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383.古書散歩(その13)=『時の法令第百十六号』 [29.読書]

 昭和28年11月下旬号である『時の法令第百十六号』には、「教員給与の三本立」が特集されている。普通、「三本建」と表記する場合が多い(例えば、学陽書房の『公務員給与法精義』、佐藤三樹太郎『教職員の給与』)が、理由は分からないが、ここでは見出しのみ「三本立」と表記されている。

 見出しは次のようになっている。

いよいよ明年1月1日から実施される
教員給与の三本立
  一般職の職員の給与に関する法律の一部を改正する法律(八・一八公布、法律第二三七号)

 本文から抜粋する。

 教育職員の給与に関しては、いわゆる二本建給与体系か三本建給与体系かということで、久しい間にわたつて争われてきたところであり、勢いのおもくむところ政治問題にまで発展したのであつたが、このたびの給与法改正は、とにもかくにも、この問題に一つの回答を与えたものとして、注目すべきものである。
 二本建、三本建の主張については、新聞その他でしばしば紹介されているので、ここでは詳しく触れることは避けるが、かいつまんでいえば、二本建の主張は、教育職員の給与体系を、大学職員のそれと高等学校以下諸学校に勤務する教育職員のそれとの二本とし、高等学校以下についていえば、同じ学歴、資格、同じ経験をもつ教育職員は、高等学校に勤務しようと中学校で教鞭を執ろうと、その間給与上なんらの差をつけるべきではないとするものであるのに対し、三本建案は、高等学校以下をさらに高等学校と中・小学校(幼稚園を含む。)に分け、高等学校教員の給与体系と中・小学校教員の給与体系は別個のものとすべきであると主張する。
 両者の論点は、給与理論上あるいは職場構成の実態、勤務態様その他多岐にわたつているが、その中心は、高等学校と中・小学校の間に給与上職域の差を認めるかどうかという点に集中されている。
 中・小学校では、教材の深い研究よりも指導が重視されるべきであり、教育効果上、高い学歴、資格よりも教職経験を重視する体系が望ましいが、高等学校では、指導の上にさらに教材に対する研究なり優れた技能が強く教育効果に影響するので、教職経験よりも学歴、資格、技能、技術等が重視される体系が望ましい。このように各職域にその特殊性があるにもかかわらず、ただ「教員」として同一であるという画一論で、義務制学校に適切な給与体系をそのまま高等学校に適用しようとするところに無理があるというのが三本建の主張であり、この点で高等学校と中・小学校の間に職域差を認めず、同一学歴、同一勤続年、同一俸給の原則に立つ二本建案と鋭く対立する。他方二本建論者は、授業担当時数からいつても、教育技術からいつても、むしろ中・小学校教員の方が負担が重く責任も大きいとして譲らず、対立のまま今日に至つたのである。
改正法は、次に述べるように、高等学校と中・小学校の間に職域差を認める立場に立つている。… (1~2頁)

 執筆者の署名がある。人事院給与局給与第二課長小熊清、とある。その後に、追記が掲載されている。

 この法律は、自由、民主、鳩自の三党共同提案であり、国会では左右社会党から猛烈な反対があり、また、日教組主流は反対、高教組はこれを支持した。しかし、いずれにしても、この法律は、法律的には国立学校の教育職員に適用されるだけであり、その限りでは大した問題ではない。問題は、多数の地方教員がこの法律に準拠していかに取り扱われるかという点にあるのである。

 当時の様子を詳しく学習してはいないが、この教員給与の三本建の動きについては、教職員組合の分断を狙ったものだとの受け止めもあったようである。
 ところで、三本建給与制度が実施されてから60年以上が経過した今日、旧教育職俸給表(二)に相当する給料表と同(三)に相当する給料表を統合して一本化している団体がいくつか存在する。
 例えば、東京都教育委員会は、一本化の理由を次のように整理している。

