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335.トピック=地公法改正雑感~人事評価の導入~ [8.トピック]

 平成26年4月25日、人事評価制度を導入する改正地方公務員法が成立し、5月14日に公布された。内容は、平成19年に改正された国家公務員法に準じるものであり、何ら目新しくもないのかもしれないが、これまで給与制度にも関連する制度として学習してきた者からすると、あれこれ考えるところがある。

 ひとつは、職階制に関する規定の削除である。
 職階制は、戦前の官吏制度を改革し、新しい日本の公務員制度を確立するため、科学的人事行政の基盤として導入され、その実施が目指されてきたものであった。結局、アメリカからの輸入制度は日本の雇用慣行にマッチしなかったことから、国家公務員と同様に実施されることなく、今回、静かにその姿を消すこととなったのである。
 しかし、給与制度における職務給の原則に係る規定はそのまま維持されている。職務給は職務と責任に応じて給与を決定するという考え方、すなわち同一労働同一賃金の原則を踏まえた給与制度であり、職階制を基礎に実施する給与制度がその典型であると理解してきた。今回、本来職務給実施の基礎となるはずであった職階制が名実ともに地方公務員制度から無くなることとなったのだが、どう理解すればよいのだろう。
 地方公務員の現行給料表は、地公法が職務給の原則を謳っていることから、職務の級を設けて本来の職務給の姿を装いつつ、実際には年齢の上昇に伴う生計費の増加や熟練による能力向上の要素を多分に加味したものとなっている。これまでは、「職務給の理想型とは異なるが」との留保付きで職務給の原則を一応踏まえたものと理解してきたのだが、今後は、留保なく職務給の原則を踏まえたものであると理解しなければならないことになる。つまり、日本の公務員の給与制度の現状をそのまま職務給であると追認したといえるのではないかと思うのである。

 二つ目は、勤務評定に関する規定を削除したことである。
 これまでの勤務評定制度については、国家公務員のそれに対して、「現に就いている官職における短期的な勤務実績の評価の観点から設計されているものであり、昇進管理・人材配置に用いるべき中長期的視点をも踏まえた能力評価のためには、必ずしも十分なものとは言えない」ことから、業績評価と能力評価からなる人事評価制度を整備すべきと指摘(平成11年3月16日、公務員制度調査会答申)されたものであった。
 この勤務評定も、戦後の公務員制度改革の重要な要素としてアメリカから輸入されたものであるが、改正前の国家公務員法では「能率」の節に規定されていたように、公務能率の向上が第一の目的であったと理解している。1年に1回、勤務実績などを確認し、評定を実施しても、日本の慣行である盆暮れの一時金に反映しがたいのは、制度設計上、当然のことなのであった。これに対して、人事評価制度は日本の給与慣行を踏まえたものとして民間企業で実施してきたものであり、そもそも盆暮れの一時金に反映させるべく設計されたものを公務の世界に導入したものであると理解できる。
 しかも、民間企業でのトータル人事管理の発想に基づいていると思われるが、「人事評価を任用、給与、分限その他の人事管理の基礎として活用するものとする(改正地公法第23条2項)」としている。改正前の地公法第40条が、「定期的に勤務成績の評定を行い、その評定の結果に応じた措置を講じなければならない」と活用目的をぼかされていたのと比較すると、今回、人事評価の導入意図をより明確にしたものとなっている。

 ところで、人事評価を任用に活用することとなるのだが、改正地公法が想定しているのは「昇任」をはじめとする「採用」以外の任用である。改正前は、「採用」と「昇任」を同一の条文で規定し、両者とも競争試験によることを原則としていたのだが、改正後は、「採用」と「昇任」とを別の条文で規定し、「昇任」については、能力実証の方法として人事評価を導入したのである。「降任」及び「転任」についても、人事評価の活用を明記している。
 「それがどうかしたのか。」と言われそうなのだが、ここも現状追認というか、アメリカから輸入された制度の変更を感じるのである。

 猟官制(スポイルズシステム)を克服すべくアメリカで制度化された成績主義(メリットシステム)は、欠員が生じたポジションを補充するために、平等の機会が保障された公開競争試験制に基づいて能力の実証が行われ、有能な職員を確保しようとする仕組みであり、職階制が整備され、身分が保障され、研修制度や勤務評定によって能率を確保しようとするものであったのだが、今回の地公法改正により、戦後我が国に輸入されたこれらの制度が地方公務員制度においても大幅に見直されることになったと感じている。
 その結果、オープンシステムである公開競争試験によって新規学卒者を一括採用し、研修によって公務員としての能力向上を図りつつ、クローズドシステムである内部登用によって役職に就ける人材を確保し、そして、定年退職まで長期に雇用し続けるという、極めて日本的な現行の人事慣行をそのまま地公法に規定したものとなっている。
 そうすると、そのような日本的な人事慣行を制度化した以上、給与制度についても、職務給の原則といいつつ、やはり日本的な年功的要素を加味したものとしなければ、効果的な運用はできないのではないだろうか、と思うのだが…。

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