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374.トピック=庶民派市長と町の経営者 [8.トピック]

 庶民政治を標榜する河村名古屋市長が人事委員会勧告の受け入れを拒否していたが、係長級以下の給与に限って勧告を受け入れる方針を固めたとの報道があった。
 中日新聞CHUNITI Webの記事を引用する。

河村市長が市職員の給与上げ容認 係長級以下に限定
 河村たかし名古屋市長が、市職員の給与引き上げを求める人事委員会勧告の受け入れを拒んでいる問題で、河村市長は係長級以下の給与に限って勧告通りに引き上げ、課長級以上の給与はすえ置く方針を固めた。実務を担当する総務局と調整しており、14日午後にも発表する方向。市側は近く、労働組合に方針を説明し、市議会2月定例会に関連議案を提出する。
 市関係者によると、課長級以上に給与引き上げの見送りを強いることから、河村市長は自身の年7万円程度の削減を検討している。
 係長級以下に限って給与を上げる案は、勧告通りの引き上げを拒む河村市長に対し、総務局側が妥協案として示していた。
 係長以下の職員数は全体の9割超。勧告通り、課長級以上も含めて給与を引き上げると人件費増加は12億円に上るが、引き上げを係長以下に限れば、増加は約11億円にとどまる。
 人事委は民間企業の給与実態を調べた上で昨年9月、市職員の月給を15年ぶり、ボーナスを7年ぶりに引き上げるよう市に勧告。だが、市長は「人事委は零細企業の給与を調べておらず、社会には給与が上がっていない人も多い」として、受け入れ拒否を表明。行政職職員の平均年額給与605万円より多い人の給与は下げ、少ない人は上げる私案を示していた。
 しかし、この案には、勤続年数や身分が同じでも、子どもが多く扶養手当の多い職員の給与は下がり、扶養手当が少ない職員の給与は上がるといった事態も想定され、公平性に疑念の声が出ていた。また、年額給与が平均約720万円の係長級職員も労組に加わっているため、同じ組合員でも給与の増減で明暗が分かれることにもなる。
 一方、課長級以上は全員が非組合員。課長級の給与は係長級より年額平均で200万円以上多い。課長級の給与を据え置き、係長級以下を上げても給与の逆転現象はほぼ起きないという。
 市議会2月定例会で関連条例案が可決されれば、給与改定は昨年4月にさかのぼって適用される。
(2015年1月14日 16時07分)

 河村市長の考え方を拾ってみると、「給与を引き上げるのは企業の一部。子どもの貧困が広がっている問題もある」(日経11/7)、「庶民の苦しみを反映していない」(朝日11/9)など、庶民派ならではの主張をしている。
そして、河村市長は人事委員会に対して「相当成績のいい企業だけで民間準拠とは言えない」(朝日11/9)との主張も伝えているようなのだが、河村市長の主張の是非は別にして、改めて「民間準拠」とはどうあるべきなのか、考えさせられる。

「民間準拠」といえば、平成18年の人事院勧告において、官民給与の比較方法について比較対象となる企業規模を100人以上から50人以上に改めるなどの見直しが行われた。見直しの考え方については、平成18年7月21日に公表された「官民給与の比較方法の在り方に関する研究会」報告書に詳しく書かれている。そこでは、社会的コンセンサスを得るためには、民間従業員の給与をより広く反映させることが求められていると説明しつつ、「同種・同等比較の原則」を維持するためには、色々と調査技術上の課題がある旨を述べている。そして、企業規模を50人以上とすることで、官民較差に反映される企業のカバー率は64.8%となると説明している。
 ところで、中小企業基本法などの法令における「中小企業」の定義を従業員の数に着目して確認すると、「常時使用する従業員の数が三百人以下の会社及び個人」ということになっている。調査対象企業規模は50人以上ということなのだから一定範囲の中小企業は対象に含まれてはいるが、河村市長がいうように「零細企業の給与を調べていない」ということにはなるだろう。問題は、河村市長が職員の処遇のあり方をどのように考えているのか、ということではないだろうか。

 ところで、報道をみる限り、河村市長の主張は市長自身の感覚的なものか、あるいは庶民の感覚に訴える政治的な意図を持ったものであるかのように思える。大都市の公務員給与のあり方としては乱暴な印象を受けるのだが、一方で小規模町村の場合であれば、住民の仕事や生活が都会以上に身近なものと感じられるだろうし、単純に国家公務員の給与改定に準じた民間準拠でよいのか、との気持ちも起きるだろう。都会から遠く離れ、人口も少なく、産業についても大企業の工場がある訳でもなく小規模の農林水産業を中心とする地方の町村で生活している住民にとっては、国家公務員に準拠した給与は大企業で働く従業員の給与も反映されたものであり、地域によっては相当高給に映るといった実情があるかもしれない、とも思われる。

 隠岐の島唯一の高校である県立隠岐島前高校と地元三町の協働によるプロジェクトによって、高校の魅力づくりが志願者を増やし、町の対策と相まって進路を切り開き、地域の産業を創出し、島で生活する魅力をつくり、子どもを含めて人口の増加につなげている。
 この取組は地方創生の成功例の一つとして紹介されているのだが、地元三町の一つ、島根県海士町では、この間、職員の給与削減を行って、職員一丸となって施策に取り組んできたらしい。
 海士町のラスパイレス指数は、給与カットによって平成17年度72.4(全国最低値)であったが、19年度以降少しずつ復元し、25年度は管理職を除いて復元したことから国カット前96.9まで回復している。管理職については、町の経営者の一員として自らカット継続を申し出ているとのこと。(海士町長山内道雄氏の26年3月議会での町長施策方針等から)
 このような事情を聞くと、地方公務員は地域の住民と共にあるのだな、とつくづく思う。そうした地域では、その地域で働き、生活を営む住民と役場の職員は、地域の魅力づくりを進める協働プロジェクトのパートナーであり、そうなると、その職員の給与水準というものは、まさに住民の給与又は所得の水準と同程度でなければ、共に手を携えて、地域の未来につながる取組を行うことなどできないのではないだろうか。
 そのように考えていくと、全国展開する大企業を含めた民間準拠の考え方に基づく国家公務員の給与をベースに地域の給与水準を考えることだけでよいのかどうか。当該地域に視点を置いた民間準拠のあり方があってもかまわないのではないか、と思ったりもする。
 名古屋市での問題提起とはまた違った感慨を持つのである。

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