SSブログ

383.古書散歩(その13)=『時の法令第百十六号』 [29.読書]

 昭和28年11月下旬号である『時の法令第百十六号』には、「教員給与の三本立」が特集されている。普通、「三本建」と表記する場合が多い(例えば、学陽書房の『公務員給与法精義』、佐藤三樹太郎『教職員の給与』)が、理由は分からないが、ここでは見出しのみ「三本立」と表記されている。

 見出しは次のようになっている。

いよいよ明年1月1日から実施される
教員給与の三本立
  一般職の職員の給与に関する法律の一部を改正する法律(八・一八公布、法律第二三七号)

 本文から抜粋する。

 教育職員の給与に関しては、いわゆる二本建給与体系か三本建給与体系かということで、久しい間にわたつて争われてきたところであり、勢いのおもくむところ政治問題にまで発展したのであつたが、このたびの給与法改正は、とにもかくにも、この問題に一つの回答を与えたものとして、注目すべきものである。
 二本建、三本建の主張については、新聞その他でしばしば紹介されているので、ここでは詳しく触れることは避けるが、かいつまんでいえば、二本建の主張は、教育職員の給与体系を、大学職員のそれと高等学校以下諸学校に勤務する教育職員のそれとの二本とし、高等学校以下についていえば、同じ学歴、資格、同じ経験をもつ教育職員は、高等学校に勤務しようと中学校で教鞭を執ろうと、その間給与上なんらの差をつけるべきではないとするものであるのに対し、三本建案は、高等学校以下をさらに高等学校と中・小学校(幼稚園を含む。)に分け、高等学校教員の給与体系と中・小学校教員の給与体系は別個のものとすべきであると主張する。
 両者の論点は、給与理論上あるいは職場構成の実態、勤務態様その他多岐にわたつているが、その中心は、高等学校と中・小学校の間に給与上職域の差を認めるかどうかという点に集中されている。
 中・小学校では、教材の深い研究よりも指導が重視されるべきであり、教育効果上、高い学歴、資格よりも教職経験を重視する体系が望ましいが、高等学校では、指導の上にさらに教材に対する研究なり優れた技能が強く教育効果に影響するので、教職経験よりも学歴、資格、技能、技術等が重視される体系が望ましい。このように各職域にその特殊性があるにもかかわらず、ただ「教員」として同一であるという画一論で、義務制学校に適切な給与体系をそのまま高等学校に適用しようとするところに無理があるというのが三本建の主張であり、この点で高等学校と中・小学校の間に職域差を認めず、同一学歴、同一勤続年、同一俸給の原則に立つ二本建案と鋭く対立する。他方二本建論者は、授業担当時数からいつても、教育技術からいつても、むしろ中・小学校教員の方が負担が重く責任も大きいとして譲らず、対立のまま今日に至つたのである。
改正法は、次に述べるように、高等学校と中・小学校の間に職域差を認める立場に立つている。… (1~2頁)

 執筆者の署名がある。人事院給与局給与第二課長小熊清、とある。その後に、追記が掲載されている。

 この法律は、自由、民主、鳩自の三党共同提案であり、国会では左右社会党から猛烈な反対があり、また、日教組主流は反対、高教組はこれを支持した。しかし、いずれにしても、この法律は、法律的には国立学校の教育職員に適用されるだけであり、その限りでは大した問題ではない。問題は、多数の地方教員がこの法律に準拠していかに取り扱われるかという点にあるのである。

 当時の様子を詳しく学習してはいないが、この教員給与の三本建の動きについては、教職員組合の分断を狙ったものだとの受け止めもあったようである。
 ところで、三本建給与制度が実施されてから60年以上が経過した今日、旧教育職俸給表(二)に相当する給料表と同(三)に相当する給料表を統合して一本化している団体がいくつか存在する。
 例えば、東京都教育委員会は、一本化の理由を次のように整理している。

現在の高等学校と小・中学校の教員の職務内容や専門性からは、給料表を異にするほどの違いを見出すことは難しい。このことは、国が採用以後10数年間特定の級号給(小中2級19号、高校2級17号)に至るまで給料月額を同額としてきたことからもうかがうことができる。
また、教員採用の資格要件はほとんど差がなく、採用されている教員は校種に関係なく大多数の者が大卒者である。さらに近年、中高共通枠で採用選考が実施されていることや中高一貫教育校が開設されることなどから、今後、中学校と高等学校間での人事交流の拡大も予想される。
こうした点を十分に踏まえ、小・中学校と高等学校とで格差のある給料表のあり方を検討しなければならない。
(平成17年8月、教員の給与制度検討委員会報告「これからの教員給与制度について」(第二次報告)、東京都教育委員会)

