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360.総合的見直しと人件費削減(その4) [44.総合的見直しと人件費削減]

 前回、給与制度の総合的見直しの実施に伴う地方公務員の人件費削減効果を考えてみるにあたって、熊本県人事委員会と京都教育委員会の各報告を確認した。そこで示された認識に基づき、国と地方との手当受給状況の違について総務省公表の資料を見ると、給与全体に占める手当の割合は、国平均の約18%に対して、地方平均では約11.5%、6.5ポイント少ない状況になっていることが示されていた。
 この辺りの事情について、今回は10月14日の高知県人事委員会報告を見ておきたい。
 高知県人事委員会は、「人事院が勧告した給与制度の総合的見直しと同様の措置を本県でも実施すべきかどうか、次のとおり検討を行った。」とし、国家公務員との給与水準の比較にかかわっての記述に次のような説明がある。

 なお、ラスパイレス指数は、厳密には「給与水準」を比較したものではなく、給与から諸手当を除いた「給料水準」を比較したものである。一方で、公民較差の算定に当たっては、国家公務員も地方公務員も諸手当を含む給与水準で比較しているが、別表第11に示すとおり、給与構造改革以降、国家公務員においては給与水準を維持しながら、俸給から手当への配分変更が実施されている。その結果、別表第12に示すとおり、平均給与月額で比較した場合、職員と国家公務員との較差はより大きくなっている。
https://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/230101/files/2013101500155/26kankokuhonbun.pdf

 高知県人事委員会の報告の別表には、給与制度の総合的見直しにかかわる報告で示された認識のベースとなっているグラフ等が掲載されており、大変興味深い。
 別表11では、国家公務員の場合、平成17年度における給与に占める給料の割合は86.3%であったが、平成26年度では82%に減少していることが示されている。一方、高知県職員については、平成17年度に94.3%であった給与に占める給料の割合は、平成26年度でも94.2%とほぼ変わっていない状況が示されている。
 別表12を見ると、国家公務員の場合は、平成17年度以降、平均年齢の上昇に従って、平均給与月額も上昇してきている様が分かる。そして、高知県職員の場合は、平均年齢は一旦上昇した後平成22年度から下がり始め、その傾向か続いている状況にあるが、平均給与月額は一貫して下がり続けている。

 ところで、上記の高知県人事委員会報告の記述でもう一つ注目したい箇所がある。それは、「ラスパイレス指数(国家公務員と地方公務員の給与水準を比較するために総務省等が用いているもの=編注)は、厳密には「給与水準」を比較したものではなく、給与から諸手当を除いた「給料水準」を比較したものである。一方で、公民較差の算定に当たっては、国家公務員も地方公務員も諸手当を含む給与水準で比較している」と述べる部分である。
 そのことをビジュアルに説明する図表として、別表第7「民間給与及び国家公務員給与との比較」を掲載している。国は、行一が適用される国家公務員給与を全国の民間企業従事者の給与と比較し、高知県は、行政職給料表が適用される職員の給与と高知県内の民間企業従事者の給与と比較しており、高知県の給与水準が全国のそれより59,383円低くなっていることが示されているが、そのことはここでは問題ではない。この図表が面白いのは、これと同時に国の行一適用職員と高知県の行政職職員の給与水準を並べて、ラス指数比較するのは給料で比較するのだということを示している部分である。
 ここで、別表7から金額を確認してみる。

 国(行一) 給与408,472円-給料335,000円=手当73,472円
高知県(行政) 給与349,886円-給料329,762円=手当20,124円

 民間給与については、全国409,562円に対して、高知県350,179円で59,383円の較差がある。高知県の給料は、国より5,238円低いのだが、較差の大半は手当を国より53,348円目減りさせることで地域の民間給与との均衡を図っているのである。

