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474. 教師の勤務時間の上限ガイドライン [8.トピック]

 平成31年1月25日、文部科学省が「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」を制定し、服務監督権者である教育委員会に対し、所管の公立学校に勤務する教育職員についての方針等を策定するよう求めている。先月23日には、東京都教育委員会が都立学校の教育職員についての方針を策定・公表したが、今後、その他の道府県でもそれぞれ策定することになるのだろう。

 ところで、このガイドラインでは「在校等時間」という概念を作り出し、それをガイドラインにおける「勤務時間」とするとしている。抜粋する。

「3-(1)本ガイドラインにおいて対象となる「勤務時間」の考え方
 教師は,社会の変化に伴い子供たちがますます多様化する中で,語彙,知識,概念がそれぞれに異なる一人一人の子供たちの発達の段階に応じて,指導の内容を理解させ,考えさせ,表現させるために,言語や指導方法をその場面ごとに選択しながら,学習意欲を高める授業や適切なコミュニケーションをとって教育活動に当たることが期待されている。このような教師の専門職としての専門性や職務の特徴を十分に考慮しつつ,「超勤4項目」以外の業務が長時間化している実態も踏まえ,こうした業務を行う時間も含めて「勤務時間」を適切に把握するために,今回のガイドラインにおいては,在校時間等,外形的に把握することができる時間を対象とする。
 具体的には,教師等が校内に在校している在校時間を対象とすることを基本とする。なお,所定の勤務時間外に校内において自らの判断に基づいて自らの力量を高めるために行う自己研鑽の時間その他業務外の時間については,自己申告に基づき除くものとする。
 これに加えて,校外での勤務についても,職務として行う研修への参加や児童生徒等の引率等の職務に従事している時間については,時間外勤務命令に基づくもの以外も含めて外形的に把握し,対象として合算する。また,各地方公共団体で定める方法によるテレワーク等によるものについても合算する。
 ただし,これらの時間からは,休憩時間を除くものとする。
 これらを総称して「在校等時間」とし,本ガイドラインにおいて対象となる「勤務時間」とする。」

 この「在校等時間」について、文科省のQ&A(「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドラインの運用に係るQ&A」(平成31年3月29日))は次のように解説する。

「問2 「勤務時間」の概念について、本ガイドライン上の「勤務時間」すなわち「在校等時間」は、労働基準法上の「労働時間」とは異なるのか。
○ 「勤務時間」という言葉の意味は、使用する文脈によって、「働いた時間」を一般的に指している場合や、「始業時間から終業時間までの所定の時間」を指している場合、特定の法令上の「勤務時間」を指している場合など様々な場合が考えられますので、その定義をしっかりと確認する必要があります。
○ 地方公務員法上の「勤務時間」は、基本的には労働基準法上の「労働時間」と同義であると考えられますが、厚生労働省が作成した「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」によれば、労働基準法における「労働時間」とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間とされています。
このことから、教師に関しては、校務であったとしても、使用者からの指示に基づかず、所定の勤務時間外にいわゆる「超勤4項目」に該当するもの以外の業務を教師の自発的な判断により行った時間は、労働基準法上の「労働時間」には含まれないものと考えられます。
○ 一方、本ガイドラインにおける「勤務時間」の考え方は、「超勤4項目」以外の業務が長時間化している実態も踏まえ、「超勤4項目」に該当するものとして超過勤務を命じられた業務以外も含めて、教師が校内に在校している時間及び校外での勤務の時間を外形的に把握した上で合算し、そこから休憩時間及び業務外の時間を除いたものを「在校等時間」とした上で、上限の目安を導入しようとするものであり、労働基準法上の「労働時間」とは異なるものです。」