 近年、千葉県も給料表を一本化した。少々長いが、平成23年の千葉県人事委員会勧告から該当部分を抜粋しておく。

(5) 教員給与の見直し
 昨年,教育委員会から,高等学校等の教員と小・中学校の教員の給料表を区分していることについて,校種間における教員の職務内容の同質化等によりその必要性が薄れており,一方で,人事交流を妨げる要因のひとつであると考えられることなどから,共通給料表の導入を含む現行の教育職給料表の見直しに関する調査研究の要請が本委員会になされ,調査研究を進めてきたところである。
 高等学校等の教員と小・中学校の教員の両者の給料表については,給料表が区分されてきた経緯等を検証したところ,両者の免許制度や在職者の学歴の違いなどから,給料表に水準差が設けられたが,その後,いわゆる人材確保法による教員給与改善の際に,両者ともに新規採用者を中心に大学卒が教員の主体となりつつあることから,初任給から一定の号給までについては同額とされたものの,それ以降の号給の水準差は依然として残されている。
 現在においては,両者の免許制度が改正され,いずれの在職者の学歴も大学卒が主体となるなど,給料表に水準差が設けられた当時の状況に変化がみられることから,教育委員会が要請の理由とする,両者の職務内容の同質化や円滑な人事交流を図る必要性について考慮すれば,共通の給料表を導入することには合理性があるものと考える。
 これまで,在職者の学歴差などを背景として,高等学校等の教員の給料表が小・中学校の教員の給料表よりも高い水準に設定されてきたところであるが,教育委員会は,両者の職務内容の同質化などにより,高等学校等の教員の給料表を高く設定しておく合理的な理由が認められないとしていること,免許制度が改正され,中高共通枠の採用選考が実施されるなど,求められる学歴に差がなくなっていることなども総合的に勘案すると,当委員会としては,メリハリある教員給与体系を実現するためにも,共通の給料表は,現行の教育職給料表(二)(小・中学校教員に適用される給料表=編注)を基本とすることが適当であるものと考える。
 なお,共通の給料表の導入に当たっては,若年層の教員の職務状況を踏まえた改善及び実習助手等の在職状況に応じた配慮を行うとともに,職務の実態に応じた手当上の措置の見直しなど,職務・職責に応じた適切な処遇について引き続き検討する必要がある。
 共通の給料表は,平成24年4月1日から施行することとし,切替えにあたっては,切替えに伴う調整措置として,切替前に職務の級に異動があった職員等の号給について逆転防止のために必要な調整を行い,また,新たな給料月額が切替前に受けていた給料月額に達しない職員に対しては,経過措置として,その達するまでの間は新たな給料月額に加え,新旧給料月額の差額を支給することとする。

 給料表一本化の理由としては、①資格制度・学歴実態の差の縮小、②校種間における教員の職務内容の同質化、③中学校・高等学校間などの人事交流の拡大を挙げている。これらの理由には一定の合理性はあると思われる。
 今後、他の道府県にも広がっていくことになるのかもしれないが、先行団体の給料表を見る限り、一本化した給料表のベースは旧教育職俸給表(三)相当の給料表になるだろうと想定される。これは、高等学校教員の給与水準を引き下げることにつながる可能性が高いと思われる。

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:仕事

380.読書=『トヨタ生産方式の逆襲』 [29.読書]

 鈴村尚久『トヨタ生産方式の逆襲』(文春新書、2015年)
 著者は、トヨタ自動車の生産調査部などで実際にトヨタ生産方式の指導を実践してきた人物である。
 その「カンバン方式」は間違っている!-という帯のコピーに引かれて手に取ったのだが、目次をみるだけで興味がますます大きくなり、即購入した。

 第1章「「常識」を疑い、パラダイムを変えよ」の小見出しには、読みたくてしかたがなくなる項目が並んでいる。
・ 「かんばん方式」はなぜ誤解されるのか
・ 「単能工」から「多能工」へ
・ 信奉せずに、武器にせよ
・ 会社の実力は「倉庫」でわかる
・ 「ストア」とは何か
・ 「待たせる」とは「我慢を強いる」こと
などだ。
第2章の「「タイミング」を売れ!」もよい。
第4章の「「サラダ理論」で需要予測とオサラバしよう」も目から鱗のタイトルだし、第5章の「ホワイトカラーという「魔物」」にも興味津々になる。

