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483. 蠟山政道=人事院月報第74号(その2) [49.「人事院月報」拾い読み]

 蠟山政道「人事行政に望むもの」(つづき)

 従つて、戦後占領下において突如として採用された公務員制度は、半世紀以上もながく発達し、根を下ろしていた官僚制度の上に置かれ、全く木に竹を継いだように、明らかに一つの断層示した。また、人事行政は勢い新旧の異なつた思想によつて混乱裡に行われざるをえなかつた。それにもかかわらず、日本の後れを取り戻さねばならぬという客観的要請が、占領政策の圧力と相俟つて、新制度の遂行を推進した。人事院は新奇な中央人事行政機関として設置されたが、幾多の反対非難にもかかわらずともかくも十年の星霜を経て、新らしい人事制度と人事行政の在り方とその方向を示した。
 新たな公務員制度とその人事行政の在り方が、過去のそれと異なつている点は、およそ次の三つの点にある。
 その一つは、憲法第15条の「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。②すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない」という規定によつて、従来の「天皇及天皇の政府の官吏」という観念が制度的に根本的に改められたことである。民主的な憲法は、民主的な政府とその官公吏を必要とする。これによつて、わが国ははじめて民主的な官吏制度をもつことが憲法上可能となつたのである。これは極めて重大な変革であつて、これによつて科学的な人事行政も新らしい職業倫理の問題もはじめて重要性をもち始めたのである。なぜなら、官僚制や独裁制の下では、科学的な人事行政を研究し、実施することは一方的に利用される危険があるのみならず、真の自由な科学的研究も公正な実施運営もできないからである。民主主義の下においてのみ科学精神は育成されうるのであり、新らしい倫理も生れるのである。
 その二つは、人事制度の統一と人事行政の総合とが企図され、従来、服務規律、職階制度、給与制度、試験採用福利施設等バラバラに取り扱われていたのが公務員法においてともかくも統一された。それのみならず、この制度を運用する人事行政の機能として、人事管理の存在が認められ始めたことである。人事制度と人事行政とは、決して同一ではない。前者は法律制度であつて静的な規制にすぎない。人事行政は、人事管理を中核として、人事制度を運用する動的な管理機能である。管理機能は、法律の解釈適用を重要な規準とするであろうが、それのみに局限される活動ではない。それより高次のダイナミックな判断を必要とする管理行政の一環なのである。この人事行政機関の独自の機能とその地位とが公務員制度の中に規定されたことは重要な劃期的意義をもつている。
 第三は、人事院という中央人事行政機関の設置である。人事制度が憲法と公務員法によつて面目を一新したことは、単に人事を政府の行政手段とのみ考え、公務員をいわばその手足とのみ見做して来た過去の人事行政を根本的に改める契機となつた。
 人事制度は公務員自体の人権や利益の保障をも含んでいるのであつて、すべて勅令で処理された旧官僚制度の下に行われた人事行政の如き精神と方法とによつては運営されえない。ここに、国民主権を代表する国会の立場や行政職員の立場をも広く考慮する必要が加わつて来た。人事院が恰も第四院の如き独立的立場を与えられたのも、こうした理論上と実際上の必要があつたためである。
(次回につづく)

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