 「当然ではないか。何がおかしいの?」と言われそうなのだが、都道府県によっては、総務省の指導にしたがえば、地域の民間均衡が確保できないのではないか、と思うのだ。
 例えば、給料水準は国家公務員との均衡を図りなさい、と言われる。地域手当は当該団体内の国家公務員との均衡を図りなさい、と言われる。その他の手当についても、すべて国準拠で是正しなさい、と言われる。そして、地方公務員には支給されない広域異動手当や本府省業務調整手当は改善すると言う。
 そうすると、特に地域手当総額がそれほど増加しない団体を想像してみた場合、昨年まで地域の公民均衡が適正に図られていたことを前提とすると、給料表の水準は平均2%引き下げる、地域手当は引き上げられない、その他の扶養手当や住居手当なども国準拠、ということになると、いったいどうせよ、と言うのか、と言いたくなるのも当然だろう。給与構造改革後の総務省の地方に対する指導は、「給与制度や構造は国準拠とするが、給与水準については地域の民間給与との均衡を図るべし」というものであったが、給料を2%引下げた後、それを配分する先が見いだせないのである。地域手当を国と異なる水準に設定した団体には付税でペナルティーが与えられたが、そうなると、引き下げた分を改めて給料に載せるのか、ということになるのだろうか。給料本体のラス比較では国より高くなっても、地域手当補正後のラス比較で国と同水準であればOKということになるのかもしれないが、単純に水準をもどすような対応では、何のために給料を引き下げるのかがさっぱり分からなくなる。

 先日引用した10月10日の時事ドットコムの記事には、次のような記述がある。

 総務省の試算は、都道府県や市町村の一般職員や教職員、警察・消防職員ら約230万人を対象に実施した。基本給引き下げで3700億円程度が削減される一方、民間賃金が高い自治体では地域手当が手厚くなるため、同手当分で1500億円程度増加。差し引きで2100億円程度の削減になると見込んだ。

 都道府県や市町村の場合、それぞれの自治体で民間均衡を図るのだから、まず、基本給で3700億円程度引き下げたとするとその時点でそれだけ民間より給与水準が低くなるはずだ。そして、地域手当を1500億円程度引き上げるのだから、その分は公民の均衡に近づくことになる。仮に、各自治体の地方公務員がすべて行政職で、なおかつ各自治体の範囲を超えて全国で調整するのがルールならば、残り2100億円程度の原資を他の手当に振り分けなければ民間均衡が図れないことになる。
 しかし、地方公務員には行政職のほかに教育職や公安職、医療職といった職種が存在するが、国家公務員のように全国で均衡を図る訳ではない。それぞれの地域の各自治体の範囲での均衡を図るのだから、トータルで差し引きして削減できると単純に考えるのはおかしいことになる。
 例えば、地域手当が支給されていない団体ならばどうか。基本給を引き下げれば、その分民間との均衡が崩れるだけで、他の手当で埋めなければならなくなるはずだ。地域手当が支給されている団地については、地域手当が引き上げられる地域の団体ならば、もしかすると民間均衡が維持できるかもしれないが、地域手当が据え置きの団体や引き上げ幅が基本給の引き下げに見合っていない団体では、やはり、他の手当で穴埋めしなければ民間均衡が図れない、ということになる。総務省は、いったいどういった計算をして2100億円程度削減できると考えたのだろうか…。

 こうして考えてくると、「制度・構造は国準拠、水準は地域均衡」と言いつつ、給料や各手当を個別に見て指導する現在の総務省の指導の在り方に限界を感じるのである。この際、総務省はもっと地方の自由に任せてもよいのではないか。
 高知県、熊本県、京都府をはじめ各県の人事委員会は、この給与制度の総合的見直しを巡って相当に悩まれたことだと思う。そして、これまで以上に踏み込んだ見識を示される時代となった。
 そのような時代を迎えていることを踏まえて、全国の都道府県人事委員会をもっと信頼し、国は「給与水準は地域均衡」を指導の基本原理とするに止め、こと細かな指導は止めたらどうだろう。一挙にすべてをフリーにすることは無理だとしても、例えば、条例によって団体独自の手当の創設を認めるよう地方自治法を改正するといった環境整備を行うべきではないだろうか。

 今年の5月、日本創生会議が「東京一極集中が続けば、地方が消滅する」との衝撃的な発表を行った。国・地方挙げての取組が開始されようとしているが、各団体がそれぞれの団体が抱える課題に応じて機動的な対応を行おうとすれば、対策の必要な地方であるからこそ優秀な職員の確保が重要になるし、広域地方公共団体である都道府県にあっては、国家公務員ほどではないにせよ、ある程度広域的かつ戦略的な異動も必要になってくるはずである。そうすれば、仮に給料水準を2%引き下げたとしても、手当に配分できる道が開けてくるのではないか。
 こういった視点は分権時代の給与制度の在り方としても許されるのではないか、と思うのだが、全国知事会をはじめ地方六団体はどう考えるだろうか…。

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