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476. 自己研鑽の時間 [8.トピック]

 先日「474. 教師の勤務時間の上限ガイドライン」で、文部科学省制定の「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」を取り上げ、このガイドラインでは「在校等時間」という概念を作り出し、それをガイドラインにおける「勤務時間」とするとしていることを紹介した。
 今回注目したいのは、「具体的には,教師等が校内に在校している在校時間を対象とすることを基本とする。」と述べた後、次のように続ける記述である。

 「なお,所定の勤務時間外に校内において自らの判断に基づいて自らの力量を高めるために行う自己研鑽の時間その他業務外の時間については,自己申告に基づき除くものとする。」

 これに関して、文科省の「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドラインの運用に係るQ&A」は次のように解説する。

問9 「在校等時間」から自己申告により除かれる「所定の勤務時間外に校内において自らの判断に基づいて自らの力量を高めるために行う自己研鑽の時間」とは、具体的に何を指すのか。
○ ここでいう「所定の勤務時間外に校内において自らの判断に基づいて自らの力量を高めるために行う自己研鑽の時間」とは、上司からの指示や児童生徒・保護者等からの直接的な要請等によるものではなく、日々の業務とは直接的に関連しない、業務外と整理すべきと考えられる自己研鑽の時間を指しています。
○ 具体的には、例えば、所定の勤務時間外に、教師が幅広くその専門性や教養を高めるために学術書や専門書を読んだり、教科に関する論文を執筆したり、教科指導や生徒指導に係る自主的な研究会に参加したり、自らの資質を高めるために資格試験のための勉強を行ったりする時間のようなものを想定しています。

 この解説では、なぜ自己研鑽の時間を業務外の時間とするのかを積極的に説明していないが、最高裁の判例によれば、「労基法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいう。労基法上の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであり、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない」とされている。その立場から考えると、「上司からの指示や児童生徒・保護者等からの直接的な要請等によるものではなく」、「自らの判断に基づいて」行う行為である限り、そのような自己研鑽の時間は、「労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価すること」はできず、労基法上の労働時間とは評価できないということになる。

 とりわけ強調しておくと、このQ&Aは、「教科指導や生徒指導に係る自主的な研究会に参加」することも、業務外の自己研鑽の時間と述べている。
 この点に関して、宮地茂監修・文部省初等中等教育局内教員給与研究会編著『教育職員の給与特別措置法解説』(昭和46年、第一法規)における次の記述を思い出す。

 二 昭和四一年の教職員勤務状況調査
 一で述べた経緯により、昭和四一年四月三日から昭和四二年4月1日までの一年間にわたり、教職員の勤務状況の調査が行われた。この調査は、教職員の勤務状況を、条例・規則等の規定に基づいて割り振られた毎日の勤務開始時刻から勤務終了時刻までのいわゆる服務時間内に仕事をした状況と、校長の超過勤務命令のいかんにかかわらず、服務時間外に仕事をした状況とを調査したものである。このうち、本調査の主目的である服務時間外の勤務状況は次に述べる方法によって調査している。
(1) 服務時間外の勤務でも学校敷地内における勤務は、原則として調査対象としたが、自主研修、付随関連活動(関係団体活動等)および宿日直勤務については調査対象としなかった。
(2) 服務時間外の学校敷地外における勤務のうち、修学旅行、遠足、林間・臨海学校、対外試合引率、命令研修、事務出張にかかるものについては調査対象とし、次の方法で時間計算した。
(略)
 この調査の調査対象校数と、調査の結果は、二四、二五頁の表のとおりであった。(23~26頁)
※ 調査の結果の表によれば、1人当たり週平均で、自主研修の時間は、小学校30分、中学校34分、付随関連活動(関係団体活動、社会教育関係活動)は、小学校31分、中学校28分
※ 「関係団体活動」については、「PTA活動(事務を含む),校長会・教頭会・教科連絡協議会等のメンバーとしての活動」を事例としている。(262頁)

 (2) 教職調整額を四%とした根拠
① 教職調整額が四%とされたのは、人事院の意見申出にあるとおりの率とされたからであるが、人事院の意見において四%とされたのは、文部省が昭和四一年度に行った教員の勤務状況調査の結果による超過勤務手当相当分の俸給に対する比率約四%という数字を尊重したからである。
② 文部省調査結果の四%の率は、次のような計算によって算定されたものである。
ア 八月を除く一一ヵ月の平均週当たり超過勤務時間は次のとおりである。
 小学校 二時間三六分
 中学校 四時間三分
イ 右の時間から、次のような時間を差引きまたは相殺減する。
(ア) 服務時間外に報酬を受けて補習を行っていた時間を差引く。
(イ) 服務時間外まで勤務する業務がある一方において、服務時間内において社会教育関係団体等の学校関係団体の仕事に従事した時間等があるが、今後においては、個々の教員についての校務分掌および勤務時間の適正な割り振りを行なう野措置により、各教員の勤務の均衡を図る必要がある。右の調査結果は、教員自身の申告に基づくものであるが、これを、職務の緊急性を考慮し、超過勤務命令をかけるという観点から見直してみ、これら社会教育関係活動等の服務時間内の勤務時間は、服務時間外の勤務時間から相殺減することとした。
ウ 右の結果、次の時間が今後における一週平均の服務時間外勤務時間数と想定することができる。
 小学校 一時間二○分
 中学校 二時間三○分
 平 均 一時間四八分
エ 以上の結果に基づく一週平均の超過勤務時間が年四四週(年間五二週から、夏休み四週、年末年始二週、学年末始二週を除外)にわたって行われた場合の超過勤務手当に要する金額が、超過勤務手当算定の基礎となる給与に対し、約四%に相当したものである。(110~112頁)

 以上長々と引用したが、詰まるところ、教職調整額4%の基礎には、自主研修の時間や学校関係団体活動の時間は含まれていない。つまり、文科省は、今も昔も「教科指導や生徒指導に係る自主的な研究会に参加」することは、業務外すなわち職務ではないと整理してきたということだ。


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