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525. 教員に部活交通費なし [32.部活動指導]

 1月31日、共同通信が「23府県、教員に部活交通費なし 公立高校の土日引率、法令足かせ」との記事を配信した。

 公立高の部活動に携わる教員の実態について共同通信が全国の都道府県教育委員会を対象に調査したところ、土日の練習試合で生徒を引率した教員に交通費(旅費)を支給していない自治体が23府県に上ることが31日、分かった。部活による時間外勤務を認めていない国の法令を不支給の根拠とする回答が相次いだ。土日返上で指導する教員の実態と、法令との隔たりが浮き彫りとなった。
 教員の長時間勤務が社会問題となる中、識者らは「国は法令を見直し学校の実情を反映した制度に改めるべきだ」と指摘。部活も含め教員の働き方改革を進めている文部科学省は法令見直しを「検討する」としている。

 記事には「土日の部活の練習試合を引率した教員に交通費を支給しているか」を都道府県別に色分けした日本地図が掲載されている。都道府県教育委員会の回答を取りまとめたもので、「支給していない」とするのは、青森、秋田、山形、宮城、山梨、静岡、富山、石川、岐阜、三重、滋賀、大阪、岡山、山口、鳥取、島根、香川、福岡、長崎、大分、熊本、宮崎鹿児島の23府県で、その他の都道府県は「支給する仕組みがある」となっている。
 新聞記事は更に続く。

 部活の練習試合は土日に多く、遠征することもある。法令は部活による土日の認めておらず、部活は教員の自発的な活動と整理されている。23府県に不支給の理由を複数回答で尋ねると、法令を踏まえ13府県が「時間外勤務が認められていないため」、11府県が「自発的な活動のため」として、いずれも「引率を出張と見なしていない」と答えた。
 残る24都道府県は「支給する仕組みがある」と回答。うち20都道県は「生徒の安全を確保する責任がある」「部活は学校教育の一環」などとして「引率を出張とみなおして支給する」としている。
 文科省は学校数など地域ごとに事情が異なり、支給かどうかは「自治体が判断すること」と説明している。

 部活動の引率旅費の支給にかかわって都道府県で対応が分かれているのは知っていたが、概ね半々の状況となっているとは知らなかった。
 改めてこのノートで書くまでもないことだが、教員の時間外勤務は、超勤4項目を除き命じられない制度となっており、部活動の指導業務については、超勤4項目に該当しないことから、教員の職務と勤務態様の特殊性に基づき実際に行われた場合には、自主的・自発的な勤務と理解されている。
 一方、教員が週休日等において部活動指導業務に従事した場合において、その業務が心身に著しい負担を与えると人事委員会が認める程度に及ぶときには、特殊勤務手当が支給されることとなっており、部活動指導業務への従事は給与制度上の「勤務」であると理解されている。また、教員が部活動の引率指導中に負傷した場合には、地方公務員災害補償法に基づき、公務災害と認定されるのが通例である。さらに、教員の部活動指導中の不法行為により生徒が負傷した場合には、国家賠償法が適用されることが判例上確立しており、同法にいう「公権力の行使に当る公務員が、その職務を行う」ものと評価されている。
 こうしたことも踏まえ、文部科学省は、学校の管理下において行われる部活動の指導業務については、校長から顧問を命じられた教員の職務=公務であると理解している。ただし、正規の勤務時間外における部活動指導hの従事時間は、労基法上の労お堂時間ではない、としているが…。

 ところで、旅費については、地方自治法第204条で「普通地方公共団体は、普通地方公共団体の…常勤の職員…に対し、…旅費を支給しなければならない」と規定し、旅費の額及びその支給方法は、条例で定めなければならない」としている。
 国家公務員の旅費に関する法律はその第1条において、「この法律は、公務のため旅行する国家公務員等に対し支給する旅費に関し諸般の基準を定め、公務の円滑な運営に資するとともに国費の適正な支出を図ることを目的とする」としている。各都道府県の職員の旅費に関する条例も、同様の目的規定を設けていると思う。
 そうなると、教員の部活動の引率指導業務についても「公務」である限りは、その円滑な運営に資するために同条例が適用され、「公務」のため旅行した教員に対して実費弁償としての性格を有する旅費が支給されなければならない。
 特殊な勤務に従事したことから特殊勤務手当という給与を支給しておきながら、一方で公務に伴う実費弁償としての旅費を支給しないというは、どう考えても矛盾であるとしか言いようがない。

 この点に関して、共同通信が報道した23府県のうち、13府県が「時間外勤務が認められていないため」、11府県が「自発的な活動のため」として、いずれも「引率を出張と見なしていない」と答えたとのことだが、どうだろう。
 仕事に伴って発生した費用を会社が負担するのは当たり前のことではないのか。職務の遂行に必要な経費を労働者が立て替えた場合、使用者にその弁償を請求できるのは当然ではないのか。もちろん、労働条件の明示や就業規則で労働者に一定の自己負担を義務づけることは法律違反ではないのかもしれない。しかしながら、「公務」の遂行のために必要となる費用を職員本人に負担させる法令を観たことがない。

 なお、いささか形式的解釈にすぎるが、旅費法(条例)では、「旅行命令」を行うのであって「公務」それ自体を命じたかどうかは問題にしていない。旅費法では、「出張」について「職員が公務のため一時その在勤官署(略)を離れて旅行(略)することをいう」と定義している。(第2条第1項第6号に規定する「出張」の定義では、公務と旅行とを分けている。)つまり、勤務時間外における生徒の引率指導という公務は、給特法の規定に従い命じてはいないが、公務のため一時在勤する学校を離れて旅行することは、旅費条例に基づき命じる手続きを取っているたけであるので、旅行命令を行ったからといって、それが給特法違反とまで評価することはできないのではないか。いずれにしても、これは屁理屈に思える。

 縷々述べたが、これらの論点にかかわっては、元文部官僚の糟谷正彦氏も、超勤4項目以外の業務であっても、教員特殊業務手当の支給対象となるものについては、教員の職務として旅行命令を出せると解釈するのが妥当であるとの見解を示している。(「校長・教頭のための学校の人事管理」)



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