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477. 私立高で残業代未払い [8.トピック]


 数日前、東京都内の私立高校で教員の残業代を支払っていなかったとして、労働基準監督署が是正勧告を行っていたとの報道があった。

都内私立高で残業代未払い 労基署が是正勧告 - 産経ニュース
2019.7.25 20:31
 東京都文京区の私立京華商業高校で、教員の労働時間を管理せず残業代を支払っていなかったとして、中央労働基準監督署が是正勧告していたことが25日、分かった。元教員が加盟する労働組合「私学教員ユニオン」が東京都内で記者会見し、明らかにした。勧告は12日付。
 ユニオンによると、残業は授業の準備や部活動の指導のためで、休日出勤もあったが残業代は支払われなかった。学校は出欠を確認するだけで労働時間は把握していなかった。労基署が調べたところ、パソコンの利用履歴などから未払いが判明。月平均で残業が約50時間に上った教員もいた。
 ユニオンは「学校側がボランティアと主張していた部活動が労働時間と認定された意義は大きい」と話した。学校側の代理人を務める弁護士は「是正勧告に対し、適正な対処に向け検討を進めている」とした。

 報道によれば、一つは、教員の労働時間を把握していなかったこと、二つは、残業は授業の準備や部活動の指導のためで、残業代を支払っていなかったこと。おそらく、未だに多くの私立学校では残業代を支払っていないのではないかと思われる。これは以前から指摘されていたことだ。

2018年1月に公開された公益社団法人私学経営研究会が取りまとめた「第3回私学教職員の勤務時間管理に関するアンケート調査報告書」によれば、出勤は出勤簿で確認する私立高校が6割を超えるものの、退勤を全く確認していない私立高校は3割を超え、いずれも時刻の記録はないようである。また、法定の時間外勤務手当を支給している私立高校は12%に止まり、公立高校に準じて教職調整額若しくは定額の業務手当又は教職調整額プラス定額の業務手当の支給をしている私立高校は7割を超え、一切残業手当を支給しない私立高校も0.6%存在している。一方、労働基準監督署から指導や是正勧告を受けた私立高校は全国で約2割に止まっており、労働基準監督署が本腰を入れて私立高校の臨検に入ったら、8割以上は是正勧告等を受けることになるのではないか。

 今年も、次のような報道があった。

「勤務時間管理せず」6割 私立校、働き方改革遅れ 教員の残業、把握できず
2019/5/14 9:52
 私立学校教員の働き方改革を巡り、公益社団法人「私学経営研究会」(大阪市)が昨年12月~今年1月、アンケートを実施した結果、回答した181校のうち6割超の115校が「勤務時間管理をしていない」と答えたことが14日、分かった。うち13校は「(時間管理を)する予定はない」としている。
 働き方改革関連法により、罰則付き残業時間の上限規制が大手企業や団体で今年4月に始まった。私立校も企業と同様で、運営する法人が常時使用する労働者が100人超であれば対象だが、労働時間の管理すらせず、残業の状況を把握できていない学校が多い。対応の遅れが鮮明になった。
 アンケートは同研究会のセミナーに参加した学校に実施。181校のうち大学は53校、高校56校、中学校16校などで、幼稚園や専門学校も含む。
 勤務時間管理をしていない115校のうち、「2019年4月から行うことを検討または予定」としたのは37校。65校は「検討課題」とし、13校は「する予定はない」とした。時間管理をしていると答えたのは66校。うち「タイムカードなど客観的な記録」が39校、「自己申告で記入」が27校。
 「働き方改革」への着手の有無については、半数近い88校が「必要性を感じるが着手していない」と回答。3校は「着手の予定はない」とした。
時間外手当(残業代)について尋ねると、実際の残業時間にかかわらず一定時間分を支払う「固定残業代」を支給しているのが83校で最多。50校は「支給しておらず、今後も支給予定はない」。
 残業の上限規制は「月100時間未満(休日労働含む)」「年720時間以内」などと定め、違反には罰則がある。公立校は対象外だが、文部科学省は今年1月、同水準を目安とするガイドラインを定めている。〔共同〕

 労働基準監督署の監督官は人数が少なくて忙しいとの話も聞くが…。

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476. 自己研鑽の時間 [8.トピック]

