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410.「コマ給」をどう捉えるか(その3) [47.「コマ給」をどう捉えるか]

 「406.「コマ給」をどう捉えるか(続き)」のコメント欄にNさんから次のようなコメントをいただいたのですが、長くなりそうなので、本文で取り上げたいと思う。

 全く同じ期間9月〜3月までの採用で24コマ採用なのに東京都採用の非常勤講師では社会保険に入れますが、文京区採用の場合、非常勤講師では社会保険に入れないと言われました。なんで?

 第一印象を言えば、「おなじ勤務時間の非常勤講師であっても、自治体により任用・勤務形態が異なる場合には、社会保険の取扱いが異なる可能性はあるのではないかな」と思うのだが、まず、基本知識として、法律から順に確認していこうと思う。

●厚生年金保険法(昭和二十九年五月十九日法律第百十五号)
(被保険者)
第九条 適用事業所に使用される七十歳未満の者は、厚生年金保険の被保険者とする。
第十条 適用事業所以外の事業所に使用される七十歳未満の者は、厚生労働大臣の認可を受けて、厚生年金保険の被保険者となることができる。
2 (略)
(適用除外)
第十二条 次の各号のいずれかに該当する者は、第九条及び第十条第一項の規定にかかわらず、厚生年金保険の被保険者としない。
 一 国、地方公共団体又は法人に使用される者であつて、次に掲げるもの
  イ 恩給法 (大正十二年法律第四十八号)第十九条 に規定する公務員及び同条 に規定する公務員とみなされる者
  ロ 法律によつて組織された共済組合(以下単に「共済組合」という。)の組合員
  ハ 私立学校教職員共済法 (昭和二十八年法律第二百四十五号)の規定による私立学校教職員共済制度の加入者(以下「私学教職員共済制度の加入者」という。)
 二 臨時に使用される者(船舶所有者に使用される船員を除く。)であつて、次に掲げるもの。ただし、イに掲げる者にあつては一月を超え、ロに掲げる者にあつては所定の期間を超え、引き続き使用されるに至つた場合を除く。
  イ 日々雇い入れられる者
  ロ 二月以内の期間を定めて使用される者
 三 所在地が一定しない事業所に使用される者
 四 季節的業務に使用される者(船舶所有者に使用される船員を除く。)。ただし、継続して四月を超えて使用されるべき場合は、この限りでない。
 五 臨時的事業の事業所に使用される者。ただし、継続して六月を超えて使用されるべき場合は、この限りでない。

 健康保険法の方は、厚生年金保険法と規定の仕方が異なるが、第3条第1項に同じような規定が存在する。いずれも、「所定労働時間が通常の就労者のおおむね4分の3以上」云々の文言は一切存在しない。
 では、「おおむね4分の3以上」の根拠はどこにあるのか。
 それは、昭和55年6月6日付けで、厚生省保険局保険課長・社会保険庁医保険部健康保険課長・社会保険庁年金保険部厚生年金保険課長名で発出された都道府県民生主管部(局)保険課(部)長あての内かんに基づく取扱いということらしい。
 次のような事務連絡が存在する。長くなるけれども引用する。

 短時間就労者に係る全国健康保険協会管掌健康保険及び厚生年金保険の被保険者資格の取扱いについて(平22.12.10事務連絡)
 短時間就労者に係る全国健康保険協会管掌健康保険及び厚生年金保険の被保険者資格の取扱いについては、昭和55年6月6日付け内かん(以下「内かん」という。)において、適用事業所と常用的使用関係の有無を判断する目安が示されており、これにより取り扱われているところです。
当該内かんにおいては、
1 常用的仕様関係にあるか否かは、当該就労者の労働日数、労働時間、就労形態、職務内容等を総合的に勘案して認定すべきものであること。
2 その場合、一日又は一週間の所定労働時間及び一月の所定労働日数が当該事業所において同種の業務に従事する通常の就労者の所定労働時間及び所定労働日数のおおむね四分の三以上である就労者については、原則として健康保険及び厚生年金保険の被保険者として取り扱うべきものであること。
3 2に該当する者以外の者であっても1の趣旨に従い、被保険者として取り扱うことが適当な場合があると考えられるので、その認定にあたっては、当該就労者の形態等個々具体的事例に則して判断すべきものであること。
とされており、所定労働時間等が四分の三に満たないことをもって、一律に当該就労者が被保険者に該当しないとするものではないことを、改めて徹底していただくようお願いします。
 なお、当該内かんの取り扱いについて、別添のとおり、質問主意書の提出がなされ、その答弁として本日閣議決定がなされたことを申し添えます。
(昭和55年の内かん及び質問主意書は省略)

 当時、社民党の衆議院議員であった服部良一の提出した質問主意書に対して、その答弁が閣議決定され、昭和55年の内かんが追認されたことを受けて、事務連絡が出されたようなのである。

 ところで、この内かんで示されている内容は、基準ではなく、目安であるから、「4分の3以上」といってもシビアなものではなく、幅があるはずではある。ここでは、そのことはとりあえず横に置いておいて、内かんの2で示すところの内容を具体的な数字で確認しておこう。

