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258. 読書=正しい賃金の決め方 [29.読書]

 弥富賢之『正しい賃金の決め方』(日本経営合理化協会出版局、平成3年改訂版)
 著者は、元人事院給与局格付課長である。1953年、本田技研工業に迎えられ、新職能給制度を確立したとされる。その後、本田技術研究所取締役を経て、1960年、賃金管理研究所を設立し、数多くの企業を指導されてきた。
 この本を読んでいくと、間違いだらけの賃金制度や賃金論議に対する著者の怒りにも近い感情が伝わってくる。名指しこそかろうじて避けてはいるものの、電産型賃金の流れをくむ給与体系を「積み木遊び」と手厳しく批判し、属人給の発想に立った職能資格制度の誤った発想や弊害を次々と指摘する。職制の乱設、中間職位の増大、役付手当の弊害、資格制度による組織の非能率化、やる気の喪失、人件費の膨脹…。
弥富式の俸給表は、実にシンプルである。ベースアップに対処するために加給を設けるものの、基本的には基本給は、本給のみ。能力主義に基づく、S・A・B・C・Dの能力別昇給制度を運営するために、A平均人の標準昇給額を5号昇給としてルール化する。すなわち、S=6号、A=5号、B=4号、C=3号、D=2号とするのである。調整年齢の考え方はあるものの、「青天井の昇給制度」であることを基本としている。

 現在、賃金管理研究所が推奨する本給表は、すべての等級において70号を上限としている(例えば、蒔田照幸『デフレに克つ給料・人事』文春新書)。そのような俸給表のことを「段階号俸表」と言うが、これは、平成18年の給与構造改革によって号俸を4分割された後の国家公務員に適用する俸給表と大変よく似ている。定期昇給における昇給号数に違いはあるものの、Bを標準と考えれば国の制度と同じであり、「賃金管理研究所の賃金制度を導入したのではないか」とさえ思える。

 少し長くなるが、段階号俸制を紹介している文章を引用する。

「公務員の俸給制度の単線・一律的な昇給方式の欠点を改める目的で考案されたのが,評価によって昇給号俸の数を変える「段階号俸制」の方式である。
 これは,公務員のように原則1年に1号俸昇給するのではなく,号俸間のピッチ(号差金額)を公務員よりも細かく定めておき,SABCDという昇給時の評価によって各人異なる昇給号俸を通用する。
 段階号俸は,職能資格制度の職能給(後述)を実施するひとつの方式としても知られているが,職能資格制度との大きな違いは,年齢給との並存型貸金体系を採用せず,これ一本で基本給を決定する単一型賃金表を採用していることである。等級は,職務の複雑(非監督的要素)と責任(監督的要素)の度合いを「要求される創意」「対人関係」「受ける統制」などの面から比較して,職務遂行の段階区分に分類する。このような職務遂行の段階に合わせて等級別の賃金表を用意し,その職務を担う人材にふさわしい賃金の出発点と昇給ピッチ(昇給幅)を決める。
 この方式を最初に導入した本田技研では等級をⅠ~Ⅵ等級に分類し,それぞれ初号値・号差金額を図表4-1のように設定していた。(略)
 年功賃金と能力主義の長所をほどよく調和させた本田技研の方式は,賃金表の設計思想が合理的で運用も比較的簡便であり,職務給特有の硬直性もなく安心して運用できる。将来が見通せる能力主義的な賃金制度として注目された。筆者が前に所属していた賃金管理研究所(弥富賢之会長)では,本田技研方式の賃金表をより汎用性のある一般的な方式へと改良を進め,日本全国の多様な業種の企業・団体に向けてコンサルティング活動を続けてきた。
 たとえば昭和50年代には,55歳から60歳への定年延長が進んだことをふまえ,第3次調整年齢が導入された。これにより成績CまたはDの者は最終的に昇給停止の対象となる。」(菊谷寛之『新実力型賃金のつくり方』日本経団連出版、平成14年)

 この記述を読むと、人事院給与局課長であった弥富氏が、本田技研工業で公務員の俸給制度を改良して実践・確立し、賃金管理研究所を通じて普及させた段階号俸制を、人事院が、半世紀を経た後に公務員の世界に導入したとは言えないだろうか…。

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