 先日「474. 教師の勤務時間の上限ガイドライン」で、文部科学省制定の「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」を取り上げ、このガイドラインでは「在校等時間」という概念を作り出し、それをガイドラインにおける「勤務時間」とするとしていることを紹介した。
 今回注目したいのは、「具体的には,教師等が校内に在校している在校時間を対象とすることを基本とする。」と述べた後、次のように続ける記述である。

 「なお,所定の勤務時間外に校内において自らの判断に基づいて自らの力量を高めるために行う自己研鑽の時間その他業務外の時間については,自己申告に基づき除くものとする。」

 これに関して、文科省の「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドラインの運用に係るQ&A」は次のように解説する。

問9 「在校等時間」から自己申告により除かれる「所定の勤務時間外に校内において自らの判断に基づいて自らの力量を高めるために行う自己研鑽の時間」とは、具体的に何を指すのか。
○ ここでいう「所定の勤務時間外に校内において自らの判断に基づいて自らの力量を高めるために行う自己研鑽の時間」とは、上司からの指示や児童生徒・保護者等からの直接的な要請等によるものではなく、日々の業務とは直接的に関連しない、業務外と整理すべきと考えられる自己研鑽の時間を指しています。
○ 具体的には、例えば、所定の勤務時間外に、教師が幅広くその専門性や教養を高めるために学術書や専門書を読んだり、教科に関する論文を執筆したり、教科指導や生徒指導に係る自主的な研究会に参加したり、自らの資質を高めるために資格試験のための勉強を行ったりする時間のようなものを想定しています。

 この解説では、なぜ自己研鑽の時間を業務外の時間とするのかを積極的に説明していないが、最高裁の判例によれば、「労基法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいう。労基法上の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであり、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない」とされている。その立場から考えると、「上司からの指示や児童生徒・保護者等からの直接的な要請等によるものではなく」、「自らの判断に基づいて」行う行為である限り、そのような自己研鑽の時間は、「労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価すること」はできず、労基法上の労働時間とは評価できないということになる。

 とりわけ強調しておくと、このQ&Aは、「教科指導や生徒指導に係る自主的な研究会に参加」することも、業務外の自己研鑽の時間と述べている。
 この点に関して、宮地茂監修・文部省初等中等教育局内教員給与研究会編著『教育職員の給与特別措置法解説』(昭和46年、第一法規)における次の記述を思い出す。

 二 昭和四一年の教職員勤務状況調査
 一で述べた経緯により、昭和四一年四月三日から昭和四二年4月1日までの一年間にわたり、教職員の勤務状況の調査が行われた。この調査は、教職員の勤務状況を、条例・規則等の規定に基づいて割り振られた毎日の勤務開始時刻から勤務終了時刻までのいわゆる服務時間内に仕事をした状況と、校長の超過勤務命令のいかんにかかわらず、服務時間外に仕事をした状況とを調査したものである。このうち、本調査の主目的である服務時間外の勤務状況は次に述べる方法によって調査している。
(1) 服務時間外の勤務でも学校敷地内における勤務は、原則として調査対象としたが、自主研修、付随関連活動(関係団体活動等)および宿日直勤務については調査対象としなかった。
(2) 服務時間外の学校敷地外における勤務のうち、修学旅行、遠足、林間・臨海学校、対外試合引率、命令研修、事務出張にかかるものについては調査対象とし、次の方法で時間計算した。
(略)
 この調査の調査対象校数と、調査の結果は、二四、二五頁の表のとおりであった。(23~26頁)
※ 調査の結果の表によれば、1人当たり週平均で、自主研修の時間は、小学校30分、中学校34分、付随関連活動(関係団体活動、社会教育関係活動)は、小学校31分、中学校28分
※ 「関係団体活動」については、「PTA活動(事務を含む),校長会・教頭会・教科連絡協議会等のメンバーとしての活動」を事例としている。(262頁)

