SSブログ

347.トピック=新教育長の給与 [8.トピック]

 平成26年6月13日、参議院本会議で地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律案が賛成多数で可決、成立し、同月20日に公布された。この法律は、大津市のいじめ事件を巡る市長と教育委員会との信頼関係の崩壊という問題に端を発して、地方教育行政における責任体制の明確化、危機管理体制の在り方、市長と教育委員会の連携の在り方などが様々に議論され、一時は教育委員会廃止論まで出る中で、教育の政治的中立性や継続性・安定性を主張する与党議員に配慮する形でようやく決着をしたものとなっている。
 教育長の給与についてはこの学習ノートの対象ではないのだが、少し考えてみたいと思う。

 今回の法改正により、教育長は、これまでの委員長と教育長を統合した新たな教育長として位置づけられることとなった。従来、教育長は特別職たる委員(委員長を除く。)である者のうちから教育委員会が任命する職であり、地方公務員法や教育公務員特例法が適用される一般職の位置づけであった。つまり、特別職たる委員と一般職たる教育長を兼ねていた訳である。なお、遡って平成11年の地方分権一括法による改正以前の制度では、都道府県教育委員会の教育長にあっては、教育委員会が文部大臣の承認を得て任命する職であり、特別職たる委員を兼ねることのない一般職の職なのであった。

 さて、そのような旧教育長の給与については、地公法が基本的には適用されるのであるが、改正前の教育公務員特例法16条の規定により、他の一般職の地方公務員に適用される給与等に関する条例の根拠である地公法24条及び25条の適用が除外され、他の一般職に属する地方公務員とは別個に条例で定めることとされていた。これは、旧教育長の職務の特殊性や責任を考慮してのものであろう。
 この旧教育長の給与の在り方について、文部省はどう考えていたのだろうか。一例として、「教育委員会の活性化について」(昭和62年12月16日付け文教地第50号各都道府県・指定都市教育委員会・各都道府県知事・各指定都市市長あて文部省教育助成局長通知)から抜粋する。

(三) 教育長の待遇
 教育長の職務と責任の重大さにかんがみ、教育長の待遇は特別職のそれに相当すべきものであり、各地方公共団体の長においては、教育公務員特例法第一七条第二項の規定の趣旨を踏まえ、教育長の待遇の改善に配慮すること。特に、市町村教育委員会教育長については、既に、昭和四七年五月三一日付け文初地第三一六号「市町村教育委員会教育長等の待遇改善について」をもつて、助役ないし少なくとも収入役に劣らない待遇の改善方を求めたところであるが、今日なお相当多くの市町村において必ずしも十分な待遇がなされてない実態にかんがみ、関係者において、より一層の改善に努めること。

 教育長は一般職の位置づけとはいえ、「教育委員会のすべての事務をつかさどる教育長の職務と責任の大きさを考えるとき、教育長の待遇は、特別職のそれに相当すべきものと考える。教育公務員特例法において、教育長の給与は、特に条例で別個に定めることとされているのは(教育公務員特例法第一七条第二項)、この趣旨に他ならないものである。」(教育委員会の活性化に関する調査研究協力者会議報告「教育委員会の活性化について」(昭和62年12月4日))と文部省は考えていたのである。

 しかし、当時の実態は、なお十分ではないというものだったようである。しからば、現在はどうか。教育長の給料について、いくつかの都道府県の例を挙げてみたい。(特例条例により減額される前の額)

<都道府県教育長の給料の例>
 東京都 指定職給料表適用職員(局長級職員)の例により教育委員会が定める額(知事1,478,000円、副知事1,207,000円、指定職:1号給720,000円~7号給1,129,000円)
 神奈川県 92万円(知事145万円、副知事116万円、指定職なし→指定職相当=大学教育職給料表4級特号給:1号給724,000円~5号給989,000円)
 愛知県 921,000円以内において教育委員会が定める額(知事1,403,000円、副知事1,112,000円、指定職:1号給733,000円~8号給1,220,000円)
 大阪府 84万円(知事1,310,000円、副知事1,030,000円、指定職:1号給735,000円~8号給1,222,000円)
 兵庫県 88万円(知事1,340,000円、副知事1,050,000円、指定職なし)
 福岡県 88万円(知事1,350,000円、副知事1,080,000円、指定職なし)

 こうして見ると、教育長の給料は、ざっと知事の6割5分程度、副知事の8割程度の水準に設定されているのが実態ではないかと思われる。

 今回の地教行法改正により、教育委員会の指揮監督の下に教育委員会のすべての事務をつかさどる旧教育長から、教育委員会の会務を総理し、教育委員会を代表する新教育長に変わることになった。それは、迅速な危機管理体制の構築を図ることを含め教育行政の第一義的な責任者を明確化するという今回の改正趣旨を実現するために、教育委員会を引き続き執行機関としつつ、その代表者である委員長と事務の統括者である教育長を一本化した新教育長を置くというものである。そして、その身分は、旧教育長が、任命に議会同意を必要とする教育委員会の委員として特別職の身分を有するとともに併せて教育委員会が任命する教育長として一般職の身分を有するものであったのに対して、新教育長は、地方公共団体の長が議会の同意を得て任命する教育長として特別職の身分のみを有するものとなった。(「地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律について」平成26年7月17日付け26文科初第490号各都道府県知事・各都道府県教育委員会・各指定都市市長・各指定都市教育委員会あて文部科学省初等中等教育局長通知を参照)

 同通知では、新教育長の重要な職責、すなわち教育行政に大きな権限と責任を有することが強調されている。しかしながら、その待遇の在り方については、同通知は口をつぐんでいる。「特別職の身分取扱いを統一的に規定した法令は存在しない。したがって、特別職の身分取扱いについては、個々の特別職の特別職ごとに法規を検討して決定する必要がある。」(橋本勇著「新版逐条地方公務員法<第3次改訂版>」(学陽書房)67頁)
 新教育長の職務は、委員長の職務と旧教育長の職務を併せて一本化したものであることから、当然ながら、新教育長の職務と責任は旧教育長のそれと比較して重くなったことは確かである。
「職員の給与は、その職務と責任に応ずるものでなければならない。」とする職務給の原則は、特別職の給与の決定に際しても考慮されるべき基本原則であろう。とするならば、新教育長の給与は、旧教育長のそれを改善したものとならなければならない。

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:仕事

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。