 これまでにもトヨタ生産方式に関する記述を目にしたことはある。しかし、「本当かいな?」と内心疑いを持っていたのだが、本書でその意味がよく分かった。
 例えば、「在庫を持たないカンバン方式」などというものは大きな間違いであり、「適正在庫」を持つことが正しいのだ。
 本書は、まさに驚きと納得の連続である。「教員給与とどうかかわるのか?」と言われると、そのとおりなのだが、なぜ取り上げたのかと言えば、理論先行型のコンサルタントのご高説などではなく、地に足のついた、現地現場で培われた真のトヨタ生産方式が語られているのであり、「真の解決策は現場から現場の人間によって発見される」ということを本書によって実感したからなのである。つまり、学校で発生している様々な問題の解決策もやはり、現場から現場の人間によって発想させるべきだと思うのである。

 ところで、1月28日の朝日新聞デジタル版にトヨタ自動車が新賃金制度を導入するとの記事が掲載されていた。

トヨタ、若手に手厚く 工場対象、新賃金制度導入へ
 トヨタ自動車は27日、工場で働く社員を対象に、新しい賃金制度を導入する方針を示した。年功序列で昇給する部分を今より圧縮し、それを元手に、若手への支給額を手厚くするのが柱。少子高齢化が進むなか、優秀な若手を確保しやすくするねらいだ。早ければ来年1月にも導入する。
経団連主催の「労使フォーラム」で、上田達郎常務役員(労務担当)が明らかにした。新制度では、子を持つ社員向けの手当などを増額し、子育て世代の若手の月給を引き上げる。一方、ベテランについては、年齢などに応じて昇給する賃金カーブを今より緩やかな形に見直し、月給の伸びを抑える。
 さらに、30歳前後以降は、上司の査定で決まる部分を拡大。技能やチームワークなどに応じて、今より月給に差をつける。これも全体として若手の賃金アップにつながるという。
(大内奏 2015年1月28日00時18分)

 長期にわたって実施する社内教育を通じて優秀な社員を育成するシステムがあるからこそ、トヨタのカイゼンもより効果があったのではないか、と想像している。年功序列賃金が徐々にフラット化されていくのが社会の趨勢とはいえ、この新賃金制度がトヨタ生産方式の実際にどのような影響を及ぼすことになるのだろうか…。

nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:仕事

372.読書=『過労死時代に求められる信頼構築型の企業経営と健康な働き方』 [29.読書]

 佐久間大輔『過労死時代に求められる信頼構築型の企業経営と健康な働き方~裁判例から導かれる過労死予防策~』(労働開発研究会、2014年)
 著者は、労災・過労死事件を中心にした労働紛争などを扱っている東京弁護士会所属の弁護士である。
 本書は、過労死が社会問題となる中で、増加する労災認定や労働紛争に対して、裁判例から導き出される対処法を解説するものである。学者の書いた本とは違って、体系的に理論を示すようなものではなく、紛争解決の実務家らしく、裁判になった事件に対して最高裁だけでなく下級審で示された考え方を一つ一つ丁寧に分類整理し、過労死予防策のポイントを解説したものとなっている。そしてそれは、企業にとっての企業防衛や危機管理だけでなく、実際に過労死を予防し、真に労働者が健康で働くことができる職場環境の整備に役立てられるものとなっている。

 本書の構成は次のとおり。

第1部 経営戦略と労働法
第1章 ビジネス倫理と経営戦略
 第2章 労働法の基礎知識
第2部 従業員の健康を守る義務
 第1章 使用者の補償義務
 第2章 使用者の義務違反
 第3章 因果関係、過失
 第4章 使用者の予防義務
 第5章 パワハラ・いじめ
第3部 信頼を基礎とした人事
 第1章 傷病による配置転換
 第2章 傷病による勤務軽減
 第3章 休職と復職
 第4章 傷病による退職勧奨

 最近の裁判例の傾向からすると、簡単に言えば「労働者から申し出がなかったから、使用者には責任はない」というような考え方は甘いよ、ということのようだ。そして、単に危機管理と言った視点からだけでなく、企業戦略としても、労働者との「信頼」をベースにしながら、労働者が健康で働ける環境整備を目指す経営が求められるよ、ということを主張されている。
 多忙化が指摘される教員の職場環境を考える際にも、大変参考になる。一読を勧めたい本である。