 (2) 教職調整額を四%とした根拠
① 教職調整額が四%とされたのは、人事院の意見申出にあるとおりの率とされたからであるが、人事院の意見において四%とされたのは、文部省が昭和四一年度に行った教員の勤務状況調査の結果による超過勤務手当相当分の俸給に対する比率約四%という数字を尊重したからである。
② 文部省調査結果の四%の率は、次のような計算によって算定されたものである。
ア 八月を除く一一ヵ月の平均週当たり超過勤務時間は次のとおりである。
 小学校 二時間三六分
 中学校 四時間三分
イ 右の時間から、次のような時間を差引きまたは相殺減する。
(ア) 服務時間外に報酬を受けて補習を行っていた時間を差引く。
(イ) 服務時間外まで勤務する業務がある一方において、服務時間内において社会教育関係団体等の学校関係団体の仕事に従事した時間等があるが、今後においては、個々の教員についての校務分掌および勤務時間の適正な割り振りを行なう野措置により、各教員の勤務の均衡を図る必要がある。右の調査結果は、教員自身の申告に基づくものであるが、これを、職務の緊急性を考慮し、超過勤務命令をかけるという観点から見直してみ、これら社会教育関係活動等の服務時間内の勤務時間は、服務時間外の勤務時間から相殺減することとした。
ウ 右の結果、次の時間が今後における一週平均の服務時間外勤務時間数と想定することができる。
 小学校 一時間二○分
 中学校 二時間三○分
 平 均 一時間四八分
エ 以上の結果に基づく一週平均の超過勤務時間が年四四週(年間五二週から、夏休み四週、年末年始二週、学年末始二週を除外)にわたって行われた場合の超過勤務手当に要する金額が、超過勤務手当算定の基礎となる給与に対し、約四%に相当したものである。(110~112頁)

 以上長々と引用したが、詰まるところ、教職調整額4%の基礎には、自主研修の時間や学校関係団体活動の時間は含まれていない。つまり、文科省は、今も昔も「教科指導や生徒指導に係る自主的な研究会に参加」することは、業務外すなわち職務ではないと整理してきたということだ。


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475. 自治総合センター31年3月報告書 [8.トピック]

 平成31年3月に取りまとめられた一般財団法人自治総合センター「地方公務員の給与決定に関する調査研究会報告書」に目を通した。地方公務員のラスパイレス指数が漸増傾向にあり、その要因分析が喫緊の課題となっていることから、今回は、「わたり」、「昇格メリット」等をテーマに調査研究したということらしい。

 「わたり」について見ると、その定義を「一義的には「給与決定に際し、等級別基準職務表に適合しない級へ格付けを行うもの」である。一方で、等級別基準職務表に反しない場合であっても、実質的に「わたり」と同一の結果となる等級別基準職務表又は給料表などについても、「わたり」とみなして是正を助言してきた経緯がある」ことを紹介しつつ、「実質わたり」要件の課題を上げた後、A県市町村担当課の意見や課題に対する委員の意見を掲載し、まとめの記述をしている。
 独自構造の給料表を適用している場合の比較点検が困難なことなどに触れつつ、「実質わたり」を含めた「わたり」の是正に向けた点検を行うために、総務省において、各地方公共団体の給料表カーブの公表と地方公共団体の職の格付けの比較方法の探求を検討するよう求めている。

 確かにこの手法によれば、一定比較可能になるだろうと思われる。しかし、「わたり」の是正の観点からすれば、突っ込み方が浅いのではないかと思う。そもそも国の行政職俸給表(一)自体を職務給の原則と言いつつ、フラット化が進みつつあるものの年功的な俸給表構造としてきたことや、標準職務表の規定も「わたり」を許容しかねないものであることについての省察がない。標準職務表の規定の仕方では、「職名等級制」と呼ばれる旧教育職俸給表(二)(三)と比べると、大きく異なっている。

