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402.トピック=『新しい教育委員会制度と教員の非正規化』 [8.トピック]

 2015年5月29日付け「内外教育」のトップに片山善博氏(慶應義塾大学法学部教授)が小文を寄せている。

 この4月、教育委員会の仕組みが変わった。(略)
 新制度は、教育行政への首長の関与を強めるとともに、教育長を中心にした責任体制を確立し、機動的に運営されるよう設計しているという。それが教育にどんな影響を与えることになるのか。
 それを見定めるにはまだ早い。(略)具体的な問題として筆者が関心を寄せているのが教員の非正規化の問題である。昨今、公立小中学校教員の非正規化がどんどん進行している。
 小中学校教員の人件費は標準法定数に基づき義務教育費国庫負担金と地方交付税交付金とで全額措置されている。ところが、いくつかの府県では教員数の一部を正規職から非正規職に置き換えることで地方交付税財源を浮かし、よそに使っている。ありていに言えばネコババである。
 これを進めているのは知事である。(略)いずれにしても不公正だし無責任である。

 片山氏が「公立小中学校の非正規がどんどん進行している」と指摘する根拠としたデータは何に基づくのか示されていないのが残念である。
 例えば、平成24年9月に公表された文部科学省に設置された「公立義務教育諸学校の学校規模及び教職員配置の適正化に関する検討会議の報告『少人数学級の推進など計画的な教職員定数の改善について~子どもと正面から向き合う教職員体制の整備~』に次のような記述がある。

○ 近年、学校現場において臨時的任用教員や非常勤講師など非正規教員の教職員全体に占める割合が増加傾向にある。なかでも、臨時的任用教員の増加傾向が顕著である。
(参考)非正規教員の任用状況
           (平成17年度)    (平成24年度)
 非常勤講師    3.6万人(5.2%) → 5.1万人(7.2%)
 臨時的任用教員  4.8万人(7.1%) → 6.2万人(8.9%)
  合計      8.4万人(12.3%) → 11.3万人(16.1%)
○ その要因は、各都道府県において教員の年齢構成の平準化を図るため採用調整が行われていることや、「集中改革プラン」に基づき各地方自治体において公務員の定員削減の取組が進められたことなど様々であると考えられるが、平成18年度以降、国の教職員定数改善計画が策定されていないことも大きな要因であると考えられる。
 また、非正規教員の任用状況は、都道府県によって大きく異なっている。
○ これらの非正規教員は、少人数指導など指導方法工夫改善等の実施に重要な役割を担っている一方で、体系的な研修の仕組みが整備されていないため、今後、研修等の在り方について検討することが求められるとともに、その割合が過度に大きくなることは、学校の組織運営の面や教育内容の質の維持・向上の面で支障が生じることが懸念される。
○ 国が計画的な教職員定数改善を行うことにより、都道府県教育委員会に対して、教職員定数についての将来にわたる予見可能性を持たせることができる。それにより、正規教員の計画的・安定的な採用・配置を行いやすくなる。そのことが、近年の非正規教員の増加傾向に歯止めをかける結果につながると考えられる。
○ また、一定の期間を見通した計画を策定することにより、後年度に及ぼす財政負担を十分考慮しつつ、少子化に伴う児童生徒数の減少による教職員定数の減少(いわゆる「自然減」)や教職員の年齢構成の変化による給与費の減少など財政負担が減少する要素を、それぞれの年度ごとではなく、計画期間全体を通して活用しながら定数改善を行うことが可能になる。

 更にこの報告書に添付された資料には次のような記述も見られる。(「非正規教員の任用状況について⑥ ―現状の総括(2)―」)

 正規の教員採用選考を経ず、体系的な研修を受けていない非正規教員の割合が過度に大きくなることは、学校運営面や教育内容の質の維持・向上の面で問題であり、特に増加が顕著な臨時的任用教員の増加抑制等を講じることが必要。
          ↓
(実態の公表)
○非正規教員の配置の実態等について、会議等で積極的に公表するとともに、これらの割合が過度に高い県に対して、改善を促すことが必要。
(計画的な定数改善)
○都道府県が長期的な見通しを持った計画的な採用・人事配置を行いやすくするため、国において計画的な教職員定数の改善を行うことを検討。

 片山氏は「いくつかの府県では教員数の一部を正規職から非正規職に置き換えることで地方交付税財源を浮かし、よそに使っている。」ことを問題視しているのだが、当該府県の知事が本当にそんなせこいことを考えてやっているのだろうか。信じたくないという思いはあるが、教員定数の標準に対する割合を示した文科省の資料を見ると、全国平均では正規教員92.7%、臨時的教員7.1%であるのに対して、片山氏が前に知事を務めた鳥取県では正規教員98.0%、臨時的教員8.8%となっており、正規教員の割合が一番低い県では、正規教員83.3%、臨時的教員16.4%となっている。
 小泉内閣時代、三位一体改革への文科省の抵抗として義務教育費国庫負担金が「総額裁量制」に変わった。このとき、鳥取県知事であった片山氏は使い勝手のよくなった制度を高く評価していた。改正前は、教職員の給与水準を引き下げてもその分国に負担金を返還するだけだったのだが、改正後は、給与水準を引き下げて生み出した財源を活用して、教職員の定数を標準以上に増加することが可能になった。(ちなみに、平成26年4月1日現在の都道府県のラスパイレス指数を見ると、鳥取県は最下位の47番目で91.8となっている。)
 片山氏の言う「正規職から非正規職に」というのが、定数活用、いわゆる定数崩しでもって非常勤講師を配置することをさしているとすれば、ちょっと違う気がする。基礎定数が改善されない中、単年度の予算措置で決まる加配定数の改善では先が見通せず臨時的な任用で対応しているとするならば、これもちょっと違う気がする。「不公正」とか「ネコババ」といった表現だと、標準法定数との関係で、基礎定数を割り込んで非正規にしていることを指摘しているのだろうか。
 よくわからないが、単純に「地方交付税財源を浮かしたい。」と知事が思っているとも思えない。いずれにせよ、検討会議の報告にあるように、それぞれの県で様々な事情があるのだろうが、非正規教員の割合が高いのは事実である。

 片山氏は、この小文をつぎのように結んでいる。

 新しい制度のもとで、知事が前非を悔いて不公正を改めるか、それとも強まった関与権をバックにいっそうネコババに励むのか。責任体制が確立したはずの府県と市町村の教育委員会が、知事やその部下の不公正を阻止できるか。今後のネコババ率の変化で新しい制度の功罪が明らかになる。

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