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:仕事

370.読書=『もじれる社会』 [29.読書]

 本田由紀『もじれる社会-戦後日本型循環モデルを超えて』(ちくま新書、2014年)
 本書の帯の説明では、「「もじれ」=もつれ+こじれ」と表現されている。
 まえがきには、次のように書かれている。

 本書の奇妙なタイトルは、筆者がかつて書いていたブログ「もじれ日々」に由来する。「もじれ(る)」という言葉は、辞書によると、よじれる、ねじれるといった意味をもつ。しかし私は、それに加えて、もつれる、もじもじする、こじれる、じれる等々が混ざり合った、悶々とした感覚を言い表すものとして、その言葉を使っている。

 著者は、「戦後日本型循環モデル」の崩壊・終焉と、それに代わる新たなモデルの形成に向けた「もじれ」の状況について、仕事、教育、家族のそれぞれの場面で議論を展開していく。
 「戦後日本型循環モデルの終焉」と題した第二章の第二節「激動する社会の中に生きる若者と仕事、教育」で、著者は「社会変化の見取り図」を提示する。そこでは、1960年代半ばから直近までの時間の流れを横軸にして、様々な社会的指標、統計データを一度に書き込んだ上で、経済成長率によって画される時期区分を付記した図を描き、経済の推移が、様々な社会指標に反映されている状況を読み取っていく。完全失業者数、非正規雇用者比率、貯蓄非保有世帯比率、生活保護受給世帯数のほか、大学・短大進学率などについても見ていく。
 そして、第4章では、普通科高校の抱える問題点を指摘し、教育の職業的意義の考え方を論じた上で、専門高校の職業的意義についてデータを示しながら再発見する。

 給与制度を考えることに直結するものではないけれども、考えるベースの理解につながる本の一つと言える。

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:仕事

369.読書=『これからの賃金』 [29.読書]

 遠藤公嗣『これからの賃金』(旬報社、2014年)
著者は、「はじめに」の冒頭で次のように述べる。

 これからの日本の賃金には、日本で働くすべての労働者の均等処遇をめざす賃金制度が必要であること、その賃金制度は「範囲レート職務給」が中心になるはずであって、それに必要な職務評価は「同一価値労働同一賃金」の考え方で実施すべきこと、これらを私は本書で主張したい。
 この主張は「日本で働くすべての労働者」の側に立った主張であって、彼ら彼女らの望ましい労働と生活のための主張であると、私は思っている。そして、その派生的な効果として、日本企業と日本経済を成長させる主張であると、私は思っている。

 本書は、日本企業における賃金制度改革の動向からはじまり、賃金形態の分類を考察することを挟んで賃金制度改革の背景としての「1960年代型日本システム」の成立と崩壊について説明した後、最終章で著者の主張である、同一価値労働同一賃金をめざすべきこと、を説明し、労働組合の取組への期待を寄せている。
 順を追って読んでいくと、例えば、「成果主義」や「職務給」などのキーワードの意味内容を慎重に吟味しながら分析し、説明していく辺りは、実に勉強になるし、同時に著者の誠実さを感じるものとなっている。
 少々残念なのは最終章である。これからの日本の新しい社会システムが「職務基準雇用慣行」と「多様な家族構造」の組合せであることをまず説明するのだが、おそらく紙面が少なすぎるのではないかと思う。
 専業主婦モデルの家庭(著者のいう「男性稼ぎ主型家族」)が減少し、共働き家庭やひとり親家庭が増加してきているのは確かであり、長期的にみれば著者が主張する社会システムに向かうのは必然だと思われる。著者が主張する新しい社会システムの利点の意義はよく理解できるのだが、一方で実際に移行していくための課題の克服へ向けた処方箋は十分示されているとは言えないのではないか。

 本書を読むと、これからの日本社会は正規・非正規の区分のない雇用・賃金制度の実現に向かって進んでいくようにとの著者の強い願いを感じる。しかし、個人的な勘に過ぎないけれど、とてもすんなりといくようには思えない。
 特に公務員の世界においては、戦前の官吏制度の名残を色濃く残す強固な官僚制度が存在しているのであり、民間企業と同じように変化していくとは、にわかに信じることはとてもできないのだが…。

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:仕事

293.読書=『日本の雇用と労働法』 [29.読書]

