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432. 定年後再雇用、賃金差別は違法 [8.トピック]

 5月13日、大手新聞各紙が「定年後再雇用にかかわって、同じ仕事で賃金引下げは違法」と一斉に報道した。
 横浜市の運送会社「長沢運輸」を定年退職後に同社に再雇用された嘱託社員のトラック運転手3人が、正社員との賃金の差額計約400万円の支払いを求めた訴訟で、東京地裁は賃金引下げは労働契約法第20条の規定に違反すると判示し、その差額分を支払うよう会社に命じたとのことである。
 正直、びっくりぽんの判決であった。公務員の世界でも、再任用職員の給与は、職務の級により若干異なるが、同一の職務であっても、給与は定年前の7~8割程度の水準にダウンするのは当然と思っていたからである。

 朝日新聞の記事から、判決文の引用あるいは要約と思われる記事で、判決の論理を示す部分を抜粋する。

佐々木宗啓裁判長は「業務の内容や責任が同じなのに賃金を下げるのは、労働契約法に反する」と認定。定年前の賃金規定を適用して差額分を支払うよう同社に命じた。

判決は「『特段の事情』がない限り、同じ業務内容にもかかわらず賃金格差を設けることは不合理だ」と指摘。この会社については「再雇用時の賃下げで賃金コスト圧縮を必要とするような財務・経営状況ではなかった」として、特段の事情はなかったと判断した。

コストを抑制しつつ定年後の雇用確保のために賃下げをすること自体には「合理性はある」と認めつつ、業務は変わらないまま賃金を下げる慣行が社会通念上、広く受け入れられているという証拠はないと指摘。「コスト圧縮の手段とすることは正当化されない」と述べた。

「う~ん」と考えてしまう。定年前の給与水準と再任用の給与水準とは、まったく別の考え方でもって設定されていたし、それは当たり前のことではなかったのか…。
 定年前は職務給ではなく職能給であり、新規学卒者を一斉雇用し、能力開発をしつつ、長期勤続雇用することを大前提に、それにふさわしい賃金制度として、熟練度や生計費の増嵩、勤続による貢献度合いなどを加味した査定昇給付きの年功賃金制度で処遇し、定年退職を迎えて勤続報償あるいは賃金後払いの性格を有するとされる退職手当を支払うことによってそれまでのすべてを精算した上で、新たな雇用として再雇用するのではなかったのだろうか。
 長沢運輸の賃金制度がどのようなものか分からない中で、判決文も見ずにこれ以上コメントするのもどうかと思うが、それにしても、びっくりぽんの判決だ。

 ところで、公務員の世界であるが、再任用職員の給与水準の考え方について、『公務員の新再任用制度詳解』(高齢対策研究会監修、日本人事行政研究所編集、平成12年)から引用し、確認しておく。

第四章 給与
 一 給与水準
  1 基本的考え方
 新再任用制度は、公務における長年の勤務を通じて得られた専門的な知識・経験を有する定年退職した者等を改めて一定の期間(最長五年間)雇用するものである。このため、その給与制度は、長期勤続雇用(新規学卒から定年まで)を前提とした定年前の職員に適用される現行制度とは異なり、年功的要素は考慮せず、現に就くポストの職責に応じ、職員の勤務意欲と勤務実績にこたえ得る新たなシステムとして設計されることが適当である。
 また、再任用職員の給与を納得性の高いものとするため、その給与水準は、民間企業における高齢労働者の賃金水準をはじめ、生計費等の状況、公務部内の定年前職員の給与との関係、などを総合的に勘案して、正規の職務に従事する高齢職員に対する処遇として適正妥当なものとする必要がある。
(略)

