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257. 読書=『公務員給与序説』 [29.読書]

 稲継裕昭『公務員給与序説-給与体系の歴史的変遷』(大阪市立大学法学叢書(55)、有斐閣、2005年)
 本書の意図は、「今まで比較的等閑視されてきた、給与制度、とりわけその俸給制度体系の変遷に焦点をあてて考察を進めて」いくことにある。本書の構成は、第1章「勅令による時代」として、明治期から終戦直後の公務員給与制度を論じ、第2章で「団体交渉による時代」~大蔵省給与局の創設から15級制給与体系の成立、第3章「人事院勧告制度揺籃期」~63ベースの成立過程など、第4章「人事院勧告制度の定着とその後」~8等級制への移行とその後の俸給体系の改正、第5章「公務員給与体系の日英比較」となっている。公務員給与体系の歴史的変遷を考察したものであることから、この学習ノートにとっても、大いに参考になるものである。
 本書の第4章などを基にして、行(一)を中心に、8等級制以後の変遷を概観してみよう。

昭32. 4 【8等級制へ移行】
昭35. 4 昇格時特別昇給を導入、特別昇給定数を拡大(5%→10%)
昭35.10 通し号俸制の廃止、昇給制度の合理化(昇給期間を12月に統一)
      直近上位昇格制度(同額又は直近上位の俸給月額=対応号俸)
昭39. 9 新3等級(困難補佐)の創設
昭39.10 指定職俸給表の新設(事務次官、学長等)
昭40. 1 俸給の特別調整額適用官職を拡大(地方支分部局の課長等)
昭43.10 特別昇給定数を拡大(10%→15%)
昭46. 4 高齢者(58歳以上)の昇給延伸制度を導入
昭46. 6 期末勤勉手当に管理職加算を導入(本省課長級=特定幹部職員、10~20%)
昭48. 6 期末勤勉手当の管理職加算を改善(最大25%)
昭55. 4 昇給延伸年齢を56歳以上へ引下げ、58歳昇給停止制度を導入
昭60. 7 【11級制へ移行】
平 2. 4  初任給基準の改正と初号俸のカット
平 2. 6  期末勤勉手当に役職段階別加算を導入(5~20%)
平 4. 4  昇格メリットの改善=1号上位昇格制度(対応号俸の1号俸上位の俸給月額)
      本省勤務職員の官民比較方法の改善
      行(一)の特別改善(各級の若い号俸に上積み配分)
      管理職員特別勤務手当の新設
      本省課長補佐に俸給の特別調整額を支給(超過勤務手当と併給可)
      東京都区部勤務者に対する調整手当支給割合を引上げ(10%→12%)

 本書の記述は、この辺りの改正までである。更に改正は続く。

平 9. 4 特別昇給制度の改正(2号俸以上上位の号俸への特別昇給を可能)
平10. 6 特定幹部職員に対する勤勉手当比率を拡大(期末手当0.2月分を振替)
平11. 4 高齢者昇給延伸制度の廃止、55歳昇給停止制度の導入

 この後、平成13年に公務員制度改革大綱が閣議決定され、行政改革推進事務局が中心になって、「能力等級制度」の導入が検討されることになる。戦後、法律上の建前としては、職階制が確立されなければならないのだが、半世紀を経てもなお実施されることはなく、新たに、アメリカ式のコンピタンシー評価や業績給を指向した制度を導入しようとしたのである。
 しかし、この案には、公務員労組だけでなく、人事院が大反対をし、結局、平成15年に各省に提示された国家公務員法改正案は日の目を見ることはなかったのである。その平成15年に、人事院は「特別昇給制度の運用指針」と「勤勉手当制度の運用指針」を作成し、現行制度の枠内で、成績主義の一層を推進しようとするのである。
 そして、平成16年12月には「今後の行政改革の方針」が閣議決定され、公務員制度改革については、「現行制度の枠内でも実施可能なものについては早期に実行に移し、改革の着実な推進を図る」とされたのであった。この政府方針に対する人事院の回答が、「給与構造の改革」なのであった。

平18. 4 【給与構造改革の実施】
     (1)俸給水準引下げと地域手当等の新設
     (2)年功的な給与上昇を抑制し、職務・職責に応じた俸給構造への転換
        給与カーブのフラット化、級の再編整備(11級制→10級制)
        号俸の4分割、枠外昇給制度の廃止、昇格加算額制度の導入
     (3)勤務実績をより的確に反映し得るよう昇給制度、勤勉手当制度を整備
        特別昇給と普通昇給を統合し、5段階による査定昇給制度を導入
        年4回の昇給時期を年1回(1月1日)に統一
        55歳昇給半減制度の導入
        勤勉手当への実績反映の拡大=査定原資を増額(0.03月分)
     (4)複線型人事管理の導入に向けた環境整備(スタッフ職俸給表)

 昭和32年、「職員の給与は、その官職の職務と責任に応じてこれをなす」と規定する国家公務員法の建前を一歩前に進めたとされる8等級制への移行が行われた。それから、人事院は、本来的な職務給に近づくべく、実に50年をかけて、一歩一歩、着実かつ緩やかな改革を進めてきたともいえるのである。かつて導入が検討された「能力等級制」は、民間企業で進められつつあった新しい考え方かもしれないが、基本は、能力をベースにした制度であることから、職務をベースにした給与制度を一貫して目指してきた人事院にとってみれば、反対するのは当然なのであったと思う。

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