 濱口桂一郎『日本の雇用と労働法』(日経文庫、2011年)
 著者の本はこの学習ノートで以前も紹介した(234.読書=『新しい労働社会』)。この本は、日本の雇用システムの成り立ちとその生きた姿を概観し、裁判例の変遷を追いつつ日本の労働法制との密接な関係を領域ごとに解説するものとなっている。
 目次を引用しておく。

Ⅰ 日本型雇用システムと労働法制
 1 日本型雇用システムの本質とその形成
  (1) メンバーシップ契約としての雇用契約
  (2) 日本型雇用システムの形成
 2 日本型雇用システムの法的構成
  (1) ジョブ契約としての雇用契約
  (2) メンバーシップ型に修正された労働法制
  (3) 就業規則優越システム

Ⅱ 雇用管理システムと法制度
 1 入口-募集・採用
  (1) 新規学卒者定期採用制の確立
  (2) 日本型採用法理の確立
 2 出口-退職・解雇
  (1) 定年制の確立
  (2) 日本型雇用維持法理の確立
 3 人事異動
  (1) 定期人事異動の確立
  (2) 人事権法理の確立
 4 教育訓練
  (1) 企業内教育訓練の確立
  (2) 公的教育訓練政策

Ⅲ 報酬管理システムと法制度
 1 賃金制度と人事査定
  (1) 年功賃金制度の確立
  (2) 人事査定制度
  (3) 賃金処遇と判例法理
 2 労働時間と生活・生命
  (1) 労働時間規制の空洞化
  (2) 仕事と生活の両立
  (3) 過労死・過労自殺問題
 3 福利厚生

Ⅳ 労使関係システムと法制度
 1 団体交渉・労働争議システム
  (1) 労働運動の展開
  (2) ジョブ型労使関係法制のメンバ-シップ型運用
 2 企業内労使協議システム
  (1) 工場委員会から労使協議会へ
  (2) 労使協議法制への試み
 3 管理職

Ⅴ 日本型雇用システムの周辺と外部
Ⅵ 日本型雇用システムの今後

 最後ⅤとⅥは事項のみとしたが、ご覧のとおり、本書は日本の雇用・労働問題の全体像を俯瞰しつつ、特徴をよく描き出し、問題点を示してくれるものとなっている。専門的で精緻な議論をされると門外漢は大変なストレスを感じるものだが、素人にとっても実にわかりやすい。公務員の人事・給与制度を理解する上でも、本書を読めば「そうだったのか」と納得させてくれる好著である。

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:仕事

258. 読書=正しい賃金の決め方 [29.読書]

 弥富賢之『正しい賃金の決め方』(日本経営合理化協会出版局、平成3年改訂版)
 著者は、元人事院給与局格付課長である。1953年、本田技研工業に迎えられ、新職能給制度を確立したとされる。その後、本田技術研究所取締役を経て、1960年、賃金管理研究所を設立し、数多くの企業を指導されてきた。
 この本を読んでいくと、間違いだらけの賃金制度や賃金論議に対する著者の怒りにも近い感情が伝わってくる。名指しこそかろうじて避けてはいるものの、電産型賃金の流れをくむ給与体系を「積み木遊び」と手厳しく批判し、属人給の発想に立った職能資格制度の誤った発想や弊害を次々と指摘する。職制の乱設、中間職位の増大、役付手当の弊害、資格制度による組織の非能率化、やる気の喪失、人件費の膨脹…。
弥富式の俸給表は、実にシンプルである。ベースアップに対処するために加給を設けるものの、基本的には基本給は、本給のみ。能力主義に基づく、S・A・B・C・Dの能力別昇給制度を運営するために、A平均人の標準昇給額を5号昇給としてルール化する。すなわち、S=6号、A=5号、B=4号、C=3号、D=2号とするのである。調整年齢の考え方はあるものの、「青天井の昇給制度」であることを基本としている。

 現在、賃金管理研究所が推奨する本給表は、すべての等級において70号を上限としている(例えば、蒔田照幸『デフレに克つ給料・人事』文春新書)。そのような俸給表のことを「段階号俸表」と言うが、これは、平成18年の給与構造改革によって号俸を4分割された後の国家公務員に適用する俸給表と大変よく似ている。定期昇給における昇給号数に違いはあるものの、Bを標準と考えれば国の制度と同じであり、「賃金管理研究所の賃金制度を導入したのではないか」とさえ思える。