 二 俸給
  2 俸給月額
   (一) 俸給月額一般
 定年前の俸給制度は、職務給を原則としつつ、長期勤続雇用を前提に、個々人の経験等の属人的な要素にも配慮し、同一級でも給与額に幅がある。一方、再任用職員の俸給制度は、定年により退職した者等を一定の期間任用するという新再任用制度の趣旨を踏まえ、長期勤続雇用を前提として能力の伸長や新たな経験の蓄積等を評価して俸給月額を上昇させていく必要は認められない。したがって、再任用職員については昇給制度を設ける必要がなく、その俸給月額は、職務の評価を基本に属人的要素を含まないものとなるよう、各級ごとに単一の水準が設定されている。俸給月額の具体的な水準については、このような考え方を踏まえ、職務に応じ、現行の各級の俸給月額の幅の中で、年功的要素を排除し、かつ、初任者に適用される号俸を上回る程度の水準が設定されている。

 ここで、定年前職員に適用される最高号俸の俸給月額と再任用職員の俸給月額について、まず、再任用制度創設時の水準を比較しておく。(左が初号、中が末号、右が再任用。( )内は再任用/初号、再任用/末号)
 なお、教育(二)(三)の2級の下段は教職調整額を加算、3級の下段は3級加算額を加算
<平成14年>
・行政(一) ※11級制
  5級(現3級) 243,100円 393,700円 277,500円(1.14)(0.70)
  6級(現4級) 264,300円 429,900円 302,000円(1.14)(0.70)
  7級(現5級) 284,300円 440,700円 319,500円(1.12)(0.72)
  8級(現6級) 306,300円 465,800円 342,000円(1.12)(0.73)
  9級(現7級) 341,300円 503,200円 378,000円(1.11)(0.75)
  10級(現8級) 380,200円 527,500円 413,800円(1.09)(0.78)
  11級(現9級) 430,100円 597,300円 468,400円(1.09)(0.78)
・教育(二)
  2級 195,300円 470,000円 292,600円(1.50)(0.62)
  2級 203,112円 488,800円 304,304円(1.50)(0.62)
  3級 320,900円 521,400円 366,500円(1.14)(0.70)
  3級 329,100円 529,600円 374,700円(1.14)(0.71)
  4級 418,500円 544,000円 445,500円(1.06)(0.82)
・教育(三)
  2級 166,600円 455,900円 289,100円(1.74)(0.63)
  2級 173,264円 474,136円 300,664円(1.74)(0.63)
  3級 278,500円 488,400円 358,200円(1.29)(0.73)
  3級 286,500円 496,400円 366,200円(1.28)(0.74)
  4級 413,300円 516,200円 434,800円(1.05)(0.84)

 一見すると、教育(二)(三)2級が適用される再任用職員の俸給月額については、行政(一)と比較して、末号に対する水準が低く、初号に対する水準が高くなっている。これは、それだけ定年前職員に適用される教育(二)(三)2級の水準が行政(一)の各級にブリッジしていることの結果である。教育(二)2級は行政(一)の旧2級から旧8級に、教育(三)2級は行政(一)の旧2級から旧7級にブリッジしているのであり、このことはこのノートで再三述べてきた。一方、再任用職員については、教育(二)・教育(三)とも行政(一)旧6級の格付けであることから、末号との比較を考えると、行政(一)よりも低くなる訳である。
 ちなみに、行政(一)について置き換えると、
  旧7級末号 440,700円 旧6級再任用 302,000円(0.69)
  旧8級末号 465,800円 旧6級再任用 302,000円(0.65)
となり、数値は近づく。行政(一)旧6級格付けといっても、教職調整額を加算してようやく教育(二)2級で304,304円、教育(三)2級に至っては300,664円で行政(一)旧6級の302,000円より低い額に止まっている。再任用教員の給与水準については、人材確保法の趣旨は生かされていないのかもしれない。

