,地方公共団体におかれても,「給与制度の総合的見直し」を踏まえ,地域の民間給与の状況をより的確に反映するとともに,適正な定員管理の推進に取り組んでいただく必要があると考えております。

 これらを巡って、10月31日の第187回国会衆議院内閣委員会で、なかなか興味深いやりとりが行われたことが記録されている。国家公務員一般職給与法案及び関連二法案の審議にあたって日本共産党の佐々木憲昭氏が質疑を行い、政府側が回答した部分である。

 まず、「給与制度の総合的見直しは、全国共通に適用される俸給表水準を、民間賃金水準の低い地域の官民較差に沿って平均2%下げる、その一方、引き下げた分を原資として、その分を他の手当に振り分ける、したがって給与水準、給与総額は変わらない、との理解で良いか」という質問に対して、人事院総裁は次のように答えている。

○一宮政府特別補佐人 人事院の給与勧告は、国家公務員の給与水準を民間企業従業員の給与水準と均衡させることを基本としていることは、委員のおっしゃるところでございます。
 官民比較に当たりましては、同種同等の者同士を比較するということが適当であることから、職員数が最も多い国の行政職俸給表(一)適用職員の給与と、民間企業の事務・技術の業務を行う従業員の給与を比較しております。
 今般の給与制度の総合的見直しは、行政職俸給表(一)の給与水準を維持しつつ、給与配分の見直しを行うこととしております。(佐々木(憲)委員「総体は変わらない」と呼ぶ)行政職俸給表(一)の給与に関しては、トータルは変わらないということになっております。

 つまり、「官民均衡は行(一)の給与水準について行うので、行(一)に関しては総額で変わらない」と回答している。ということは、その他の俸給表適用職員を含めると、総額で変わる可能性を示唆しているのである。
 そして、給与制度の総合的見直しを実施した場合の人件費削減効果について、西田財務省主計局次長は次のように回答している。

○西田政府参考人 お答え申し上げます。
 給与制度の見直しによります人件費削減効果についてのお尋ねでございますが、給与制度の総合的見直しによる影響額は、見直しが完成をいたします平成三十年度時点におきまして、国が負担する人件費ベースで三角の六百億円程度、地方公共団体につきましては、総務省の試算によれば三角の二千百億円程度でありまして、義務教育国庫負担金等の両者に重複している部分を除く国、地方の純計ベースでは三角の二千五百億円程度となっております。また、このうち一般職の国家公務員については、三角二百億円程度の人件費削減効果を見込んでおります。

 時事ドットコムの記事等のとおり、国は▲600億円、地方は▲2,100億円と説明されており、義務教育費国庫負担金等の重複分を除く国と地方の合計では▲2,500億円の人件費効果が示されている。そうすると、やはり、国の場合には行(一)以外を含めた国家公務員としては民間均衡が図られていないことになるのだが、地方も同じ論理になるのだろうか、その点がよく理解できない。
 国家公務員に関しては、古屋人事院事務総局給与局長が次のとおり説明している。

○古屋政府参考人 先ほど御説明申し上げたとおり、公務員の給与は、最も一般的な俸給表である行政職俸給表(一)について官民比較を行い、給与水準、具体的な改定の内容を決定していくということにしておりまして、他の俸給表につきましては、行(一)との均衡を基本に改定を行っているということでございます。
 そういうことで、一般職給与法職員全体で見た場合には、給与水準の動きというのは行政職俸給表(一)と全く同じ結果になるとは限らないということでございますが、多様な職種を抱える国家公務員におきましては、適用される職員数が最も多く、同種同等の者同士で官民比較を行うことができる行政職の(一)の職員を基本として決定することが現実的であり合理的な方法であるということで、これまでもそういう方法をとってきたところでございます。

 地方公務員に関しても質問をしてほしかったのだが、残念ながら突っ込み不足で、この日の審議では明らかにされないまま、採決されてしまった。

 ところで、官民較差適用方式については、現行では官民均衡を図る対象を行(一)のみとしているが、かつてはすべての職種を対象とする総合較差方式であった。それを現行方式に改める契機となったのは、以前このノートでも述べたとおり、昭和49年の教員及び看護婦についての給与の特別改善の勧告であった。特定の職種を優遇するために、行政職をはじめ他の職種の給与水準を低くして原資を捻出することが困難だと判断された訳である。以後、官民均衡が図られるのは行政職であり、その後、行(一)のみとされたのだが、そもそも国家公務員全体で官民均衡を図る方式は40年以上も前に変更されていたのであった。

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