 少し長くなるが、段階号俸制を紹介している文章を引用する。

「公務員の俸給制度の単線・一律的な昇給方式の欠点を改める目的で考案されたのが,評価によって昇給号俸の数を変える「段階号俸制」の方式である。
 これは,公務員のように原則1年に1号俸昇給するのではなく,号俸間のピッチ(号差金額)を公務員よりも細かく定めておき,SABCDという昇給時の評価によって各人異なる昇給号俸を通用する。
 段階号俸は,職能資格制度の職能給(後述)を実施するひとつの方式としても知られているが,職能資格制度との大きな違いは,年齢給との並存型貸金体系を採用せず,これ一本で基本給を決定する単一型賃金表を採用していることである。等級は,職務の複雑(非監督的要素)と責任(監督的要素)の度合いを「要求される創意」「対人関係」「受ける統制」などの面から比較して,職務遂行の段階区分に分類する。このような職務遂行の段階に合わせて等級別の賃金表を用意し,その職務を担う人材にふさわしい賃金の出発点と昇給ピッチ(昇給幅)を決める。
 この方式を最初に導入した本田技研では等級をⅠ~Ⅵ等級に分類し,それぞれ初号値・号差金額を図表4-1のように設定していた。(略)
 年功賃金と能力主義の長所をほどよく調和させた本田技研の方式は,賃金表の設計思想が合理的で運用も比較的簡便であり,職務給特有の硬直性もなく安心して運用できる。将来が見通せる能力主義的な賃金制度として注目された。筆者が前に所属していた賃金管理研究所(弥富賢之会長)では,本田技研方式の賃金表をより汎用性のある一般的な方式へと改良を進め,日本全国の多様な業種の企業・団体に向けてコンサルティング活動を続けてきた。
 たとえば昭和50年代には,55歳から60歳への定年延長が進んだことをふまえ,第3次調整年齢が導入された。これにより成績CまたはDの者は最終的に昇給停止の対象となる。」(菊谷寛之『新実力型賃金のつくり方』日本経団連出版、平成14年)

 この記述を読むと、人事院給与局課長であった弥富氏が、本田技研工業で公務員の俸給制度を改良して実践・確立し、賃金管理研究所を通じて普及させた段階号俸制を、人事院が、半世紀を経た後に公務員の世界に導入したとは言えないだろうか…。

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:仕事

257. 読書=『公務員給与序説』 [29.読書]

 稲継裕昭『公務員給与序説-給与体系の歴史的変遷』(大阪市立大学法学叢書(55)、有斐閣、2005年)
 本書の意図は、「今まで比較的等閑視されてきた、給与制度、とりわけその俸給制度体系の変遷に焦点をあてて考察を進めて」いくことにある。本書の構成は、第1章「勅令による時代」として、明治期から終戦直後の公務員給与制度を論じ、第2章で「団体交渉による時代」~大蔵省給与局の創設から15級制給与体系の成立、第3章「人事院勧告制度揺籃期」~63ベースの成立過程など、第4章「人事院勧告制度の定着とその後」~8等級制への移行とその後の俸給体系の改正、第5章「公務員給与体系の日英比較」となっている。公務員給与体系の歴史的変遷を考察したものであることから、この学習ノートにとっても、大いに参考になるものである。
 本書の第4章などを基にして、行(一)を中心に、8等級制以後の変遷を概観してみよう。

昭32. 4 【8等級制へ移行】
昭35. 4 昇格時特別昇給を導入、特別昇給定数を拡大(5%→10%)
昭35.10 通し号俸制の廃止、昇給制度の合理化(昇給期間を12月に統一)
      直近上位昇格制度(同額又は直近上位の俸給月額=対応号俸)
昭39. 9 新3等級(困難補佐)の創設
昭39.10 指定職俸給表の新設(事務次官、学長等)
昭40. 1 俸給の特別調整額適用官職を拡大(地方支分部局の課長等)
昭43.10 特別昇給定数を拡大(10%→15%)
昭46. 4 高齢者(58歳以上)の昇給延伸制度を導入
昭46. 6 期末勤勉手当に管理職加算を導入(本省課長級=特定幹部職員、10~20%)
昭48. 6 期末勤勉手当の管理職加算を改善(最大25%)
昭55. 4 昇給延伸年齢を56歳以上へ引下げ、58歳昇給停止制度を導入
昭60. 7 【11級制へ移行】
平 2. 4  初任給基準の改正と初号俸のカット
平 2. 6  期末勤勉手当に役職段階別加算を導入(5~20%)
平 4. 4  昇格メリットの改善=1号上位昇格制度(対応号俸の1号俸上位の俸給月額)
      本省勤務職員の官民比較方法の改善
      行(一)の特別改善(各級の若い号俸に上積み配分)
      管理職員特別勤務手当の新設
      本省課長補佐に俸給の特別調整額を支給(超過勤務手当と併給可)
      東京都区部勤務者に対する調整手当支給割合を引上げ(10%→12%)