 次に、給与構造改革時点の水準を見ておく。
<平成18年>
・行政(一)
  3級 221,100円 357,200円 259,000円(1.17)(0.73)
  4級 262,300円 391,200円 279,400円(1.07)(0.71)
  5級 289,700円 403,700円 295,000円(1.02)(0.73)
  6級 321,100円 425,900円 321,100円(1.00)(0.75)
  7級 367,200円 460,300円 364,600円(0.99)(0.79)
  8級 414,800円 482,600円 399,000円(0.96)(0.83)
  9級 468,700円 542,600円 451,600円(0.96)(0.83)
  10級 534,200円 575,300円 534,200円(1.00)(0.93)
・教育(二)
  2級 190,500円 428,100円 279,400円(1.74)(0.65)
  2級 198,120円 445,224円 290,576円(1.74)(0.65)
  3級 331,500円 467,700円 338,200円(1.02)(0.72)
  3級 339,200円 475,400円 345,900円(1.02)(0.73)
  4級 424,900円 487,800円 424,900円(1.00)(0.87)
・教育(三)
  2級 162,400円 416,500円 276,000円(1.70)(0.66)
  2級 168,896円 433,160円 287,040円(1.70)(0.66)
  3級 286,100円 438,100円 331,300円(1.16)(0.76)
  3級 293,600円 445,600円 338,800円(1.15)(0.76)
  4級 414,500円 463,000円 414,600円(1.00)(0.90)

 さて、行政(一)の7級~9級を見ると、初号に対する割合が1.00を下回っている。これは、給与構造改革に伴い、在職者が存在しない初号付近の号俸をカットした結果によるものなのだが、従来、給料月額は等級又は級ごとに明確に上下の幅を決めなければならないとされ、それが職務給の原則を踏まえることであると理解してきた。しかし、決められた上限の幅を下回って再任用職員の俸給月額が設定されているように見える。各級の初号は、その職務の級の初任給であったはずである。その初任給より下回る俸給月額が設定されたことをどのように理解すべきなのだろうか。おそらく、人事院は、「給与構造改革以後は、定年前職員に適用する俸給月額の水準と再任用職員に適用する俸給月額の水準は直接関係なく、それぞれ別個に定める。」とでも説明するのではないだろうか。

 平成27年4月較差改定後の水準も見ておく。
<平成27年>
・行政(一)
  3級 226,400円 348,800円 254,000円(1.12)(0.73)
  4級 259,900円 379,800円 273,400円(1.05)(0.72)
  5級 286,200円 391,800円 288,500円(1.01)(0.74)
  6級 317,000円 409,000円 313,900円(0.99)(0.77)
  7級 361,300円 443,700円 355,600円(0.98)(0.80)
  8級 406,900円 467,400円 388,700円(0.96)(0.83)
  9級 457,200円 526,300円 439,800円(0.96)(0.84)
  10級 520,500円 558,300円 520,200円(1.00)(0.93)
・教育(二)
  2級  197,900円 415,000円 273,100円(1.38)(0.66)
  2級  205,816円 431,600円 284,024円(1.38)(0.66)
  特2級 258,200円 435,700円 301,800円(1.17)(0.69)
  特2級 268,528円 453,128円 313,872円(1.17)(0.69)
  3級  327,200円 449,600円 329,900円(1.01)(0.73)
  3級  334,900円 457,300円 337,600円(1.01)(0.74)
  4級  415,700円 472,100円 414,000円(1.00)(0.88)
・教育(三)
  2級  169,500円 404,200円 269,900円(1.59)(0.67)
  2級  176,280円 420,368円 280,696円(1.59)(0.67)
  特2級 258,200円 415,400円 296,900円(1.15)(0.71)
  特2級 268,528円 432,016円 308,776円(1.15)(0.71)
  3級  287,300円 421,100円 323,200円(1.12)(0.77)
  3級  294,800円 428,600円 330,700円(1.12)(0.77)
  4級  405,500円 448,000円 404,000円(1.00)(0.90)

 給与カーブのフラット化の進行に伴い、末号に対する再任用の比率は徐々に上昇し、初号に対する再任用の比率は徐々に下降している。(なお、教育(三)の3級末号の3級加算額を含む俸給月額が特2級末号の俸給月額に教職調整額を加算した額と逆転することについては、以前にこのノートで取り上げた。「423.27年俸給表改定(その6)」など。)
 いずれにしても、今回の判決は地裁段階であり、今後も注視する必要があるだろう。


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