現在の高等学校と小・中学校の教員の職務内容や専門性からは、給料表を異にするほどの違いを見出すことは難しい。このことは、国が採用以後10数年間特定の級号給(小中2級19号、高校2級17号)に至るまで給料月額を同額としてきたことからもうかがうことができる。
また、教員採用の資格要件はほとんど差がなく、採用されている教員は校種に関係なく大多数の者が大卒者である。さらに近年、中高共通枠で採用選考が実施されていることや中高一貫教育校が開設されることなどから、今後、中学校と高等学校間での人事交流の拡大も予想される。
こうした点を十分に踏まえ、小・中学校と高等学校とで格差のある給料表のあり方を検討しなければならない。
(平成17年8月、教員の給与制度検討委員会報告「これからの教員給与制度について」(第二次報告)、東京都教育委員会)

 近年、千葉県も給料表を一本化した。少々長いが、平成23年の千葉県人事委員会勧告から該当部分を抜粋しておく。

(5) 教員給与の見直し
 昨年,教育委員会から,高等学校等の教員と小・中学校の教員の給料表を区分していることについて,校種間における教員の職務内容の同質化等によりその必要性が薄れており,一方で,人事交流を妨げる要因のひとつであると考えられることなどから,共通給料表の導入を含む現行の教育職給料表の見直しに関する調査研究の要請が本委員会になされ,調査研究を進めてきたところである。
 高等学校等の教員と小・中学校の教員の両者の給料表については,給料表が区分されてきた経緯等を検証したところ,両者の免許制度や在職者の学歴の違いなどから,給料表に水準差が設けられたが,その後,いわゆる人材確保法による教員給与改善の際に,両者ともに新規採用者を中心に大学卒が教員の主体となりつつあることから,初任給から一定の号給までについては同額とされたものの,それ以降の号給の水準差は依然として残されている。
 現在においては,両者の免許制度が改正され,いずれの在職者の学歴も大学卒が主体となるなど,給料表に水準差が設けられた当時の状況に変化がみられることから,教育委員会が要請の理由とする,両者の職務内容の同質化や円滑な人事交流を図る必要性について考慮すれば,共通の給料表を導入することには合理性があるものと考える。
 これまで,在職者の学歴差などを背景として,高等学校等の教員の給料表が小・中学校の教員の給料表よりも高い水準に設定されてきたところであるが,教育委員会は,両者の職務内容の同質化などにより,高等学校等の教員の給料表を高く設定しておく合理的な理由が認められないとしていること,免許制度が改正され,中高共通枠の採用選考が実施されるなど,求められる学歴に差がなくなっていることなども総合的に勘案すると,当委員会としては,メリハリある教員給与体系を実現するためにも,共通の給料表は,現行の教育職給料表(二)(小・中学校教員に適用される給料表=編注)を基本とすることが適当であるものと考える。
 なお,共通の給料表の導入に当たっては,若年層の教員の職務状況を踏まえた改善及び実習助手等の在職状況に応じた配慮を行うとともに,職務の実態に応じた手当上の措置の見直しなど,職務・職責に応じた適切な処遇について引き続き検討する必要がある。
 共通の給料表は,平成24年4月1日から施行することとし,切替えにあたっては,切替えに伴う調整措置として,切替前に職務の級に異動があった職員等の号給について逆転防止のために必要な調整を行い,また,新たな給料月額が切替前に受けていた給料月額に達しない職員に対しては,経過措置として,その達するまでの間は新たな給料月額に加え,新旧給料月額の差額を支給することとする。

 給料表一本化の理由としては、①資格制度・学歴実態の差の縮小、②校種間における教員の職務内容の同質化、③中学校・高等学校間などの人事交流の拡大を挙げている。これらの理由には一定の合理性はあると思われる。
 今後、他の道府県にも広がっていくことになるのかもしれないが、先行団体の給料表を見る限り、一本化した給料表のベースは旧教育職俸給表(三)相当の給料表になるだろうと想定される。これは、高等学校教員の給与水準を引き下げることにつながる可能性が高いと思われる。

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