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386.トピック=『教育委員長を辞任』 [8.トピック]

 大阪府の陰山教育委員長が辞任するとの報道があった。例えば、3月13日の時事ドットコムは次のように伝えている。

労働政策監を新教育長に=陰山教育委員長は辞任へ-大阪府
 パワーハラスメント問題に絡んで辞任した大阪府の中原徹元教育長の後任に、府商工労働部の向井正博労働政策監が内定したことが13日、分かった。松井一郎知事は17日にも議会の同意を得たい考え。向井氏は、教育長と教育委員長を一本化した「新教育長」として4月に就任する見通しだ。
 また、府の陰山英男教育委員長は13日、委員長と教育委員を今月辞任する考えを記者団に明らかにした。陰山氏は、同日知事と面談した際に辞任を勧められたと説明。また、中原氏のパワハラ問題に絡み「あたかも私が中原教育長を追い出そうとしているかのようにとらえる向きもあった。そういう誤解が生じるような立場にこれ以上いたくないという気持ちもあった」と話した。 
 陰山氏は「百ます計算」などの学力向上策で知られ、2008年10月から府の教育委員を務めている。(2015/03/13-22:31)

 昨年6月に改正された新地教行法に基づき、教育長と教育委員長を一本化した新教育長がこの4月に誕生する動きがちらほら聞こえてくる。
 今回の地教行法の改正は、大津いじめ事件に端を発し、地方教育行政における責任体制の明確化や首長と教育委員会との連携強化が求められ、大議論の末にこの形になったものだ。それをこのノートで取り上げて詳細に考察するだけの時間はないのだが、日本全国を巻き込み議論を提起した越大津市長にとっては、自らの思いとはかけ離れた改正となったようである。

 一番残念なのは、大津の事件で問題となった責任と権限の所在が不一致であるという根本的な問題が解決されなかったことです。前にご説明したとおり、責任と権限の所在の分散には、3つの分散があります。①教育委員長と教育長(教育委員会内)、②教育委員会と首長、③市教育委員会と県教育委員会です。
 このうち、改正法においては、教育委員会と首長の責任と権限には変更がありません。また、市教育委員会と県教育委員会の責任と権限の分散は、今回の快勢においては議論されませんでした。大津の事件でもより深刻な問題であった教育委員会と首長、市教育委員会と県教育委員会の責任の明確化が図られなければ、問題の解決にはなりません。
 唯一変わったのは、教育長と教育委員長が一本化され、「新教育長」となったことです。つまり、教育委員長という役職がなくなり、教育長が教育委員会の代表になって、事務局の指揮監督も行うことになりました。(略)
 しかし、これは現状追認にしか過ぎません。(略)
 一方で、教育長と教育委員長が統合された場合、新教育長の権限は、法律上も、現在の教育長より強化されることになります。
 第三者委員会の報告書では、教育長以下の教育委員会事務局が独走したと指摘されています。教育長と事務局は、教育委員会に報告もせず、調査を早々に切り上げました。教育長の独走がすざんな調査につながったのです。新教育長にこれまで以上の権限を与えるとなると、独走する危険性はもっと大きくなります。
 また、新教育長は、首長のように選挙で思想信条を問われる機会がなく、住民の審査を経ずに強い権限を手にすることになります。これは、民主主義の観点から見れば、むしろ改悪という見方もできるのです。
(越直美『教室のいじめとたたかう~大津いじけ事件・女性市長の改革~』ワニブックスPLUS新書、2014年)

 地教行法の改正によって確かに新教育長の権限は強化されている。旧教育長は、委員としては教育委員会の構成員であったが、教育長としては、教育委員会の補助職員としてその指揮監督を受けて事務をつかさどるものであった。これに対して新教育長は、教育委員会の代表者として教育委員会の会務を総理するものとなった。教育委員会の意志決定に基づき事務執行をするのだが、法律上は誰からも指揮監督を受けることはないのである。改正地教行法などの規定を見ていくと、知事や市町村長の補助職員としてその指揮監督を受ける副知事や副市町村長よりも独立性が強く、むしろ権限も大きいのではないかとさえ思う。越市長の危惧も分からなくはない。

 ところで、以前取り上げた新教育長の給与については、どうなったのであろうか。少し時間は戻るが、2月10日の「内外教育」誌に北海道特別職職員報酬等懇談会の記事が掲載されている。

◎新「教育長」、給与は据え置き
 北海道特別職職員報酬等懇談会は4日、地方教育行政法の改正に伴い創設される新しい「教育長」の給与について、現在の教育長給与の月額90万円を据え置くことを決めた。
 法改正を受け、道は新教育長の給与を同懇談会の意見聴取の対象に追加した。同日の懇談会では、1月26日現在の他都道府県の検討状況について道側が報告。それによると、引き上げる団体が5、据え置きの団体が18、「検討中」が23団体となっている。
 道側は懇談会で、他自治体の状況を踏まえ「当面は据え置きたい」と説明した。

 北海道特別職職員報酬等懇談会の資料を見てみると、引き上げる5団体の考え方は、「他の特別職の給料月額との比較」「委員長と委員の報酬月額差の引上げ」となっている。据え置きの18団体の考え方は、「知事、副知事等や他自治体との均衡」「委員長と委員との報酬月額の差が少額」「職責変更による業務増分が不明確」となっている。
 据え置き団体の「職責変更による業務増分が不明確」との考え方については、意味がよく分からない。旧教育長も新教育長も常勤であるのだから、業務の量的な面に着目するのはどうかと思う。むしろ、職責変更による責任の度合いの変化を見るべきではないか。先ほども述べたように、新教育長は知事や市町村長から指揮監督を受けるものではなく、教育委員会の名実ともに代表者として議会に出席しなければ成らなくなったことなどを重視すれば、むしろ副知事や副市町村長よりも職責は重いともいえないだろうか。(まあそうはいうものの、そもそも教育委員会の権限は限定されており、議案提出権や予算調整権、予算執行権などは知事の専管事項であるし、副知事等は政治的任用職として任期中のいつでも解職されうる立場にある。それだけ政治的責任が重い職なのであり、地教行法に書かれている規定の字面から感じる以上に副知事等の責任の度合いを評価すべきなのかもしれない。)

 ところで、高知県特別職報酬等審議会の資料も面白い。ホームページにアップされている資料を見てみると、「教育長の給料月額の全国状況」の資料には平成27年1月26日調査の各都道府県の給料月額や新教育長の給料の取扱いが掲載されている。給料月額のトップは東京都で112万9千円、最下位は和歌山県の67万円となっており、実に約1.7倍の開きがある。この資料では、引き上げる団体は神奈川県、宮城県、岐阜県、和歌山県の4団体となっている。
 また、「知事及び副知事と教育長の給料(本則)額の比率」と題した資料もある。全国平均では、対知事の比率は64.0%、対副知事のそれは81.6%となっている。この学習ノートで抽出して考察した比率とほぼ同じである。
 そのほか、教育長の退職手当の全国状況についても調査をしている。大きく分けて、知事や副知事と同様の計算式(支給割合方式)によって算定している団体が37団体と多数派である一方、一般職の例により算定している団体は10団体となっている。そのうち5団体が今回の制度改正を期に特別職である知事等と同様の支給割合方式による算定に変更するらしい。全国平均でみると、退職手当の額は知事の32.2%、副知事の56.0%となっており、給料よりもかなり低い比率となっている。

 いずれにしても、今回の法改正に伴い新教育長の給与が大幅に引き上げられるというような状況にはないようだ。

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