 本書の記述は、この辺りの改正までである。更に改正は続く。

平 9. 4 特別昇給制度の改正(2号俸以上上位の号俸への特別昇給を可能)
平10. 6 特定幹部職員に対する勤勉手当比率を拡大(期末手当0.2月分を振替)
平11. 4 高齢者昇給延伸制度の廃止、55歳昇給停止制度の導入

 この後、平成13年に公務員制度改革大綱が閣議決定され、行政改革推進事務局が中心になって、「能力等級制度」の導入が検討されることになる。戦後、法律上の建前としては、職階制が確立されなければならないのだが、半世紀を経てもなお実施されることはなく、新たに、アメリカ式のコンピタンシー評価や業績給を指向した制度を導入しようとしたのである。
 しかし、この案には、公務員労組だけでなく、人事院が大反対をし、結局、平成15年に各省に提示された国家公務員法改正案は日の目を見ることはなかったのである。その平成15年に、人事院は「特別昇給制度の運用指針」と「勤勉手当制度の運用指針」を作成し、現行制度の枠内で、成績主義の一層を推進しようとするのである。
 そして、平成16年12月には「今後の行政改革の方針」が閣議決定され、公務員制度改革については、「現行制度の枠内でも実施可能なものについては早期に実行に移し、改革の着実な推進を図る」とされたのであった。この政府方針に対する人事院の回答が、「給与構造の改革」なのであった。

平18. 4 【給与構造改革の実施】
     (1)俸給水準引下げと地域手当等の新設
     (2)年功的な給与上昇を抑制し、職務・職責に応じた俸給構造への転換
        給与カーブのフラット化、級の再編整備(11級制→10級制)
        号俸の4分割、枠外昇給制度の廃止、昇格加算額制度の導入
     (3)勤務実績をより的確に反映し得るよう昇給制度、勤勉手当制度を整備
        特別昇給と普通昇給を統合し、5段階による査定昇給制度を導入
        年4回の昇給時期を年1回(1月1日)に統一
        55歳昇給半減制度の導入
        勤勉手当への実績反映の拡大=査定原資を増額(0.03月分)
     (4)複線型人事管理の導入に向けた環境整備(スタッフ職俸給表)

 昭和32年、「職員の給与は、その官職の職務と責任に応じてこれをなす」と規定する国家公務員法の建前を一歩前に進めたとされる8等級制への移行が行われた。それから、人事院は、本来的な職務給に近づくべく、実に50年をかけて、一歩一歩、着実かつ緩やかな改革を進めてきたともいえるのである。かつて導入が検討された「能力等級制」は、民間企業で進められつつあった新しい考え方かもしれないが、基本は、能力をベースにした制度であることから、職務をベースにした給与制度を一貫して目指してきた人事院にとってみれば、反対するのは当然なのであったと思う。

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:仕事

256.読書=『賃金とは何か』 [29.読書]

 楠田丘『賃金とは何か-戦後日本の人事・賃金制度』(中央経済社、2004年)
 戦後日本の賃金制度の流れには楠田式と弥富式があるのだが、終身雇用という日本の雇用慣行にマッチした「職能資格制度」を 提唱し、多くの日本企業で採用される賃金制度を確立したのが楠田丘氏である。この本は、同志社大学の石田教授らによるインタビューであるが、戦後日本の 復興から高度成長期、そしてバブル崩壊後の成果主義導入期を通じた人間中心の賃金制度の歴史を学ぶことができる。この本を読むと、「賃金」がほんとうに面白くなる。

  目 次
   解題:賃金論の学び方
   第1章 労働省時代
   第2章 インドで学んだこと
   第3章 賃金体系の模索
   第4章 楠田理論の構想
   第5章 楠田賃金論の普及
   第6章 成果主義との格闘