 まず、「一日又は一週間の所定労働時間及び一月の所定労働日数が当該事業所において同種の業務に従事する通常の就労者の所定労働時間及び所定労働日数のおおむね四分の三以上である就労者」を分解する。(「当該事業所において同種の業務に従事する通常の就労者」については、長いので単に「通常の就労者」と表記する。)
 ① 1日の所定労働時間が通常の就労者の所定労働時間のおおむね4分の3以上である就労者
 ② 1週間の所定労働時間が通常の就労者の所定労働時間のおおむね4分の3以上である就労者
 ③ 1月の所定労働日数が通常の就労者の所定労働日数のおおむね4分の3以上である就労者
 ④ ①又は②及び③である就労者

 次に、通常の就労者の所定労働時間をそれぞれ1日7時間45分、週38時間45分と、1月の所定労働日数を21.75日((365日-2日×52週)÷12月=21.75日)と仮定して、それぞれの「4分の3」の時間及び日数を単純に計算してみる。
 ① 7時間45分×3/4=5時間48分45秒
 ② 38時間45分×3/4=29時間3分45秒
 ③ 21.75日×3/4=16.3125日

 「所定労働時間」と「おおむね」をどうみるかだが、正規職員は休暇が充実していることも考慮して、少し短めの数字でもかまわないのではないかと思うので、とりあえずこのノートではそう考えることにする。
そうすると、
 ④ ①おおむね1日5時間45分以上又は②おおむね週29時間以上及び③おおむね1月16日以上である就労者
と理解できることになると仮定する。

 具体例で考えてみる。
(例1) 1日6時間・週5日勤務の就労者(週30時間勤務)
 ①おおむね1日5時間45分以上又は②おおむね週29時間以上を満たし、かつ、③おおむね1月16日以上を満たす就労者 →社会保険に加入できる。
(例2) 1日5時間・週5日の就労者(週25時間勤務)
 ③おおむね1月16日以上を満たすものの、①おおむね1日5時間45分以上又は②おおむね週29時間以上は満たさないと思われる →社会保険に加入できない可能性が濃厚

(例3) 月~木5時間・金7時間・週5日の就労者(週27時間勤務)
 (例2)と同じく、社会保険に加入できない可能性が濃厚

(例4) 1日6時間・週4日勤務の就労者(週24時間勤務)
 ②おおむね週29時間以上は満たさないが、①おおむね1日5時間45分以上を満たし、かつ、③おおむね1月16日以上を満たす就労者 →社会保険に加入できると考えられる。

 (例1)が被保険者資格を有すると認められることは分かりやすいが、(例2)~(例4)については、その事業所の就労実態をどのように見るのかによって判断が変わってくる可能性があると考えられる。(例4)のように、週24時間勤務の就労者であっても、1日6時間・週4日勤務が基本の勤務形態である場合には、内かんの2で示された目安をクリアし、被保険者資格を有すると認められることになるだろう。しかし、(例2)や(例3)のような勤務形態が基本の就労者については、(例4)よりも週当たりの勤務時間が長いにもかかわらず、内かんの2で示された目安をクリアしない可能性が濃厚であるため、内かんの3によって、個々具体事例に則して判断していく事例であるということになるのだろう。

 いずれにしても、東京都と文京区での取扱いの違いが何に由来するのかまでは残念ながら不案内なのでこれ以上のコメントはできないけれども、以上を基本にして、具体的に判断していくほかないと思われる。(「コマ給」の契約では勤務時間が明示されていないことをどう考えるのかという問題が別に存在するが…)

 ところで、Nさんのコメントで紹介された「24コマ採用」が気になる。非常勤講師の報酬額は、もちろん自治体によって異なるのだが、その水準は、これも設定条件によって異なるとはいえ、常勤講師の基本給の概ね1.5~2倍と考えてよいだろう。しかし、非常勤講師の報酬額には、授業の準備や後業務を要することが考慮されていると仮定すると、授業1コマに要する勤務時間は実時間の1時間ではなく、拘束される時間としては1授業時間であっても実質的な時間としてはおおむね1.5~2時間を必要とするというふうにも理解できるのであった。
 これが正しいとすると、「24コマ」の授業の実施に要する実質的な勤務時間は、おおむね週36~48時間と理解してよいことになる。従来、標準法定数の基礎として、1教員の週当たり担当時間数について、中学校24時間、小学校26時間と想定されていたことからしても、これは最早常勤教員の担当時間数であると言ってよいのではないか。
 もちろん反論もあるだろう。「その他の校務分掌を担当していない。」とか、「勤務時間として拘束しているのはあくまで授業時間である。」とか…。しかし、業務のボリュームとしては結構な量なのではないのだろうか。
 ただ、その非常勤講師が1人で担当する授業に責任を持ち、その授業を実施する場合と、例えば、常勤教員の担当する授業に補助としてかかわるような場合とでは業務のボリュームが違うのかもしれないが…。

 なお、平成28年10月1日から短時間労働者に係る被保険者の適用基準が改正され、1週間の所定労働時間が20時間以上あり、継続して1年以上使用されることが見込まれ、かつ、報酬の月額が8万8,000円以上である者(学生等でないこと)についても被保険者として取り扱われることになるとのこと。


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