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475. 自治総合センター31年3月報告書 [8.トピック]

 平成31年3月に取りまとめられた一般財団法人自治総合センター「地方公務員の給与決定に関する調査研究会報告書」に目を通した。地方公務員のラスパイレス指数が漸増傾向にあり、その要因分析が喫緊の課題となっていることから、今回は、「わたり」、「昇格メリット」等をテーマに調査研究したということらしい。

 「わたり」について見ると、その定義を「一義的には「給与決定に際し、等級別基準職務表に適合しない級へ格付けを行うもの」である。一方で、等級別基準職務表に反しない場合であっても、実質的に「わたり」と同一の結果となる等級別基準職務表又は給料表などについても、「わたり」とみなして是正を助言してきた経緯がある」ことを紹介しつつ、「実質わたり」要件の課題を上げた後、A県市町村担当課の意見や課題に対する委員の意見を掲載し、まとめの記述をしている。
 独自構造の給料表を適用している場合の比較点検が困難なことなどに触れつつ、「実質わたり」を含めた「わたり」の是正に向けた点検を行うために、総務省において、各地方公共団体の給料表カーブの公表と地方公共団体の職の格付けの比較方法の探求を検討するよう求めている。

 確かにこの手法によれば、一定比較可能になるだろうと思われる。しかし、「わたり」の是正の観点からすれば、突っ込み方が浅いのではないかと思う。そもそも国の行政職俸給表(一)自体を職務給の原則と言いつつ、フラット化が進みつつあるものの年功的な俸給表構造としてきたことや、標準職務表の規定も「わたり」を許容しかねないものであることについての省察がない。標準職務表の規定の仕方では、「職名等級制」と呼ばれる旧教育職俸給表(二)(三)と比べると、大きく異なっている。

 脱線するが、佐藤三樹太郎『教職員の給与』(学陽書房)から引用しておく。
31 等級の“わたり”を認められないか
 わたりとは 等級の“わたり”とは、正規の昇格要件を伴わずに等級を昇格させることを指している用語と解されるが、教育職俸給表が職名等級制であり、また学校内部の教員組織と密接に関連する問題でもあり、昇格要件が伴わないで等級のみ昇格することは適当でない。…
教諭が教頭に昇任し、昇格の要件を満たせば当然一等級に昇格するし、実習助手が実習教諭に昇格すれば当然二等級に昇格するが、この場合の“わたり”とは、そのような職務上の昇格要件を伴わなくても等級を昇格させるという意味に使われている。…
 一般行政職員の昇格 一般行政職員については、…しかし、一般的には、一定資格を有する一般事務職員が数年経験すれば係長またはこれに相当する職務に充てられ、さらに何年かすれば課長補佐またはこれに相当する職務に充てられる場合が多いことから、一般行政職員の多くは順調に等級の昇格が行われ、あたかも等級の昇格が先行して、職務がこれについてゆくかのように見え、これが“わたり”式に昇格するとみられるようである。…
 教職員の場合は、教諭の免許状を取得しなければ教諭に昇任させることができないし、また校長に必要な資格要件が満たされなければ校長に昇任させることはできない。このため職務上の昇任がなければ等級の昇格はありえない。…(113~115頁)

 教育職では昇任しなければ昇格はないのだが、行政職の場合には適切に運用するとしても昇任しなくても昇格する場合がある。ここに「わたり」を生み出す構造的な原因がある。だから、級別定数を設定したのではなかったのか。
 級別定数の設定は、職務給の原則を定数面の規制を通じて確保しようとするものとされている。この級別定数の設定は、少なくとも、「形式的わたり」の防止には役立つと考えられるのだが、なぜか今回の調査研究の対象とはなっていない。

 いずれにしても、「わたり」の点検には難しさを伴う。とりわけ独自構造の給料表を採用している団体の場合には、困難さが増すだろう。しかし、そのことを翻して考えてみると、国の俸給表構造を所与のものとして、どの団体にも適用すべきものとの前提に立っていることの裏返しではないのかと思う。民間企業の場合、それぞれの企業にふさわしい給与制度を構築するため、同じ給料表が用いられている訳ではない。そうしてみると、地方公共団体であっても、それぞれの団体規模や組織の在り方によって、異なる給料表が作成されたとしても本来的には当然のことではないか。であるならば、給料表の違いや「わたり」の有無などにかかわらず分析できる手法を研究したらどうか、とも思う。

 新規採用者以外は、原則、内部市場から人材を調達しながら、長期にわたり人材を育成していく人事管理を前提とした場合、幹部職員については、職務給の原則を徹底して「わたり」を認めない運用をしたとしても、スタッフ職員については、今なお、ある程度年功的な運用をした方が職員のモチベーションを維持し、能力を発揮させるためには良いという考え方があっても良いのではないか、と思う。また、年齢構成が国とは大きく異なり、団体ごとにも相違があることから、昇格運用の実態が異なっても仕方がない側面もあるのではないか。国においてもそおうした状況も想定して、級別定数の運用に一定の弾力性を持たせている。そう考えると、ラスパイレス指数を問題にするのであれば、「わたり」など個別の問題に着目するのではなく、給料表の構造等にかかわらない、もっと汎用性をもった分析の方法が確立できないのだろうか、とも思う。

 その際、「職務給の原則」を外すことはできない。とはいえ、職階制が廃止され、職務分析が実施されていない下で、本来的な意味合いで「職の格付けの比較方法」を確立することなど望むべくもないのではないか。そうすると、ここは割り切って、妥協するしかない。その方がすっきりする。人事院の民間給与実態調査では、官民比較における職種の対応関係を明確にして実施しているが、同じように国公比較における職の対応関係を明確化した上で、給料表の構造にかかわりなく給与水準を比較してはどうだろうか。そして、「わたり」かどうかは、その団体の給料表に基づいて判断すれば良いのではないか。給与制度の実際は、給料表の構造と実際の運用とを見なければ、良いとも悪いとも言えないのではないか。級を統合することが良いのか悪いのか、その団体の組織の在り方を見なければ分からないではないか。少々「実質わたり」に見えたとしても、それが職員の士気を高め、パフォーマンスを高めることになっているのか、課長や係長を目指す人材を減少させ、組織の維持に支障を生じさせているのか、一概には言えないのではないか…。

 などなど、色々なことが頭の中をよぎる。いずれにしても、報告書の読後感は、“物足りない”又は“消化不良”である。



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