 昭和25~26年、労働省時代の楠田氏は、GHQに通って、女性将校からアメリカの賃金論の講義を集中的に受けた。職務調査、職務評価、職務グレードの作成、賃金表の作成…。ペイ・フォー・ジョブを徹底的に学ぶ。さらに、ヨーロッパの職種給の考え方やインドでの経験を通じて、労働市場の在り方が根本的に異なっている日本社会で通用する賃金論を模索し、独自の「職能給」を構想する。それは、高度成長期を通じて日本企業に普及し、さらには海を渡って、アメリカの職務給をブロードバンド化させた。そして、能力に着目する考え方は、アメリカでコンピタンシーに生まれ変わって、日本に逆輸入されることになるのである。
 本書を読んだ上で、楠田丘『改訂新版 賃金表の作り方』(経営書院、2006年)、楠田丘『改訂9版 労使のための賃金入門 賃金テキスト』(経営書院、2010年)を読むと、より一層理解が深まる。

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:仕事

234.読書=『新しい労働社会』 [29.読書]

 濱口桂一郎『新しい労働社会-雇用システムの再構築へ』(岩波新書、2009年)
 この新書は、現在日本の労働社会が直面している問題-働き過ぎの正社員、非正規労働者を巡る問題などについて考え、日本における雇用論議に一石を投じたものである。
 この本で、日本型雇用システムと呼ばれる労働社会のありようの根源に立ち返って考察する序章の記述は、この学習ノートにとってみても、教員給与の姿を考える上で、大きな示唆を与えてくれる。一部を抜粋して掲載しておく。

   1 日本型雇用システムの本質-雇用契約の性質

 職務のない雇用契約
 日本型雇用システムの最も重要な特徴として通常挙げられるのは、長期雇用制度(終身雇用制度)、年功賃金制度(年功序列制度)および企業別組合の三つで、三種の神器とも呼ばれます。これらはそれぞれ、雇用管理、報酬管理および労使関係という労務管理の三大分野における日本の特徴を示すものですが、日本型雇用システムの本質はむしろその前提となる雇用契約の性質にあります。
 雇用契約とは、「当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる」(民法第六二三条)と定義されていますが、問題はこの「労働に従事する」という言葉の意味です。雇用契約も契約なのですから、契約の一般理論からすれば、具体的にどういう労働に従事するかが明らかでなければそもそも契約になり得ません。しかし、売買や賃貸借とは異なり、雇用契約はモノではなくヒトの行動が目的ですから、そう細かにすべてをあらかじめ決めることもできません。ある程度は労働者の主体性に任せるところが出てきます。これはどの社会でも存在する雇用契約の不確定性です。
 しかし、どういう種類の労働を行うか、例えば旋盤を操作するとか、会計帳簿をつけるとか、自動車を販売するといったことについては、雇用契約でその内容を明確に定めて、その範囲内の労働についてのみ労働者は義務を負うし、使用者は権利を持つというのが、世界的に通常の考え方です。こういう特定された労働の種類のことを職務(ジョブ)といいます。英語では失業することを「ジョブを失う」といいますし、就職することを「ジョブを得る」といいますが、雇用契約が職務を単位として締結されたり解約されたりしていることをよく表しています。これに対して、日本型雇用システムの特徴は、職務という概念が希薄なことにあります。これは外国人にはなかなか理解しにくい点なのですが、職務概念がなければどうやって雇用契約を締結するというのでしょう。
 現代では、使用者になるのは会社を始めとする企業が多く、そこには多くの種類の労働があります。これをその種類ごとに職務として切り出してきて、その各職務に対応する形で労働者を採用し、その定められた労働に従事させるのが日本以外の社会のやり方です。これに対して日本型雇用システムでは、その企業の中の労働を職務ごとに切り出さずに、一括して雇用契約の目的にするのです。労働者は企業の中のすべての労働に従事する義務がありますし、使用者はそれを要求する権利を持ちます。
 もちろん、実際には労働者が従事するのは個別の職務です。しかし、それは雇用契約で特定されているわけではありません。あるときにどの職務に従事するかは、基本的には使用者の命令によって決まります。雇用契約それ自体の中には具体的な職務は定められておらず、いわばそのつど職務が書き込まれるべき空自の石版であるという点が、日本型雇用システムの最も重要な本質なのです。こういう雇用契約の法的性格は、一種の地位設定契約あるいはメンバーシップ契約と考えることができます。日本型雇用システムにおける雇用とは、職務ではなくてメンバーシップなのです。
 日本型雇用システムの特徴とされる長期雇用制度、年功賃金制度および企業別組合は、すべてこの職務のない雇用契約という本質からそのコロラリー(論理的帰結)として導き出されます。

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:仕事

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。