 脱線するが、佐藤三樹太郎『教職員の給与』(学陽書房)から引用しておく。
31 等級の“わたり”を認められないか
 わたりとは 等級の“わたり”とは、正規の昇格要件を伴わずに等級を昇格させることを指している用語と解されるが、教育職俸給表が職名等級制であり、また学校内部の教員組織と密接に関連する問題でもあり、昇格要件が伴わないで等級のみ昇格することは適当でない。…
教諭が教頭に昇任し、昇格の要件を満たせば当然一等級に昇格するし、実習助手が実習教諭に昇格すれば当然二等級に昇格するが、この場合の“わたり”とは、そのような職務上の昇格要件を伴わなくても等級を昇格させるという意味に使われている。…
 一般行政職員の昇格 一般行政職員については、…しかし、一般的には、一定資格を有する一般事務職員が数年経験すれば係長またはこれに相当する職務に充てられ、さらに何年かすれば課長補佐またはこれに相当する職務に充てられる場合が多いことから、一般行政職員の多くは順調に等級の昇格が行われ、あたかも等級の昇格が先行して、職務がこれについてゆくかのように見え、これが“わたり”式に昇格するとみられるようである。…
 教職員の場合は、教諭の免許状を取得しなければ教諭に昇任させることができないし、また校長に必要な資格要件が満たされなければ校長に昇任させることはできない。このため職務上の昇任がなければ等級の昇格はありえない。…(113~115頁)

 教育職では昇任しなければ昇格はないのだが、行政職の場合には適切に運用するとしても昇任しなくても昇格する場合がある。ここに「わたり」を生み出す構造的な原因がある。だから、級別定数を設定したのではなかったのか。
 級別定数の設定は、職務給の原則を定数面の規制を通じて確保しようとするものとされている。この級別定数の設定は、少なくとも、「形式的わたり」の防止には役立つと考えられるのだが、なぜか今回の調査研究の対象とはなっていない。

 いずれにしても、「わたり」の点検には難しさを伴う。とりわけ独自構造の給料表を採用している団体の場合には、困難さが増すだろう。しかし、そのことを翻して考えてみると、国の俸給表構造を所与のものとして、どの団体にも適用すべきものとの前提に立っていることの裏返しではないのかと思う。民間企業の場合、それぞれの企業にふさわしい給与制度を構築するため、同じ給料表が用いられている訳ではない。そうしてみると、地方公共団体であっても、それぞれの団体規模や組織の在り方によって、異なる給料表が作成されたとしても本来的には当然のことではないか。であるならば、給料表の違いや「わたり」の有無などにかかわらず分析できる手法を研究したらどうか、とも思う。

 新規採用者以外は、原則、内部市場から人材を調達しながら、長期にわたり人材を育成していく人事管理を前提とした場合、幹部職員については、職務給の原則を徹底して「わたり」を認めない運用をしたとしても、スタッフ職員については、今なお、ある程度年功的な運用をした方が職員のモチベーションを維持し、能力を発揮させるためには良いという考え方があっても良いのではないか、と思う。また、年齢構成が国とは大きく異なり、団体ごとにも相違があることから、昇格運用の実態が異なっても仕方がない側面もあるのではないか。国においてもそおうした状況も想定して、級別定数の運用に一定の弾力性を持たせている。そう考えると、ラスパイレス指数を問題にするのであれば、「わたり」など個別の問題に着目するのではなく、給料表の構造等にかかわらない、もっと汎用性をもった分析の方法が確立できないのだろうか、とも思う。

 その際、「職務給の原則」を外すことはできない。とはいえ、職階制が廃止され、職務分析が実施されていない下で、本来的な意味合いで「職の格付けの比較方法」を確立することなど望むべくもないのではないか。そうすると、ここは割り切って、妥協するしかない。その方がすっきりする。人事院の民間給与実態調査では、官民比較における職種の対応関係を明確にして実施しているが、同じように国公比較における職の対応関係を明確化した上で、給料表の構造にかかわりなく給与水準を比較してはどうだろうか。そして、「わたり」かどうかは、その団体の給料表に基づいて判断すれば良いのではないか。給与制度の実際は、給料表の構造と実際の運用とを見なければ、良いとも悪いとも言えないのではないか。級を統合することが良いのか悪いのか、その団体の組織の在り方を見なければ分からないではないか。少々「実質わたり」に見えたとしても、それが職員の士気を高め、パフォーマンスを高めることになっているのか、課長や係長を目指す人材を減少させ、組織の維持に支障を生じさせているのか、一概には言えないのではないか…。

 などなど、色々なことが頭の中をよぎる。いずれにしても、報告書の読後感は、“物足りない”又は“消化不良”である。



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