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362.総合的見直しと人件費削減(その6) [44.総合的見直しと人件費削減]

 前回、総務省副大臣通知(「地方公務員の給与改定等に関する取扱いについて」(平成26年10月7日付け総行給第70号)の中で、「仮に民間給与が著しく高い地域であったとしても、公務としての近似性及び財源負担の面から、それぞれの地域における国家公務員の給与水準との均衡に十分留意すること」としている箇所が気になっていることを書いた。

 引用した文言は、平成25年の総務省副大臣通知にも出てくるのだが、遡っていくと、平成18年3月に取りまとめられた「地方公務員の給与のあり方に関する研究会報告書」にたどり着く。
 この研究会は、国民・住民等からの指摘や批判を踏まえて、平成16年10月18日に第1回目の会合を開催し、分権時代に対応するとともに地域の民間給与の状況をより的確に反映するための人事委員会機能の強化等について検討を重ね、その後の全国の人事委員会勧告の変化を方向付ける画期となる考え方を示している。
 検討項目は、地方公共団体における給与決定の考え方の再検討、地方公務員の給与構造の見直しの方向性、人事委員会の機能強化、参考指標(地域手当補正後ラスパイレス指数)の考案など、幅広いものとなっている。
 今回、このノートの問題意識から注目するのは、従来の画一的な国公準拠の考え方を刷新することを提言した箇所である。正しく理解するためには、報告書全文を読むべきなのだが、直接の該当部分である「均衡の原則」かかわっての文章のみ引用する。

<地方公務員の給与のあり方に関する研究会報告書(抜粋)>
 本研究会では、給与制度面での適用の場面と給与水準面での適用の場面を分け以下のように対応することとし、従来の国公準拠の考え方を刷新することを提言する。
A 給与制度(給料表の構造や手当の種類・内容等)については、公務としての近似性・類似性を重視して均衡の原則が適用されるべきである。この場合、公務にふさわしい給与制度としては、現状での取組みとしては、地方公務員と同様に情勢適応の原則や職務給の原則の下にあり、人事院等の専門的な体制によって制度設計されている国家公務員の給与制度を基本とすべきである。
 但し、これは、国と地方公共団体の違いに基づく差異とともに、情勢適応の原則や職務給の原則にのっとった合理的な範囲内で、個々の地方公共団体の規模、組織等も考慮されるべきものであり、画一的に国家公務員の給与制度と合致することを求めるものではない。
B 給与水準については、地方分権の進展を踏まえ、地域の労働市場における人材確保の観点や、住民等の納得を得られる給与水準にするという要請がより重視されると考えられることから、地域の民間給与をより重視して均衡の原則を適用すべきである。具体的には、Aの下で、各地方公共団体がそれぞれの地域民間給与の水準をより反映した給料表を定めるべきである。すなわち、給料表の構造については、国の俸給表の構造を基本にした上で、地域民間給与の水準を反映するため、給料表の各号給の額について、一定の調整を行った給料表とする等の措置をとるべきである。
 この場合、仮に民間給与が著しく高い地域であったとしても、公務としての近似性及び財源負担の面から、それぞれの地域における国家公務員の給与水準をその地域の地方公務員の給与の水準決定の目安と考えるべきである。
 生計費及び他の地方公共団体の職員の給与は、以上の考え方の下で、考慮要素のひとつとして勘案されるべきものである。

 Aの給与制度について国家公務員の給与制度を基本としつつ、個々の地方公共団体の規模、組織等も考慮されるべきとする考え方については、それでよいのではないかと思う。問題はBの給与水準についての考え方である。

まず、「地域の民間給与をより重視して均衡の原則を適用すべき」とする認識を示した上で、具体的には、Aの考え方の下で、「各地方公共団体がそれぞれの地域民間給与の水準をより反映した給料表を定めるべきである」と言う。
 普通、民間給与との均衡といえば諸手当を含む給与総体のラスパイレス比較の話になるはずなのだが、この報告書では、さらっと給料表の話にすり替わっている。この点に関わっては、前々回引用した高知県人事委員会の本年の報告でも説明しているとおりであるが、つまり、「給与構造改革以降、国家公務員においては給与水準を維持しながら、俸給から手当への配分変更が実施されている」ため、給料表の水準を国家公務員に合わせた場合には、諸手当を含めた給与総体の水準は相対的に低くならざるを得ないことになる。

 次に、問題意識からすれば脇道にそれるのだが、続けて「すなわち、給料表の構造については、国の俸給表の構造を基本にした上で、地域民間給与の水準を反映するため、給料表の各号給の額について、一定の調整を行った給料表とする等の措置をとるべきである」とする箇所も気になる。
 この報告書の公表以降、国の俸給表の各号俸の額に一定率を乗じる給料表や一定額を加算する給料表などを勧告する人事委員会が増加しているのだが、言い方は悪くて申し訳ないのだが、「人事委員会は給料表作成のノウハウを持っていないのだから、地域民間給与の水準を反映した給料表を作るといっても、国の俸給表をベースにしないと作れないでしょ」と言外に言っているように思えてならない。

 そして、問題の箇所である。
「この場合、仮に民間給与が著しく高い地域であったとしても、公務としての近似性及び財源負担の面から、それぞれの地域における国家公務員の給与水準をその地域の地方公務員の給与の水準決定の目安と考えるべきである」と念押しするのだが、それまでの説明の流れからすると、唐突な印象を受ける。しかも、「財源負担の面から」と言うのだから、給与構造改革時に地域手当を国の財源枠内で実施しなかった団体に対して特別交付税を減額した総務省の考えが強く反映されているとしか思えない。
「仮に民間給与が著しく高い地域であったとしても」というのは例示だから、なんの意味も無い。要するに「公務としての近似性及び財源負担の面から、それぞれの地域における国家公務員の給与水準をその地域の地方公務員の給与の水準決定の目安と考えるべきである」という訳である。
 そのためもあったのだろう、研究会では、新たに地域手当を含めた地域における国家公務員と地方公務員の給与水準を比較する指標「地域手当補正後ラスパイレス指数」を考案したのである。そもそも、地域手当の指定基準の妥当性についても課題を指摘する人事委員会もあるのだが、その他の諸手当については含まれない給与水準での比較になる。
 いずれにしても、これに従えば、民間給与との均衡は確保できない。

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