 この記述を読んで真っ先に浮かんだのは、次の国会答弁である。

153-参-文教科学委員会-2号 平成13年10月30日【抜粋】
○畑野君枝君 (略)
 私は、ことしの五月にこの問題、教職員の長時間過密労働について取り上げて質問をいたしました。その点について再度伺いたいわけでございます。
 四月の六日に厚生労働省から出されました、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準について」の通達につきましては、その委員会の中で、総務省からは、四月二十七日に通知を行って、教育委員会も対象になると答弁されました。また、文部科学省からは、厚生労働省の基準は私立学校の教職員には当然適用され、公立学校教職員にも基本的には適用されると答弁をされております。
 そこで伺いたいのですが、一つは、総務省のおっしゃった教育委員会も対象になるという点につきまして具体的に伺いたいと思います。あわせて、文部科学省からは、公立学校教職員にも基本的には適用される、この具体的な中身について伺いたいと思います。
○政府参考人(板倉敏和君) 総務省といたしましては、地方公務員には原則として労働基準法の適用があることから、従来より労働基準法に関しまして各地方公共団体に必要な情報提供を行ってまいっております。
 厚生労働省が定めた基準は労働時間を適正に把握するためのものでございまして、その点につきましては公立学校の教職員も基本的に対象となるものでございます。したがいまして、教育委員会も対象となる旨お答えをしたところでございます。
○政府参考人(矢野重典君) 私の方からは、地方教育公務員についてのお答えを申し上げたいと思います。
 地方公務員にもこれは適用されるわけでございますので、当然のことながら公立学校の教職員にも基本的に適用になるわけでございまして、具体的には、この基準の項目のうち、一般的に申し上げますと、少し細かい話で恐縮でございますけれども、始業・終業時刻の確認及び記録についての項目でございますとか、またその確認、記録の原則的な方法についての項目、さらには労働時間の記録に関する書類の保存に関する項目、また労働時間を管理する者の職務に関する項目、こうした項目が適用になるものと考えているところでございます。
○畑野君枝君 そうしますと、総務省に伺いたい、確認したい点ですけれども、教育委員会も対象になるということは当然学校にも周知徹底されるということになるわけですか。
○政府参考人(板倉敏和君) そのように考えております。
○畑野君枝君 次に、文部科学省に御確認なんですが、労働時間の適正な把握の問題につきましては、当然、始業・終業時刻の確認及び記録と言われました。
 そこで、始業・終業時刻なんですけれども、これは、例えば命令のない超過勤務というのも始業・終業時刻の確認及び記録というのに入りますか。
○政府参考人(矢野重典君) 個々のケースでその判断が難しい場合もあろうかと思いますが、一般的には命令のない勤務につきましても始業時刻に入るものと思っております。
○畑野君枝君 そうしますと、命令のある超過勤務ですとか部活動などについてもこれは当然入るということでよろしいですか。
○政府参考人(矢野重典君) そのとおりでございます。

 政府参考人である当時の初中局長は、「厚生労働省が定めた基準は労働時間を適正に把握するためのもので、公立学校の教職員も基本的に対象となる」という趣旨の答弁をしている。
 続いて、「命令のない超過勤務も始業・終業時刻の確認及び記録に入るか」との質問に対して、緒中局長は、「一般的には命令のない勤務についても始業時刻に入る」と答弁し、更に「命令のある超過勤務とか部活動などもこれは当然入る」との突っ込みに対して、初中局長は「そのとおりでございます。」と述べるのである。
 このやりとりの入り口は、「労働時間」、どう考えても労基法上の「労働時間」の話であり、その流れで、「部活動指導も含めた超勤4項目以外の業務への従事時間も当然入る」との趣旨の答弁をしている。直接的には、「始業・終業時刻の確認及び記録に入る」ということなのだけれども、それはイコール「労働時間に入る」と理解するのが素直な読み方だと思って来た。
 部活動指導業務は、命じて行わせることはできないけれども、学校が責任を取る体制の下に実際に従事した場合には、「勤務した」と評価されるのだ。だからこそ、部活動指導業務に従事した場合には、著しく特殊な「勤務」に従事する職員に支給される特殊勤務手当が支給されるのだ、と理解してきたものだった。部活動指導はボランティアなんかではないのだと。
 ところがである。今回の文科省のQ&Aの記述には驚いた。「使用者からの指示に基づかず、所定の勤務時間外にいわゆる「超勤4項目」に該当するもの以外の業務を教師の自発的な判断により行った時間は、労働基準法上の「労働時間」には含まれないもの」と言い切っているのだ。
 どう考えたらよいのか…。
 文科省だって、自分勝手な解釈ではなく、おそらく厚労省とすりあわせをして記述しているのだろうと思う。Q&Aの答えに基づいて考えるしかないとすれば、時間外の部活動指導業務の従事時間は労基法上の「労働時間」には含まれないけれども、それは「勤務」に従事したのだと理解しなければならない。そうしないと手当は支給できない。当該業務への従事は「勤務」なのだけれども、「勤務」なのだから業務も含めて「労働時間を適正に把握するための始業・終業時刻の確認の対象に入る」けれども、「労働時間=勤務時間」には含めない、という。う~む。


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