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369.読書=『これからの賃金』 [29.読書]

 遠藤公嗣『これからの賃金』(旬報社、2014年)
著者は、「はじめに」の冒頭で次のように述べる。

 これからの日本の賃金には、日本で働くすべての労働者の均等処遇をめざす賃金制度が必要であること、その賃金制度は「範囲レート職務給」が中心になるはずであって、それに必要な職務評価は「同一価値労働同一賃金」の考え方で実施すべきこと、これらを私は本書で主張したい。
 この主張は「日本で働くすべての労働者」の側に立った主張であって、彼ら彼女らの望ましい労働と生活のための主張であると、私は思っている。そして、その派生的な効果として、日本企業と日本経済を成長させる主張であると、私は思っている。

 本書は、日本企業における賃金制度改革の動向からはじまり、賃金形態の分類を考察することを挟んで賃金制度改革の背景としての「1960年代型日本システム」の成立と崩壊について説明した後、最終章で著者の主張である、同一価値労働同一賃金をめざすべきこと、を説明し、労働組合の取組への期待を寄せている。
 順を追って読んでいくと、例えば、「成果主義」や「職務給」などのキーワードの意味内容を慎重に吟味しながら分析し、説明していく辺りは、実に勉強になるし、同時に著者の誠実さを感じるものとなっている。
 少々残念なのは最終章である。これからの日本の新しい社会システムが「職務基準雇用慣行」と「多様な家族構造」の組合せであることをまず説明するのだが、おそらく紙面が少なすぎるのではないかと思う。
 専業主婦モデルの家庭(著者のいう「男性稼ぎ主型家族」)が減少し、共働き家庭やひとり親家庭が増加してきているのは確かであり、長期的にみれば著者が主張する社会システムに向かうのは必然だと思われる。著者が主張する新しい社会システムの利点の意義はよく理解できるのだが、一方で実際に移行していくための課題の克服へ向けた処方箋は十分示されているとは言えないのではないか。

 本書を読むと、これからの日本社会は正規・非正規の区分のない雇用・賃金制度の実現に向かって進んでいくようにとの著者の強い願いを感じる。しかし、個人的な勘に過ぎないけれど、とてもすんなりといくようには思えない。
 特に公務員の世界においては、戦前の官吏制度の名残を色濃く残す強固な官僚制度が存在しているのであり、民間企業と同じように変化していくとは、にわかに信じることはとてもできないのだが…。

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